〇緋屋・朱音の部屋〜店先・夜・小雨・遠雷
前日の拒絶反応のせいで、お互いにこれ以上無理な拒絶もできず、かといって近づくことも意識してしまい、悶々とした夜を過ごす朱音。突如、足元の小火が激しく発光。すす衆たちが騒ぐ。
あやかしたち「くろいの」「くる!」「おっきいの!」
水猫が金魚鉢から驚いて飛び出す。
ドンッ!!と地響きがして、緋屋を囲んでいた父宗介が施していた結界が完全に粉砕される。店先に飛び出す白嶺と茂助。遅れて朱音が、店先にたてかけてあった番傘を武器代わりに飛び出す。都の夜空を覆うほどの巨大なあやかし煙蛇が、緋屋の屋根を押し潰すように現れる。
〇緋屋・裏庭〜運河沿い・夜 !!戦闘開始!!
白嶺が咄嗟に茂助と華音を安全な奥へ避難させるが、朱音は緋色の呪布の制限があるため、白嶺の戦闘範囲に強制的に同行することに。白嶺が扇を振り、白焔の術を放つが、煙蛇は文字通り煙で構成されているため、物理攻撃や通常の術がすり抜けてしまい、手応えがない。
白嶺「チッ……物理が通じない五格ですか。おまけにあの頭の針……無理やり操られて暴走していますね。正気ではない」
煙蛇が毒気を含んだ黒い煙を吐き出し、街を侵食し始める。白嶺は朱音を背中に庇いながら結界を張るが、煙蛇の圧倒的な質量に徐々に押し込まれていく。煙蛇の攻撃の余波で、周囲にいる低格のあやかし達(運河に住む河童など)が巻き込まれ、悲鳴を上げている。
朱音は傘を構えつつも、暴走する煙蛇をじっと見つめる。朱音の脳内に、自分の異能「繋束」を通じて、煙蛇が苦悶する声が直接流れ込んでくる。
煙蛇(声)『痛い、頭、痛い、殺して、壊して、痛い……!』
朱音(モノ)『……このあやかし、自分の意志で襲ってるんじゃない。頭の針のせいで、苦しくて暴れてるんだ……!』
白嶺が次の大術を仕掛けようとした瞬間、朱音が白嶺の前に飛び出す。
朱音「待ってください!!」
白嶺「朱音さん!? 下がりなさいと――」
朱音はそれを無視し、煙蛇に向かって真っ直ぐに手を伸ばす。朱音の指先から、あの優しく温かい「繋束」の光が迸り、煙蛇の巨大な頭部を包み込む。
朱音「……痛いよね。おねがい、暴れないで……!」
支配でも使役でもない、ただ相手の苦しみに寄り添う朱音の心が、煙蛇の暴走をほんの一瞬だけピタリと止め、大人しくさせる。
白嶺、朱音の異能の圧倒的な効果に目を見開く。
白嶺「……朱音さん」
煙蛇の動きが止まったその一瞬の隙を見逃さず、白嶺が跳躍。煙蛇の頭部に突き刺さっていた青研の「細針」だけを、扇の一閃で正確に叩き割る。呪縛の針が壊れた瞬間、煙蛇は苦しみから解放され、静かな白煙となって夜空へと消え去っていく。膝をつく朱音。白嶺がその側に駆け寄り、そっと肩を支える。傘が転がる。傘の影で白嶺が朱音の額に自分の額を合わせる。
白嶺(モノ)『封じるでもなく、使役するでもなく、ただ心を繋ぐ力……。青研が欲しがるわけです。ですが、私は君を――』←朱音に遅れて自覚の芽生え
〇霞ノ都・陰陽寮の一室・夜
手元の身代わり人形 ※煙蛇と連動していた針がパキンと割れる のを見つめる青研。
青研は怒る風でもなく、むしろ極上の獲物を見つけたように口元を歪める。
青研「やはり宗介の研究は正しかった。あの娘の『繋束』があれば、どんな高格のあやかしも意のままになる。……白嶺、お前がどれだけ大事に隠そうと、無駄だよ。あの娘の命はお前の命でもあるのだから……」
青研の不敵な笑み。
〇緋屋・店先〜帳場・翌朝
煙蛇の急襲によって緋屋の建物の一部が壊れ、亡き父宗介が密かに施していた結界は完全に消失してしまう。
茂助や華音、座敷衆たちが片付けをする中、朱音は昨夜、白嶺が自分を必死に抱きとめてくれた瞬間の温度を思い出しては赤面し、上の空になっている。
