好きまでの距離


 いつも通り図書館から駅までの帰り道、いつものようにあゆくんと肩を並べて歩く。

「あゆくん明日からおじいちゃんのお家だねぇ」
「うん。帰ってくるの3日だから、次の日初詣行こうね」
「うんっ!楽しみにしてる。楽しんできてねぇ」

 あゆくんは明日から家族でおじいちゃんのお家にいく。
 
「咲太郎。ぼく年末年始は毎年家族で祖父の家に行くんだ」
 少しだけ視線を下げて言いにくそうに口を開いたあゆくん。

「おじいちゃんの家!いいねぇー楽しんできてね」
「咲太郎とお正月一緒にすごそうって約束したのにごめん」

 ぼくに向かってそう謝るあゆくん。
 あゆくんの手をそっと握る。

「あゆくん謝ることじゃないよ。おじいちゃんの家でみんなで過ごすの大切だよ。たろうのことは何も気にしないで」

 あゆくんが顔を上げてぼくのことを見てくれた。

「それにね。あゆくんとたろうはこれからず――っと一緒なんだから、今はおじいちゃんにあゆくんをゆずるのぉ」

 そう言って「へへっ」と笑った。
 あゆくんほっとしたような顔をして笑い出した。

「ふふっ。咲太郎がゆずるの?」
「そーだよぉ。たろうはこれからたぁ――くさんあゆくんと一緒だからゆずるの」

 あゆくんの顔を見てニッとする。

「だからね。楽しんできて。そしてたくさんお話し聞かせてね」
 そう言ったらあゆくんは「わかった」そう言って頷いた。



『咲太郎今着いたよ』

 大掃除をしてたらあゆくんからメールが来た。

『あゆくんおつかれさま。おじいちゃんは元気?』
『うん。とっても元気だよ』

 そんないつもと変わらないやり取りをしてた。

 大晦日の日は朝から、ぼくはママとおせちの準備をしたりお蕎麦の準備をしたりして過ごした。


『あゆくん!たろうが作ったおせちだよぉ』
 あゆくんに写真を送る。

『すごい!美味しそう!ぼくはこんな感じだよ』
 あゆくんからもおせちの写真が送られてくる。

 あゆくんのお家のおせちはお重に入って三段重ねになってる。
 違うお家のおせちを見るのも楽しい。
 
『あゆくんのお家のも美味しそう』
『うん。この黒豆はおじいちゃん直伝。ぼくまだ作れないけど、作れるように教わってる』

 写真からもわかる艶々でふっくら炊けてる黒豆。
 おじいちゃんとあゆくんが並んで作った姿を想像してみる。

 (なんか……いいな)

『わぁーいいなぁ。たろうも食べたい』
『うん。咲太郎に食べて欲しくてメモ書いてる』


 あゆくんからの返事に思わず、画面を抱きしめる。

 (あゆくんの気持ちだぁ……)

 そっと画面をなぞる。

『今ねぇ年越しそばを食べて歌合戦見てるよぉ』
 お蕎麦の写真を送る。

『ぼくも今食べてる。お刺身もあるよ』
 あゆくんからも送られてくる。

 お蕎麦と大皿に盛り付けされてるお刺身。
 ぼくの家とあゆくんの家が、少しだけ重なり合った気がした。
 

『お刺身も美味しそう!たろうは今からアイス食べるの』
『アイスいいね。ぼくも食べようかな。今から歌合戦ぼくも見るよ』

『ほら!このアイス食べるのぉ』
 また写真を送る。

『あっ!それぼくも今日買ったほら!』
 あゆくんからも写真が送られてくる。


 そんなやり取りを0時になるまでしてた。

『あゆくん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』
『咲太郎。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』

 お互い同時にメールを送り合った。

『あゆくん!同時にメールしてる』
『ほんとだね!ぼくたちすごいね』

 遠くから除夜の鐘がかすかに聴こえる。


『咲太郎。なんだかこうしてたら一緒にいなくても、一緒にいるみたいな気持ちになるね』
 あゆくんからそう送られてきた。

『うん!あゆくんとたろうは顔を合わせてない時も繋がってるからねぇ――!たろうが離さないもん』
『咲太郎から捕まったら怖いね。笑』

『そーだよぉ。笑』
『咲太郎。ありがとう。いつか、一緒におじいちゃんの家で年越ししたいな』

 画面を持ってる手が微かに震える。

 (あゆくん……こんな嬉しいこと言ってくれてる)

『たろうも!たろうも!過ごしたい!』
 震える指を押さえながらそう打つのが精一杯だった。


 窓に近づいた。
 真っ白に曇った窓。

 少しだけ開ける。

 冷たい風がぼくの頬を撫でる。
 熱くなった頬には今はその温度が心地よかった。