Publish or Perish  四人の小説家のデスゲーム

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。
 書き出しが『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった』
 そして、文字数が800文字以上であること。
 書けなければ、死ぬ。
 そんなことで?
 なんで?
 どうして?
 二人死んだ。
 ここに座っていた夫も、私の目の前で死んだ。
 本当なんだ。
 死にたくない、怖い。
 いやだいやだ。
 誰か、ねえ、助けて、
 あなた、
 あ、
 あ。
 あなたは、
 私を見つめて、
 笑って死んだ。
 あなたは、
 死の瞬間、
 私を見つめて、
 Vサインをした。
 勝利のVサイン?
 二人のVサイン?
 違う、あれは、ダイイングメッセージ。
 二つのキーをタイピングしろ、というメッセージ。
 私は、コントロールとVを押した。
 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。
 書き出しが『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった』
 そして、文字数が800文字以上であること。
 そんな小説を書かなければ、僕は死ぬらしい。
 提示された条件を見ても、何も考えられない。
 現実感が、全くない。
 でも、もう、二人死んでしまった。
 二人の血が、床にまだ残っている。
 ぬるぬるとすべる。
 無理だ、800文字だなんて。
 僕のタイピング速度では、絶対に。
 駄目だ。死んでしまう。
 あきらめるな。
 僕には、僕の、三分以内にやらなければならないことがある。
 次に書くのは、僕の妻だ。
 二人でよく小説の話をした。
 ここは削って、ここは膨らませて、ここは説明を入れて、ここは想像をさせて。
 楽しかった。
 まだまだ、小説を書きたいのに。
 僕は、死ぬ。
 また、二人で、小説を書きたかったけれど、どうやら、無理だ、もう、残り時間がない。
 あとは、頼んだ。
 そんな顔をしないでくれ。
 愛している。



 文字数が289文字から、690文字に。
 愛しています、私も。
 あなたの、401文字。
 原稿用紙から溢れる愛を。
 受けとらせて、いただきます。
 今まで、ありがとうございました。
 私の文字と、あなたの401文字。
 800文字、ありますね。