○冒頭 背景:人と妖(鬼、龍、妖狐等)の戦乱絵巻
「彼の国は、今も昔も、妖と人の戦いが、続いているのでございます」
○大都市の巨大スクリーン・昼
アナウンサー「速報です。本日、爾月の巫女になられる巫女姫様が発表されました。内定された水野葵葉さんは、十七歳になられると、世俗を捨て、神殿に上がられ……」
葵葉(その日、私「水野葵葉」の人生は強制終了した。夢とか希望とか、全てが、私の手からすり抜けていった)
○高校の教室・下校時 (皆、制服)
雷鳴が轟き、警報音が鳴る。一斉に生徒達が机の下に隠れるが、黒雲が引き、晴れ上がる。机の下に隠れた、「ふんわり髪の快活な」由夢が、「長い髪と清楚で澄んだ大きな瞳の」葵葉と「短髪で優し気な」智也に話しかける。
由夢「ったく、さっさと帰りたいのに、もう、晴れてるし。人の力を超えた者に、勝てるわけないって、ひいじいじが言ってた」※しらけた顔
智也「しっ!そんな事言ってると、大怪我するぞ!」※叱り
葵葉が困った顔をする。
校内放送「安全が確認されました。下校して下さい」
○学校の中庭・下校時
「身長180センチ、ミディアムな長さの黒い髪で額を出し、リムレス風眼鏡に涼し気な目元の」沙賀羅に、女子高生三人が駆け寄る。
女子高生三人「沙賀羅先輩―!!」
葵葉、由夢、智也は、見惚れる。
由夢「はぁ。顔小さくて、足長っ!365日イケメン。ずっと見ていたい」
智也「俺も、惚れる」
由夢「文武両道。お家柄も良し。智也も、好きになっちゃうよね。モデルのバイトもしてるらしい。葵葉、話した事あるんでしょ?」
葵葉「文化祭の委員会で、少し。何でも出来て、誰にでも優しかったよ」
由夢「やっぱりねぇ」※感心して頷く
葵葉(先輩は覚えてないと思うけど、前に……)
由夢「あっ!葵葉ちゃ~ん、魁人とどうした?」※いたずらっ子の顔
葵葉「ちょっと……」※元気なく
由夢「余計な事言いたくないけど、四人で過ごせるのも、残りわずかだから、仲良くしようよ。智也と一緒に、魁人に話してみる!」
葵葉「二人とも、いつもありがとう」※控えめに
由夢と智也が、にっこりした。
校門前に、黒塗りの車が、葵葉を待つ。
由夢「葵葉、お迎えの車だよ!」
智也「学校の近くで、人のふりした妖が捕まってる。巫女姫は、しっかり守ってもらわないとな」
葵葉(もうすぐ、十七歳……)
○過去回想 学校の屋上・昼休み
「栗色の髪に身長175センチ、甘い顔立ちの」魁人と葵葉が立ち話。
魁人「あのさ、一緒に逃げよう。由夢と智也も、これから誘う」※真剣な顔
葵葉「魁人、何言ってるの?」
魁人「本当に、巫女になりたいのか?一生あの神殿に閉じ込められるんだぞ」
葵葉「私の事、考えてくれて、ありがとう。でも、光栄な事だから」
魁人「はっ?それは周りが言ってるだけだろう!お前の気持ちはどうなんだ?」
葵葉「逃げたりしたら、皆捕まっちゃうんだよ。家族も。それに、どうやって逃げるの?」
魁人「方法はある。俺には、力があるから。逃げる時に見せるから!」
葵葉「……」
魁人「俺を信じてほしい」
葵葉「信じてって、皆を巻き込むんだよ!巫女姫に選ばれてから、あらゆる恩恵が受けられて、家族も私も、すっごく幸せなの!」※怒る
葵葉は、立ち去ろうとする。
魁人「巫女になったら、もう会えないんだぞ。これ!」※必死
葵葉は立ち止まり、魁人は、封筒を差し出す。
○現在に戻る 葵葉宅・夕方
葵葉は、運転手に頭を下げ、リビングに入る。孤蝶蘭の鉢を持つ母とソファに座る中三弟で短髪の葉琉。
葵葉「ただいま」
