好きまでの距離


「あゆくん、今日はお洋服たくさん買ったねぇ」

 右手には紙袋、左手には少しだけ触れる咲太郎の手。
 咲太郎も春休みに入り2人で買い物に来た。

「うん。咲太郎がコーディネートしてくれた服たち着るの楽しみだよ」

 
 一昨日電話で話してた時。

『咲太郎にお願いがあるんだ』

 少しだけ緊張しながら切り出してみた。

 (咲太郎なんて答えるかな)

 いつもより胸の鼓動が早い。

『ん?なぁーにぃ?』
『あのね……新学期から着ていく服を買いに行きたいんだ』

『いいねぇ。たろうも少し買い足したいなぁと思ってたの。一緒に行く?』

 咲太郎は、なんてこない感じでぼくを誘ってくれた。


 (一緒に服買いに行くの嫌じゃないんだ)

 咲太郎の言葉に少しだけ落ち着く鼓動。

 (もうちょっと勇気を出してみよう)

 電話を持つ手に少しだけ力が入る。

『うん。行きたい。でね、よければぼくの服コーディネートして欲しいんだ』

 一気に話してみた。

『……。』

 電話口が沈黙してる。

 (あっ、間違えた?咲太郎やっぱり嫌?重い)

 沈黙にぼくに心が少しだけ重くなる。

『ぴゃぁぁぁぁ——!きゃあぁぁぉ——!いいのぉ?』

 耳元から聞こえる咲太郎の弾んだ声。

 (あっ……いやじゃない?)

 胸に手を当てる。

『いいの?あゆくん?たろうが選んでいいの?たろうの色に染めちゃうよぉ?』
『なにそれ。笑』

 咲太郎らしい表現に、緊張の糸がほどけてふっと笑う。

『きゃー!だってたろうのコーディネート着てくれるんでしょう?嬉しい!任せて!たろう絶対あゆくんに似合う服選ぶ!』

 そう言って喜んでくれた。

 (ぼく、本当にもう1人じゃない)

 そう思って電話を切った。


 その約束の日が今日で、咲太郎が色々コーディネートしてくれた服を買った。

 咲太郎は、ぼくの好みとぼくに似合う服を色々提案してくれた。
 よくぼくのことを見てくれてるのがわかる。

「でも……あゆくんこんなに沢山お洋服買って大丈夫ぅ?お金さん足りる?たろう張り切りすぎちゃった?」
 少しだけ心配そうな顔でぼくを覗き込んでくる咲太郎。

 咲太郎に心配させたくなくて、すぐに首を横に振る。

「大丈夫だよ。ぼくバイトしてるんだから!貯金もしてあるから咲太郎心配しないで」

 
 (咲太郎と出会うまでバイト代は貯金する日々だった)

 ぼくの顔をみて咲太郎は安心したように笑った。


「あれ?あゆむ?」

 右側からぼくを呼ぶ声が聞こえた。

 横を見て……。
 ぼくの足は止まった。

「そらくん」

 口からこぼれ落ちる言葉。

 (この名前まだ呼ぶことあったんだ)


 そらくんも立ち止まって、ぼくの方に歩いてくる。

 隣の咲太郎が少しだけ息を呑んだ音が聞こえる。

 ぼくは咄嗟に咲太郎の手を握った。

「久しぶり」
 片手をあげて、まるで昨日会ったかのようなテンションで話しかけてくるそらくん。

「うん。久しぶり。元気だった?」
「おぅ。元気!これから後輩とツーリング行って飲み会」
「ツーリング?すごいね」
「おぉ。最近始めたんだよ」

 咲太郎がぼくの手をぎゅっと握り返してきた。

 (咲太郎に心配させたくない)

