【コンテスト用シナリオ】浄化の花嫁と皇国の呪われし鬼神

○前話からの続き。真夜中、朝霧蒼真の庭の倉
暗がりの中、仰向けの美緒に覆いかぶさる蒼真。
美緒、蒼真の顔を見上げながら、
美緒Ⅿ「猛禽のような瞳。肉食獣のような牙。これではまるで…」
蒼真、笑いながら、
蒼真「望み通り、おまえを食ってやる…と言ったら?」
美緒「そんなこと、蒼真さまはいたしません」
蒼真「え…?」
真顔になる蒼真。
美緒「そのお姿も、何か訳があるはずです」
蒼真の頬におずおずと手を伸ばす美緒。
美緒「どうか恐れず、私でよければお話しください」
美緒「あの家から私を救いだしてくれたのは蒼真さまです。でしたら美緒が、今度は代わりにお支えします」
蒼真「逃げた先が、また別の地獄だったとしても?」
美緒「はい」
蒼真「おまえ…」
じっと見つめ合うふたり。
   × × ×
片膝をついて壁に寄りかかった蒼真と正座の美緒が並んでいる。
ふたりは一枚の毛布を分け合って肩から掛けている。(すでに蒼真の異形は解けている)
蒼真、自分の手を目の前で広げて見つめながら、
蒼真「どうにか元に戻れたようだな」
美緒「蒼真さま、先ほどのあれは…」
蒼真「どこまで話すか悩んだが、やはりおまえにはすべて打ち明けるべきだろう」
蒼真、視線を前に落としたまま、
蒼真「妖気(ようき)、という言葉は知ってるか?」
美緒「はい。妖気はあやかしたちが発する気。彼らの生命力そのものです」
美緒「多くは血に含まれ、人間が無暗に浴びると昏倒したり、ケガの治りが遅くなるとか」
ふらふらと地面に膝を着いたり、包帯を巻いた腕を抱える隊士のイメージ。
蒼真、どこか感心するように美緒を見つめ、
蒼真「ほう? よく知っているな」
蒼真「だが、戦いに明け暮れる俺たちは血を避けることができない。だから隊士は“(はら)い”と呼ばれる日を設け、その身を蝕む妖気を祓う」
水垢離をしたり、座禅を組む隊士のイメージ。
蒼真「ところが俺の場合、いくら妖気を浴びても怪我の回復が早く、昏倒することもない」
美緒「え…?」
蒼真、驚く美緒の前で破れた隊服の袖をまくり、傷ひとつない腕を見せる。
蒼真「数時間前に負った傷もこのとおりだ」
蒼真「だが、代わりに俺は、積もりに積もった妖気を暴走という形でしか祓うことができなくなった」
蒼真「それが、この俺にかけられた呪いだ」
美緒「……!」
口元を押さえ、青ざめる美緒。
蒼真「暴走中は身も心も鬼と化す。破妖隊の隊長ともあろう者が、滑稽だろう?」
苦笑してみせる蒼真。
美緒Ⅿ「だから、自分で自分を抑えられないときは、ここに籠ることに…?」
美緒、暗い倉の中に視線を走らせる。よく見れば壁はボコボコ、床には崩れ落ちた土壁がある。
蒼真「万が一の際は、俺を殺してほしいと一部の上官には打ち明けてある」
蒼真「これでも士官学校時代や下級隊士のころは耐えられたが…。最近は暴走までの時間が短くなってな」
蒼真「だから美緒、俺はおまえを妻にしたのだ」
美緒「え?」
至近距離で見つめられ、戸惑う美緒。
蒼真「おまえに触れると、なぜか妖気が浄化される」
蒼真「理屈はわからない。ただ、おまえは贄だ。金で買われ、形ばかりの妻にされ、必要とあらばこうして閉じ込められて俺の相手をさせられる」
蒼真「理不尽だと思うなら、俺を罵れ。なんなら刃物で斬りつけてもいい。すぐに傷は塞がるだろうが、おまえの気が済むならそれでいい」
美緒「蒼真さま…」
美緒、膝の上でこぶしを握り、うつむいて、
美緒「蒼真さまはどうして自分を貶めるようなことを言うのです?」
蒼真「おまえこそなぜ、憎いはずの俺に情けをかけようとする?」
美緒「に、憎くなんてありません!」
蒼真「…っ⁉」
涙をためて顔を上げた美緒にぎょっとなる蒼真。
美緒「実は私は、鬼に殺されそうになった過去があります」
俯いて立つ美緒の背後に、手を広げて彼女を襲おうとする鬼のイメージ。
美緒「あのときの身も凍るような恐ろしさ…。誰もがもう二度と味わいたくないと思うはずです。ですが蒼真さまは、何度もあやかしの前に立ちふさがって太刀を振るう。そんな方を、どうして罵ることができましょうか」
蒼真「美緒…」
蒼真Ⅿ「己の不運を嘆くより、そんなことを考えていたのか?」
ため息をつき、額に手を置く蒼真。
蒼真「すまない。俺はおまえのことを見誤っていたようだ」
美緒「え?」
蒼真、顔を上げ、真剣なまなざしで美緒を見る。
蒼真Ⅿ「どうせ憎悪されるのだからと、初めから距離を置いたつもりだった。そうすれば、互いに傷つかないで済むはずだと…」
高窓から差し込んできた朝の光に、キラキラと輝く美緒の姿。
蒼真「美緒、俺は…」
何事か言いかけるが、そのタイミングで倉の外から声が。
琴葉「若様、美緒さま! ご無事ですか⁉」
ハッとなる蒼真。
蒼真「もう夜明けか…」
蒼真「問題ない、扉を開けろ!」
とたんにギギギ…と音がして、倉の厚い壁が開く。
扉を開けるあやかしたち(三話に登場した狗遠も)。正面で出迎える琴葉と珠。
琴葉「お疲れ様でございました」
珠「あ、若様、いつもより顔色がいい!」
蒼真「美緒のおかげだ」
柔らかな笑顔を浮かべて美緒を見る蒼真。
美緒「そんな、私は何も…。あっ」
謙遜する美緒は小石に躓き、転びそうになる。
蒼真「おっと」
慌てて腕を取る蒼真。
蒼真「さすがに疲れが出たのだろう。俺が部屋まで運んでやる」
お姫様抱っこをされる美緒、照れて真っ赤になる。
美緒「蒼真さま…」
夜明けの光を浴びて、見つめ合うふたりで――。

