どん底にいる障がいを抱えている子とトップアイドルの恋の病の恋愛ストーリーが今、始まる。

風吹く中、窓ガラスがガタガタと揺れる。そんな中、仕事もなく、恋人もいなく、ただあったのは、没頭出来る趣味程度。
「あー金かかる、でも働きたくねーし、どうしようー」
「あんたね、いい加減、働きなさいよね、障がいなんて今更言い訳にならないんだからね」
 母は厳しかった。
 俺はもうすぐ三十、もう自分でも働かなければいけないということくらい、心の中では十分分かっているはずなのに、今まで家で食べて寝てを繰り返してきたせいか、その癖が付いてしまった。
「あーもう!どうすりゃいいんだー!俺はー!」
「単純よ、働きなさいよ、それで終わりよ」
「でもよ、俺には障がいが…」
「そんなの関係ないわよ、障がいがあろうがなかろうが、【古里大我】には、何にも関係ないわよ」
「あーるっせーな、俺だって普通の人みたいに普通に働けるなら働きてーよ、俺の苦労も知らずにベラベラと喋ってんじゃねーよ、このやろー!」
「バタン!」
 俺は勢いよく、怒りと同時に、リビングの部屋のドアを閉めた。
「俺だって俺だって」
 【古里大我】は、覚悟を決め、仕事探しをを開始した。
 俺には頼れる兄と妹が一人ずついたが、頼らずに一人でがむしゃらに就活に一人で挑んでいた。
 当然、障がいもあったこともあり、何社も落ちた。人の倍、落ちた。泣きたいぐらい落ちた。
 そんな中、公園の椅子にぺたりと座っていると自分の目の前にありえない人が現れた。それが俺の推しのアイドル、【七海果林】ちゃんだった…。
「ここいい?」
(え?いきなり誰?)
 この時、まだ俺は真下を向いていて誰が来たのか、分からなかった。
 そして横に来た瞬間だった。誰か分かったのは…。(えっ?俺の推しの果林ちゃん?噓でしょ?これ現実?現実だよね?何度、ハガキや抽選会に応募しても外れた俺の目の前に果林ちゃんが…。噓でしょ夢のよう)
 その瞬間だけはなぜか障がいのことは忘れられた。
「それ、障がい者の?」
「あっはい」
「…へー君も苦労人なんだね」
(有名人も結構、普通のこと口にするんだな)
「ん?何?どしたの?」
「あーいやいや、何でも、ないです」
「ふーん、そう」
「えっ…」
「君困ってるんでしょ?」
「えっ?何で分かるの?」
「そりゃ分かるわよ、その顔見りゃ」
「えっ?」
「んーじゃあ、うちで働かない?」
「えっ?今なんて?」
 この時、【七海果林】もまた、ある病と隠し通し戦っていた。
「だ・か・らうちで働かないって言ったのっ!」
 【七海果林】は、心の中ではすごく焦っていた。それを表には決して見せなかった。自分が今の事務所を辞めた後もちゃんと今の自分と前の辞めた会社をちゃんと考えて支えてくれる人を求めて、【七海果林】は自分の病名も自身がいずれ亡くなることも知っていた。
 【七海果林】は、どこか、暗そうな顔をしていた。
「えっえっ、ほんと…」
「えっ?大丈夫ですか?どこか具合悪いですか?」
「ん?どしたの?何にもないよ、大丈夫、この通り」
「そうですか?いやーでも本当ですか?光栄です」(この俺が今まで、いや、これからも推すであろうアイドル、七海果林ちゃんの近くでお仕事が出来るなんて光栄でしかないよ、全く、俺ってば、もうもう、バカバカ)
「ん?どしたの?」
「あっいやいや、何にも…」
「そう、で?働くの?働かないの?どっち?」
「働きます、もちろん」
「分かったわ、じゃあ私からマネージャーの方には言っとくわね」
「ありがとうございます、お願いしますっ」
「そんなに根気詰めなくていいわよ、これからっていうのに」
