好きまでの距離


 図書館の自習室が空いてたので、今日はそこを借りてあゆくんと勉強中。

 広いワークスペースじゃない個室なので少しだけならあゆくんとおしゃべりしながら勉強ができる。

 隣同士でお互いテキストを開いて集中して問題を解く。
 あゆくんの肘がぼくの腕に当たるのも慣れてこの触れてる温度が心地いい。

 問題を解き終わって、ふっと肩の力を抜いた瞬間隣から視線を感じた。
 あゆくんもちょうどノートから顔を上げてた。

 目を合わせてお互い笑い合う。

「あゆくんも今少し休憩?」
「うん。今ちょっときりがいい瞬間になった」
「ちょっと休憩しよっか」

 お互い手に持ってたペンを机に置く。

 自習室内は飲みものを飲めるので、あゆくんのリクエストを聞いて、冷たい甘いものを買いに行く。

「あゆくん、今日は抹茶ラテとカフェラテにしたよ。どっちがいい?」

 スマホを見てたあゆくんがぼくの方をみる。

「ありがとう。ぼくはどっちでもいいよ。咲太郎が選んで」
「ん――たろうもどっちでもいいよぉ。あゆくん両方好きでしょ?」

 2人とも飲めるドリンクにした。

「じゃあさお互い半分ずつ飲んで交換しよっか」
 あゆくんから提案がある。

「それいいねぇ。あゆくん最初はどっちから飲む?」
「咲太郎は?」
「たろうはどっちでもいいよぉ。あゆくんが好きな方先に飲んで」

 2つのドリンクをあゆくんに差し出す。

 抹茶ラテを先に取るあゆくん。
 ぼくはカフェラテを持ったまま椅子に座る。

「あゆくん何かみてたの?」

 画面にはぼくのメッセージアプリのアイコン。

「ん?あぁ。これ?」
 画面を指差すあゆくん。

「そう言えば、ぼくアイコン消してから新しいのにしてなかったなって。咲太郎のは可愛い猫のネイルの絵だったなと思い出して見てたんだ」

 あゆくんはぼくに自分のアイコンを見せてくれる。初期のままのアイコン。

「あゆくん新しアイコン作る?」
「うん。咲太郎の可愛いしぼくも何かをアイコンにしたいなって」

 これまでアイコン初期に戻したままだったのは、どうして?そう聞こうかと思ったけどやめた。
 

 (きっと……何か理由あるんだろうな)