「そらくん元気そうで良かった。じゃあまた」
 そう言って話を切り上げようとした。

 そらくんは、じっと黙ってぼくのことを見てくる。

「そらくん?」
 何も言わないそらくんに声をかける。

「あっ。あぁ。なんかあゆむ変わったな。前より明るくなった?」

 疑問系のそらくん。
 この前同級生に言われた言葉と同じことをそらくんにも言われた。

「そうかも!最近みんなにそう言われるんだ」

 そらくんの前でこんなに明るかったことはないもんね。

「そっか。なんか雰囲気も変わったかも」
 そらくんが、少しだけぼくのことを眩しそうな顔でみてる……気がする。

「そう?ありがとう」
「うん。今のあゆむいいよ」

 そらくんが静かにそっと、そう呟いた。

「ありがとう。ぼくも今のぼく好きだよ」

 そらくんの目を見てはっきり伝えた。
 ぼくをみて少しだけ目を見張るそらくん。

「うん。あゆむ変わったわ。もう前のあゆむじゃない」
 1人頷いながらそう呟くそらくん。

「そらくんからそう見えるんなら嬉しいな」
 そう言った後に一旦口を閉じる。


 (多分もう会うことないから)
 (きちんとお礼伝えておこう)


「そらくん」
 そらくんの名前を呼びかけた。

「そらくんのおかげなこと沢山あったよ。高校時代ありがとう」
 ぼくなりのけじめの気持ちをそらくんに伝えた。

 少しだけ沈黙が落ちる。

「あぁ。俺も楽しかったよ。高校時代サンキュー!じゃあ元気で」
「うん。そらくんも」

 そう言ってそらくんは来た時と同じように片手をあげて、そのまままっすぐ前に歩き始めた。

 (ありがとう、そらくん)


 左手の温もりがあったからぼくはきちんと気持ちを伝えられた。

 そのまま咲太郎の顔を見る。
 少しだけ不安そうなどうしていいかわからない顔してる。


「咲太郎。ごめんね。急にびっくりしたよね」

 黙って首を振る咲太郎。

 口を開こうとしてまた閉じる咲太郎。

 (きっと聞きたいことあるはずなのに、聞いていいか悩んでるんだろうな)


 咲太郎の迷いが伝わる。

 左手にぎゅっと力を込める。
 咲太郎がぼくの顔を見てくれた。

「咲太郎の隣がぼくの居場所だよ?違う?」

 そう咲太郎に伝える。

 しゅんとしてた咲太郎の顔がみるみるうちに輝き出す。

「そーだよぉ。たろうの隣はず——っとあゆくんなのぉ。絶対離さないのぉ」

 繋いだ手をぶんぶんと振る咲太郎。

 チリン。チリン。

 いつもの鈴の音が聞こえる。

「うん。そうだよ。ぼくの隣はずっと咲太郎だよ」
「うんっ!たろうは絶対あゆくんを離しませんっ!」

 ぼくの目を見てはっきり伝えてくれる咲太郎。

「ぼくも咲太郎の隣を離れないよ」

 頷きながらぼくもそう答える。

 嬉しそうに笑った後に、咲太郎は迷いながら口を開いた。

「あゆくん……今の人のこと聞いていいの?」

 (きっとずっとこれを言いたかったはずなのに)
 (可愛い、咲太郎)

 自信持って頷くぼく。

「もちろん。咲太郎に隠し事はなにもないよ」

「たろうも!たろうもないから聞きたいことがなぁーんでも聞いてねぇ」
「ふふっ。咲太郎てば」

 咲太郎の明るさにすぐ笑みが溢れる。

「じゃあちょっとお店入ってご飯食べながら話そっか」
 ぼくがそう提案する。

「たろう、お腹すいたぁー。そうしよぉ——!あっ、でもねぇ」
 少しだけ言葉を切る咲太郎。

「あゆくんは、もうたろうのものだから、無理に話さなくていいよぉ——。たろうとあゆくんがずっ——と一緒なのはもう決まってるからぁ」

 そんな風に言ってぼくに笑いかけてくれる咲太郎。

 (咲太郎らしいな)

「なんか怖い言葉聞こえた気がするよ?笑」
「ん?そう?」

 お互い顔見せ見合わせて笑う。

「無理はしないし、話せないこと何もないから心配しなくていいよ」

 咲太郎にそう伝えて、2人でお店に向かって歩き始めた。

 (そらくん、これまでありがとう)

 (そらくんのおかげでぼく1番の相手に出会えた)