母「おかえり!大臣から、お花が届いたの。お父さんは、今夜も遅いかな。部長になったのは嬉しいけど、全部、葵葉のおかげだよね……」※泣き出す
葉琉「また泣く。俺が帰った時も、姉ちゃんの子どもの頃の写真見て、泣いてたし」
母「昔は、五歳で神殿に上がったらしいけど、その方が子どもも家族も、幸せなのかもしれない。あ、また、暗い話して、ごめんね。ご飯にしよう」
葵葉(お母さんは、いつも明るくて、家族の太陽だったのに)
母「そういえば、葉琉、進路調査票が未提出って、先生から電話あったよ」
葉琉「やっべぇ。忘れてた」
葵葉(進路か。私は「神」になる。それ以外の道は……ないんだ)※悲しげ
葵葉は、ポケットを触って、魁人の手紙を確かめる。
葵葉(私のための逃亡計画書……)
○学校の図書館・夕方
葵葉は、上段の本がなかなか取れずにいると、沙賀羅の指に触れた。沙賀羅が本をさっと取り、葵葉に渡す。
沙賀羅「これ?」
葵葉「あ、ありがとうございます」(沙賀羅先輩……。気配を感じなかった。あの時と同じ)※沙賀羅を見上げる
沙賀羅 「この本、面白い?どんな話?」※優しい眼差し
葵葉「面白いかどうかは分からないですが、私は好きで。主人公が、やりたい事を何でもやって、夢を叶えていく的な」恥ずかしくて、俯く
葵葉(ドキドキして、目が合わせられない)
沙賀羅「読んでみようかな」※微笑む
突然、大きな音と窓がガタガタと揺れ、外がピカッと光る。沙賀羅が、書棚に両手を突き、葵葉を守るように包み込み、距離が近い。
沙賀羅「大丈夫?妖の爆風かな」
葵葉「ありがとうございます」※鼓動が早い
沙賀羅を見上げると、妖艶な美しさを漂わせ、葵葉はぞくっとする。
沙賀羅「妖って、怖い?人も殺すしね」
葵葉「は、はい。怖いです……」※どきまぎ
沙賀羅「怖いか……。またね」※微笑む
沙賀羅は体を離し、葵葉は頭を下げ、後姿を見つめる。
葵葉(またってあるのかな。……私には関係ないか。人を好きになったり、付き合ったりって、本の中だけのお話。永遠に)※寂しげ
○過去回想 神殿の池の上の舞台・昼
白衣の葵葉と娘達が舞を披露後、葵葉は一人で、庭の池やせせらぎを眺める。
葵葉(まさか、私が巫女姫候補に選ばれるなんて。お披露目の舞は、途中間違えたし、疲れた)※目が横棒
散歩する葵葉。
葵葉(空気も水も澄んでるけど、寂しい所……)
手摺のない細い橋を渡ると、バランスを崩して、池に落ちそうになる。
葵葉「きゃあ」
沙賀羅「失礼。大丈夫?」
スーツで裸眼の沙賀羅が、腕を取り、腰を支えてくれた。
葵葉「あ、ありがとうございます」※ドキドキ
葵葉(後ろにいたの?気配を感じなかった。綺麗な横顔……)
沙賀羅「水鏡。何が映ってた?」
葵葉「え?」
沙賀羅「この池は、真実の自分を見せてくれるって」
葵葉「み、見たくないような、見たいような」
沙賀羅は、にっこりする。
沙賀羅「君、巫女候補だよね?さっきの舞で、振りを忘れた子を、上手く隠してたね」※微笑む
葵葉「あ、私も間違えたので」※照れる
スーツの中年男性が来る。
男性「失礼します。お時間でございます」
沙賀羅は微笑んで、頭を少し傾けて、去る。
葵葉は頭を下げる。
葵葉(品があって、あんな綺麗な人、初めて見た。皆が、気づかないような所まで見てくれて、嬉しいような恥かしいような)
○現在に戻る 葵葉宅自室・夜
椅子に座る葵葉。机の上にレターセットがある。
葵葉(もうすぐ、出発の日。最後に……)
手紙を書き始める。
○葵葉宅前・朝
