「お風呂お先に、、、」
「美月すごいじゃない、また薬学部A判定だなんて。落ちこぼれ彩弥華も見習ってほしいわ」
お風呂あがりにリビングへそばを通るとお母さんの声が聞こえてきて、思わず気配を消した。ああ、また始まった。定期テストが返却されたり、模試の判定が出るたびにお母さんは優秀な姉を褒め、私を下げる。。姉は受験生で、国立の薬学部に行きたいらしいが、多分このままいけば難なく受かると思う。
「お母さん、彩弥華も頑張っているんだからそんなこと言っちゃダメ」
姉は昔から優しかったから、きっと本心で言っているのだろう。でも、それが逆につらかった。気づかぬうちに私の頬は涙でぬれていて、私は足早に自分の部屋に戻った。私だって勉強はしているんだ。だからいつも全科目平均点は取れている。でも、どうしたって優秀な姉には届かず、平均点を取っていても落ちこぼれ扱いされる日々。勉強以外でこれといって得意なこともなく、全部平均。もし運動だけでも得意だったらお母さんに褒められていたのかな、最近運動が得意なクラスメイトを見ているとそんなことを思うことがある。部屋に戻ったら今日の復習でもしてから寝ようかと思っていたので、机の上に参考書とノートを広げておいたのだが、さっきのを聞いて完全にやる気を失った。明日は休みだし夜更かしでもしようかと思ったが、なんだかこの家にいること自体が嫌になって足音を立てないように家を出た。財布とスマホがあったら何とかなるでしょ、そう思いながら私は最寄り駅へ向かった。まだ九時なので、駅のホームには人がいてにぎわっており、夜だったけど一人でも怖いという感情は全然なかった。私の通う高校はここから三つ隣の駅の目の前にあってすごく立地が良い。私がこの高校を選んだ理由の一つといっても過言ではない。いつも学校が終わってからは学校の自習室で勉強するか近くのカフェで勉強してから帰るから、たまにはほかの駅まで行くのもいいかななんて思って、二駅分電車に揺られてみた。10分ぐらいで到着して改札を出てみると、うちの近所とは比べ物にならないくらい都会で圧倒された。飲み屋帰りのサラリーマンや、カラオケ終わりの大学生など近所では見られない光景が目の前に広がっていた。そんな楽しそうな人たちを見ていると急に悲しくなってきた。私だって頑張ってるのにどうして褒めてもらえないの?優秀な姉の比較対象にされるばかりでどうして楽しい生活を送れないの?小声で吐き出してみてももちろん誰も答えてはくれない。ああ、この先もずっとこんな人生が続いていくんだったら、もう人生なんてどうでもいいかな。今の私に生きてる意味なんてないのかな。もう死んでもいいや。そう思って赤信号の横断歩道に飛び出そうとした。来世では毎日笑える人生を私にください、神様。そのときだった。
「危ない!」
突然誰かに腕を引かれ気づいた時には歩道の上でこけていた。目の前には私と同じようにこけている若い男性。大学生くらいかな。この人が引っ張ったのか。
「ちょっと危ないやんか。赤やのに出てったら」
「すみません。信号見ていませんでした」
「すみませんって。さっきもし僕が助けてなかったら確実にあの世行きやったよ君」
「はい、すみませんでした」
では、と言ってその場を去ろうとすると、
「ちょいちょいこんな状態で帰せるわけないやん。君また同じことしそうやし」
「いえ、もうしませんのでご心配なく」
「いや絶対するって。君さっき信号見てなかったって言うてたけどホントは赤やってわかってたやろ」
私は何も答えることが出来ず、下を向く。
「、、、」
「うわ、その反応絶対図星やん。何があったんか知らんけど、ずっとここで話すのもあれやで移動しようや。夜の街は君が思ってるより危険やでな」
そういって彼は私の手を引いた。ここで、断ってもこの人はどうせ返してくれないだろうから黙ってついていくことにした。見た感じ悪い人ではなさそうだし。
「はい、着いたよ。ここ、僕がやってるカフェ」
そう言って案内されたのは大通りから少し離れた場所にあるこじんまりとしたカフェだった。カフェゆるりという名前らしい。
「もう今日は閉店してお客さんはおらんで好きな席座ってええで」
「好きな席って言っても、片手で数えられるくらいしかないけど」
独り言で言ったつもりだったが、彼の耳にはしっかり届いていたらしくこちらを睨みつけてくる。あ、やば。
