好きまでの距離


 咲太郎とのやりとりを終えてスマホを机に置く。

 机の左側に2つのラッピングされた箱。
 それをそっと手に取り持ち上げる。

 咲太郎はバレンタインきっと何か用意してくれてるんだろうな。
 さっきの咲太郎のメールを思い出して笑う。

 (あのテンションは間違いなく何か計画してくれてる)

 箱をそっと撫でてみる。
 そのまま指を止めた。
 
 これを買った日のことを思い出す。


 アルバイトで家庭教師をしてる。
「先生はバレンタインは恋人にあげるの?」

 授業が終わり、帰る準備をしてる時にそう聞かれた。

「うん。あげようとは思ってるよ」
 その子は笑った。

「先生。恋人がいることは否定しないんだ」
「うん。大切な人だから隠したりはしないよ」

 中学生だからって誤魔化すことなく、きちんと伝える。

「先生の恋人いいね。で!なにあげるの?」
 わくわくする。そう顔に書いてある声で聞かれる。

「悩んでるんだよね。ぼく料理はできないし、お店見てみたけど女の人がたくさんいて……」
「あー女の圧に負けたんだねぇ」

 そんな風に言って笑われた。

「先生!いいお店教えてあげる!ここのデパ地下は穴場だよ」

 スマホをパパッと操作して、画面を見せてくれる。
 その画面を覗き込む。

「へぇ。ここは行ったことないや」
「ここはね。いろんな種類があるしおすすめ!何より人と被らないよ」

 そう言ってピースサインをしてくれた。

 帰り道、教えてもらった場所に行ってみようと進行方向の向きを変えた。

 言われた特設会場は、この前行ったところとは違いそこまで人が多くない。
 そして女性だけじゃない。

 安心してゆっくりと1つずつをみて回る。

 咲太郎これ好きかな?
 箱を手に取る。

『あゆくん!一緒にたべよぉ』
 うん。これはそう言いそうだな。

『あゆくん!これはおしゃれだねぇ』
 これはそう言いそうだな。

 見れば見るほど、迷い始める。

 (咲太郎、全部喜びそう)

 悩み始めたその時、1つのコーナーが目に飛び込んできた。


 動物をモチーフにした焼き菓子コーナーがあった。

 カバンの中に入ってるイヌのコインケースが頭に浮かんだ。
 引き寄せられるようにその場所に足が進む。

 いろんな動物の焼き菓子が置いてある。
 どれも美味しそう。

 (あっ、これ)

 1つの箱を手に取った。

 ネコの形のフィナンシェ。
 説明書きには、プレーン味と書いてある。

 そして。

 その隣にはイヌの形のフィナンシェ。
 これにはチョコレート味と書いてある。

 (これにしよう)

 ネコの箱とイヌの箱両方とも手に取った。

 咲太郎はチョコ味が好きだからピッタリ。
 手に取った2つの箱に視線を向ける。

 (うん。これぼくたちらしい)

 そのままレジに向かった。

 プレゼント用に包装をお願いして、リボンはまた青と赤を付けてもらった。

 紙袋に入れてもらい、品物を受け取る。


 帰り道、咲太郎のことを思い浮かべる。

 咲太郎はぼくがバレンタイン用意するなんて思うのかな。
 どうなんだろう。
 それを考えるだけで、もう楽しい。

 でもきっと。

 (ぴやぁぉぁぁ——!)

 これは絶対言うんだろうな。

 咲太郎の喜びの言葉。
 うん。
 多分これは間違いない。

 今回はその後にどうするかな?
 箱を抱きしめるかな?それとも自分を抱きしめるかな?

 咲太郎の様子を色々想像してみる。

 カバンに入れてるスマホが鳴った。
 スマホを取り出そうとカバンを開けた。

 チリン。チリン。

 なんだか咲太郎が喜んでる。
 そんな音に聞こえる。

 スマホを取り出し画面をみる。
 咲太郎からだ。

『あゆく——ん!バイトさん終わったぁ——?』
 今日も元気いっぱいの咲太郎からのメール。

 咲太郎からのメールはいつもぼくに元気をくれる。

『うん。終わって今帰ってるよ』
 それだけ打ち込む。

『おつかれさまぁぁぁぁ——!帰ったらお話しできる?』

 返事を打とうとスマホを操作しようとした。
 そしたらまたスマホが鳴った。

『あっ、でもご飯とお風呂終わってからでいいからねぇーたろう待ってる!』
 
 咲太郎らしい気遣いに、画面を読んで笑みが溢れる。
 

『早く咲太郎の声聞きたいから、急ぐね』
『ぴやぁぁぁぁ——!たろう嬉しいー!たろうも!』
 
 咲太郎らしい返事に帰る足が軽くなり、少しだけ速度が上がる。

 家が見えてきた。

 早く帰ろうと、少しだけ走る。
 カサカサと手に持ってる紙袋が揺れる。

 その音を聞きながら家に急ぐ。

 (早く14日にならないかな)