白嶺はいつもの涼しい顔に戻っているが、朱音の一挙手一投足に対する視線が昨日までとは明らかに違う。一瞬たりとも彼女を視界から外さないような、異様な過保護さが始まりつつある。
〇霞ノ都・陰陽寮・白嶺の執務室・昼
白嶺が黒霧と密会。昨夜の煙蛇の頭部にあった「針」の術式から、青研の完全な関与を確信する。
ここで白嶺は、護符の変質が、青研による悪意あるすり替えだったという真相にハッキリと気づく。※黒霧との会話で
白嶺「……あいつは最初から、私を呪うつもりだったわけですか」
黒霧「青研にとって、お前は常に目の上のたん瘤だからな。例えば、ただの小娘とお前の心臓を繋げば、お前をいつでも人質に取れるし、その娘を殺せばお前も道連れにできる。最悪の罠だ」
白嶺、いつもの笑顔を浮かべたまま、怒りで周囲の空気をピキピキと凍りつかせる。
白嶺「ええ、本当に最悪です。……ですが、青研は大きな計算違いをしましたね」
黒霧「計算違い?」
白嶺「彼女は、ただの弱い娘などではありませんよ。それに――私がこれほど彼女を手放したくないと思ってしまうことも、あいつにとっては想定外でしょう」
黒霧「ほう……」
のろけにあてられたような微妙な感じの黒霧。
〇緋屋・客間
白嶺が緋屋に戻ってくる。朱音が壊れた縁側の木屑を片付けようとすると、白嶺がサッと割り込んでその荷物を強引に取り上げる。
朱音「あ、自分でやります!」
白嶺「ダメです。君の手は、あやかしを――癒すためのものです。それにまた怪我でもされたら、私の心臓が持ちませんよ」
口にしているのはいつもの「呪いのせい=自分の体が傷つくから」という建前だが、声のトーンの甘さや、朱音との距離の詰め方が昨日までとは格段に違い、有無を言わせない強引さを帯びている。朱音、その迫力にドギマギしつつも、妙に胸がトクンと跳ねて逆らえない。
〇緋屋・店先〜小路・夜
朱音がふと外の様子を見に出ると、低く漂う霞の向こうから、青研が平然と歩いてくる。
朱音、本能的な恐怖で身を強張らせる。
青研「やあ。昨夜は、うちの玩具が迷惑をかけたね。けれどお陰で、君の素晴らしい価値がよく分かった。白嶺にはもったいない力だな」
青研が、朱音の顎に不躾に手を伸ばそうとする。その瞬間、バチィィン!!と強力な術の光が走り、青研の手を激しく弾く。
気づけば白嶺が朱音の前に立ち、扇を開いて青研を睨みつけている。瞳は、完全に獲物を屠る修羅のそれ。
白嶺「青研。私の大切なものに、二度とその汚い手を伸ばさないでいただけますか」
青研、弾かれた自分の手を面白そうに見つめ、歪んだ笑みを浮かべる。
青研「おや、白嶺? 随分と余裕がない。……まあいい、せいぜいその命、大事に抱え込んでおくんだね」
青研が霞の中に消え去る。白嶺は朱音の手首を掴んだまま。
朱音(モノ)『……私の、大切なもの、って……いま、そう言ったの……?』
白嶺の、初めて見る剥き出しの独占欲に、朱音の胸が激しく鳴る。
前日の拒絶反応のせいで、お互いにこれ以上無理な拒絶もできず、かといって近づくことも意識してしまい、悶々とした夜を過ごす朱音。突如、足元の小火が激しく発光。すす衆たちが騒ぐ。
あやかしたち「くろいの」「くる!」「おっきいの!」
水猫が金魚鉢から驚いて飛び出す。
ドンッ!!と地響きがして、緋屋を囲んでいた父宗介が施していた結界が完全に粉砕される。店先に飛び出す白嶺と茂助。遅れて朱音が、店先にたてかけてあった番傘を武器代わりに飛び出す。都の夜空を覆うほどの巨大なあやかし煙蛇が、緋屋の屋根を押し潰すように現れる。
〇緋屋・裏庭〜運河沿い・夜 !!戦闘開始!!