「ん?なんて?席が少ない?こじんまりしてるからいいんや。お子様には分からんかなー」
睨みつけてきたかと思ったら、今度は子ども扱いして反撃してきた。小柄なせいで昔から幼く見られがちだったけど、残念ながらそれは今も継続中みたい。もう高校生なんだけど。はあ、とため息をつきながらなんとなくカウンター席に座ることにした。
「お、カウンターにするん?そんなに僕に話聞いてほしいんかー」
やっぱりこの人腹立つから、向こうの席にしよう。そう思って立ち上がる。
「え?ごめんって冗談やんかー」
そう言う彼を見て少し笑ってしまった。
「あ、やっと笑ったな」
そう言われて顔を上げると、彼はさっきまでとはまるで違う真剣な表情でこちらを見ていた。そうか、私を笑わせるために冗談言ったんだ。彼の言う通り私はまだまだ子供かもしれない。
「あ、飲み物何がいい?そこにメニューあるやろ?決まったら教えてやー」
メニューってこれか。メロンソーダ、オレンジジュース、カフェオレ、コーヒーとかいろいろあるけど、私はやっぱりこれ。
「あ、あの、メロンソーダでお願いします」
「メロンソーダね。すぐ出来んでちょっと待ってな。じゃあ僕も今日はメロンソーダにしよっと」
勝手にしてくれ。まさかこの人一緒に飲むつもりか。まあカウンターだしそうなるよな。つい数分前カウンター席を選んでしまった自分の選択を今になって後悔する。そんなことを考えているうちにメロンソーダが二つ置かれた。ファミレスやカフェなど、外食するときは必ずと言っていいほどメロンソーダを注文する。なんでかって?小さいころカフェで飲んだメロンソーダがとっても美味しくて、その日からメロンソーダにハマったから。あの味は一生忘れない。3歳とか4歳のころの話だからあんまり覚えてはいないけど、あのカフェもここと似たようなつくりだった気がする。まあ、気のせいだと思うけど。
「よし飲もーや。はい、かんぱーい!」
「乾杯、、、」
「あ、言うの忘れとったけど、僕立花鶴樹(つるぎ)。大学2年生。一応ココの店長やってるで」
「ホントに店長さんなんですね」
「それどういう意味?」
「別に深い意味はないんですけど、あんまり店長っぽくないというかなんというか」
「深い意味ありまくりやん。まー別にええけど」
「なんかすみません」
「いいって。全然気にしてへんから。で、君の名前は?」
「佐野彩弥華(あやか)です。高校2年生です」
「待って高校生なん?ガチで中学生やと思ってたわ。ごめんごめん」
「そこに関してはいつものことなんで大丈夫です。気にしないでください」
「そっか、高校生ね。で、本題に入るけど、なんで夜に一人でおるん?しかも道路に飛び出したりなんてして」
「それは、、、」
「あー言いたくなかったら言わんでええよ。無理に聞かんから」
「私、優秀な姉がいて、いっつも比べられるんです。今日も母が私のいないところで姉を褒めて、私だってちゃんと勉強して一応平均点は取れてるのに彩弥華は落ちこぼれって言ってるの聞いちゃって。」
「そっか」
「いつもなら直接言われても聞き流せてたんですけど、今日はそれができなくて。何も言わず家飛び出してきちゃいました。それでもう人生なんてどうでもいいやと思って赤だってわかってて飛び出そうとしたんです」
「ふーん」
「なんか冷たくないですか。こういうときって嘘でも慰めたりしません?」
「彩弥華ちゃん、別に慰めてほしいわけじゃないやろ?」
「、、、」
「普通の人やったら、辛かったねとかあなたは何も悪くないとか言うんやろうけど、そんなん言うても何も解決せんやろうから僕はそんなこと言わんよ」
「そうですか。変わってますね」
「よく言われるで。ってそんなことはどうでもよくて、彩弥華ちゃんもしかしてまだ死のうとか考えてるんちゃうやろな?」
「まぁこのまま生きててもって感じなので」
「そっかー。じゃあさ、死ぬのちょっと延期しやん?」「は?」
「僕さー、死ぬまでにやりたいこといっぱいあるんやけど、一人じゃできひんから手伝ってほしいんよ」
「いやいや他を当たってくださいよ。なんで私なんですか。初対面ですよ」
「だって彩弥華ちゃん、暇そうやん」
そう言って鶴樹さんはニヤッと不穏な笑みを浮かべた。
「私が暇?ふざけないでください。毎日勉強で忙しいんですよ。私の話聞いてました?姉に少しでも追いつけるように頑張ってるんです」