葵葉と父母弟、警護の後ろに観衆がいる。
父「元気でな」※泣きそう
家族全員が、泣き出す。
葵葉「うん。皆も。思い出いっぱい作ってくれて、ありがとう」※泣きそうな顔
ふと見ると、観衆に由夢、智也、魁人がいた。
由夢・智也「葵葉―!!」※涙ぐむ
魁人が悲し気な顔で、葵葉を見つめる。
葵葉(ごめんね、魁人。本当にごめんね。勇気がなくて)※涙をこらえる
葵葉は、車に乗り込み、ドアが閉まる。
葵葉(もっと、一緒に……)
葵葉は、俯いて首を振る。
葵葉(楽しかった毎日を忘れないよ)※涙が、手の甲に落ちる
○過去回想 高校教室・昼
机の上にお弁当を広げ、座る葵葉。
葵葉(入学二日目も、ぼっち弁当。早く話しかけないと……)※暗い顔で、俯く
魁人「おっ、うまそう。俺、龍永魁人、よろしく」※微笑む
由夢と智也が来る。
由夢「魁人の友達?私達も、友達になったばっかりだけど」
由夢と智也が、はにかむ。
魁人「皆で、仲良くしようぜ!」
○現在に戻る 神殿の庭・昼
白衣の爾月の巫女である深い皺が刻まれた白い目の老婆、お付きの女性達。私服の信者達が、葵葉を歓迎する。子どもが、葵葉に小さな花束を渡す。
葵葉が頭を下げる。
信者達「巫女姫様ー!!」※笑顔
葵葉(こんなに歓迎されるんだ……)※驚き
爾月の巫女「今日という日を心に刻んでおくれ」※愛情溢れる顔
葵葉は頷く。
○神殿の広間畳・昼(皆、白衣)
一段上の所に、爾月の巫女が座る。平伏する葵葉。
爾月の巫女「そなたは、今日より巫女姫となり、現世の者達とは縁が切れる」
葵葉は顔を上げる。
爾月の巫女「まぁ、そう簡単には捨てられぬ」※ふっと笑う
葵葉「はい……」
爾月の巫女「そなたは……」※葵葉の顔をじっと見つめる
葵葉「はい?」
爾月の巫女「長く生きていると、先が視える事があってな」
葵葉(先が視える?未来が視えるって事?)
爾月の巫女「絶望の果ての光は、そなたしか見つけられない。出来る事、出来ない事。神であるのに……な。余計な事を申した。人のため、いや、人も妖も同じ。この世に生きる全ての者のために、修行に励んでおくれ」
○神殿の禊場・夜
岩場の小さな滝で、葵葉が星空を見上げる。
葵葉(神殿の人達は、優しい。……皆、元気かな。私は、生きてるけど、死んでる。でも、いつか、そんな風に考える事も、忘れてしまうのかな)※泣きそう
女性「きゃああああ」
葵葉(何?)※振り返る
お付きの女性が、辺りを見回す。
お付き「巫女姫様は、あちらへ。私が見て参ります。ご心配なさらず、爾月の巫女様のご加護がありますから」
〇廊下・夜
葵葉が廊下を歩くと、複数の悲鳴がする。
葵葉(何があったの?焦げ臭い。火事?)
ザッザッと人がこちらに来る音がする。
咄嗟に、会議室に隠れる。
〇集会場・夜
図工室のような四角い椅子と机が、いくつも並ぶ。轟音がし、机の後ろに、座って隠れる葵葉。
集会場に妖の軍人が入ってくる。カツカツと靴の音が、葵葉の近くに来る。
葵葉(あぁ)※震える
軍人「ここは、誰もいないようだな」
男が出て行った方を、そっと覗く葵葉。
葵葉(あの軍服は妖?どうしよう)※がくがく
床に置いた片手に温もりを感じる。振り返ると、黒い軍服にマント、裸眼の沙賀羅が片足を立てて座り、葵葉の手に手を添える。
沙賀羅「怖い?」
葵葉「沙賀羅先輩……」※茫然
逃げようと身を乗り出す葵葉。沙賀羅に、後ろから抱き閉められ、口をふさがれる。服が乱れ気味の葵葉は、首筋を唇で撫でられる。
葵葉「うぅ」
沙賀羅「また、会えたね。巫女姫……様」※微笑む
