極上な妖と最愛の人質


○前回の続き 学校隣の大きな公園入口近く・下校時 夕方
沙賀羅(さがら)は屈む。
沙賀羅「何でもするって、あの男のように、奴隷になる?でも、女奴隷は、どんな事されるのかな」※冷酷な笑み
葵葉(あおは)はぞくっとする。
葵葉「あ……」※怯え
沙賀羅「死んだ方が、楽な事もあるんだよ。拷問って言うんだけど」
葵葉「……はい」※少し震える
葵葉の顔から、水滴が滴る。
沙賀羅「どんな風にいたぶられたい?」
沙賀羅は、葵葉の頬に片手を添え、親指でその唇を撫でる。※アップ
沙賀羅「困ったお姫様だ」※少し嬉しそう

○沙賀羅の洋室・夜
読書中の椅子に座る裸眼の沙賀羅に話しかける紋音(あやね)
紋音「よろしいのですか?やはり神隠しのようです」
沙賀羅「今回だけ」※無表情
紋音「お優しい事」
沙賀羅「おかしい?」
紋音「いえ」※微笑む

部屋の前に、葵葉がいる。
葵葉(怖い。でも、もう、誰かが苦しむ所を見たくない。私は、何も分かってなかった。「神」という存在を)
葵葉は、ノックする。

沙賀羅「どうぞ」
紋音「失礼します」
紋音が出て、沙賀羅は本を閉じ、葵葉を見る。
沙賀羅「さっきの男は、人の世界に戻したよ」
葵葉「あ、ありがとうございます」※ほっとし、控えめな喜び
沙賀羅は立ち上がり、葵葉のそばに寄り、見下ろす。
沙賀羅「何してもらおうかな」
怯えた顔の葵葉。
沙賀羅「抱きしめて」
葵葉「え……?」※驚く
沙賀羅「早く」
恐る恐る、沙賀羅を抱きしめ、沙賀羅が葵葉を強く抱きしめる。
葵葉「沙賀羅先輩……ありがとうございます」※涙がこぼれる
沙賀羅は、葵葉の髪を撫で、髪にキス。
沙賀羅「これは、まだ前菜(オードブル)。覚えておいて」※微笑
葵葉「は、はい」※焦る

○学校教室・朝
教壇の前に立つ先生。
先生「転校生を紹介します」
三玖二(みくに)「また、転校生か」
葵葉が、しゅるしゅると小さくなる。
包帯で顔が巻かれ、片目が見える魁人(かいと)が入って来る。
葵葉(え?)
魁人「(りゅう)家の魁人です」

○学校の庭・昼休み
葵葉と魁人が、ベンチに座る。
葵葉「どうして、ここに?その包帯は?大丈夫なの?」※心配そう
魁人「これは修行で出来た火傷だから、大丈夫。母さんが妖で、俺は半妖なんだ。力があるって言ったろ?叔父さんに頼み込んで、お前を探しに来た。でも、沙賀羅先輩が、次期統領だったなんて……」
葵葉「魁人、ありがとう」※涙ぐむ
葵葉(人間と妖の子どもが、人の世界で、普通に暮らしてると聞いた事がある)
魁人「神殿襲撃事件でお前の事、皆、心配してる。ここには、修行の一環で、入学させられた」
葵葉「ごめん。心配させて。神殿の人達は?」※泣き出しそうになるが、こらえる
葵葉(だめだ。すぐ、泣いちゃ)
魁人「死人は出なかったはず……。でも、元気そうでよかった。まさか、こんなすぐ会えるなんて!由夢(ゆめ)と智也にも、半妖だって言ったら、葵葉の事、必ず見つけて来いって言われたよ」※最後に笑顔
葵葉「二人にも会いたい……。あ、人間で巫女姫って事は、秘密」※少しほっとした顔
魁人は頷いた。

○魁人の過去回想 魁人の屋敷和室・夜 (皆、着物)
畳の上に座る「包帯で全身を巻かれ、片目だけ見える」魁人と「肩まで髪のある魁人に似た」叔父が、向き合う。
叔父「人質の巫女姫に会いたい?」※呆れた顔
魁人「大切な友達なんだ」
叔父「お前は……。次期統領の沙賀羅様をよく知らないとはいえ、巫女姫は、もう、骨抜きにされているはず。心も体もな。お前の事なんか、見向きもしないだろう」※ため息
魁人「えっ、どういう事?」※深刻な顔
叔父「神である巫女姫を懐柔して、人の世界に戻したら、こちらの強い駒になる。あの非情で、恐ろしく賢い方なら、いくつもの手を考えておられるだろうが。まぁ、沙賀羅様が相手をせずとも、甘やかして、気に入る者をあてがうだけ。年頃の人の娘なんて、簡単だろう」
魁人「そんな……」
叔父「(いくさ)に、綺麗言等ない。死ぬか生きるか、それだけだ。お前も、早く一人前になって、お仕えしろ。約束しただろう」

