好きまでの距離


 
 あゆくんの存在を左腕に感じながら勉強を進めていく。
 
 集中してる時も少しだけ今日は左側が気になる。
 
 そこだけが熱い……。

「咲太郎……」
 名前を呼ばれてる隣を見ると目の前にあゆくんの顔がある。


 (あっ……あゆくんまつ毛が長い。目が大きくて……可愛い)

 初めてあゆくんの顔をこんなに近くで見た。

 その時、触れてもいないのに、どこかが勝手に熱を持った気がした。

 あゆくんといる時だけ起きる現象がまた起きてる。

 思わず、少しだけ椅子を後ろにずらした。

「あゆくんどうしたの?」
「もうお昼になるし、少し休憩しない?」

 あゆくんにそう言われて、もうそんな時間と思ってぼくも時計を見る。

 もうお昼にすぎてた。頷いて2人で外のベンチに行く。
 まだあゆくんにお弁当作ってきてたの伝えれてなかった。

 ベンチに着いて座ってからあゆくんに切り出す。

「あのね。たろう今日お弁当作ってきたんだ」
 袋の中から取り出したお弁当箱をあゆくんに渡す。

 あゆくん、驚いた顔して口をぽか――んと少しあけてる。

 あゆくんのそんな顔初めて見た。
 新しいあゆくんの顔を見れた。

「えっ……うそ……。ごめん。ぼくお昼のこと考えてなかった。帰りに何か食べればいいやぐらいで」

 顔を下に向けるあゆくん。

「違うの。たろうがあゆくんに食べて欲しかったの」

 慌ててあゆくんに伝える。
「ありがとう。嬉しい。パウンドケーキも美味しかったし、咲太郎の料理食べてみたい」

 あゆくんがそう言ってくれる。

「あけてもいい?」

 あゆくんの顔が子どもみたいにワクワクしてるって書いてある。
「あゆくん気に入ってくれるといいけど」

「絶対気にいる。ぼくのために作ってくれたものを気に入らないなんてない」

 静かに、でもしっかりとした口調でそう言ってくれるあゆくん。

 (あゆくんは、たろうの弱虫が出てきたとき、いつも安心させてくれる言葉をくれる)


 それに気がついた。
 保健室の時からずっとあゆくんは、そうだった。

「わぁ。美味しそう!食べていい?」
 お弁当の蓋を開けて、目をキラキラさせてるあゆくん。

「うん。食べてくれたら嬉しい」
 ぼくも自分のお弁当を取り出して蓋を開ける。

「彩りも綺麗だし、ぼく唐揚げが1番すきなんだ」

 そう言って唐揚げを頬張るあゆくん。
 口をもぐもぐさせながら親指でグ――のサインをしてくれる。

「たろうも唐揚げが1番すきなの。だからあゆくんにも食べてもらいたかったの」
 もぐもぐしてた唐揚げを飲み込むあゆくん。

「おいしい。本当に美味しよ。それに咲太郎も唐揚げが好きなんだね。ぼくたち好みが似てるのかもね」
 屈託ない顔で笑うあゆくん。

 その笑顔を見るのが嬉しいのに、少し寂しい気持ちになる。

 (大切な人も……あゆくんのこんな顔見てるのかな…)

 あゆくんは、一つ一つ食べて感想を言ってくれる。
 2人でお弁当を食べながら、この時間が少しでも長く続いてくれたらいいのに……なんて思った。


「そう言えば、咲太郎は先生と何の約束してるの?」

 不意にあゆくんから聞かれた。
 そんなこと聞かれると思ってなくて、お弁当から顔をあげてあゆくんを見る。

 あゆくんのまっすぐな真剣な目に射抜かれそうな気持ちになる。

「あのね……たろうね、勉強だけはちゃんとするって決めてるんだ。そのこと」

 ちょっと長いけど、聞いてくれる?あゆくんにそう伝えたら、真剣な顔で頷いてくれた。

「たろうね、メイクとかネイルが好きで自分でやっての。先生たちは怒ってたけど……でもゆーちゃんだけは違った。『どうしてそれが好きなのか聞かせて』って言ってくれたの。たろう、その時初めてちゃんと話したんだって。
そしたらね、『好きなことを続けるなら、ちゃんと認められる自分にならないとね』って。
だから今でも、勉強だけはちゃんとやるんだ」


 あゆくんにたろうとゆーちゃんのことを話した。

「そっか。咲太郎と先生の繋がり深いね」
 それだけぽつりと言った。

 なんだろ……。この時だけ、あゆくんのまとう空気が少しだけピリッとした気がした。

「でもそれできちんと勉強してら咲太郎は偉いよ」

 あゆくんはそう言って、ぼくの頭にそっと触れた。

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 ただ、触れられたところだけがやけに熱い。


 (なんでぇ……あゆくん……たろうに簡単に触れるのぉ……)


「それならぼくも咲太郎の勉強に協力したい。これから時間合う時は一緒に勉強しよう」
 あゆくんがそう言ってくれる。

 ぼくの心は、うん!嬉しい。そう言いたいのに、喉に詰まって言葉が出ない。

「いいの?でも……あゆくん……ぼくと一緒にいて何か言われない?」

 昨日のあの人の存在がチラつく。
「ん?言われないよ。頑張る咲太郎をぼくも応援したよ」
 あゆくんはそうすぐに言ってくれた

 嬉しいけど……でも……。

 頷いていいのか……わかんない……。

 あゆくんに迷惑かかることはしたくない。
 その気持ちが強くて、曖昧に頷くことしかできなかった。