白嶺が咄嗟に茂助と華音を安全な奥へ避難させるが、朱音は緋色の呪布の制限があるため、白嶺の戦闘範囲に強制的に同行することに。白嶺が扇を振り、白焔の術を放つが、煙蛇は文字通り煙で構成されているため、物理攻撃や通常の術がすり抜けてしまい、手応えがない。
白嶺「チッ……物理が通じない五格ですか。おまけにあの頭の針……無理やり操られて暴走していますね。正気ではない」
煙蛇が毒気を含んだ黒い煙を吐き出し、街を侵食し始める。白嶺は朱音を背中に庇いながら結界を張るが、煙蛇の圧倒的な質量に徐々に押し込まれていく。煙蛇の攻撃の余波で、周囲にいる低格のあやかし達(運河に住む河童など)が巻き込まれ、悲鳴を上げている。
朱音は傘を構えつつも、暴走する煙蛇をじっと見つめる。朱音の脳内に、自分の異能「繋束」を通じて、煙蛇が苦悶する声が直接流れ込んでくる。
煙蛇(声)『痛い、頭、痛い、殺して、壊して、痛い……!』
朱音(モノ)『……このあやかし、自分の意志で襲ってるんじゃない。頭の針のせいで、苦しくて暴れてるんだ……!』
白嶺が次の大術を仕掛けようとした瞬間、朱音が白嶺の前に飛び出す。
朱音「待ってください!!」
白嶺「朱音さん!? 下がりなさいと――」
朱音はそれを無視し、煙蛇に向かって真っ直ぐに手を伸ばす。朱音の指先から、あの優しく温かい「繋束」の光が迸り、煙蛇の巨大な頭部を包み込む。
朱音「……痛いよね。おねがい、暴れないで……!」
支配でも使役でもない、ただ相手の苦しみに寄り添う朱音の心が、煙蛇の暴走をほんの一瞬だけピタリと止め、大人しくさせる。
白嶺、朱音の異能の圧倒的な効果に目を見開く。
白嶺「……朱音さん」
煙蛇の動きが止まったその一瞬の隙を見逃さず、白嶺が跳躍。煙蛇の頭部に突き刺さっていた青研の「細針」だけを、扇の一閃で正確に叩き割る。呪縛の針が壊れた瞬間、煙蛇は苦しみから解放され、静かな白煙となって夜空へと消え去っていく。膝をつく朱音。白嶺がその側に駆け寄り、そっと肩を支える。傘が転がる。傘の影で白嶺が朱音の額に自分の額を合わせる。
白嶺(モノ)『封じるでもなく、使役するでもなく、ただ心を繋ぐ力……。青研が欲しがるわけです。ですが、私は君を――』←朱音に遅れて自覚の芽生え
〇霞ノ都・陰陽寮の一室・夜
手元の身代わり人形 ※煙蛇と連動していた針がパキンと割れる のを見つめる青研。
青研は怒る風でもなく、むしろ極上の獲物を見つけたように口元を歪める。
青研「やはり宗介の研究は正しかった。あの娘の『繋束』があれば、どんな高格のあやかしも意のままになる。……白嶺、お前がどれだけ大事に隠そうと、無駄だよ。あの娘の命はお前の命でもあるのだから……」
青研の不敵な笑み。
〇緋屋・店先〜帳場・翌朝
煙蛇の急襲によって緋屋の建物の一部が壊れ、亡き父宗介が密かに施していた結界は完全に消失してしまう。
茂助や華音、座敷衆たちが片付けをする中、朱音は昨夜、白嶺が自分を必死に抱きとめてくれた瞬間の温度を思い出しては赤面し、上の空になっている。