「だって、俺…」
「分かってるわ」
「あっはい…」
「全く」
 俺はこの時、この人の下で一生、働こうと心に決めた。
「何?じろじろと、こっち見て、そんなに見ないでよね、恥ずかしいでしょ」
「いや、ずっと思ってたんですけど」
「何?」
「プロのアイドルでもそうやって恥ずかしがることとかそういう気持ちあるんだなと思って」
「そりゃあるわよ、同じ人間だもの」
「そ、そうですよね、ほんとバカですよね俺ってば」
「バカなんじゃないわ」
 【七海果林】が小声でそういうと…。
「えっ?」
「だから、バカじゃないって言ってるのよ、あんたは」
「どういうことですか?気になります」
「とにかく、仕事のスケジュールはメールで送るからまた明日ね、これは内緒ね」
 【七海果林】は、【古里大我】の頬に軽くキスをした。
「またねー」
「あのー今の…」
「キー」
 そこにいきなり荒い運転をした一輪の自転車が通った。そのせいで俺はさっき程のキスの意味を聞くことが出来なかった。
「あぶねーな、てめえ、轢かれてえのか?」
「あっすいません」
「わかりゃあいいんだよ」
 気付いた時にはもう【七海果林】はいなかった。
「そうだよな、さすがにもう…いないよな、俺もとりあえず家に帰るか」
 でも、なんだか嬉しかった。久しぶりに人の温かさと光に浴びたような感覚を味わったような感じがして。ウキウキ気分を隠せずに外から家の中まで入ってった。
 陽気な息子を見て母は一言、言った。
「仕事はどうしたの?受かったの?」
「ふーんだ」
 【古里大我】は、母をガン無視した。
「ちょっと無視しないでよ、人が話してる時に、話ちゃんと聞きなさい」
「ふーんだ」
「変な子ね」
「まあ、いいことがあったんでしょ、きっと」
「それでも…」
「あすか…」
「何?」
「あすかはそれでもいいの?兄ちゃんがだらしなくても」
「んー別に、私の人生には関係ないもん、一切」
「あんたたち、ほんとに家族?それでも」
「家族だよ、だからこういう風に一緒に住んでるでしょ?嫌なことがあってもさ」
「そういう意味だ言ったんじゃ…」
「じゃどう言う意味?」
「でもね、私は嫌いな兄貴たちのようには絶対にならないから、それだけは約束する」
「自信はあるのかしら?」
「あるよ」
「そう」
「うん、それならいいわ」
 静かな空間の中、【古里大我】の陽気な鼻声が部屋からリビングまで、届いていた。
 次の日…。
「七海果林」さん入りますー」
「お、大我どこ行くの?」
「どこでもいいだろ、とにかく急いでる、行ってくる」
 寝坊して職場に五分遅れて到着してやってきた、【古里大我】。
「すいません、遅れました」
 【古里大我】は、深々と謝罪のお辞儀をした。
「ちょ、ちょっと君、カメラに写ってる」
「はい、カット!もう一度」
「困るよ、いきなりカメラの目の前に出てこられると、君」
 今日は、【古里大我】の初の仕事ということもあり、【古里大我】はとても緊張していた。特に有名な人に囲まれながらの仕事は。
 そして推しの仕事を生で見れるということもあり、チャンスしかない状況、同じ現場人としてここからは恥じない仕事をしなければ。そして、【七海果林】ちゃんの初MC番組。すごく楽しみだと早々から思った。
(おっ、ついに始まる)
「果林の甘々、果汁旅ー‼始まるよー!」
 パチパチパチパチパチ
 現場は、拍手と笑顔と癒しで包まれ覆われた。
 そして収録が終わり…
「果林ちゃん~よかったよ」
「はい」
「今日も良かったよ」
 色々な方からお菓子を貰う、【七海果林】。
「おーさすが、七海果林様ってとこかな」