「でも、勉強しかすることあらへんのやろ?僕は人生勉強だけじゃないと思うんよ」
「私だって遊園地行ったり、カラオケ行ったり、映画見たり、ゲームセンターで時間潰したり、普通の高校生みたいに遊んでみたいですよ。でも、そんなことは将来役に立たないからって母は言うので、なかなかできないんです」「でもやりたいことはあるんやん。やったら、それやらな後で後悔するのは自分やで」
「そういうものですか」
「そういうもんやで」鶴樹さんはじっとこちらを見て口を開いた。
「あのな、実は僕の命を絶とうとしたことがあるんよね。見ての通り今はもうそんなこと考えてないけどね」
「え?」
衝撃だった。こんなポジティブバカの権化みたいな人なのに。そんな過去があったなんて思いもしなかった。
「今意外って顔したやろ?こんなポジティブバカでもそんなこと思うんやって」
「はい」
「即答やん。ていうか、ポジティブは嬉しいけどバカは否定してや」
「すみません。つい本心が。でもなんで死ぬのやめたんですか?」
「うーん、上手くは言えんけど、やりたいこといっぱいあるなって思って。まず、大学行ってキャンパスライフエンジョイするやろ?そんで、カラオケで朝までオールしてあとは1回くらいアイドルとかのライブも行ってみたいし、それからあとは彼女も流石に欲しいし、スイーツパラダイスも行ってみたいし、それから、、、」
鶴樹さんは止まることなくしゃべり続ける。
「わ、わかりましたから。そのくらいで大丈夫です」
「ごめんごめん、ついしゃべりすぎたわ。でも僕の熱意伝わったやろ?こんなんしたい、あんなんしたいって考え始めたら自分から死ぬなんて馬鹿馬鹿しいなって思ったんよ」
「そうでしたか」
「でそれを君に手伝ってほしい」
「まぁそこまで言うなら良いですけど、また私死のうとするかもしれませんよ?」
「それなんやけど、頼むで一年は延期してや。一年経っても気持ちが変わらんかったら僕はもう止めへん。というか、多分止められへん、、、」
そこで鶴樹さんは言葉を止めた。
彼の言葉に少し引っかかるところがあったが、彩弥華はそれ以上聞くのはやめ、気まずくならないよう話題を変えることにした。
「あの、鶴樹さんって関西の方なんですか?」
「えっとなー、生まれたんはこの辺なんやけど小学校の途中から高校まで親の転勤で関西におったんよ。それで関西弁に染まってしもたってわけ。結構頑張って方言出さんようにはしとるんやけど」
言ってるそばから方言丸出し。この人本気で自分が関西弁話してないと思ってるのか?
「彩弥華ちゃんって小学校どこ?」
急に話題をふられた。
「如月小学校です。もしかして知ってたりします?」
「知ってるも何も僕も如月小学校やからね」
彼はそう言ってニヤッと笑った。
「え?」
「すごい偶然やね」
「3つ上かー。一人しか知ってる人いないです。昔よく遊んでもらってたんですけど、急に転校しちゃって。名前まではよく覚えてないです」
「そっか、僕の同級生に知り合いいたんやね。僕らもしかしたらしゃべったこととかあったりして」
「それはどうでしようね」
なんてたわいもない会話をしているうちに日付が変わっていた。
「わ、もう12じやん!彩弥華ちゃん帰ろ。おうちの人心配するやろ?」
「うち父は単身赴任で家にいなくて、母は明日、というか今日は確か朝早くから仕事って言ってたと思うのでもうとっくに寝てると思います」
「だからまだ大丈夫ですって?そういう問題じゃないんよ。ほれ、家まで送ったるから帰る準備しーや」
「電車で帰れる、、、あタクシーで帰れるんで大丈夫ですよ」
「彩弥華ちゃん、タクシー乗ったことあるか?めっちゃ高いで。やめとき」
「でも鶴樹さんに迷惑かかるんじゃ、、、」
「僕が乗せてくっていうてるんやから迷惑なわけないやろ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えてよろしくお願いします」
「ハイハイおまかせあれ。道案内だけ頼むなー」
去年免許を取った直後に親に買ってもらったという淡い青色の車に乗せてもらった。帰り道も話題が途切れることはなく、家までの数十分が一瞬だった。
「今日はほんとにありがとうございました。またカフェ行ってもいいですか?」
「もちろんええでー。いつでも話聞くでな。じゃあまた」
そう言って鶴樹さんは手を振りながら帰っていった。