○現在に戻る
魁人「……お前、沙賀羅先輩と、その、付き合ってるのか?大丈夫か?」※真剣な顔
葵葉「私、人質だよ。なんで?」
魁人「付き合ってるか聞いてる?好きなのか?他に付き合ってる妖がいるとか?」
葵葉「誰とも、付き合ってないよ!人質だから、いろいろあるけど。そんな事より、これからの事とか考えるでしょ」※複雑な顔
魁人「いろいろ?お前を手なづけて、利用するかもしれない」※厳しい顔
葵葉「分かってる。……魁人は、変わらないね。いつもまっすぐ」
魁人「褒めてるな」※得意げに
葵葉「褒めてる」※笑顔
二人で、笑い合う。友人と通りがかった沙賀羅が、二人を見つめる。

○沙賀羅邸・洋室 夕方
沙賀羅は手荒に、制服のネクタイをほどく。胸にノートを抱え、立ち尽くす葵葉。
葵葉(先輩、怒ってる?宿題見てくれるって言われたけど……)
葵葉のノートから、ひらっと「ドーナツと大きな口を開けた葵葉の顔」のいたずら書きが落ちる。それを拾う葵葉を、冷ややかな目で見る沙賀羅。
沙賀羅「何それ?」
葵葉「あ、魁人が描いた落書きで。よく皆で放課後、ドーナツを食べに行ってたんです。でも、こんな大きな口開けてない、はず」※恥ずかしそう
沙賀羅「仲がいいね。龍家の……包帯が痛々しい。炎に飛び込ませて、炎龍にするつもりだろう。彼の気性に合ってて、相変わらず、懸命な当主だ」※冷たく
葵葉「炎……命の危険は?」
沙賀羅「半妖はどうかな」
葵葉「え……」※心配そうな顔
沙賀羅が葵葉の近くに寄り、壁に右手をついて、見つめ合う二人。
沙賀羅「そんなに気になる?あいつが死んだら、どうする?」※少し怒り
葵葉「考えた事ないです……」※弱気
沙賀羅が葵葉を見つめる。
沙賀羅「……人の世界で、俺の事、いつも見てたよね?どうして?」※クールに葵葉の耳元で囁く
葵葉「えっ、あ……」(先輩、気づいてたんだ)
沙賀羅「俺の事、気になってた?どこを見てたの?目?口?それとも……」
葵葉の片頬に、片手を添え、ゆっくりと手を下ろしていく。親指で、目の下、頬、唇、首筋を順に撫でる。※アップ
その手を首に回し、親指は、胸元のノートの上で止まる。
「ふん」という顔をして、葵葉のノートに視線を移す沙賀羅。
沙賀羅「今日は、もういいや。それ、始めようか」※クール
葵葉は、ドキドキしながら、ほっとする。

○学校体育館・朝
黒縁眼鏡をかけた真面目な千瑛(ちえい)が、ステージ上で、生徒達の前で挨拶をする。
千瑛「実行委員長を務めます(きのと)家の千瑛です。それでは、祭を開催します!」
生徒達「わぁ―」
皆が拍手喝采。拍手をする葵葉に、隣の三玖二が話しかける。
三玖二「祭は、他校の生徒も来る、定期的に開催されるお遊び。今回は、刀で切り合う。俺も出るから、応援しろよ」※ニヤリ
葵葉「はい!」(本物の刀じゃないよね?)
三玖二「ラストも、俺の出番がある!」
葵葉「出番?」
生徒「葵葉さん、ちょっと、こっち手伝ってー!」
葵葉「はーい!」(あの頃に、戻ったみたい……)※嬉しそう

〇学校校門・朝
頭が魚の璃句(りく)が、立て看板を、撫でている。その看板を見る千瑛と葵葉。
千瑛「あっ!!字が間違ってる!その看板!他校の生徒も来るのに、すぐ直せ!」
璃句「あ……」
「葬」の看板から、手足が出て、泣き出し、葵葉に身を寄せる。葵葉はびっくりするが、看板を慰める。
璃句「千瑛。看板、泣いてるんですけど。もっと、優しく言えないのか?葵葉さん、ありがとう」
葵葉「いえ」※笑顔の困った顔
千瑛の体が透け始める。
千瑛「俺は、正しい事を言ったのに……」
三玖二が、通りかかる。
三玖二「お前、意外と打たれ弱いな。ここに沙賀羅がいたら、そんなんだと、(いくさ)で死ぬって言われるぞ」
沙賀羅「死ぬぞ」※クールな棒読み
三玖二の後ろで囁く沙賀羅。
三玖二「ひぃ。また、気配消しやがって」※震える
三玖二は、ぽんと猫になり、箱を持つ沙賀羅が、すぐ立ち去る。
葵葉(先輩、意外とお茶目)※微妙な笑み

