朝陽が登り始めたある朝のこと。
「まだまだ寒い。早くあたたかい春になって欲しいところだけど。体を動かせば温まるわよね」
肌寒さを感じながら手をこすり、竹箒と竹で編まれた手箕《てみ》(ちりとり)を用意した。いつも通りに中庭の掃き掃除をしている最中にふと気づいた。
中庭から続く飛び石の上に置かれているはずのいつもの関守石《せきもりいし》がない。関守石《せきもりいし》の先に行ってはいけないと言われてその先に進んだことのない場所だ。
以前にうっかり足を進めてしまったこと以外では上月家のしきたりとして言いつけを守っていた。
「どうしましょう?」
関守石《せきもりいし》の配置は怜弥様がなさっているという。
関守石《せきもりいし》がない場所では立ち入ってもいいと言われているし……今日はしっかり掃き掃除をする日と決めていた。
であるならば……この先にわたしが進んでも問題ないと判断することにした。
順を追って掃き掃除を行なっていく。
上月家の中庭もとても広い。落葉の季節ではないからそれほど手箕《てみ》の中はいっぱいにはならないけれど、そこそこごみがたまっていった。
「この辺りは終わりにしていいかしら。残すは……」
視線を向ければ、飛び石はお屋敷の曲がり角の先にまだ続いていそうだった。母屋の外に面している回り廊下は角までで終わっている。
その先の光景はどうなっているのだろう。多分だけど……お屋敷の中からもわたしは見たことがない。お屋敷の間取りを考えると、建物の中からはうかがい知ることのできない場所だと思われる。
「まるで隠された場所のよう」
誰が聞いているわけでもないのに口をついていた。歩みを進めることに少しだけ不安を覚えつつ、上月家に嫁入りしたわたしの役目として掃き掃除をしなければという使命感もあって曲がり角の先に進んだ。
「あら? これは……扉?」
行き止まりとも思えた袋小路。お屋敷の壁の一部が扉のように半開きになっていた。まるで入れと言わんばかりに。
そう。不思議なことにそんな意志を感じていた。なぜかは分からない。
木板を組み合わせた扉を一度閉めてみると壁と同化している。扉と壁の境の継ぎ目が木板の組み合わせによって自然と巧妙に隠されていた。
取っ手もないので教えられなければ扉だとは誰も思わないだろう。
これはなんのためにあるのでしょう?
不思議に思いながらも、わたしの目線よりも背の低い扉を潜って中に入る。
そして、巻木綿(包帯)越しの瞳に映る光景に声をあげていた。
「ああ」
見事な坪庭だった。坪といってもそこまで狭くはない。限られた広さの中に小さな世界がある。
豊かな山々を感じさせる庭木と庭石。ふかふかと茂る苔はまるで野山か草原のよう。白い小さな石が敷き詰められて揺蕩う流水が演出されている。いわゆる枯山水だ。
坪庭といえばあるべきものの石灯籠や手水鉢、蹲踞《つくばい》などはなく、人と自然が調和した里山を感じさせる景色を表しているように感じた。
敷き詰められた小さな砂利の間には飛び石がほどよく配されて歩けるようになっている。
飛び石の先には朱塗りが鮮やかな小さなお社がひっそりと佇んでいた。
そして、この坪庭の中心に最も目を引く存在がある。
「……とても綺麗」
まだ日は高くないというのに不思議と朝の陽射しを浴びて輝くようにも見える。
わたしの目の前で煌く白い布地が大衣桁《だいいこう》に掛けられていた。
(衣桁とは着物などを掛けるための鳥居形の家具のこと)
「着物……なのでしょうか?」
飛び石をゆっくり渡って着物の正面と背面を見渡した。
いわゆる和装の着物でありながらどこか違う雰囲気を醸し出している。
襟ぐりは広く突き出していて袂が羽のように長い。彩り鮮やかな刺繍は大胆かつ華やかでありながら厳か。
裾の布面積が小さくてこれでは脚がはだけてしまう。よく見ると洋装でいうところの洋袴《ズボン》のような幅が広くて布量の多い穿き物も吊るされている。どうも上下で一式らしい。
いずれにしろ、ため息が漏れて見惚れてしまうほどに美しい。
その形と成り、染繍《そめぬい》に至るまで、よほど腕のいい職人の手によって織られていると想像できる。
