好きまでの距離


「違うの?」

 あゆくんからの言葉を受けて、ぼくも聞き直す。

「うん。違うよ」

 あゆくんは、静かにでもはっきりとそう言った。



 そうなんだ……。

 違ったんだ。


 勝手に判断して諦めなくて良かった。


「あのね……たろうお話あります」


 姿勢を正して、あゆくんに向き合う。

 あゆくんもぼくの真剣な雰囲気を感じ取ってお弁当の蓋を閉めて、お弁当を隣のベンチに置いた。


「たろうは、あゆくんのことが好きです。あゆくんの特別になりたいです」


 あゆくんの目を見て、伝える。


 風が木々を揺らす音だけが聞こえる。



 この沈黙が怖い……。



 あゆくんがゆっくり口を開く。

「ぼくも……。咲太郎が好きです。咲太郎の特別になりたいです」
 あゆくんが同じ言葉を返してくれる。



 (うそ……。たろうの気持ち伝わった……)

 
「ほんとに?」
 小さくそう呟く。

「ほんとだよ。ぼくも咲太郎が好きだよ」

 あゆくんがまた静かにそう言ってくれる。

「あゆくん……たろうとお付き合いしてください」
 きちんとこの関係に名前をつけたい。そう思ってあゆくんにもう一度告白する。

「はい。ぼくを咲太郎の恋人にしてください」


 (えぇぇぇ……たろうの初恋叶っちゃったぁぁぁ……)

 嬉しくて叫びたいけど、心の中でだけ大暴れする。

「嬉しい。たろう……あゆくんには大切な人がいるから……諦めなきゃって思ってたの」
「違うよ……。ううん。正確には違ったが正しいかな」

 あゆくんは少しだけ遠い目をして静かに言う。

「咲太郎が見た人はそらくんって言うの。ぼくは1人が怖くて、1人になりたくなくてただ……それだけで、そらくんと一緒にいたんだ」
 そこであゆくんが一回口を閉じた。


「でも……咲太郎と出会って、それに気がついたんだよ。だから咲太郎のおかげでぼくは1人も怖くなくなったんだ」
 あゆくんが静かにそう言う。

「そうなんだ……」
「うん。ぼくね、咲太郎に出会って変わったんだ」
「そうなの?」
「うん。1人も怖くないと思えたし、自分から連絡してみようと思ったし、咲太郎が好きなものを探して喜んでもらいたいと思ったし、全部咲太郎と出会って知った気持ちなんだ」

 あゆくんがとっても嬉しいことを言ってくれてる。

「たろうのおかげ?」
「うん。咲太郎にパワーもらえたんだよ」
「へへっ。なんだか恥ずかしいよぉ」

 あゆくんの言葉が胸に落ちてきて……じんわりと広がっていく。

「たろうもね。あゆくんと出会って初めてこんな気持ちになったの」

 ぼくがそう言うとあゆくんが笑った。
 その笑顔が眩しくて綺麗で、ぼくは見惚れる。

「あゆくん。今日からよろしくね」
「咲太郎。今日からよろしくね」

 ぼくがそう言うと、あゆくんも同じように言葉を返してくれた。

「咲太郎じゃあご飯食べよっか」
 そうだった。ご飯がまだだった。

 2人で顔を見合わせて笑ってお弁当を手に取りまた蓋を開けた。

「咲太郎のサンドイッチ美味しいね」
 あゆくんが食べながら感想を言ってくれる。

「へへっ。あゆくんに褒められるのが1番嬉しいよぉ」
 ぼくがそう言うと、あゆくんがくすぐったそうに笑う。
「ねぇ咲太郎。今度ぼくに料理を教えて?」

 あゆくんが急にそんなことを言った。
「お料理?いいよぉ。でもあゆくんが食べたいものあるんたらたろう作るよ?」
「違うの。ぼくが咲太郎に作ったものを食べて欲しい」

 あゆくんがそう言ってくれる。

 ぼくの胸がまた苦しくなる。
 ぼくの胸を苦しくさせるのはあゆくんだけだ。

「へへっ。嬉しい。じゃあ今度のおやすみ一緒に作る?」
 そう言ったらあゆくんも楽しみなんて言って笑ってくれた。

 ご飯を食べて2人でまた勉強に戻る。


 あゆくんと隣同士も今日からは堂々と座れる。
 勉強しながらあゆくんの肘が腕にあたっても、朝とは違う感情になる。

 今はもう……その部分だけが熱いじゃなくなってる。


 触れてたい。
 触れてる部分から温かいものが身体中を包んでくれてる。
 そんな気持ちになる。


 あの時……ゆーちゃんに話してよかった。
 勝手に答えを決めて……諦めなくてよかった。

 勉強を終えて2人で駅まで並んで帰る。
 これも今日からは堂々と隣に並んで帰れる。

 あゆくんと並んで帰りながら、ぽつんと呟く。


「あのね、たろう夢があったの」

 急に今あゆくんに伝えたくなった話をする。
 誰にも話したことない、たろうの秘密のお話。
 


「たろうね、たろうの一番好きな人に咲太郎って呼んでもらうのが夢だったんだ」

「だから他の人にはみんなたろうって呼んでもらってたんだけど、あゆくんには咲太郎って呼んでもらいたいってすぐ思ったの。だからあゆくんはたろうの特別さんなの」

 たろうがそれを伝えたらあゆくんびっくりした顔して立ち止まった。

「そうなの?えっ?咲太郎すぐぼくに咲太郎って呼んでと言ってくれたけど。ぼくあんなに気軽に軽い感じで咲太郎って呼んだけど良かったの?」

 不安そうな顔で聞いてくるあゆくん。

「もちろんだよ。たろうあの時あゆくんが咲太郎って呼んでくれた時にたろうの一番さん見つかったって思ったの。あゆくんがたろうの初恋だって」


「だからね。たろうのこと咲太郎って呼べるのはこの世であゆくんだけなんだ」

 そう伝えたらあゆくんが、ぼくの好きな笑顔で笑ってくれた。

 好きな人と気持ちが通じ合うってこんな気持ちなんだ。


 (たろう……初めて好きを知りました)