 その時ひとつ閃いた。

「あゆくん!たろうから提案があります」

 ちょっとだけしんみり感じた雰囲気を変えたくて、おどけた声をして片手をあげてみる。

 抹茶ラテを飲んでたあゆくんが顔をあげてぼくのことを見てくれる。

「あのね!たろうとあゆくんでお互いをイメージする絵を描こう!それをお互いのアイコンにしよう」

 過去のことはわからない。でも今はあゆくんはぼくと一緒にいるからアイコンを見てその気持ちを思い出してもらいたい……そうも思った。

「いいね。それ面白そう」
 あゆくんが笑ってくれる。

「ね!いいよねぇ。なんの絵を描くのがいいかなぁ」
「ぼくあんまり絵心ないからなぁ。簡単なのがいいなぁ」

 ちょっとだけ不安げなあゆくん。

「じゃあ……あゆくんがたろうをイメージした動物を描くのはどう?」

 あゆくんは「うん。それなら」と頷いてくれた。

「じゃあ咲太郎はぼくをイメージして動物を描いてくれるの?」
「うん!そーしよぉ」

 お互い白紙の紙を取り出して描き始める。
 ぼくの中ではもう描くのは決まってる。


 可愛く描くから待っててねぇ。



 静寂の中、お互いのペンの音だけが聞こえる。


「できた」 

 満足そうな声のあゆくん。
 ぼくも顔をあげる。

「咲太郎ぼくはできたよ」
「たろうもできたよぉ」

 あゆくんと視線を合わせて笑い合う。

「じゃあせーので見せ合いっこしよぉ」
 そう言って、『せ――の』そう言いながら紙をテーブルの上に置いた。

 2人でその紙を覗き込む。


「咲太郎これは?ねこ?」

 ぼくは、あゆくんと出会った時に親指に描いてたネコにした。

「ぼくネコっぽい?」
 あゆくんが自分を指差せて笑う。

「ん――とねぇ。あゆくんはネコっぽくはないんだけど、たろうとあゆくんが保健室で出会った時に見せた猫さんがいいかなぁと思ったの」
 そう説明したらあゆくんは、弾けるような笑顔を見せてくれた。

「それいいね。ぼくたちの出会いのきっかけのネコだね」

 ぼくが描いた紙を手を取って見つめるあゆくん。

「ぼくこれ好きだな。気に入った」
 静かにそう言ってくれた。

「あゆくんのは犬さん?」
 あゆくんの紙に描いてあったのは犬だった。

「たろう犬みたい?」
 ぼくも自分を指さしてあゆくんに聞いてみる。

「犬っていうかね。ぼくも咲太郎と同じなんだけど、最初に会った時の近づいてくれる雰囲気が犬みたいかなって」
「可愛い尻尾振ってくれてる犬は咲太郎ぽいかもしれない」

 そんな風に笑うあゆくん。

「たろうこれ好き。あゆくんが描いてくれた犬さん!」

 ぼくもあゆくんが描いてくれた犬の紙を手に取る。

「お互い保健室での出来事で描いたんだね」
「ね。あそこがあゆくんとたろうのはじまりだもんねぇ」


「そうだね。あの日咲太郎に出会え良かった」
 あゆくんがポツリと感慨深そうにそう言った。

「たろうも!あゆくんに出会えて良かったよぉ」

 ぼくがそう言ったらあゆくんはぼくの方を見てくれて「お互いそうだね」と笑ってくれた。

「じゃあ、あゆくんこれをお互いのアイコンにするぅ?」
 そうあゆくんに聞いてみる。

「うん。そうしよう。ぼく帰ってからこれに色を塗りたいな」
 あゆくんがそう言う。

「そーしよぉ。たろうも帰ってから色塗りする」
「お互いの共同作業で完成するアイコンだね」
 あゆくんがそう言ってくれる。

「それいいねぇ。あゆくんとたろうのはじめての共同作業だねぇ」
 2人で作るアイコン。なんかそれいいな。とぼくも思った。


 夜家に帰ってからあゆくんから写真が届いた。

『こんな風にしたよ』
 ぼくが描いたネコの絵に色が付けられてた。あゆくんらしい優しい色合い。

『たろうもしたよぉ』
 ぼくもさっきまで色塗りしてた犬を撮ってあゆくんに送る。

『いいね。ぼくが描いた犬に咲太郎が色をつけてくれたの嬉しい。もう1人じゃないね』
 あゆくんからそう返事が来た。

『うん!今日から毎日アイコン見るたびにたろうのこと思い出してネ』
『そうだね。咲太郎も毎日ぼくのことを思い出してね』

『あゆくん違うよぉ。たろうは、アイコン見てなくてもず――とあゆくんのこと考えてるからねぇ』
『咲太郎それはちょっと怖いよ(笑)』

 あゆくんがお風呂入ってくるね。と言って一旦やり取りが終わった。

 メッセージアプリを閉じようと思って、指を止めた。

 メッセージアプリの1番上にいるあゆくん。
 さっきまでは初期だったけど、今は。

 ぼくが描いて、あゆくんが色を塗ってくれたネコがそこにいる。

 そして、そのまま自分のプロフ欄を見る。

 そこにはあゆくんが描いてぼくが色を塗った犬がいる。


 このまま画面を閉じるのがなんとなくもったいなくなって、それを胸に抱きしめる。


 (あゆくんと……お揃いだぁ……)