「こんなに美しい織物は見たことがない……でもこれは?」
白地の中に織り込まれた紋様が雅でいつまでも見ていられる。
一つ気になることがあるとすれば、美しい紋様が上品な背中部分にあるものだ。
肩口から腰まで斜めに疾る黒々しい紋様のようでいて染め上げられたようなもの。まるで何かに引き裂かれたようにも見えて禍々しくも感じてしまう。
この着物に思い当たることがあった。
夜になるとお勤めのために外出なさる怜弥様のお着物に違いない。
ある夜に遅くなった仕事を終えた時のこと。
わたしの部屋に戻るために外に面した渡り廊下を歩いていると庭に気配を感じた。ほんの瞬くほどの刹那に、暗闇の中で月明かりに煌めく白い姿をちらりと目にした記憶がある。
その時はよくは見えなかったけど、軽やかに疾るその姿は雅に感じていた。
ギンコさんにそのことを聞いてはみたけれど、『今はまだお気になさらずに。そのうち分かることもあるでしょう』と、はぐらかされてしまっていた。それ以来、日々の仕事の忙しさで忘れていたのだけれども。
「日向」
「ひゃい!」
突然、耳元に聞こえる怜弥様のお声。
心臓がとびきり跳ねた。全身に伝わって飛び上がってしまった。
振り返ると白い寝巻きを身につけた怜弥様の狐の白面が間近にいる。なんて近い距離。それこそ息がかかってしまいそうなほど。
わたし一人しかいない静かな空間だったのに、耳元で囁かれる突然の声に誰が驚かずにいられよう。
驚きのあまり飛び石の上でうっかり体勢を崩してよろめいていた。
「ふ。またすっとんきょうな声をあげてるな。愉快だ」
愉快だなんて。もしかしてわざと驚かせるようなことをしたのでしょうか?
怜弥様もギンコさんと同じでお人が悪いです。
見上げて巻木綿(包帯)越しに怜弥様のお顔へと視線を向けると愉快そうに肩を揺らしている。
もしも狐の白面がなければ、きっとほくそ笑んでいる表情が見えたに違いない。
そんな怜弥様の様子を目にしていると心によぎるものがある。その正体が自分では分からない。
「これは一体どういうことでございますか?」
分からないながらも、何かが気持ちを掻き立てて怜弥様に事情を聞かずにいられなかった。
「ふふ。面白い顔をして。そんな膨れている頬を見せられたのは初めてだ」
頬が膨らんでいる? ほんとだ。言われて自覚するほど頬がぱんぱんに膨れていた。わたしがそんなことをするなんて信じられなかった。
「それはいいが……しっかり自分の脚で立て。まあ、重くもないから問題ないが」
「え? ひゃい!」
わたしの両肩を骨ばった怜弥様の手で支えられていた。背中から腕が巻き込むように。
支えがなければ尻餅でもついていたかもしれない。
その事実はともかく、密着するほどあまりに距離が近いことに驚いて飛び石を二つ跳ねて離れていた。
あれほど俺に触れるなと言っていたのにどういうことでしょう? ご自身から行動される分にはいいのでしょうか?
その疑問を考えても答えに思い至るわけもなく。
「……思ったよりも身軽いな。その巻木綿(包帯)があってもよく見えているのか」
「は、はい。それほど邪魔にはなりません。怜弥様、いつの間にお越しになったのですか? ほんの一瞬前までわたししかいないと思っていました。とても不思議です」
焦る気持ちを落ち着かせるようにとにかく質問をしていた。
わたしはこの坪庭で一点だけを見ていたわけではなかったのだ。歩きながら雅で美しい着物を眺めていた。中庭から現れた誰かが飛び石を渡ってくる様子が見えない訳がない。
「ふ。不思議か。まあそうだな。あれを見ろ」
怜弥様の視線の先を追う。さっきまで壁だった場所が開いていて、お屋敷の中へとつながっていた。
「あれは? 扉なんてあったのですね?」
「隠し扉さ。俺の部屋、つまり代々上月家の家長となる者が直接ここに出入りできるようになっている。中庭から続く壁にあった隠し扉も同じようになっていただろう? この場所を上月家の者以外、誰からも遠ざけるためだ。いざという時に屋敷から脱出するためのものでもある」
「関守石《せきもりいし》が置かれていなかったのはなぜです?」
「日向にもこの場を見せたくてな。どかしておいた」
わたしにも?
