[シナリオ]朧廻国 心を繋ぐ双命の符

〇緋屋・新しい店先・後日・数ヶ月後
すっかり復興し、新しく建て直された商家「緋屋」。
店先では、お馴染みのすす衆たちが遊び、水猫※鳴き声はにゃあ が新しい金魚鉢で丸くなり、たぷが縁側で雨粒のように並んでいる。あやかしと人間が、以前よりも少しだけ自然に共生している霞ノ都の日常。通りに子犬っぽいあやかしがとてとてと歩いている。小さな子供の頭の上でまるまって欠伸をしているモモンガのようなあやかし。野良猫と野良犬とあやかしの小天狗がなにやらわちゃわちゃ揉めている。

白嶺は陰陽師の役職を辞し、再編された陰陽寮の相談役に退きつつ、私生活では、緋屋の住み込み手代兼お婿さん候補として完全に居座っている。
帳場で恐ろしい速度で算盤を弾く白嶺。
新しくなった帳場には宗介の小さな仏壇もあり、一番茶が供えられている。

茂助「いやぁ、白嶺さんが居てくださったら経営も安泰です!」
白嶺「お任せください、私も我ながら、こういった面にも向いていたのかと、意外に思っているところで」

長し目を受けた朱音が、赤面しつつも、墨をすっていた手元を狂わせ、半紙に汚れが飛び散る。すす衆が喜んで墨の上をぽんぽんとしている。茂助はにこにこ笑顔で大喜びしている。華音も元気そうに小火を抱いて笑っている。

華音「で、白嶺さんのお婿入りはいつにされるんですか? これからはお兄様ってお呼びした方が良いかしら」
朱音「もう、からかわないの!」
白嶺「もちろん、今すぐにでも、お婿入りしたいんですけど」
華音「ほんとに? ふふ、お兄様」
朱音「ちょっと、二人で勝手に盛り上がらないで!」


〇緋屋・縁側
買い出しから戻ってきた朱音。
縁側に腰を下ろしてお茶を飲んでいる白嶺の隣に座る。
手首の緋色の呪布はあの日消滅したが、二人の胸の奥には、今でもお互いの愛おしい鼓動がはっきりと共有されている。

朱音「白嶺さん。もう呪いは解けたのに、どうして未だに私が裏庭へ行くのにもついてくるんですか? それにお風呂は外で待たれると、困るというか……」
白嶺「君が湯船でのぼせて倒れた際、一刻も早く救いに行けるようにという、元最上位陰陽師としての純粋な危機管理ですが?」
朱音「そーいうのは、ただの過保護っていうんです!」

白嶺、いつもの涼やかな、けれど今度は心の底から愛おしそうな本物の笑顔を浮かべ、朱音の手をそっと握りしめる。
その瞬間、あの日書き換わった黄金の命の鎖の残像がほんのりと美しく浮かび上がり、二人の肌に溶けるように消えていく。

白嶺「呪いが解けたからこそ、ですよ。これからは義務ではなく、私の個人的な我儘で、朱音さんの隣を片時も離れないと決めているのです」

朱音、顔を真っ赤にしつつも、もうその手を振り払おうとはしない。

朱音(モノ)『あやかしを祓うこの人と、あやかしと友であることを望む私。強制的に始まった私たちの関係だけど――きっと、一生離れられない』

水猫が微睡んでいる金魚鉢の水面に、黄昏の美しい空が映り込む中、隣り合う二人の影。
固く結ばれた指先と、重なり合う二人の幸せな鼓動の音。額をそっと合わせ、それから唇を重ねる二人。
背景では小火が嬉しさのあまり火の粉を小さな花火のように空へ打ち上げ、たぷと水猫が飛沫をあげながら嬉しそうに跳ね回っている。喜ぶすす衆たちと、華音の目をふさぐ茂助。屋根の上で煙管をくゆらせる黒影と蒼烏。


=了=