「いや、まだそれだけじゃないぜ、果林ちゃんは」
「何?まだ何かあるのか?」
 そこに多数の映画やドラマの指導をしている監督が現れる。
「あ、あの監督は…‼」
「よく見てろ」
「おう」
「果林ちゃん、これもどうぞ」
「えー‼」
「さ、さすがだな果林ちゃん」
「果林様な、呼ぶ時は」
「皆に慕われてるんだなって見てて思うよ、ほんと、だから俺ら凡人からは近寄りがたいんだろうなって思う」
 ふと、小声で【古里大我】も呟いた。
「そうなのかもしれない」
 と。
「え?今お前、なんか言ったか?」
「あーいえいえ何にも」
「へへ、こいつらオタクのくせして何にも俺より果林ちゃんのこと何も知らないんだな、笑える、オタク辞めろや、マジで」
「ん?なんだまた何か聞こえてきたような気が気のせいか?何か言ったか?」
「いや俺は何にも」
「じゃあ空耳か何かか」
「あぶねー聞こえなくてよかったーセーフ」
「ねえ、そこの子、ちょっといいかしら?」
「やべっ聞こえてた、ごめんなさい、どうか許して」
 【古里大我】は直後の声に焦った。
「何言ってるの?君にちょっと話があって来たんだけど」
「なんだ、俺の勘違いか」
「…?何一体?」
「いや、何でもないよ」
「そう」
(怪しまれずに済んでよかった~)「うん、で、君は?」
「私は果林と同じグループの小泉千冬よ、分からないの?」
「あーそうだったね、そう言えば…」
(確かに、こういう子もいたかも…」
「あっそう言えば、あの子の秘密、知ってる?」
「あの子?秘密?」
「君は一体何を言っているんだ?」
「あーもう、何?私は君っていう名前じゃない、ちゃんと名前がある」
「あっ、それは悪かったよ」
「もういいわよ、その代わり君じゃなくて名前で呼んでよね、次からは」
「でも、俺は果林しか名前で呼ばないって心に決めてるんだ」
「へーしょうもない理由ね」
「しょうもなくなんかない」
 と返事を返すと、とある写真を【小泉千冬】から見せられる。
「これでどう?言う気になった?」
「それ、どこで?」
「えっ?どこでって分かるでしょ普通」
 それは、公園で【七海果林】にされた時の一枚のキスの写真だった。
「それ、今すぐ破いて捨ててくれ、頼む」
「えー何でーいいじゃん、私が持ってても、ねっ?だめ?」
「駄目に決まってるだろ、今すぐ破いて捨てろよな」
 と言い、【古里大我】は、【小泉千冬】から写真を取り上げ、すぐに破り捨てた。
「ざんねーん、まだこの端末の中に残ってるんだな、これが」
「馴れ馴れしいぞ、お前」
「その態度はないんじゃないの?大我君」
「クズが…」
「いいのーそんなこと言って、だめじゃない、ちゃんとお願いする立場なんだから、ほら!土下座」
「立派なクズだな」
「芸能界っていうのはこういうもんじゃ済まないわよ、ははは、またね、大我君」
「クズやろー待てー
「どうしたの?」
「ビクビク」
「そんなに怯えて」
「おまえは誰だ?」
「私はリムだけど」
「リム?リムってあのリムか?」
「そうだけど…いきなり何?」
「俺に力を貸してくれ」
「力はないけど…どうすれば?」
「違う!その力じゃない!リム、俺らは今からある奴に復讐する、力を二人で使う、いいな?」
「え?どういう…こと?」
「まず、アイドルなのにすまんが俺と偽装恋愛をしてくれ」
 と【古里大我】は、アイドルで人気上昇中のグループにいるリムに頼み込む。
「偽装恋愛?」
「偽装恋愛だ、駄目か?」
「別にいいけど」
「じゃあ決まりだな」
「うん」
「じゃあ早速」
「千冬の奴が見てるかもしれないから早速…」
(えっ何々、いきなり、キス、じゃないわよね?)