上月家の物以外、誰からも遠ざけるためとおっしゃっていた。それは……どういう意味でしょう。
疑問には思ったけれど、それを聞くようなことはできなかった。
「とても美しいお着物を見ることができました。その、ありがとうございます?」
「ふ。仕事熱心な日向のことだ。真面目すぎて警戒心よりも勤勉さが優るとは思っていたがその通りになったな」
疑問を感じる謝意に対して、何を得意げにおっしゃっているのでしょう。
ですが返す言葉もありません。
とはいえ気になることもある。
「あの。関守石《せきもりいし》は厄を、魔や鬼を寄せ付けないために配されているとおっしゃってましたが?」
「外側などに配しているものはもちろんだ。だがあれは実を言うとな、結界の役目がないただの飾りだ。来客がうっかり足を進めないようにしている」
なるほど。元々本来の役割として活用されているというわけですね。
おおよそ分かりましたが他にも気になることはあります。
「あの。お着物を天日に干すのはいけないことかと思いますがよろしいのでしょうか?」
着物というものはひどい雨に濡れたとしても風通しの良い場所で陰干しにするものだ。
お日様が高い位置にある訳でもないのに、囲まれた空間の中で不思議と陽の光を燦々と浴びている。
「これは特別だ。浴びた穢れを天の力を借りて浄化している」
やはり怜弥様がおかしい。
何かを質問したとして、以前であれば『知る必要はない』『関わるな』などと冷たい物言いで突き放されるばかりだったのに。
今はこうして会話が成り立っている。
もう少し聞いても怒られはしないかも、と話を続けていた。
「まだまだ寒い。早くあたたかい春になって欲しいところだけど。体を動かせば温まるわよね」
肌寒さを感じながら手をこすり、竹箒と竹で編まれた手箕《てみ》(ちりとり)を用意した。いつも通りに中庭の掃き掃除をしている最中にふと気づいた。
中庭から続く飛び石の上に置かれているはずのいつもの関守石《せきもりいし》がない。関守石《せきもりいし》の先に行ってはいけないと言われてその先に進んだことのない場所だ。
以前にうっかり足を進めてしまったこと以外では上月家のしきたりとして言いつけを守っていた。
「どうしましょう?」
関守石《せきもりいし》の配置は怜弥様がなさっているという。
関守石《せきもりいし》がない場所では立ち入ってもいいと言われているし……今日はしっかり掃き掃除をする日と決めていた。
であるならば……この先にわたしが進んでも問題ないと判断することにした。
順を追って掃き掃除を行なっていく。
上月家の中庭もとても広い。落葉の季節ではないからそれほど手箕《てみ》の中はいっぱいにはならないけれど、そこそこごみがたまっていった。
「この辺りは終わりにしていいかしら。残すは……」
視線を向ければ、飛び石はお屋敷の曲がり角の先にまだ続いていそうだった。母屋の外に面している回り廊下は角までで終わっている。
その先の光景はどうなっているのだろう。多分だけど……お屋敷の中からもわたしは見たことがない。お屋敷の間取りを考えると、建物の中からはうかがい知ることのできない場所だと思われる。
「まるで隠された場所のよう」
誰が聞いているわけでもないのに口をついていた。歩みを進めることに少しだけ不安を覚えつつ、上月家に嫁入りしたわたしの役目として掃き掃除をしなければという使命感もあって曲がり角の先に進んだ。
「あら? これは……扉?」
行き止まりとも思えた袋小路。お屋敷の壁の一部が扉のように半開きになっていた。まるで入れと言わんばかりに。
そう。不思議なことにそんな意志を感じていた。なぜかは分からない。
木板を組み合わせた扉を一度閉めてみると壁と同化している。扉と壁の境の継ぎ目が木板の組み合わせによって自然と巧妙に隠されていた。
取っ手もないので教えられなければ扉だとは誰も思わないだろう。
これはなんのためにあるのでしょう?