「美月すごいじゃない、また薬学部A判定だなんて。落ちこぼれ彩弥華も見習ってほしいわ」
お風呂あがりにリビングへそばを通るとお母さんの声が聞こえてきて、思わず気配を消した。ああ、また始まった。定期テストが返却されたり、模試の判定が出るたびにお母さんは優秀な姉を褒め、私を下げる。。姉は受験生で、国立の薬学部に行きたいらしいが、多分このままいけば難なく受かると思う。
「お母さん、彩弥華も頑張っているんだからそんなこと言っちゃダメ」
姉は昔から優しかったから、きっと本心で言っているのだろう。でも、それが逆につらかった。気づかぬうちに私の頬は涙でぬれていて、私は足早に自分の部屋に戻った。私だって勉強はしているんだ。だからいつも全科目平均点は取れている。でも、どうしたって優秀な姉には届かず、平均点を取っていても落ちこぼれ扱いされる日々。勉強以外でこれといって得意なこともなく、全部平均。もし運動だけでも得意だったらお母さんに褒められていたのかな、最近運動が得意なクラスメイトを見ているとそんなことを思うことがある。部屋に戻ったら今日の復習でもしてから寝ようかと思っていたので、机の上に参考書とノートを広げておいたのだが、さっきのを聞いて完全にやる気を失った。明日は休みだし夜更かしでもしようかと思ったが、なんだかこの家にいること自体が嫌になって足音を立てないように家を出た。財布とスマホがあったら何とかなるでしょ、そう思いながら私は最寄り駅へ向かった。まだ九時なので、駅のホームには人がいてにぎわっており、夜だったけど一人でも怖いという感情は全然なかった。私の通う高校はここから三つ隣の駅の目の前にあってすごく立地が良い。私がこの高校を選んだ理由の一つといっても過言ではない。いつも学校が終わってからは学校の自習室で勉強するか近くのカフェで勉強してから帰るから、たまにはほかの駅まで行くのもいいかななんて思って、二駅分電車に揺られてみた。10分ぐらいで到着して改札を出てみると、うちの近所とは比べ物にならないくらい都会で圧倒された。飲み屋帰りのサラリーマンや、カラオケ終わりの大学生など近所では見られない光景が目の前に広がっていた。そんな楽しそうな人たちを見ていると急に悲しくなってきた。私だって頑張ってるのにどうして褒めてもらえないの?優秀な姉の比較対象にされるばかりでどうして楽しい生活を送れないの?小声で吐き出してみてももちろん誰も答えてはくれない。ああ、この先もずっとこんな人生が続いていくんだったら、もう人生なんてどうでもいいかな。今の私に生きてる意味なんてないのかな。もう死んでもいいや。そう思って赤信号の横断歩道に飛び出そうとした。来世では毎日笑える人生を私にください、神様。そのときだった。
「危ない!」
突然誰かに腕を引かれ気づいた時には歩道の上でこけていた。目の前には私と同じようにこけている若い男性。大学生くらいかな。この人が引っ張ったのか。
「ちょっと危ないやんか。赤やのに出てったら」
「すみません。信号見ていませんでした」
「すみませんって。さっきもし僕が助けてなかったら確実にあの世行きやったよ君」
「はい、すみませんでした」
では、と言ってその場を去ろうとすると、
「ちょいちょいこんな状態で帰せるわけないやん。君また同じことしそうやし」
「いえ、もうしませんのでご心配なく」
「いや絶対するって。君さっき信号見てなかったって言うてたけどホントは赤やってわかってたやろ」
私は何も答えることが出来ず、下を向く。
「、、、」
「うわ、その反応絶対図星やん。何があったんか知らんけど、ずっとここで話すのもあれやで移動しようや。夜の街は君が思ってるより危険やでな」
そういって彼は私の手を引いた。ここで、断ってもこの人はどうせ返してくれないだろうから黙ってついていくことにした。見た感じ悪い人ではなさそうだし。
「はい、着いたよ。ここ、僕がやってるカフェ」
そう言って案内されたのは大通りから少し離れた場所にあるこじんまりとしたカフェだった。カフェゆるりという名前らしい。
「もう今日は閉店してお客さんはおらんで好きな席座ってええで」
「好きな席って言っても、片手で数えられるくらいしかないけど」
独り言で言ったつもりだったが、彼の耳にはしっかり届いていたらしくこちらを睨みつけてくる。あ、やば。
