好きまでの距離


 大学からの帰り道、スマホを取り出し咲太郎に連絡をする。

『今日の授業終わって今から帰るよ。咲太郎は授業終わった?』

 駅で待ち合わせて、ちょっとでも会えるかも。
 そんなことを思いながら歩みを進める。

 ポケットに入れてたスマホが震えた。

『あゆくんお勉強おつかれさまぁ――。たろうは今ねぇゆーちゃんとお話してるよ』


 咲太郎らしいメールの画面にふっと笑顔になる。

 でも……。


 画面をじっと眺めてしまう。



 まただ……。

 
 咲太郎は、よく先生のところにいる。
 昨日も咲太郎と帰ってから電話してた時、先生に新作のネイルを見せたと言った。
 

 咲太郎が弾んだ声で、「可愛いピンクのうさぎちゃんにしたよぉ。あゆくんにも早く見てほしいな」と言ってくれた。

「ぼくより先に先生が見てるのずるいなぁ。笑」

 言葉が先に口から出てた。

 あの時は、ぼくの口からそんな言葉が飛び出してきたことに驚いてた。

 咲太郎は、気にしてないようで「待っててねぇ。あゆくんをイメージしたうさぎさんなんだよ」と言ってくれ、すぐに次の話に移った。


 電話切ったあと、胸の奥がザワザワしてた。


 また今日も同じように胸の奥がざわついてる。

 
 胸のモヤモヤを抱えながらも返事を打つ。


『ぼくは、15分後の電車に乗れそうだよ。咲太郎駅で待ち合わせする?』

 指で画面をなぞりながら、打っては消すを繰り返しながらも……その文章を打った。


 先生と話してるの邪魔したかな……。
 頭の中にふっと浮かんだ。


『えぇ――!いいのぉ!?嬉しい――!ぴゃぁぁ――!あゆくんに会えるのぉ。今からすぐ行くね』

 返事はすぐにきた。
 文章を読んでるけど、咲太郎の表情も声も想像できる。

 画面をみてホッと息を吐く。

 ぼくは少しだけ緊張してたみたいだ。


 
 (先生とまだ話してたいって……言われたらどうしよう。そんな風に考えちゃった)


 駅に着いて、電車に乗り込む。

 手すりに捕まり流れて行く景色をぼんやりと眺める。


 ぼく……。

 先生にまで嫉妬してるのかな……。


 そう思ったら自分がおかしくなる。


 窓に映る真剣な顔をしてるぼく。

 あまりの真剣な顔に……
 思わず笑ってしまった。


 ぼく…なにしてるんだろ。


 そして……。
 ストンと胸になにかが落ちてきた。


 
 (そっか……。これが嫉妬って気持ちなんだ……)


 今まで知らなかった気持ちに、名前がついた。


 そっと自分の胸に手を当てる。


 (そうなんだ……。これが……)


 咲太郎と出会ってからほんとにたくさんの気持ちを知ることができてる。


 嫉妬ってこんな気持ちなんだ……。

 胸をポンポンと優しく叩く。

 (うん。悪くない)

 咲太郎が好きだから……。
 だから……感じる気持ちなんだ。


 嫉妬。


 言葉の響きだけだと、なんだか怖いような。悪いようなものだと思ってた。

 でも、違う。
 好きだからこそ感じる気持ちなんだ。


 ぼくが、それだけ咲太郎を好きだから生まれる気持ちなんだ。


 そう思ったら、この新しく知った感情が愛おしくなる。


 ポケットに入れてるスマホが震えた。


『あゆくん!たろう駅に着いたよぉぉ――!早く会いたいよ―――!』

 
 明るさいっぱいの咲太郎のメール。
 画面を見て、そっとその文字を指でなぞる。

 こんなに大好きって全身で言ってくれる咲太郎。

 咲太郎にぼくが先生との仲の良さに嫉妬したと言ったらなんて答えるんだろう?

 咲太郎だったら、喜ぶのかな?それともびっくりするのかな?

 咲太郎の表情を想像する。
 それだけで胸が暖かくなる。

『ぼくも、もうすぐ着くよ。早く会いたいな』

 指を画面に滑らせて送信ボタンを押す。


 駅に着いた。
 改札口のところに咲太郎がいた。

 ぼくの姿を見つけて両手で大きく手を振ってる。

 ぼくも手を振りながら小走りで改札を抜けて咲太郎の元に行く。

「あゆくん!たろう、あゆくんに会いたかったよぉ」
 いつものように、ニコニコとした笑顔を見せてくれる咲太郎。

「ぼくも。咲太郎の顔見れて嬉しい」

 その後に言ってみる。

「ぼくね……。咲太郎が先生と仲良いのに……ちょっとだけ嫉妬しちゃった」

 いらずらを見つけたようなそんな顔で言ってみる。
 咲太郎、どんな顔するんだろ

 最初はキョトンとした顔をした咲太郎。

 その後、両手で顔を覆って目をキラキラさせる。

「きゃぁぁぁ――!たろう、嬉しいぃぃ――!」

 目をキラキラさせてる咲太郎。

「あゆくんが、それだけたろうのこと好きってことだよねぇ――!」
ぼくが想像してた顔をする咲太郎。

「嫌じゃないの?」
 そう聞いてみた。

「いやじゃないよぉ。だってあゆくんがそれだけたろうのことが好きって証だよね」
 弾んだ声でそう言う咲太郎。

 その後にふっと真剣な顔になる。

「それにあゆくんのその気持ちは、たろうを縛ったり困らせたりするものじゃないのたろう分かるよ」
 静かにそう言った。
 

「だって!たろうにもあるもん。あゆくんが大学のお友達と一緒にいるのとか遊んでるのとかいいなぁとか羨ましいなぁと思うもん」
 へへっ。と笑う咲太郎。

「そうなの?咲太郎もそう思うんだ?」
「思うよぉ。たろうが会えないのに、あゆくんに会えてていいなぁーって」

 咲太郎も同じ気持ちなんだ。
 そう思ったら余計にこの新しく名前がついた感情が愛しくなる。

「たろうとあゆくん、お互い大好きってことだね」
 そう言ってぼくの手を握ってくれる咲太郎。

「うん。そうだね」
 ぼくからも咲太郎の手を握り返す。

「これからどうしよっか?なに食べる?」
「食べよう――!たろうお腹すいたぁ」

 そのまま2人で歩き出した。


 (新しい気持ちに名前がついた。咲太郎と一緒だったらこの気持ちも、きっと大丈夫)