「粼さん、これ終わらせておいてね。明日の朝イチには終わってなきゃいけないから。」
 
「分かりました。終わらせておきます。」

(はぁ。1時か…。外は真っ暗だな…。)

 今でもあの日のあの顔を思い出せる。呼吸をする毎にあの日の事が。

 5年前か6年前か。私は、彼と出会った。高校の入学式の時に。
  桜はもう散ってしまっていたような、まばらに咲いている桜の木を両目に入れながら新しい日々が始まろうとしていた。

(彩城高校…。入学できちゃった。)

 彩城高校は私が住んでる県の中でもトップレベルの高校で、自分でも受かるとは思ってもいなかった。正直、とても嬉しい。
 そして、中学を卒業してからの春休みはすぐに終わり、入学式が始まった。体育館で。

  (あっ、あの人遅刻してる…寝坊かな…。)

 その後も何事も無く入学式は終わり、静かに教室に戻り机に突っ伏して寝てるふりをしていた。私の周りでは、次々とグループができていっていた。
 
 私はもともと普通の性格だった。一応、高校デビューも考えてはいたが、性に合わないから諦めた。眩しく輝きながらも甘酸っぱいような青春に対し、憧れは持っていた。でも、やっぱり私には似合わないと感じていた。
 HRの先生のつまらない話も終わり、さっさと一人で帰路についてしまった。
 帰り道は一人でボーッとして歩いてたので、気付いたら家に着いていた。電車に乗らないといけないから、家から学校までがだいぶ遠いと思う。

「ただいま…。」

「おかえりなさい。初めての高校はどうだった?友達はできた?」
 
「…うん。ちゃんと友達できたよ。お母さん。」

 どう答えようか少し迷ったけど、せっかくいい高校に入学したから、少し明るめに答えた。

「よかったわ。楽しく過ごせるといいわね。」

 その言葉が私の嘘を醜くしているようだった。でも、私を心配してくれているんだろうな。
 中学の頃は、目立つことなく生活し、家に友達など連れてきたことはない。だから、頭のいい高校を受験して、お母さんを少しでも安心させたいと思った。