不思議に思いながらも、わたしの目線よりも背の低い扉を潜って中に入る。
そして、巻木綿(包帯)越しの瞳に映る光景に声をあげていた。
「ああ」
見事な坪庭だった。坪といってもそこまで狭くはない。限られた広さの中に小さな世界がある。
豊かな山々を感じさせる庭木と庭石。ふかふかと茂る苔はまるで野山か草原のよう。白い小さな石が敷き詰められて揺蕩う流水が演出されている。いわゆる枯山水だ。
坪庭といえばあるべきものの石灯籠や手水鉢、蹲踞《つくばい》などはなく、人と自然が調和した里山を感じさせる景色を表しているように感じた。
敷き詰められた小さな砂利の間には飛び石がほどよく配されて歩けるようになっている。
飛び石の先には朱塗りが鮮やかな小さなお社がひっそりと佇んでいた。
そして、この坪庭の中心に最も目を引く存在がある。
「……とても綺麗」
まだ日は高くないというのに不思議と朝の陽射しを浴びて輝くようにも見える。
わたしの目の前で煌く白い布地が大衣桁《だいいこう》に掛けられていた。
(衣桁とは着物などを掛けるための鳥居形の家具のこと)
「着物……なのでしょうか?」
飛び石をゆっくり渡って着物の正面と背面を見渡した。
いわゆる和装の着物でありながらどこか違う雰囲気を醸し出している。
襟ぐりは広く突き出していて袂が羽のように長い。彩り鮮やかな刺繍は大胆かつ華やかでありながら厳か。
裾の布面積が小さくてこれでは脚がはだけてしまう。よく見ると洋装でいうところの洋袴《ズボン》のような幅が広くて布量の多い穿き物も吊るされている。どうも上下で一式らしい。
いずれにしろ、ため息が漏れて見惚れてしまうほどに美しい。
その形と成り、染繍《そめぬい》に至るまで、よほど腕のいい職人の手によって織られていると想像できる。
「こんなに美しい織物は見たことがない……でもこれは?」
白地の中に織り込まれた紋様が雅でいつまでも見ていられる。
一つ気になることがあるとすれば、美しい紋様が上品な背中部分にあるものだ。
肩口から腰まで斜めに疾る黒々しい紋様のようでいて染め上げられたようなもの。まるで何かに引き裂かれたようにも見えて禍々しくも感じてしまう。
この着物に思い当たることがあった。
夜になるとお勤めのために外出なさる怜弥様のお着物に違いない。
ある夜に遅くなった仕事を終えた時のこと。
わたしの部屋に戻るために外に面した渡り廊下を歩いていると庭に気配を感じた。ほんの瞬くほどの刹那に、暗闇の中で月明かりに煌めく白い姿をちらりと目にした記憶がある。
その時はよくは見えなかったけど、軽やかに疾るその姿は雅に感じていた。
ギンコさんにそのことを聞いてはみたけれど、『今はまだお気になさらずに。そのうち分かることもあるでしょう』と、はぐらかされてしまっていた。それ以来、日々の仕事の忙しさで忘れていたのだけれども。
「日向」
「ひゃい!」
突然、耳元に聞こえる怜弥様のお声。
心臓がとびきり跳ねた。全身に伝わって飛び上がってしまった。
振り返ると白い寝巻きを身につけた怜弥様の狐の白面が間近にいる。なんて近い距離。それこそ息がかかってしまいそうなほど。
わたし一人しかいない静かな空間だったのに、耳元で囁かれる突然の声に誰が驚かずにいられよう。
驚きのあまり飛び石の上でうっかり体勢を崩してよろめいていた。
「ふ。またすっとんきょうな声をあげてるな。愉快だ」
愉快だなんて。もしかしてわざと驚かせるようなことをしたのでしょうか?
