特別警報イコールイコール




 授業中に突然、けたたましい警報音が鳴り響く。


 なにこれ


 きっと教室にいた全員が、同じことを思っていた。

 初めて聞く音。
 突然の出来事。
 誰も動けていない。
 
『国からの指示に従い、授業は中止。解散とします』

 チャイムが鳴らず始まった校内放送。
 ただ、その二言で終わった。
 警報音は止んだ。
 戸惑いの中、皆がスマホを開く。


 ――圏外


 電波障害が発生しているのか、スマホは全く使えなかった。

 教壇に立つ担任は困惑の表情のまま立ち尽くしている。

 小声で会話する人、スマホをどうにか使おうと必死な人、状況が飲み込めずにただ座っている人。

 その状況の中、学年主任がやってきた。担任に一枚の紙を渡し、何も言わずに走り去っていった。
 それをじっと見つめる担任の目。
 学級が始まって半年。涼しげな風が吹き始めたこの時期まで、こんなに動揺している姿を見たことはなかった。

「先生。状況の説明してください。何が起こってるんですか?」

 学級委員の女子が声を上げる。
 隣に座る彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「――落ち着いて聞いてください」

 下を向いたまま話し出した担任。
 この中で一番落ち着けていないのは、担任だった。

「現在、日本に向かってきている隕石が確認されています」


 隕石……?

 聞き馴染みのないその言葉は現実味を帯びていない。
 誰もが理解できていなかった。

「政府から直ちに帰宅するよう指示が出ています」

 小さな声がちらほらと聞こえる。
 言葉になっていない漏れ出た音。

 ――私は、とてつもない不安に襲われていた。

「通信障害も発生しているため、ご家族と連絡が取れない可能性がありますが、落ち着いて行動するようにしてください」

 落ち着けるわけなんて、なかった。

 なんでこの教室はここまで静かなのか。

 パニックになっている人は誰もいない。

 ざわつきが少しだけ広がった。

 その中で取り残された私。
 私だけが状況を飲み込めずにいた。
 これは夢だと、言い聞かせ続けた。



 ――ピンポンパンポーン

『ただいまより下校を始めます。一年一組から下校を開始してください』

 一年一組の私たち。
 周りのみんなは立ち始める。

 友達同士で帰りだす人々。一人で下を見ながら帰りだす人々。すべてを諦めたように空元気に振る舞う人々。

 私は一人、席を立てずにいた。

 足が動かない。動悸が止まらない。

「大丈夫?」

 顔を起こせば担任がいた。 
 いつも通りの表情。少し充血した目と、目があった。

「大丈夫です。さようなら」

「はい。さようなら」

 いつも交わしていた挨拶は途端に重くなり、胸にどっしりと響いた。
 ああ。もう、言葉を交わせないのか。

 周りを見れば、教室には私と担任だけだった。
 それなりに仲の良い人もいるはずだった。

 でも、残ったのは私だけ。

 それほどの関係だったのかと今さら思い知らされる。


 苦しみで溺れた。

 

「柚葉!」

 突如背後から自分の名前が呼ばれ、振り向く。ポニーテールが揺れた。

「ねえ、一緒に帰ろ?」

 上目遣いで手を差し出される。
 親友の日和だった。
 幼稚園から高校までずっと一緒だった。それでも仲の良さは変わらない。時折二人で帰っていた。

「うん。もちろん」

 取り残された私の目の前に現れた太陽。
 寂しさを抱えた私には眩しかった。

 嬉しかったんだ。

「今日さ、駅前で散歩しようよ。買い物しよ」

 無理して笑っているように見える日和。
 きっと彼女は、日常を求めていた。

 二人で遊ぶのは駅前が多かった。

「そうね。豪遊しよっか」

 財布をポケットに突っ込み、スマホを握りしめる。
 使えるようになり、通知が鳴ることを願って。
 もし、できるなら探しに行きたい。



 ――私の大切な存在を。