白嶺はいつもの涼しい顔に戻っているが、朱音の一挙手一投足に対する視線が昨日までとは明らかに違う。一瞬たりとも彼女を視界から外さないような、異様な過保護さが始まりつつある。
〇霞ノ都・陰陽寮・白嶺の執務室・昼
白嶺が黒霧と密会。昨夜の煙蛇の頭部にあった「針」の術式から、青研の完全な関与を確信する。
ここで白嶺は、護符の変質が、青研による悪意あるすり替えだったという真相にハッキリと気づく。※黒霧との会話で
白嶺「……あいつは最初から、私を呪うつもりだったわけですか」
黒霧「青研にとって、お前は常に目の上のたん瘤だからな。例えば、ただの小娘とお前の心臓を繋げば、お前をいつでも人質に取れるし、その娘を殺せばお前も道連れにできる。最悪の罠だ」
白嶺、いつもの笑顔を浮かべたまま、怒りで周囲の空気をピキピキと凍りつかせる。
白嶺「ええ、本当に最悪です。……ですが、青研は大きな計算違いをしましたね」
黒霧「計算違い?」
白嶺「彼女は、ただの弱い娘などではありませんよ。それに――私がこれほど彼女を手放したくないと思ってしまうことも、あいつにとっては想定外でしょう」
黒霧「ほう……」
のろけにあてられたような微妙な感じの黒霧。
〇緋屋・客間
白嶺が緋屋に戻ってくる。朱音が壊れた縁側の木屑を片付けようとすると、白嶺がサッと割り込んでその荷物を強引に取り上げる。
朱音「あ、自分でやります!」
白嶺「ダメです。君の手は、あやかしを――癒すためのものです。それにまた怪我でもされたら、私の心臓が持ちませんよ」
口にしているのはいつもの「呪いのせい=自分の体が傷つくから」という建前だが、声のトーンの甘さや、朱音との距離の詰め方が昨日までとは格段に違い、有無を言わせない強引さを帯びている。朱音、その迫力にドギマギしつつも、妙に胸がトクンと跳ねて逆らえない。
〇緋屋・店先〜小路・夜
朱音がふと外の様子を見に出ると、低く漂う霞の向こうから、青研が平然と歩いてくる。
朱音、本能的な恐怖で身を強張らせる。
青研「やあ。昨夜は、うちの玩具が迷惑をかけたね。けれどお陰で、君の素晴らしい価値がよく分かった。白嶺にはもったいない力だな」
青研が、朱音の顎に不躾に手を伸ばそうとする。その瞬間、バチィィン!!と強力な術の光が走り、青研の手を激しく弾く。
気づけば白嶺が朱音の前に立ち、扇を開いて青研を睨みつけている。瞳は、完全に獲物を屠る修羅のそれ。
白嶺「青研。私の大切なものに、二度とその汚い手を伸ばさないでいただけますか」
青研、弾かれた自分の手を面白そうに見つめ、歪んだ笑みを浮かべる。
青研「おや、白嶺? 随分と余裕がない。……まあいい、せいぜいその命、大事に抱え込んでおくんだね」
青研が霞の中に消え去る。白嶺は朱音の手首を掴んだまま。
朱音(モノ)『……私の、大切なもの、って……いま、そう言ったの……?』
白嶺の、初めて見る剥き出しの独占欲に、朱音の胸が激しく鳴る。



