好きまでの距離


「おはよ——」

 教室に入りみんなに手を振りながら自分の席に座る。

 そのままカバンから荷物を取り出す。

 チリン。
 カバンから鳴る鈴の音ににっこりする。

 (あゆくん今日も頑張ろうねぇ)


「たろう聞いて——」

 お友達がぼくの席の前の椅子にガッと座ってくる。

 目線をお友達に向けながら首を傾げる。

「朝から怒ってるねぇ。ど——したのぉ?」
 目の前にはぷくっと頬をふくさせて不満顔の友達。

「昨日彼氏と喧嘩したの!聞いてよ!」

 友達は、言葉が止まらないようでドンドン話し始める。
 うんうん。と頷きながら聞くぼく。

 (あゆくんとたろう喧嘩したことないなぁ)

「返事返してくれないの!忙しいとか言って」

 (あゆくんは、先に今から忙しいから返事遅れるとか返せないってきちんと伝えてくれもん)

「それにね!私より友達と遊ぶの優先するの!」

 (たろう達は、お友達と約束入ったらきちんと伝えるしお友達も大切だから優先する時もあるって2人で話してるもんなぁ)

 (あっ、でもたろうはあゆくんが1番だからあゆくんとの約束入ってたらお友達と約束入れないもんなぁ)

 (そういえば……あゆくんからもお友達と約束入ったからごめん。なんて連絡もらったことないかもぉ)


「ねぇ!たろう聞いてる?」
 友達の話を聞きながら頭の中はあゆくんのことでいっぱい。

「うん。聞いてるよ。それは悲しいし怒るの無理ないよ」
 頷きながらきちんと伝える。

「だよね!そしたらさ、お前は束縛しすぎとかいうの!ひどくない?」

(あゆくんがたろうのこと束縛!?きゃぁぁ——すっっごい最高かもぉ)

 お友達の言葉を聞きながらみるみるうちに緩みそうになる頬。

 (あっ、いけない。今はこの顔ダメ。我慢)

 シャキンとした顔に戻す。

「うん。それはひどい。怒るのも無理ないよ」
「だよね!」

「うん。だってそれだけ彼氏さんのことが好きってことだもんねぇ」
 にまにましてそう伝えてら、真っ赤になる友達。

 机に視点を落として恥ずかしそうな顔になる。

「……うん。……そう。好きだから寂しいの」
 騒がしい教室に言葉がポツリと落ちた。

「うん。怒るよりも先に好きだから寂しいって伝えてみたらぁ?」
 ぼくはゆっくりとそう伝えてみる。

 パッと顔をあげる友達。

「いいのかな?そんなの伝えて?」
 不安そうな顔でぼくをみる。

「いいよぉ。だって好きなんだもん。たろうはいっ——つも伝えてるよぉ」
 一旦言葉を切って友達の目をしっかりみる。

「伝えないで後悔するよりも、きちんと伝えた方がいいよ?」
 そっと背中を押すようにそう話した。


 しばらく沈黙が広がる。


 黙ったままの友達。



「うん。たろうありがとう!そうだね。きちんと言ってみる!」
 顔をあげた時にはにっこり笑顔になってた。

「うん。伝えてみてぇ。もしもそれでまた彼氏さんが変なこと言ったらたろうがとっちめてあげるから安心してねぇ」

 ガッツポーズしながらそう言ったら友達は笑いながら「ありがとう」そう言って自分の席に戻って行った。


 ちらっと時計をみたら、先生が来るまであと5分。
 急いでカバンからスマホを取り出す。


 あゆくんのアイコンを開く。
 ネコがぼくに笑いかけてる。


『あゆく——ん!ね!たろうを束縛してみるぅ?』

 そう送ってみた。

 (あゆくんなんて返事くれるかな?)

 ワクワクとソワソワが入り混じって少し落ち着かないぼく。

『朝からどうしたの?笑』

 画面が光ってあゆくんからのメッセージを浮かびあがらせる。

『束縛?咲太郎されたいの?笑』

 あゆくんからの返事に急いで指を動かす。

『うんっ!たろうされてみたい!お友達がね、彼氏さんに束縛しすぎって言われたんだって!』
『なるほど。笑』

 あゆくんもまだ授業前なんだ。
 すぐに返事が返ってくる。

『咲太郎を束縛したらぼくもその分束縛されそうだね。笑』

 (たろうがあゆくんを?きゃぁぁあ——素敵ぃ——)

『ぴゃぁぁぁぁ——!』
『咲太郎?笑。喜んでない?笑』

『なんでわかったの?たろう、あゆくんに束縛されるの想像して素敵って思った!』
『咲太郎らしいね。笑』

 そのまますぐにスマホが光る。

『束縛なんてしなくてもぼくの隣は咲太郎で、咲太郎の隣はぼくだけ。でしょ?』

 あゆくんからの言葉にスマホを抱きしめてる。

 スマホの温かさがあゆくんを想像する。
 少しだけスマホを抱きしめて余韻に浸る。
 
『たろう!今からあゆくんに会いたいですっ!』
『授業受けなきゃダメだよ』

『やだぁ。お胸さんがときめきました。授業受けなくないと言ってます』
『真面目に受けないなら、今日会おうと思ったけどやめようかな』

 
 (えっ!?今日会えるの?)

 嬉しさで胸が弾む。
 
『お胸さん落ち着きました!授業受けるって言ってます!』
『もう。笑。じゃあ放課後。授業頑張ってね』

 授業が始まるチャイムも鳴った。

 慌てて、一限の教科書を机に出す。

 (やったぁ——あゆくんに会える)

 思わぬ幸運に朝からぼくに相談してくれた友達に感謝する。


 (たろう、あゆくんがそばにいるとパワー10000倍出ちゃう)