好きまでの距離


 机に座って勉強してたら、スマホが一瞬光った気がした。

 ちらっと目の前に置いてある時計を見る。
 うん。少しぐらい休憩してもいい頃かな。

 ペンを置いて、体をぐーっと伸びす。

 そのまま左手でスマホを掴んだ。

 (咲太郎だ)
 画面には咲太郎のアイコン。

 ぼくが描いたネコが笑ってるように見える。
 勉強で疲れた体が一瞬で癒やされていく。


『あゆくん!お勉強頑張ってねぇー!たろうも今からするよぉ』
 咲太郎らしい文面にふっ。と笑みが溢れる。

そのまま指を動かす。

『ありがとう。咲太郎も頑張ってね』
 咲太郎の邪魔にならないようにそれだけ返す。


『ぴゃぁぁ――!あゆくん!きゃ――!すごいタイミングで連絡取れてるね』
 咲太郎の表情と声が頭の中に浮かんでくる。

 (きっと頬に両手をつけて喜んでるんだろうな)

 咲太郎らしい動作。
 しんっとした部屋にぼくの笑い声が響く。

『明日のテストが終われば、落ち着くからね』
『うんっ!あゆくんが頑張ってるからたろうも頑張る!』

 咲太郎の文面は咲太郎らしさで溢れてて、読んでるだけで元気になれる。
 

『咲太郎も頑張れ』
『頑張るよぉ――!明後日にはあゆくんに会えるもんね――!』

『まだやくそくしてないよ?笑』
『ぎゃ――!あゆくん冷たいよぉー笑』

 咲太郎のえーんとしてある絵文字に思わず笑顔になる。

 可愛い咲太郎。

 自分の気持ちに素直で、ぼくまでそうなれる。
 

『うそだよ。笑 明後日駅でね。じゃあまた明日』
『楽しみ――!たろうも頑張ってくるね――!おやすみ』

 少しだけやり取りをした。
 お互いテスト前なので、普段とは違いさっと切り上げた。

 スマホを机に戻す。
 ちらっとカレンダーをみる。

 (あの文化祭から、ぼく変わったな)

 少し前のことなのに、遠い日のように感じる。

 ノートの隣に目を落とす。
 咲太郎からクリスマスにもらった手紙。

 ぼくの宝物。
 指でそっと撫でてみた。

 (あゆくん!だぁぁ――いすき)

 手紙からも咲太郎の声が聞こえる気がする。
 咲太郎と出会ってから本当、見える世界が変わった。


 少し前のぼくは、スマホを手放せなかった。
 スマホを握りしめる日々。
 
 いつ来るか分からない連絡。
 返事を待つ毎日。

 一つの約束に縋る日々。
 約束しても、またキャンセルされる、その恐怖にも怯えてた。


 どんどん心がすり減ってた。
 それでも……。
 1人よりはいい。
 そうやって自分に言い聞かせてきてた。

 
 今は違う。
 1人じゃない。

 約束しなくても、自然と会う話になる。
 会えなくても、自然とやり取りが続いてる。

 スマホを確認しなくても、画面が光ったら触ればいい。
 あんなに1人になることに怯えてた日々は終わった。

 今は……1人でも怖くない。
 そう思えるようになった。


 机の左側にかけてあるカバンを手に取る。
 初詣に行った時に2人で買ったお守り。

 それをそっと手に取り、手で包み込む。

 1人でいても、1人じゃない。
 ここに咲太郎を感じる。


 (そ――だよぉ。たろうはず――っとあゆくんと一緒)


 咲太郎がそう言ってる姿が浮かぶ。

 うん。
 なんかいい。

 咲太郎が隣にいなくても、ずっと一緒にいるみたい。

 あんなに1人が怖かったのに、今は1人も楽しい。

 (ほんと……咲太郎のおかげ)

 咲太郎のことを考えると、胸の中にほわっと明るくなり、じわっと温かくなる。
 この気持ちを教えてくれたのも咲太郎。

 (咲太郎と出会って、たくさんの初めてを知れてる)

 ノートにちらっと目をやる。
 この教科が終わればテストも終わる。

 あと少し。
 

 明後日、咲太郎に会ってを何しようかな。
 まずは、テストの出来栄えの話をしよう。

 今の所今回のテストは手応えがある。
 きっとその話をしたら咲太郎は喜んでくれるんだろうな。

 (ぴやぁぁ――!あゆくんすごいねぇ――!)
 咲太郎の喜ぶ姿がまた浮かんでくる。
 
 そうだ。
 咲太郎と一緒に勉強してるからだよ。咲太郎のおかげでもあるよ。
 そうぼくが言ったら咲太郎どんな顔するかな。
 その時の咲太郎を想像するだけで楽しい。
 
 それから、咲太郎の好きなものを食べに行こう。

 咲太郎だったらきっと、ぼくが食べたいもの!と言うんだろうな。
 でも、今回は咲太郎が大好きなアイスにしよう。

 寒いよと心配そうな顔する咲太郎の顔が浮かび上がる。
 ぼくが、寒くなったら咲太郎が温めてね。
 そう言ってる姿も浮かぶ。

 咲太郎なら、そのあと手を繋ぐかな?それとも一回ハグしてくれるのかな?
 想像だけでもう楽しい。

 色んな表情の咲太郎を頭の中で浮かんでは消えていく。

 (どの咲太郎が見れるかな)

 ワクワクしてきた。
 よし、明後日はそうしよう。
 早く咲太郎に会いたいな。

 ちらっとまた時計をみた。
 思ったより時間過ぎてた。


 カバンをまた隣に戻し、姿勢をただしてペンをにぎる。
 まずは、明日のテストを頑張ろう。

 (そのあと……咲太郎に会える)

 そう思ったらいつも以上に文字を書く手に力が入った。