好きまでの距離

今日はあゆくんとお散歩してる。

 少しだけ冬の気配が近づいてきた風の冷たさが体にあたる。

「あゆくん大丈夫?寒くない?たろうマフラーカバンに入れてるよ」

 朝の天気予報で風があり肌寒く感じるかもしれない。

 そう思い、出がけにあゆくんが寒くなった時にとマフラーと手袋をカバンに入れてきた。


「ぼくは大丈夫。咲太郎は寒くない?」

 あゆくんが、ぼくの方を見て言ってくれる。

「うん!たろうはねぇ。あゆくんといたらず――っとあっかいよぉ」

「なにそれ。寒さは違うでしょ」


 おかしそうに笑うあゆくん。


 本当なんだけどな。


 ぼくは、あゆくんが隣にいたらいつも心がぽかぽかしてる。

 それが体にも伝わるから寒さよりも心地いい温かさに体が包まれてる。


「もうそろそろ。秋も終わるね」


 あゆくんが落ちてくるイチョウの葉っぱを見ながらポツリと言った。


「そ――だねぇ。たろうは今年の冬楽しみなのぉ」

 2人でイチョウの木の前で立ち止まる。

 顔をあげて落ちてくるイチョウを見ながら静かに、でもワクワクした声で話す。


「冬が?なんで?寒くない?」

 きょとんとした顔でぼくをみるあゆくん。


「今年の冬はねぇ……あゆくんと一緒に過ごせるから」

 あゆくんのピースをして見せる。


「そうだね。今年は一緒だね」

 静かに笑うあゆくん。



「ね――!クリスマスもお正月もあゆくんと過ごせると思ったら、たろうはぜ――んぶ楽しみなんだよ」

 ぼくが、そう言ったらあゆくんは一瞬だけ痛みをこらえたような顔をした。


「あゆくん?どうしたの?どうかある?」

 心配になってあゆくんの顔を覗き込む。


「ううん。違うよ。大丈夫」


 すぐにあゆくんは、いつもの顔に戻った。


 でもたろうはあの顔が気になる。


 あゆくんが少し先にあるベンチに座ろうかと言ってくれて2人でそこまで行き、隣同士に座る。


「ぼく、咲太郎と出会うまで季節のイベントを楽しむって感覚はなかったなと思って。咲太郎に言われてクリスマスもお正月も約束しなくても当たり前に一緒にいる。そんなこと考えたことなかったなと思ったんだ」

 
 あゆくんがぼくじゃなくて、目の前の大きな木を見つめて静かに話してる。

 
 ぼくはそのあゆくんの横顔を黙ってみてた。

「だからね、今年はぼくもすっご――く楽しみ。咲太郎といるとどんどん新しい楽しみが増えるね」

 
 木を見つめてたあゆくんがぼくの方に顔を向けてくれた。

 その目の奥が少しだけ濡れてる気がして……。



(あゆくん……)



「咲太郎?どうしたの?急に」

 気がついたらあゆくんを抱きしめてた。



「ん――なんかねぇ。急にあゆくんに抱きつきたくなったのぉ」

 へへっ。と誤魔化しながら笑うぼくに、「変なの」と笑いながらされるままになってるあゆくん。



 なんとなく、あゆくんの顔を見なくて話して方がいい気がした。



「あゆくん大丈夫だよぉ。これからはたろうが一緒だから。あゆくんは寂しい思いをする暇がありませんっ」


 おちゃらけた声を出してあゆくんに伝える。


「そうだね。咲太郎と一緒にいるとそんなこと考える時間もないね」

「そ――ですっ!今からのあゆくんはずっ――とたろうと過ごすから、スケジュール帳には全部たろうと書いててくださいっ」


 あゆくんを抱きしめてた腕を解いて、イタズラっぽい顔をしてあゆくんの顔を覗き込む。


「えぇっ。全部咲太郎にするの?」

「そ――だよぉ。全部たろう!約束なんか必要なくなるでしょお」

 
 そういうとあゆくんを声を出して笑い始めた。

 
「咲太郎てば……。ありがとう」

 笑った後に静かにそう言った。



 そのまま少しだけ、沈黙の時間が流れる。



 でも嫌な沈黙じゃない。

 あゆくんと一緒にいる心地いい時間。




「寒くなってきたし、そろそろ帰ろうか?」

 あゆくんがそう言ってベンチから立ち上がる。


「そーだねぇ。あゆくん手は冷たくない?たろう手袋も持ってきたよ?」

 少しだけ風が冷たいから聞いてみる。


「大丈夫だよ。それにね……」


 途中で言葉が止まるあゆくん。

 一歩だけぼくの方に近づいて来た。



 そして



 あゆくんの右手がたろうの左手を掴んだ。



 (あっ……あゆくんが手を繋いでくれた)


 あゆくんと繋いだ手から体中に何かが駆け巡る。

 幸せな時間。



「こうやって咲太郎と手を繋いだほうがぼくはいいから。手袋はずーっといらない」

 そう言ってくれるあゆくん。



 ぼくは、あゆくんの行動が嬉しくて何も言えなくなる。


「だからね、咲太郎の左手はず――っとぼくのだよ。そうスケジュール帳に書いててね」


 ぼくの顔を見て、ぼくがさっきしてたのと同じイタズラっぽい目でぼくのことを見てくるあゆくん。



「あ――!あゆくんそれたろうが言ったことだよぉ」

「ふふっ。咲太郎の真似っこだね」



「たろう帰ったらスケジュール帳に書く!たろうの左はあゆくんで埋まってますって」

 そう言ったらあゆくん何も言わずに静かに笑ってた。


「じゃあ帰ろっか。明日は図書館で勉強しようね」

 2人で肩を並べて駅の方に歩き始めてた。


 あゆくんの右手とぼくの左手はつながったまま。