「ん?なんて?席が少ない?こじんまりしてるからいいんや。お子様には分からんかなー」
睨みつけてきたかと思ったら、今度は子ども扱いして反撃してきた。小柄なせいで昔から幼く見られがちだったけど、残念ながらそれは今も継続中みたい。もう高校生なんだけど。はあ、とため息をつきながらなんとなくカウンター席に座ることにした。
「お、カウンターにするん?そんなに僕に話聞いてほしいんかー」
やっぱりこの人腹立つから、向こうの席にしよう。そう思って立ち上がる。
「え?ごめんって冗談やんかー」
そう言う彼を見て少し笑ってしまった。
「あ、やっと笑ったな」
そう言われて顔を上げると、彼はさっきまでとはまるで違う真剣な表情でこちらを見ていた。そうか、私を笑わせるために冗談言ったんだ。彼の言う通り私はまだまだ子供かもしれない。
「あ、飲み物何がいい?そこにメニューあるやろ?決まったら教えてやー」
メニューってこれか。メロンソーダ、オレンジジュース、カフェオレ、コーヒーとかいろいろあるけど、私はやっぱりこれ。
「あ、あの、メロンソーダでお願いします」
「メロンソーダね。すぐ出来んでちょっと待ってな。じゃあ僕も今日はメロンソーダにしよっと」
勝手にしてくれ。まさかこの人一緒に飲むつもりか。まあカウンターだしそうなるよな。つい数分前カウンター席を選んでしまった自分の選択を今になって後悔する。そんなことを考えているうちにメロンソーダが二つ置かれた。ファミレスやカフェなど、外食するときは必ずと言っていいほどメロンソーダを注文する。なんでかって?小さいころカフェで飲んだメロンソーダがとっても美味しくて、その日からメロンソーダにハマったから。あの味は一生忘れない。3歳とか4歳のころの話だからあんまり覚えてはいないけど、あのカフェもここと似たようなつくりだった気がする。まあ、気のせいだと思うけど。
「よし飲もーや。はい、かんぱーい!」
「乾杯、、、」
「あ、言うの忘れとったけど、僕立花鶴樹(つるぎ)。大学2年生。一応ココの店長やってるで」
「ホントに店長さんなんですね」
「それどういう意味?」
「別に深い意味はないんですけど、あんまり店長っぽくないというかなんというか」
「深い意味ありまくりやん。まー別にええけど」
「なんかすみません」
「いいって。全然気にしてへんから。で、君の名前は?」
「佐野彩弥華(あやか)です。高校2年生です」
「待って高校生なん?ガチで中学生やと思ってたわ。ごめんごめん」
「そこに関してはいつものことなんで大丈夫です。気にしないでください」
「そっか、高校生ね。で、本題に入るけど、なんで夜に一人でおるん?しかも道路に飛び出したりなんてして」
「それは、、、」
「あー言いたくなかったら言わんでええよ。無理に聞かんから」
「私、優秀な姉がいて、いっつも比べられるんです。今日も母が私のいないところで姉を褒めて、私だってちゃんと勉強して一応平均点は取れてるのに彩弥華は落ちこぼれって言ってるの聞いちゃって。」
「そっか」
「いつもなら直接言われても聞き流せてたんですけど、今日はそれができなくて。何も言わず家飛び出してきちゃいました。それでもう人生なんてどうでもいいやと思って赤だってわかってて飛び出そうとしたんです」
「ふーん」
「なんか冷たくないですか。こういうときって嘘でも慰めたりしません?」
「彩弥華ちゃん、別に慰めてほしいわけじゃないやろ?」
「、、、」
「普通の人やったら、辛かったねとかあなたは何も悪くないとか言うんやろうけど、そんなん言うても何も解決せんやろうから僕はそんなこと言わんよ」
「そうですか。変わってますね」
「よく言われるで。ってそんなことはどうでもよくて、彩弥華ちゃんもしかしてまだ死のうとか考えてるんちゃうやろな?」
「まぁこのまま生きててもって感じなので」
「そっかー。じゃあさ、死ぬのちょっと延期しやん?」「は?」
「僕さー、死ぬまでにやりたいこといっぱいあるんやけど、一人じゃできひんから手伝ってほしいんよ」
「いやいや他を当たってくださいよ。なんで私なんですか。初対面ですよ」
「だって彩弥華ちゃん、暇そうやん」
そう言って鶴樹さんはニヤッと不穏な笑みを浮かべた。
「私が暇?ふざけないでください。毎日勉強で忙しいんですよ。私の話聞いてました?姉に少しでも追いつけるように頑張ってるんです」
