好きまでの距離


 あゆくんと図書館で勉強するのは、ドキドキとソワソワが入り混じってた。

 けど楽しかった。

 あゆくんの知らない顔が見れてもっとあゆくんを知りたい……そう思った。

 駅のホームであゆくんとは別れた。
「次はぼくがお昼準備する」

 あゆくんはそう言ってくれた。
 でも……もしも……次があるんだったら……。

「たろうがまた作る。たろうが、あゆくんに食べてもらいたいの」
 あゆくんに、あゆくんだから、食べて欲しい。

「わかった。じゃあぼくは飲み物とおやつを用意するね」
 あゆくんは笑顔でそう言って手を振ってホームに向かって行った。

 あゆくんあんな風に言ってたけど、いいのかな?

 大切な人……怒らないのかな?

 聞きたいけど、やっぱり聞けなかった。


 昨日は、ぼくからあゆくんに連絡したけど今日はしていいのか分からなくて迷う。
 電車に乗ってても、スマホを取り出しては直して、あゆくんのところを開いては閉じてを繰り返す。


『咲太郎今日は、ありがとう。お弁当美味しかったよ。今帰り着いた。咲太郎は?』

 家に帰ってカバンを手に持ち部屋に入る。

 その時にスマホが鳴った。
 あゆくんからメッセージが来てる。

 (……嬉しい。あゆくんから……送ってくれてる)

 カバンを置くのも、もどかしくて少しお行儀悪いけどカバンをそのまま床に置いて急いでスマホを握りしめる。

『たろうも今帰り着いた』

 他にもたくさん話したいことあるのに……。

 指で文字を打っては消しを繰り返してしまう。

『おかえり。咲太郎明日はもう学校?』
『うん。明日からまたいつも通り。あゆくんは?』

『ぼくは、明日は午後からだから少しゆっくりあるかな』
『そうなんだ。いいなぁ――。たろうも早くそうなりたい』

『もう少しだね。咲太郎は今から何するの?』
『何しよっかなぁ。あゆくんは?』

 ぼくが送ると、あゆくんもすぐに返事をくれる。

 本当はやめなきゃ。続けちゃだめってそう思うのに、あゆくんから返事が来ると急いで見て、そのまま返したくなる。

 なんてことない世間話のようなやり取りが楽しい。

 結局寝るまであゆくんとやり取りを続けてた。

 朝もあゆくんから『おはよう。学校頑張ってね』そうメッセージが入ってた。

 ぼく……あゆくんのこと諦めなきゃいけないのつらい。



 いやだ……。

 でも……大切な人がいるのに邪魔したくもない。


 ぼくどうしたらいいの?


 授業受けてても頭の中がぐるぐるしてちっとも勉強に集中できない。

 こんなんじゃダメなのに。勉強だけはきちんとするって決めてるのに。

 モヤモヤした気持ちを持ったまま保健室に行く。

「太郎君、お昼今日はここで食べる?」
 たまにゆーちゃんのところで食べるから、ゆーちゃんは何も言わずに受け入れてくれる。

 テーブルに座ってご飯を食べながらゆーちゃんに話しかける。

「あのね……ゆーちゃん。たろう変なの」

 机に座って書き物をしてたゆーちゃんがゆっくりとペンを置いて、立ち上がってたろうの向かいの椅子に座った。

「変?太郎君が?」
「うん。あゆくんと出会ってから変なの」

 ゆーちゃんは黙って何も言わずにたろうの言葉を待ってくれてる。

「あゆくんといると、ドキドキするしもっと知りたいって思うし、連絡したいって思うの」
「うん。それで」
「でもね……ダメなの」

 お箸を静かに置いて顔を下に向ける。

「なんでダメって太郎くんは思うの?」

 静かにゆっくり問いかけてくるゆーちゃんの声。

「たろう見たの。あゆくんの肩を触って一緒に歩いてる人」
「うん。それで」
「あゆくんも嫌がってなかった。あゆくんに大切な人がいるなら、たろう近づいたらダメだから」

「太郎君」

 ゆーちゃんがゆっくりぼくの名前を呼ぶ。

 その声を釣られて顔を上げる。

「太郎君。あゆむと一緒にいた人のことあゆむに聞いた?」

 静かに問いかけてくる声。

「ううん。聞いてない」
「どうして聞かなかったの?」

「たろう、怖かったの。聞いたらあゆくんともう会えないんじゃないかって……。あゆくんの口から聞きたくなかったの」

 うん。と頷きながらたろうの顔を見てくるゆーちゃん。


「太郎君の気持ちはわかるよ。でも、あゆむに聞いてないのに、決めつけはよくないよ」

 口調はゆっくりと優しいのに響きに少しだけ厳しさが混じってる声。

「今の太郎君は、知りたくないを理由に逃げてるんじゃないかな。それでいいの?」


 ぼくに問いかけてくるゆーちゃん。


 ぼくが答えを出すまで、ぼくのことを見つめて静かに待っててくれてる。


 
「……。よくない」


 逃げたくない。

 あゆくんのことで後悔はしたくない。
 

「それなら……勇気を出して踏み出す力も必要だよ」
 ゆーちゃんがそんな風にいう。


「あゆむがこんな風に人と関わるの初めて見たかな」

 それだけ言うとゆーちゃんはたろうの前から立ち上がってまた自分の机に戻った。


 ゆーちゃんが書き物してるペンの音だけが静かに部屋に聞こえる。



 ぼく、逃げたくない。
 あゆくんのこと、きちんと知りたい。


 ここで逃げて後悔したくない。


 あゆくんに、大切な人がいても……でも……聞かずに逃げるのはいやだ。
 ちゃんと聞いてから……それから決めたい。

 あゆくんに次会った時に、聞いてみよう。


「ゆーちゃん。ありがとう」
 お弁当を食べて立ち上がる。

「来た時よりいい顔してるね」
「うん!たろう決めた!勝手に決めつけないであゆくんに聞いてみる」

「そうだね。聞かなきゃ分からないことはあるもんね」
 そう言った後に、ゆっくりたろうの元に歩いてきてた。

「いってらっしゃい」
 そう言ってゆーちゃんは、ぼくの頭に手を置いてくれた。


 (あゆくんと触れられた時と……全然違う……何にも感じない)

 あゆくんにきちんと会って、聞いてみよう。

 そう思ったらなんだか気持ちがすっとなった。