好きまでの距離


「なんだか、あゆむ前より雰囲気が柔らかくなったね」

 4月からの授業説明のため大学に行ったら友達からそう言われた。

「そうかな?」
 首を傾げる。

「うん。なんか話しかけやすくなった。前はなんかこう、ちょっとピリッとしてた感じ」

 言いにくそうに、でもはっきりという同級生。
 その言葉を聞いてぼくも笑う。

「うん。でもそうかも」

 (きっと咲太郎のおかげだ)

 咲太郎のことを頭に浮かべる。


「おっ、なんか今いい顔してる。あゆむ今恋人いるの?」
 目を輝かせて聞いてくる友達。

「うん。いる。大切な人」
 少しだけ弾んだ声が出た。
 
 その声にぼく自身がびっくりする。
 目を見張って驚く友達。

「あゆむ。今の方がいいよ。いい顔してる」
 そう言って笑ってくれた。

 隣で話を聞いてた別の友達が身を乗り出してきた。

「俺もその話聞きたい。あゆむ確かに前よりやわらなくなったし、スマホ見て笑う回数増えてたから気になってたんだよな」
 そう言ってくる。

 2人とも「だよな。変わったよな」そう言って顔を見合わせて頷いてる。


 咲太郎のことを褒められてるような、そんな気がして嬉しい。
「で。あゆむの恋人ってどんな人?これまでそんな話してくれたことないじゃん」


 これまではそんな話は避けてた。

 話せることが何もなかったから。
 だから、聞かれても曖昧に笑って誤魔化してた。

 でも。
 今は。

 (咲太郎のこと話したい)

 自然とそう思えた。

「すっごい元気だよ。それに明るいんだ」
 そう伝えた。

「へぇ。だからあゆむが明るくなって話しやすく感じるのかな」
「もしかして、カバンの鈴はおそろい?」

 ぼくのカバンを指さして聞いてくる。

「あっ、うん。そうだよ。初詣で買ったんだ」

 鈴をそっと手で握る。

 冷たい鈴の感覚。
 握ると頭の中に『あゆく——ん!』とぼくの名前を呼ぶ咲太郎の声が響いた。


 (ふふっ。どこにいても咲太郎がいる)

 心の中でおかしくなって笑う。

「いい恋人なんだな。鈴を握った時のあゆむの顔いいよ」
 友達がそう言ってくれた。

「あっ、もしかしてあゆむのアイコンのネコはその恋人?」
 もう1人の友達がそう言ってくる。

「うん。よく分かったね」
 ちょっと驚くぼく。


「いや……あの、アイコン変わった時意外だなって思ったんだ」
 少し言いにくそうにぼくのことを見てくる友達。

 ぼくはよく意味がわからなくて首を傾げた。

「なんというか……あゆむらしくないなって。最初は空の写真だったろ?それから初期に戻って、その後あのネコだから……」
「あっ、わかる。あの時はあゆむらしくない可愛いネコだなって思った」

 もう1人の友達も同意する。

「でも、今はわかる。今のあゆむの雰囲気でてる」
 2人とも声を揃えてそう言った。

 3人で顔を見合わせて笑う。

「2人とも声揃えて同じことを言うなんて」
「だよな」
「思ってること同じだったな」

 ひとしきり笑った。

「うん。あゆむ今の方がいいよ」
 2人ともそう言ってくれる。

「うん。ありがとう。ぼくも今のぼく好きだよ」
 静かにそう言った。


「また新学期、恋人のこと聞かせてくれよ」
 そう言って2人は講義室から出て行った。


 帰ろうとしてたけど、カバンからスマホを取り出す。
 咲太郎のアイコンを呼び出す。


『咲太郎、今日は会える?』

 講義室の時計をみる。
 この時間ならお昼休みかな?スマホ見るかな?

『あゆくんからデートのお誘い?きゃ——!嬉しい——!』
『あゆくん今日学校で説明会じゃないの?たろう会えるの?』

 咲太郎らしい文面に思わず笑みが溢れる。

『説明会終わったよ。ぼくが今日校門まで行く。何時に終わる?』

『それがねぇ——!今日は午後から先生たちの研修会でないのぉ』
『たろうもあゆくんに連絡しようと思ってたのぉ。きゃ——!繋がってるねぇ』

 ポンポンと送られてくるメール。
 どれもが咲太郎らしい。


 駅で待ち合わせすることを決めてスマホをカバンに入れた。
 時計を見たら少し走れば予定の電車より一本早めに乗れそうだ。

 (咲太郎を待って驚かせよう)

 そう決めてカバンを肩にかけて走り出した。

 カバンが揺れるとチリン、チリン。と鳴る。
 咲太郎に近づいてる音に聞こえる。

 予定より一本早めの電車に乗れてそのまま駅の改札を出る。

「あれ?咲太郎?」

 ぼくの方が早いと思ったのに、咲太郎はもう着いてた。

 ぼくの姿を見つけて両手をブンブン振ってる咲太郎。

 咲太郎らしくて、その姿を見るだけでもう楽しい。

 (咲太郎と一緒にいると笑顔じゃない日が来ない)

 走って咲太郎の元に行く。

「ごめんね。待たせたね」
「ううん。たろうが早く会いたくて走ったの」

「ぼくも。咲太郎に早く会いたくて走って電車一本早いので乗ったんだ」
 自分の体を抱きしめる咲太郎。

「ぴやぁぁぁぁ——!嬉しい——!」

 咲太郎の姿にぼくも、もっと笑顔になる。

 (今から友達の話したら咲太郎どうなるかな)

 その時の様子を想像するだけでワクワクする。

「あのね。今日嬉しいことがあったんだ」
「そーなのぉ?」

 目をぱちぱちしてぼくの顔を見てくれる咲太郎。

「うん。だからその話をしたくて」
「きゃ——!嬉しいことをたろうに1番に話してくれるのぉ?」

「うん。咲太郎に話したかったんだ。お店入って話す?」
 咲太郎にそう聞いてみる。

 咲太郎は、んー。とほっぺに手をつけて悩んでる。

 パッと顔をあげてぼくのことをみる。

 そして、にんまりと笑った。
「お店に行きながらお話しきくぅ——!そしたらあゆくんとくっついていられるもん」

 (本当可愛い)

「わかった。じゃあ咲太郎が好きなパフェのお店?クレープ?ハンバーグ?」
「ん——とねぇ。今日はあゆくんのいいお話聞くからあゆくんの好きな抹茶のお店!」

 咲太郎は、そう言ってぼくの手を握って歩き始めた。

(咲太郎にどれから話そう)
(アイコン?それとも雰囲気?)
(それとも……恋人いるよって話?)

 咲太郎の温もりを左手に感じながら口を開いた。