「でも、勉強しかすることあらへんのやろ?僕は人生勉強だけじゃないと思うんよ」
「私だって遊園地行ったり、カラオケ行ったり、映画見たり、ゲームセンターで時間潰したり、普通の高校生みたいに遊んでみたいですよ。でも、そんなことは将来役に立たないからって母は言うので、なかなかできないんです」「でもやりたいことはあるんやん。やったら、それやらな後で後悔するのは自分やで」
「そういうものですか」
「そういうもんやで」鶴樹さんはじっとこちらを見て口を開いた。
「あのな、実は僕の命を絶とうとしたことがあるんよね。見ての通り今はもうそんなこと考えてないけどね」
「え?」
衝撃だった。こんなポジティブバカの権化みたいな人なのに。そんな過去があったなんて思いもしなかった。
「今意外って顔したやろ?こんなポジティブバカでもそんなこと思うんやって」
「はい」
「即答やん。ていうか、ポジティブは嬉しいけどバカは否定してや」
「すみません。つい本心が。でもなんで死ぬのやめたんですか?」
「うーん、上手くは言えんけど、やりたいこといっぱいあるなって思って。まず、大学行ってキャンパスライフエンジョイするやろ?そんで、カラオケで朝までオールしてあとは1回くらいアイドルとかのライブも行ってみたいし、それからあとは彼女も流石に欲しいし、スイーツパラダイスも行ってみたいし、それから、、、」
鶴樹さんは止まることなくしゃべり続ける。
「わ、わかりましたから。そのくらいで大丈夫です」
「ごめんごめん、ついしゃべりすぎたわ。でも僕の熱意伝わったやろ?こんなんしたい、あんなんしたいって考え始めたら自分から死ぬなんて馬鹿馬鹿しいなって思ったんよ」
「そうでしたか」
「でそれを君に手伝ってほしい」
「まぁそこまで言うなら良いですけど、また私死のうとするかもしれませんよ?」
「それなんやけど、頼むで一年は延期してや。一年経っても気持ちが変わらんかったら僕はもう止めへん。というか、多分止められへん、、、」
そこで鶴樹さんは言葉を止めた。
彼の言葉に少し引っかかるところがあったが、彩弥華はそれ以上聞くのはやめ、気まずくならないよう話題を変えることにした。
「あの、鶴樹さんって関西の方なんですか?」
「えっとなー、生まれたんはこの辺なんやけど小学校の途中から高校まで親の転勤で関西におったんよ。それで関西弁に染まってしもたってわけ。結構頑張って方言出さんようにはしとるんやけど」
言ってるそばから方言丸出し。この人本気で自分が関西弁話してないと思ってるのか?
「彩弥華ちゃんって小学校どこ?」
急に話題をふられた。
「如月小学校です。もしかして知ってたりします?」
「知ってるも何も僕も如月小学校やからね」
彼はそう言ってニヤッと笑った。
「え?」
「すごい偶然やね」
「3つ上かー。一人しか知ってる人いないです。昔よく遊んでもらってたんですけど、急に転校しちゃって。名前まではよく覚えてないです」
「そっか、僕の同級生に知り合いいたんやね。僕らもしかしたらしゃべったこととかあったりして」
「それはどうでしようね」
なんてたわいもない会話をしているうちに日付が変わっていた。
「わ、もう12じやん!彩弥華ちゃん帰ろ。おうちの人心配するやろ?」
「うち父は単身赴任で家にいなくて、母は明日、というか今日は確か朝早くから仕事って言ってたと思うのでもうとっくに寝てると思います」
「だからまだ大丈夫ですって?そういう問題じゃないんよ。ほれ、家まで送ったるから帰る準備しーや」
「電車で帰れる、、、あタクシーで帰れるんで大丈夫ですよ」
「彩弥華ちゃん、タクシー乗ったことあるか?めっちゃ高いで。やめとき」
「でも鶴樹さんに迷惑かかるんじゃ、、、」
「僕が乗せてくっていうてるんやから迷惑なわけないやろ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えてよろしくお願いします」
「ハイハイおまかせあれ。道案内だけ頼むなー」
去年免許を取った直後に親に買ってもらったという淡い青色の車に乗せてもらった。帰り道も話題が途切れることはなく、家までの数十分が一瞬だった。
「今日はほんとにありがとうございました。またカフェ行ってもいいですか?」
「もちろんええでー。いつでも話聞くでな。じゃあまた」
そう言って鶴樹さんは手を振りながら帰っていった。