「恋人繋ぎだ、なんだ、びっくりした顔近かったから思わず…」
「はあー手繋ぐだけかー」
「ん?なんだと思ったんだ?逆に?」
「…いや…別に何にも」
「あーそういうことね、キスだと思ったんだろ?」
「思ったわけないでしょ、全く」
「可愛いやつだな」
「ひぃ、今なんて?」
「え?ただ単に可愛いと」
(可愛いですってーキャーもうもう一回言ってーお願い)
「ほら、行きますよ、お姫様」
「キャー」
 リムは完全に妄想状態に入っていた。
「おい、リム、リムってば」
「はっ、私は何を?」
「はあーそれでもアイドルか?」
「…ごめん」
「まあいい、今日はここまでだ、ありがとう」
「こちらこそ、あのさ…」
「…ん?」
「また会ってくれる?」
「もちろんだ、この復讐が終わるまではな」
【古里大我】は、【リム】と別れた後のことだった。
「ふふっ良いもの、見ちゃったわね、これを上に報告すれば、私は…」
 と、
「キー」
 いきなりすごい響き音がが道端から鳴り響いて来た。
「こっちだ、もしかしたら千冬の奴が…」
そこにいたのは、事故に遭って倒れこんでいた【小泉千冬】だった。【古里大我】は、放っておくことが出来ず、一緒に救急車で近くの総合病院までついて行った。
 そこから、陰で【小泉千冬】の看病をし始めた【古里大我】。
 最初は面会などを拒否されていたが、徐々に【小泉千冬】は、心を開き始めた。この二人は実は高校の時の恋人同士だった。二人は次第に連絡を取り合う中になり、あの端末の写真もなかったことにしもらい、二人はだんだん心惹かれていく。その際、仕事・【小泉千冬】のスパイとして動いていた【古里大我】は、スパイの仕事を次第に辞め、仕事一本に絞り、【七海果林】に会う機会も自然と減っていた。【古里大我】は、会える時は、【小泉千冬】に病院にまで会いに行く、一途な人だと誰もが思っていた。しかし…そんな中だった…。
 病院内で検査に来ていた【七海果林】に会う。
「果林…」
 付き添いに来ていたのはなんとリムだった。
「リム、何でここに?」
「だって元同じグループだからって頼まれたの」
「へー誰から?」
「うちのプロデューサーもーまじない」
「それはないんじゃないの、リムちゃん、で?そっちは?」
「え?俺?」
「うん、ようがなきゃ来ないでしょ?」
「あー確かにな」
「んー弟、弟が入院しちゃってさ、それで」
「そっか」
 その時【七海果林】は、【古里大我】の右手に持っているカルテを見た。そこに書いてあったのは、【小泉千冬】の名前だった。
「そ、そうなんだね、大我君」
「お、おうよ!」
「なーに、すごい汗だけど」
「べ、別に汗なん」
「いいよ、行こ、リムちゃん」
「…?おかしな奴ら」
「何で逃げたの?好きなんでしょ、彼のこと?好きじゃないなら私が奪うよ?いいの、それでも?」
「そ、それはちょっと待って…」
「分かったよ、私も彼のこと好きだけどもうちょっと待ってあげる」
「いいの?」
「うん、なんだかもう一人いるみたいだしね、彼のことが好きな人が」
「えっそれ知ってて」
「いや、知らないわよ」
「じゃあ何で?」
「女の勘ってやつよ」
 がらがらー
「お待たせ~待った?」
 それは、もうすでに【リム】の勘によってバレていた。
「行くわよ」
「えっどこに?」
「いいから!ついて来て、すぐに分かるから」
「え、えーだからどこ行くの⁉」
「強行突破‼」
 そしてとある病室の目の前で、二人は止まり、荒い息と、深い深呼吸と、ドキドキという鼓動の音が病院の静かな誰もいない廊下に響き渡る。
「行くよ、果林」
 というと【リム】は、【七海果林】のギュッと手を握りしめた。
「う、うん」
「相手を確かめに」
「うん」
「がらがらがらー」
 二人はドアを勢いよく開けた。
「やめてくれ、何なんだ一体あんたらは?何が目的だ?」
 この時すでに、【古里大我】の脳は、【小泉千冬】、一色になっていた。
「…?」
「何?その顔、大我をこうまでさせといて、犠牲者ぶってんの?」
「大我もかわいそうね、こんな女にここまでさせられて」
「そんなんじゃない」
「じゃあ何なの?ただの手助けっていうの?」
「いや…それにはちゃんと理由が…」
「じゃあその理由、聞かせてもらおうかな?ちゃんと」
「分かった分かった、言うから」
「よろしい」
 そういうと目に涙を浮かべ、【小泉千冬】の方を見た。
「言わないで、お願い」
 小声で聞こえてくる【小泉千冬】の声の目の前に圧立つ【リム】と【七海果林】。
「ごめん、やっぱ今は無理」
 と、その場から【古里大我】は、逃げた。
「あっ逃げるなー」
「後で絶対に言うから、待っててー」
 【リム】と【七海果林】は、逃げた【古里大我】を追った。
 その数日後、【小泉千冬】の容体は悪化し、【小泉千冬】は亡くなった。
「あの日がまさか最後になるなんて思わなかった…」
「なんかごめんね」
「いいよ、あの時のことも全部今なら話すよ」
「…う、うん」
「無理しなくていいよ、別にもう聞いたってねえ?果林」
「う、うん、そうだね」
「そうか…」