包帯が取れた魁人が来て、千瑛の透けた体を通り、三玖二を撫で始める。
三玖二「にゃー」
葵葉(あぁ、可愛い。撫でたい)※蕩け顔
千瑛「魁人、刀に出るんだろう……」※元気なく
魁人「出るよ!璃句は出ないの?」
璃句「迷ってる。うちは、父さんがうるさいから」
葵葉(さすが魁人、もう友達がいる)「魁人、来たばかりなのに、大丈夫なの?」
魁人「叔父さんに実戦積めって言われてるから!俺、ずっと剣道やってたし」
葵葉「無理しないでね!」
魁人「おう」※笑顔

○学校の道場・昼
観客席:葵葉、蘇芳(すおう)、生徒、首元に蘭の花のある制服を着た香清蘭(かせいらん)女子学園の生徒達。
試合場:白胴着の三玖二が刀を構える。

葵葉「すごい人!三玖二さん、頑張って―!」※きょろきょろ
蘇芳「沙賀羅が、三玖二は、意外と武闘派だからって、戦い方を褒めてたな」
葵葉「へぇー」※感心した風


香清蘭女生徒1「何?あの美女」
香清蘭女生徒2「男!?」
香清蘭女生徒3「美しければ、何でもよし!」
葵葉と蘇芳が、横目で隣の女子高生達を見る。
蘇芳「お嬢様学校なはずだけど……。近くの香清蘭女子……。あとで、話かけに行こう!!」※ルンルン

追い詰められた三玖二。
三玖二「仕方ねぇな」※ウインク
がっちり体型の強そうな対戦相手「はっ?」
三玖二「俺が、勝つに決まってんだろう!!」※強気
猫にぽんと変化(へんげ)
三玖二は、目を閉じて、お腹を出して寝始める。
対戦相手が、刀を捨て、撫でる。
対戦相手「すっごい可愛い」※蕩け顔
三玖ニが、美少女にぽんと戻り、相手を蹴り飛ばす。

蘇芳「武闘派……?まっ、勝てば何でもよろしい」※汗をたらし苦笑い
葵葉「同じく、猫推し!」

試合場:白胴着の魁人と黒胴着の沙賀羅が、出て来る。

香清蘭女生徒1「あれ、沙賀羅様じゃない?極上のイケメン。倒れそう」※くらっとする
香清蘭女生徒2「常勝の沙賀羅様―!!来てよかった!相変わらず、お美しい」※ため息
香清蘭女生徒3「はぁ。あの黒い胴着、一生着てほしい。相手もイケメン!見て!」※うっとり
後方から葵葉を見つめる、おかっぱ女子高生の後ろ姿。葵葉は気付かない。
蘇芳「へぇ、沙賀羅が出るなんて、珍しい」
葵葉(二人とも、怪我しないといいけど)※不安げ

挨拶をすると、魁人が、沙賀羅に耳打ちした。
魁人「恐れ多くも、この件に関しては、龍家は、一切関わりありません。この試合で俺が勝ったら、約束して下さい」
沙賀羅「……何?」
魁人「葵葉を弄ぶのは、やめて下さい」
二人は、刀を構える。
審判「始め!」
互角にぶつかり合い、魁人が距離を置くと、切りかかる沙賀羅。押し合いになり、接近。
沙賀羅「弄ぶ?」※少し怒り

香清蘭女生徒1「イケメン対イケメン、最高~!」
香清蘭女生徒2「このまま、永遠に戦っててほしい」
香清蘭女生徒3「はぁ。イケメン界の神達が降臨とは。尊い」
葵葉(どっちも、応援できない)※はらはら

両者、引かない。
魁人「好きでもないのに、虜にして、駒にするつもりなんですよね?葵葉は、先輩の玩具(おもちゃ)じゃありません!」
沙賀羅「玩具(おもちゃ)?」
沙賀羅が離れて、殺気立ち、強く睨む。
沙賀羅「殺したくなるね」
魁人が、ぞくっとする。
魁人(空気が変わった。さすが、次の統領。圧が半端ない)※焦る
ぶわっと強い風が吹き、あらゆるものがなびき、観客がどよめく。

女生徒1「きゃ―すごい風。これ、沙賀羅様?」
女生徒2「怖いけど、ぞくぞくする」
蘇芳「沙賀羅、キレてる?半妖、死ぬぞ」※真剣
葵葉「死ぬ!?」※衝撃

沙賀羅が視界から消え、魁人がキョロキョロする。気づくと、背後にいた沙賀羅が、耳元で囁く。
「今、死んでたよ」※冷酷な顔
魁人が振り返ると、沙賀羅はいない。前を見ると、沙賀羅が切りかかって来て、押し合う。
沙賀羅「ごめん。まだ、君自身、力をコントロールできないから、フェアじゃなかった」
魁人が離れる。魁人は、激しく息が切れ、汗が垂れる。
魁人(立ってるのも、やっと。圧倒的な力の差。でも)
沙賀羅「彼女が、ほしいの?」※クールに