「ねぇたろう。今の人綺麗だけど可愛らしい人だったね。たろうの知り合い」
あゆくんが教室を出て行った後、ぼくの周りにどんどんクラスメートが寄ってきてあゆくんをことを聞いてくる。
でも、みんなにあゆくんの話はしたくない。そう思って黙って口をつぐむ。
「たろう。普段ならテンション高めに説明してくれるのに今日なんか変じゃん?」
ついにみんなから口々にそう言われ始めた。
「もぉ――内緒なの。教えてあーげないっ」
わざと茶化すような態度と口調で場の雰囲気を変えようとした。
あゆくん……本当に来てくれた。
ぼくに会いに、来てくれた。
ぼく考案のパウンドケーキを食べて美味しいって言ってくれた。
あゆくんの笑顔がみれた。
あゆくんと次いつ話せるかな。会えるかな。
それを想像したら楽しくなる。
(あれ?たろう……どうやって次の約束するの……の?)
あゆくんの連絡先知らない……。
保健室に行けば会える。そう勝手に思い込んでたけど、今日は文化祭でたまたまあゆくん来てたんだった。
(たろう!なにしてんの!たろうのおばかさん!)
あゆくんの連絡先聞かなきゃ!まだ廊下にいるかも?そう思って、教室の外に出てみる。
廊下は学生と来てるお客さんで賑わってる。
その中にあゆくんの姿がないか探すけど……。
あゆくんの姿はもうない……。
後輩って誰か聞いとけば良かった。
途端に後悔が押し寄せる。
もうあゆくんに会えないの?今日で終わり?
それは嫌だ。もっとあゆくんと話したい。
今日で終わりにしたくない。
つよく……そう思った。
あっ……。
保健室。
(あゆくん……)
まだ諦めるの早い。
まだ、行ける。
まだ、会えるかもしれない。
「よ――しみんなぁ。今日の片付けして、明日の準備して早く帰ろぉ――」
そんな風にみんなに声をかけて、大急ぎで片付けをする。
ちらちら時計見ながら、はやく、はやく、片付け終わらせなきゃ。
そう気持ちだけが焦る。
「よ――し!片付け終わった」
「こっちも明日の準備終わったよ」
みんなが口々にそう言う。
これで保健室に行ける。
「たろうは着替えて帰る?どうする?」
みんなは着替えて帰ろうそんな風に話してるけど、ぼくは今ここで着替える時間さえ惜しい。
早く保健室に行かなきゃ。その衝動に駆られてる。
「たろうはいいや。じゃあ帰る」
挨拶もそこそこにカバンを持って教室を飛び出した。
なんだか今日はよく教室を飛び出してる。
走って保健室までいく。
息を整えるのも、ノックするのももどかしくて走ってきたままの勢いで扉を開ける。
「太郎君?どうしたの?」
机に座って何か作業をしてた、ゆーちゃんがびっくりして立ち上がった。
保健室の中をキョロキョロ見渡すけど、ゆーちゃん以外誰もいない。
「ゆーちゃ。あゆくんは?」
「あゆむ?あゆむなら、太郎くんのクラスに行ってから帰ると行ってたけど。来なかった?」
少しだけ……心配そうに眉を細めるゆーちゃん。
「たろうのクラスにはきてくれた。パウンドケーキも食べてくれた」
「そう。よかったね。じゃあそのまま帰ったんじゃないかな」
なんでもない風に話すゆーちゃん。
なんだ……。
帰ったんだ……。
もう会えないんだ……。
そう思ったら心の中で膨らんでた風船が一気に萎んだ。
「太郎くん?どうしたの?」
ぼくがぼーっとしてたのか、ゆーちゃんがぼくの目の前まで来てぼくの目の前で手を振ってる。
「あっ……。なんでもない」
「太郎君ちょっと様子変だよ?あゆむと何かあった?」
「ううん。何もない。ただちょっとあゆ君がスマホを見た時の様子がなんかちょっと気になって……」
ぼくがそれだけ伝えたら、ゆーちゃん深くため息をついた。
「そっか」
ゆーちゃんのその短い言葉がなんだか引っかかる。
「あゆむ、人見知りなのに太郎君と話してる時は楽しそうだったよ」
あゆくんのことを話すゆーちゃんの顔が、上手く言葉にできないけど引っかかる。
「あゆくん人見知り?」
えっ?そうなの?あんなに最初からたくさん話してくれたのに?そう思ってびっくりする。
「あゆむは初対面の人とはあんまり話さないよ。でも太郎君とは自然に話せてたから。今日会ったのが君であゆむはよかった」
あっ……ゆーちゃんの顔が、先生の顔になってる。
なんだかこの先は触れちゃいけない。そんな気がした。
ゆーちゃんがまとう空気がちょっとだけ重たい。
「ほら。太郎君明日も文化祭あるし、今日は帰って早く休みなさい。また明日」
話はここで終わり。そう線引きをされた……そんな気がした。
「はぁ――い。また明日もギャルたろうするねぇ」
ぼくもわざと明るくしてゆーちゃんにバイバイと手を振って保健室を後にした。
ゆーちゃんのあの雰囲気……。
あゆくん……。
なんだろ……。気になるけど、聞けなかった……。
