好きまでの距離


 駅に着いてスマホを見る。

 画面には9時30分の文字。

 少し早く着きすぎたかも。でもあゆくんを待たせるよりはいいよね。

 あゆくんが見つけやすい場所に立って待つことにする。
 待ってる間に昨日見た光景がまた思い出される。


 あの人、あゆくんのなんだろう……。

 あゆくんは後ろ姿だったから見えなかったけど、でも親しそうだった……。
 肩に手を置くのも自然にしてた。

 駅までの帰り道でも、駅で見た光景がこびりついて離れなかった。


 あゆくん……大切な人がいるんだ。

 痛い……。

 そう思ったら、それだけで、胸がチクチク刺されたように痛む……。

 (あっ……。たろう……もしかして……)
 

 (あゆくんが……)

 どうしよう。でも……あゆくんは、あの人が大切な人なのかもしれない。

 あゆくんに聞いてみる?

 そんな勇気ない。
 もし聞いてそうって言われたら……。

 明日も会えなくなる。
 それは嫌だ……。

 会ったらだめ、でも会いたいの気持ちが交互に湧き出てくる。

 お家に帰ってからもご飯食べながらもお風呂入っててもずっとそのことが頭から離れない。


 部屋に入ってベッドの上に座る。

 ぼくはあゆくんに明日会いたい。
 大切な人がいるとしても会いたい。

 ぼくの気持ちに素直になろう。そう思った。

 そうだ!あゆくんにお弁当作ってもいいかな?

 あゆくんに聞こう。そう思って勢いよくベッドから立ち上がり机に置いてあるスマホを手に取る。

 あっ……今はだめだ。さっきの人と一緒にいるはずだ。

 スマホを静かに机に戻して、そのままベッドに横になる。

 目を手のひらで覆って。視界を真っ暗にして考える。

 (たろう……明日あゆくんと最初で最後かもしれないんだゾ。たろうのお弁当食べてもらえる機会ないかもしれないよ。後悔しない?)

 自分にそんな風に問いかける。


 静寂の中で、昨日と今日の出来事を振り返る。

 ぼく……後悔する。このままあゆくんに何もしなかったら後で絶対後悔する。

 それだけは嫌だ。

 そう思ったら、ベッドから飛び降りて部屋のドアを開けて階段を降りる。

 ママがびっくりした顔してるから「明日図書館行くからお弁当作る」それだけ伝えてキッチンに入り、お弁当の下ごしらえをする。

 メニューはぼくが好きな唐揚げにする。あゆくんにぼくの得意料理を食べてもらいたい。

 おかずは後……冷蔵庫に入ってるもので決めていく。

 下ごしらえを終わらせてあとは明日の朝することにした。

 朝起きて唐揚げ揚げて、おむすび握って彩りも考えたお弁当を2個作る。
 それをバックに入れて勉強道具を入れたカバンと一緒に持って家を出た。

 今ぼくの手にはそのお弁当がある。

 あゆくんが来たら先に言う?それともお昼まで内緒にする?

 そんなことを考えたら、改札口にあゆくんの姿が見えた。
 手を振る?どうしよう?そう思ってたら、あゆくんがぼくに気がついてくれた。

「咲太郎――!」

 名前を呼んで手を振ってくれてる。
 そのまま改札を出て、走ってぼくの前に来てくれた。

「ごめんね。待たせた?」

 駅の時計を見るとまだ約束の時間より15分も早い。

「たろうも今来たとこ。それにあゆくん時間より早く着いてるよ?」
「あ……うん」

 ちょっとだけバツの悪そうなあゆくん。

「咲太郎を待たせるよりもぼくが咲太郎を待ちたいなと思って」
 ハニカムように笑うあゆくん。

 (あっ……まただ)

 あゆくんの笑顔を見ると胸が痛くなる。静かに胸を押さえる。
 昨日までこの痛みの正体、気がついてなかったけど……。

 今ならわかる……。

「へへっ。嬉しいよぉ――でも!でも!たろうもあゆくん待たせるよりもたろうがまちたいな――」

 あゆくんに様子がおかしいのバレないようにちょっとおどけて言ってみる。

「ありがとう。こんなに待ち合わせをするのが楽しいと思わなかった。昨日からワクワクして楽しみにしてたんだ」

 あゆくんの顔が何だかスッキリして見える……。

 昨日……あの人と会えたから?

 聞きたいけど、それを聞いたらここでバイバイになる気がして聞けなかった。

「じゃあ行こっか」

 あゆくんが図書館の方を指差しながら言ってくれる。ぼくは頷くのが精一杯で黙ってあゆくんの隣を歩く。

 昨日のあの人は……あゆくんの肩を触ってた。
 ぼくも触れたい……。

 でもその権利があるのは、あの人だけ……なの……かもしれない。

 そう思ったら隣を歩けなくて、少しだけ後ろにずれて歩いてしまう。

「それにしても、咲太郎の私服初めて見たね」

 ぼくの服をみて、ほんの少しだけ頬を染めて話すあゆくん。
 今日のぼくは、水色のカッターに白のカーディガンを来てデニムを履いてる。

 普段はあまりしない格好。

 でも……今日は……。

 昨日みたあの人が着てるような服を何でか選んでた。

「そうだよねぇ。あゆくんたろうの女装姿しか見たことないよねぇ」
「うん。まさか初めてが女装なんてなかなかないもんね」

 思い出し笑いをしてるあゆくん。

「でも似合ってた。咲太郎の好きが伝わるメイクとネイルだったよ。クラスの子達もみんなメイクしたんでしょ?」

 あゆくんがゆっくり静かなトーンで聞いてくる。

「そーだよぉ。たろうが全部したのぉ。たろうメイクの先生だからねぇ」
 ギャルピースをしながら明るく答える。

「いいなぁ。咲太郎のクラスの子達。ぼくも咲太郎と同じクラスが良かった」
 ぽつんと呟くように言うあゆくん。

 それって……。

 ど――ゆ――こと?

 聞こうと口を開こうとしたら図書館に着いた。

 中に入り勉強スペースに行く。
 まだ朝早いから人もまばらで机も空いてる。
 4人がけの机が空いてたからそこに座ることにした。

 ぼくが右側の椅子に座ったら、あゆくんが隣の椅子に座った。

 (あれ?あゆくん……向かい側に座らないの?)

 あゆくんを見つめてたみたいで、あゆくんが「どうしたの?」と首を傾げて小声で聞いてくる。

「お隣さんだとあゆくん勉強しにくくない?」

 何で隣に座るの?とは聞けなかった。

「うん。ぼくは大丈夫だよ。もしかして咲太郎隣に人がいると集中できないタイプ?」
「たろうは大丈夫」

 そう答えたらあゆくんはそのまま隣の椅子に座った。

 そこからはお互い勉強する道具を取り出して勉強を始める。

「咲太郎わからないとこあったら聞いて。教えられるかわかんないけど」

 そんな風に笑うあゆくん。
 左側にあゆくんがいる。

 それだけで……緊張してる。
 あゆくんの熱を感じられて、普段より集中できない。

 あっ……。肘が触れてる……。

 あゆくんの肘がぼくの腕に触れてる。

 その部分だけが熱を持ったみたいに熱い。
 あゆくんの体温を感じられてそこだけ別物になったみたいなむず痒い感じがする。

 ちらっとあゆくんをみるけど、あゆくんは一生懸命にテキストを読んで問題を考えてる。

 (あゆくん……たろうと体が触れ合ってても嫌じゃ……ないの?)

 聞いたら……終わっちゃう気がする。

 隣にいるのに……ちょっと遠い……。