昨日の会話が頭を離れないまま、昼休みになった。はなちゃんとは、今日も昨日の場所で過ごしていた。
 まだ昨日、私のクラスでされていた湊くんの話は、はなちゃんの耳には入っていないようだった。
 どうやって話かけたら良いか分からなかった。

「はなちゃん…。」

「どうしたの?」

 つい声に出して、名前を呼んでしまっていた。

「あ、いや…。なんでもなかった!」

 少し明るめに取り繕った。
 後から湊くんの事を知るのも、とても傷つくかもしれないけど、まだ知らないなら、今だけは笑顔でいて欲しい。

「そういえば一昨日、湊くんと帰る約束したんだよ。」

 そう…なんだ。
 思った言葉は口から出る事はなく、何も掛けられる言葉が見当たらない。

「今日の放課後に校門で待ってるって言ってたんだ。」

「…そっか。」

 はなちゃんの顔はとても幸せそうだった。私は、早くに本当の事を伝えるべきだったんだ。そう、私は思った。

「…何か聞いたんでしょ?」

「…っ。」

 あの会話への動揺が顔に出てしまっていた事に、はなちゃんの言葉で気が付いた。
 
「私、昨日聞いちゃったんだ。」

 はなちゃんの唇が僅かに震えて、頬が赤く染まっているのが分かった。
 少し沈黙を置いてから、はなちゃんの口が開いた。

「けど、もしかしたらって思ってた。」

 その言葉と同時に、彼女の頬をキラリと光る水滴が伝っていくのが見えた。
 そう思って1秒もしないくらいで、彼女の目からは全ての感情が吐き出されたように、それは止まることは無かった。

「本当は心のどこかで気付いていたのかも。」

 涙と一緒に心に溜まっていた全てが出てきていた。
 小さな体で、とても大きなものを心に背負っていたんだ。

「けど、二人は付き合ってたんだよね?」

 はなちゃんは、苦しそうに笑った。そして、はなちゃんの口が少し開いた。

「けど、私が湊くんに何かを言う資格なんてないの。」

「…どうして?」

「ゆいちゃんと委員会の仕事があるって聞いた時、少し湊くんに強く当たっちゃったの。」
 
「そっか。」

 こういう時にどう声を掛けたら分からない。そういう経験を私はした事がまだ無かった。

「だから、嫌われても仕方がないと思う。」

 その時、屋上のドアがいきなり開いた。ゆいちゃんが入ってきて、小走りで私の方に来た。
 そして――

「はな!ここにいたんだ!」
 
 そこには湊くんの姿があった。そして、はなちゃんは思わず驚いたような顔をしていた。
 
「帰ろう!俺たち今日は帰る約束してたよな。」

 はなちゃんは涙を必死に抑えながら、

「…うん。」

 とだけ言った。そして、二人は屋上から出ていった。

 バタン、と閉まったドアをゆいちゃんは何も言わず、切なそうな顔を時々しながら見つめていた。
 ゆいちゃんの唇は震えていたけど、その震えてる唇をギュッと噛みながら、少し微笑んだ。

(…ゆいちゃん。)

 私は見ている事しかできなかった。彼女の決心を不意にするわけには行かないから。