「……変わってないね」
「そう、だね」
当たり前のように人が交差し、車が走り、自転車が風を切る。
働き続けている人々。
ここからは立ち去ろうとはしない人々。
もう既に、諦めていた。
「まずどこ行く? ポテト食べたいよね~!」
私は暗い顔を浮かべてしまっていたのかもしれない。
満面の笑みで話しかけてきた日和。
正直、無理しているように見えてしまった。
「リップ買いに行こ! ポテトなんて別に、ね」
「ほんと!? 柚葉もコスメ買おうよ! 私、選んでいい?」
「いいの?」
「うん! むしろ選びたい! せっかくだから二人でおめかしして写真撮りたいもん」
写真。
思い出を残すもの。
この世に残ることは、ないのかもしれない。
それでも、二人とも二人の思い出を残したかった。その気持ちは共通のものだった。
駅に併設された商業施設。
エスカレーターで二階分上がれば目的地の雑貨店。
中学生のときから日和と何度も来た。
二人でお揃いの物を買う日があれば、ただ店内をぶらぶら見て回って、
『まあ、また今度買おっか~』
なんて言って帰った日もあった。
「これ、柚葉に似合いそう~」
アイシャドウ売り場を物色する日和。
「リップの方、見なくていいの?」
日和はアイシャドウ売り場から動こうとしない。
「うん。だって、私のことなんて二の次でいいし。柚葉、リップは今日持ってきてるでしょ? 唇の色可愛いもん。あとはお目目をもう少しキラキラさせれば完璧」
パレットを握りしめたまま早口で話している。
これが日常なら、感情を溢れさせた表情でこちらを見つめてくれていたはずなのに。
目線は落としたままだった。
見ているだけで胸が痛い。
そんな顔させたくないよ。
――ただでさえ、限界なのに。
「よし。柚葉、これでいい?」
差し出してきたのはピンク色の小さなアイシャドウパレット。細かなラメと粗目なラメが二色ずつ――ピンクと白――が入っている。
「ありがとう。良かったら、日和がメイクしてくれない?」
「もちろん」
白く小さなその手から受け取ると、日和はリップ売り場へと向かっていった。
歩いている背中には切なさが滲み出ていて、それを一度も見たことはなかった。
泣きそうな背中を見て、私の心は既に泣いていた。
――この涙を拭ってくれるあなたは、今どこにいるのだろうか。
流行のリップを何度も手に取り、手首に試し塗りをしている。
いつもは、もっとウキウキで選んでいるのにな。
「これにする!」
笑みを浮かべ、見せてきたそのリップは真っ赤なティントリップ。いつもなら控えめな色を選んでいた。
「最後ぐらい、憧れの色を塗ってみたいんだ」
私の心が読まれていたのかのようにタイミングよく呟かれた言葉。
確かに聞こえ、残っていた。
会計を済ませ、店を出て、座れるところを探した。
屋内から出て歩いている時、見慣れた坊主頭の男子を見つけた。
「お、柚葉じゃん」
声をかけられ、つい驚いてしまう。
日和は戸惑った表情をしていた。
面識がない、いかつい男子に友人が声をかけられたら当然だ。
「駅の前でさ、ポテトの無料配布やってんの知ってる?」
突然の質問。頭の中でハテナマークが広がる。
しかも、私が食べたいなと思っていたポテト。
――ちょっと、違和感……?
「あれ、もらっといてよ。そしたら、俺らが発案者になれるだろ」
得意気にドヤ顔をしてくるのについ、笑ってしまった。
「なにそれ笑 まあ、このあとどちらにせよ買おうと思ってたから、いいよ」
「あざーす」
彼はすぐさま商品に目を向けた。
「……じゃあね」
「じゃあ」
その口調言われたら。また明日も遭遇できる気がしてきちゃうじゃないか。
「友達?」
「うん」
不安げな表情で尋ねてくる日和を落ち着かせる。
「いかついけど、ただの男子高校生。めっちゃいいやつだから」
「そっか」
ちょうど空いているベンチを見つけた。
「あそこ、座ろ」
二人並んでそっと腰を下ろした。