怜弥様もギンコさんと同じでお人が悪いです。
見上げて巻木綿(包帯)越しに怜弥様のお顔へと視線を向けると愉快そうに肩を揺らしている。
もしも狐の白面がなければ、きっとほくそ笑んでいる表情が見えたに違いない。
そんな怜弥様の様子を目にしていると心によぎるものがある。その正体が自分では分からない。
「これは一体どういうことでございますか?」
分からないながらも、何かが気持ちを掻き立てて怜弥様に事情を聞かずにいられなかった。
「ふふ。面白い顔をして。そんな膨れている頬を見せられたのは初めてだ」
頬が膨らんでいる? ほんとだ。言われて自覚するほど頬がぱんぱんに膨れていた。わたしがそんなことをするなんて信じられなかった。
「それはいいが……しっかり自分の脚で立て。まあ、重くもないから問題ないが」
「え? ひゃい!」
わたしの両肩を骨ばった怜弥様の手で支えられていた。背中から腕が巻き込むように。
支えがなければ尻餅でもついていたかもしれない。
その事実はともかく、密着するほどあまりに距離が近いことに驚いて飛び石を二つ跳ねて離れていた。
あれほど俺に触れるなと言っていたのにどういうことでしょう? ご自身から行動される分にはいいのでしょうか?
その疑問を考えても答えに思い至るわけもなく。
「……思ったよりも身軽いな。その巻木綿(包帯)があってもよく見えているのか」
「は、はい。それほど邪魔にはなりません。怜弥様、いつの間にお越しになったのですか? ほんの一瞬前までわたししかいないと思っていました。とても不思議です」
焦る気持ちを落ち着かせるようにとにかく質問をしていた。
わたしはこの坪庭で一点だけを見ていたわけではなかったのだ。歩きながら雅で美しい着物を眺めていた。中庭から現れた誰かが飛び石を渡ってくる様子が見えない訳がない。
「ふ。不思議か。まあそうだな。あれを見ろ」
怜弥様の視線の先を追う。さっきまで壁だった場所が開いていて、お屋敷の中へとつながっていた。
「あれは? 扉なんてあったのですね?」
「隠し扉さ。俺の部屋、つまり代々上月家の家長となる者が直接ここに出入りできるようになっている。中庭から続く壁にあった隠し扉も同じようになっていただろう? この場所を上月家の者以外、誰からも遠ざけるためだ。いざという時に屋敷から脱出するためのものでもある」
「関守石《せきもりいし》が置かれていなかったのはなぜです?」
「日向にもこの場を見せたくてな。どかしておいた」
わたしにも?
上月家の物以外、誰からも遠ざけるためとおっしゃっていた。それは……どういう意味でしょう。
疑問には思ったけれど、それを聞くようなことはできなかった。
「とても美しいお着物を見ることができました。その、ありがとうございます?」
「ふ。仕事熱心な日向のことだ。真面目すぎて警戒心よりも勤勉さが優るとは思っていたがその通りになったな」
疑問を感じる謝意に対して、何を得意げにおっしゃっているのでしょう。
ですが返す言葉もありません。
とはいえ気になることもある。
「あの。関守石《せきもりいし》は厄を、魔や鬼を寄せ付けないために配されているとおっしゃってましたが?」
「外側などに配しているものはもちろんだ。だがあれは実を言うとな、結界の役目がないただの飾りだ。来客がうっかり足を進めないようにしている」
なるほど。元々本来の役割として活用されているというわけですね。
おおよそ分かりましたが他にも気になることはあります。
「あの。お着物を天日に干すのはいけないことかと思いますがよろしいのでしょうか?」
着物というものはひどい雨に濡れたとしても風通しの良い場所で陰干しにするものだ。
お日様が高い位置にある訳でもないのに、囲まれた空間の中で不思議と陽の光を燦々と浴びている。
「これは特別だ。浴びた穢れを天の力を借りて浄化している」
やはり怜弥様がおかしい。
何かを質問したとして、以前であれば『知る必要はない』『関わるな』などと冷たい物言いで突き放されるばかりだったのに。
今はこうして会話が成り立っている。
もう少し聞いても怒られはしないかも、と話を続けていた。