○数分後。朝。美緒の部屋。
布団の中で寝息をたてている美緒。
隣で胡坐をかき、それを見つめている蒼真。
蒼真Ⅿ「やはり疲れていたのだな。すぐに寝入ってしまった」
どこからかぴょんぴょんと飛んでくるサラ。美緒の枕元に来る。
サラ「きゅん!」
蒼真「おい、いたずらをするなよ」
サラを摘まみ上げ、少し離れた場所に置きなおす。
サラ「(不機嫌そうに)きゅうぅっ」
蒼真「怒るな。ゆっくり眠らせてやれ」
愛しそうな表情で美緒を見る蒼真。
それからふと厳しい顔になり、
蒼真「狗遠、いるか?」
とたんに開け放たれていた障子の向こう、縁側に片膝をついた狗遠が現れる。
狗遠「こちらに」
蒼真「実は、早急に調べてほしいことが――」
美緒「ううん…」
美緒、しゃべり声に反応するように布団の中で小さく寝返りを打つ。
蒼真、しまった、という顔で、
蒼真「場所を移そう」
立ち上がり、部屋を出ていく蒼真。
サラ「きゅい?」
残されたサラ、首を傾げて蒼真を見送る。

○数日後の昼間。街の大通り。
買い物帰りの美緒と珠。(珠は猫耳なしヴァージョン)珠はいくつかの荷物を胸に抱えている。
珠「ふー、いろいろ買いましたねぇ! 他にご入用(いりよう)なものはありません?」
美緒「もう充分です。こんなによくしていただいて、なんとお礼を申せばいいのやら…」
珠「もう! 美緒さまは遠慮のしすぎですって!」
美緒「でも、せめて荷物の半分でも…」
珠「いえいえ、そんなことしたら若様に叱られます!」
指をピンと立てた珠、蒼真の顔真似をし、
珠「彼女に不便がないよう心を砕いてやってくれ。それと、金に糸目はつけん、ですって!」
珠「ほんとここ数日、若様の態度が柔らかくなったというか。美緒さまのおかげです~」
珠はにこにことうれしそう。
美緒も笑顔。
美緒「私も皆さんに良くしていただいて。夢なら覚めないでって思っています」
珠「夢なんかじゃありませんって!」
珠「…て、美緒さま?」
ふと立ち止まり、背後を振り返る美緒。
珠「どうかされましたか?」
美緒「その、誰かに見られているような気がして…」
珠「え?」
珠もきょろきょろ。
美緒「ごめんなさい、私の気のせいです。(書き文字で)さ、行きましょう」
建物の影に身を潜めている男のシルエット。(実は上官の西園寺で、のちほど登場)

○昼間。朝霧蒼真の邸宅
買い物から帰ってきた美緒と珠。珠が玄関の引き戸を開ける。
珠「ただいま戻りました~! て、きゃあっ⁉」
琴葉がいきなり飛び出してくる。
琴葉「美緒さま、珠!」
琴葉「ああ、よかった。ちょうど今、遣いの者を迎えに出そうかと!」
美緒「え?」
美緒Ⅿ「いつも落ち着いている琴葉さんがこんなにも慌てるなんて。いったい何が…」
琴葉「実は、菊乃(きくの)さまがいらっしゃったのです」
珠、ゲッという顔をして、
珠「えぇっ⁉」
美緒「あの、菊乃さまとは?」
琴葉、困ったように美緒を振り返る。
琴葉「若様のお母上になります」

○客間(洋間)
椅子に座り、日本茶を飲んでいる着物姿の菊乃。無表情。
コンコン、とノックの音が響く。
美緒「お待たせして申し訳ございません。お初にお目にかかります。美緒にございます」
進み出て頭を下げる美緒。
菊乃「初めまして。あなたが美緒さんね」
顔を上げた美緒、菊野を見る。
美緒Ⅿ「鋭い視線、静かな物腰…。蒼真さまにそっくりだわ」
菊乃「あなたが息子の嫁になるのね。蒼真からの手紙で知ったわ」
美緒「手紙?」
菊乃「あの子、隊務が忙しいからと、実家に帰らず手紙で済まそうとするのよ」
菊乃、立ったままの美緒に気が付いて、
菊乃「あらやだ、立ってないでさっさと椅子におかけなさいよ。それとも女中のころの癖が抜けないのかしら?」
美緒「え?」
菊乃「あなた、家が没落して、長い間女中をされていたんですってね」
冷ややかな物言いにびくっとなる美緒。
対する菊乃はポーカーフェイス。帯の中から畳んだ紙を取り出して見せる。
菊乃「ねぇ、見て? 誰だか知らないけれど、こんな文をうちの敷地に投げ込んできたのよ」
目の前に突き出された紙を、あいかわらず立ったまま受け取る美緒。
手紙を開けると、飛び込んできたのは誹謗中傷の言葉。目を見開く美緒に文字を重ねるイメージで。
「母親は花街の三味線引き」
「薬屋の主人をたぶらかし、まんまと奥方の座を…」
「怪しげな薬を作り、その報いで鬼に殺される」
「そんな女の娘を貴家の嫁にするのは…」
美緒「こ、これ…」
わなわなと震える美緒。
美緒Ⅿ「疑ってはダメだけど、千華さんの字…?」
菊乃「ねぇ、美緒さん。ここに書いてあることは本当なの?」
立ち上がり、顔を傾けてじーっと美緒を見つめてくる菊乃。
美緒、なるべく毅然とした態度で、
美緒「母は花街で芸者をしていました。ですがそれだけです」
と、美緒をあざ笑うかのように、初めて菊乃は笑みを見せる。
菊乃「それだけ、ねぇ? あの子は責任感が強いし、自分の体質(・・)が原因で、仕方なくあなたを迎え入れるようだけど」
菊乃「でも、元女中が朝霧家の嫁だなんて外聞が悪いの。第一、嫁でなくてもあの子を労わることはできるわよね?」
と、柱時計が時刻を知らせる。(時計の針までは見せない)
菊乃「あら、もうこんな時間。それでは美緒さん、どうか身の程を弁えてね」
菊乃、去る。
美緒はひとり立ち尽くしたまま。
美緒Ⅿ「蒼真さまが必要なのは、私ではなく私の力。そんなこと、わかっていたのに…」

○同時刻。破妖隊の執務室
自分の机で刀の手入れをしている蒼真。彼以外は誰もいない。
すると声が耳元で聞こえる。
狗遠「若様」
蒼真、刀から目を離さず、
蒼真「狗遠か。姿を見せても構わんぞ」
狗遠「はっ」
蒼真の隣に姿を現した狗遠、
狗遠「美緒さまが鬼に襲われた件、そこから派生してご家族のことも調べました。するととんでもないことが…」
蒼真「なんだ、はっきり言ってみろ」
刀から顔を上げる蒼真。
狗遠「場合によっては、美緒さまを斬らねばなりません」
蒼真「っ⁉」
訳がわからず、硬直してしまう蒼真で――。