伝えるには言葉しかないだろ


・【09 生きろ、と、死ぬな】


 ここで終了といった感じだ。
 真梨子もこっちに合わせて『プシー』と締めた。
 最初に喋り出したのは芽以だった。
「いやでもやっぱりダロのラップ、前より明るくなったぜぇ、アタシみたいにぃ」
 それに対して、俺は普通に返答する。
「全然そんなことないし、芽以のマネじゃない」
 芽以はやけにニヤニヤしながらこう言った。
「それは知ってるわぁ、アタシのマネじゃなくて、この真梨子という女子と一緒にいることで変わったんでしょぉ?」
 俺は少しイラッとしたのでハッキリ言ってやった。
「そういうことじゃないし! そもそも俺は何も変わっていない!」
 と、言ったところで芽以はそんな簡単に折れるようなヤツじゃなくて、
「まあまあ見解の相違ってこともあるでしょう、人間だから」
 と言うだけで、何か、また腹立ってきたな。
 そんなところで真梨子がこんなことを言い出した。
「芽以さんもラップ巧いんですね! ソロ曲とか聴いてみたいです!」
 ……真梨子って単純にラップが好きなんだな、まあいいか、確かにそっちの流れのほうが良さそうだ。
 俺も同調して、
「久しぶりに芽以のラップを聴かせてくれよ、オマエの楽しいを増やすラップとやらをな」
 芽以はフフンと笑ってからこう言った。
「いいよ、ただその後はダロ、オマエの死ぬなラップも聴かせてくれよな」
「当たり前だ、ブラッシュアップした曲を聴きかせ合おう」
 俺がそう言うと、真梨子はこんなことを聞いてきた。
「楽しいを増やすラップって何?」
 俺は答える。
「聴けば分かるだろうけども芽以は”生きろ”がテーマで、俺は”死ぬな”がテーマなんだ。基本的に」
 真梨子はう~んと首を傾げながら、
「一緒、じゃないの……?」
 と言ったので、そこは俺と芽以はハモって、
「聴けば分かる」
 と。
 真梨子はまだ納得いっていないようだけども、うんうんと頷いた。
 芽以はマイクを持って、スマホから曲を流し、ラップを始めた。

《芽以》
世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
逢いたい輝きに満ちた未来 もっと楽しく生きたい愛
世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
抱き締めていこう、多くの愛を 心と体が躍るよ、舞いを

ちょっと休んでしてみる読書 楽しさ浄化で消えてく毒素
やってみようか好きな勉強 無理だ天井なんて無い、クリア・連勝
みんなでだべって笑ってトーク いろんなテーマで語ってオール
ボケてツッコミ、お笑いさん 極限まで楽しさを拘りなっ!
たまには気分転換、行こう旅行 予定決めたら、起動怒涛
行った先々時折キャンプ 野山が躍る、色とりどりダンス
食材集めて創作料理 何でも当たりで昇格・勝利
動きたくなったら何でもスポーツ すごく嬉しいエモ・ストック

世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
逢いたい輝きに満ちた未来 もっと楽しく生きたい愛
世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
抱き締めていこう、多くの愛を 心と体が躍るよ、舞いを

ボタン一つですぐにテレビだ 映してバラエティ、映して映画
目の前華やかパーティだアニメ 子供っぽいとか関係は無いね
楽しく自分のペースでマンガ アタシのセンスにエース妬んだ
思い切って描いてみるイラスト 実は才能が咲いている自覚を
世界と繋がるネット、SNS 自分は一人という滅裂消す
チェックしようユーチューター 発想力はとんでる空中だっ
全世界分かる全ジャンル音楽 時に体動かし、ダンス本格
落ち着きつつも熱くなるゲーム 準備して、勝つ向かうセーブ

世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
逢いたい輝きに満ちた未来 もっと楽しく生きたい愛
世界はたった一つじゃない 広がっている、いろんな愛
抱き締めていこう、多くの愛を 心と体が躍るよ、舞いを

 芽以のラップを聴いた真梨子はこう声を上げた。
「何だか瑞々しくてカッコイイ! いろんな単語が出て楽しいです!」
 まあ確かに芽以のラップは華やかだ。
 さすがに”生きろ”ラップだけある。
 だが、俺だって負けてはいない。
「芽以、俺だって常に進化しているんだ、聴いてくれ」
 すると芽以はニコニコしながら、
「よっしゃ! ダロのソロ! 聴かせてくれ!」
 と叫んだ。

《ダロ》
つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも腐らない若さ 死なない、それだけで無駄が無い宝
つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも塞がない仲間 死なない、それだけで無駄が無い宝

泣いたカラっぽ、でも消えないでくれ そんな簡単には死ねない鉄で
あってほしい、心を強く強く保持 人生は長く太く駆動をし
苦労してばっか、都合見てばっか でも自分を信じて苦笑消え去った
そうでありたい、今日で勝ちたい しかしそれにはまだ問う目、足りない
試行錯誤と自問自答 憧れの人を見本起用
知ろう、まだ終わってないことを 時計の針は止まってない心
音を作ろう、自分の中に 努力怠らなければ、紫雲瞬き
時空闘い、待たない精神で 自分が思う悪には逆らい全身で

つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも腐らない若さ 死なない、それだけで無駄が無い宝
つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも塞がない仲間 死なない、それだけで無駄が無い宝

泣いたカラっぽ、でも消えないでくれ そんな簡単には死ねない鉄で
時には挫けず、強固で頑固 自分からしたら王もセカンド
自分本位で脇目を振らず走れ 絶対に勝利を掴む愛で
アイディア出す、買い手は増す 来世はやるじゃなくて今、踏ん張るんだ
噴火積んだ熱いエンジン 脳内はクール、策士牽引で
全神経フル活用して挑む闘い 自分とは違う異国抗い
儚い存在にはなりたくない 絶望の道への採択無い
枠内で常に真剣、裏が無い体 壊れた世界は占わないからさ

つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも腐らない若さ 死なない、それだけで無駄が無い宝
つまらない輩、くだらない若さ 塞がない馬鹿さ、歌が無い、まただ
でもそんな困難にも塞がない仲間 死なない、それだけで無駄が無い宝

 手を叩きながら喜んだのは芽以だった。
「昔より押韻の量が増えたし、意味もまたいい感じになったな!」
 まあ褒められて悪い気はしないもので。
 それに対して、やけに自慢げなのが真梨子だ。
「ダロさんはすごいんですよ! ランドセルが爆発するくらいすごいんです!」
 それに俺はツッコむ。
「ランドセルが爆発するヤツはむしろダメなヤツだろ、それに高校生がランドセルの時点でダメだろ」
 ここで真梨子からの反論。
「いやもうランドセルが爆発って、科学の扉だから良いこと!」
 しかし俺も負けじとツッコむ。
「ランドセルって爆発させちゃダメなヤツだから、絶対ダメなほうだろ」
 と言ったところで芽以がニヤニヤしながらこう言った。
「というかダロってまだランドセルだっけぇ?」
 俺は少し不愉快になりながらこう言う。
「そんなわけないだろ、俺も今は芽以と同じ高校生だよ」
 そんな会話を聞いて、真梨子はビックリしながら、こう言った。
「えっ! 芽以さんは大学生じゃないんですか!」
 芽以はやれやれといった感じにこう言った。
「アタシは今が一番伸び盛りの高校生だよ、高校二年生でダロよりは一学年年上だけどな」
 それに対して真梨子はあっけらかんと、こう言った。
「何かちょっと年上感あって絶対大学生だと思っていました」
 芽以はムッとしながら、
「お姉さん的ならまだしも、年上感じゃちょっと頂けないなぁ」
 別に年上感でもお姉さん的でも一緒だろ。
 まあ、
「言い方なんてどうでもいいだろ、ラップの世界は巧いか巧くないかだけだからな。巧ければリスペクトすればいい話だから」
 芽以は腕を組んで、偉そうに頷きながら、
「そうそう、ダロはアタシのことをリスペクトしている。真梨子とやらもアタシのラップをリスペクトはしてくれてそうだ。それだけで十分だ」
 いやでも、
「話の流れでそんなことを言っただけで、俺は別に芽以のことリスペクトしていないぞ」
 芽以は拳をあげて、デカい声で、
「なんでだー!」
 と叫んだ。
 いや何でだって、
「実力同じくらいだからだろ」
「全然違ーう! アタシのほうが数段上ー! 耳腐ってんのか!」
「頭が狂ってるんだよ、芽以のほうが」
「どこも狂ってないし! 超正確だし!」
 真梨子はそんな言い合いを黙って聞いているような女子ではなく、
「いやでも私はダロさんのほうが正しいと思います!」
 そんな屈託の無い笑顔で放たれた真梨子の言葉に芽以は一瞬怖気づいてから、
「ぅ……いやこれはただの二対一なだけだー!」
 そう言って走ってその場を去っていった。
 帰り際、別れ際が悲しっ、と思ったが、まあどうせまた何かあれば、否、何も無くても会うヤツだから今日はこれでいいだろう。
 と、思ったら真梨子が追いかけて、すぐに芽以を捕まえた。
 捕まえられた芽以は驚愕の表情をしていた。
 まあ芽以も運動神経良いほうだけども、真梨子は段違いだもんな。
 初見なら驚いて当然だよな。
 芽以は言う。
「何なんだ! 何なんだ! このまま逃げさせてくれよ!」
 真梨子は芽以を俺のいるほうにグイグイ引っ張りながら、こう言った。
「せっかくなんでメアド交換しましょう」
 あぁ、なるほど、連絡先を交換しときたいのかと思って見ていると、芽以がしっかり振り返ってこう言った。
「SNSでいいでしょ、メアドって今時交換しないでしょ」
 真梨子は少し俯きがちに、
「私、SNSとかLINEとか、出来ないケータイなんです」
 真梨子は目を皿にしながら、
「どういうこと? 高校生なのにおじいさんケータイ使ってんの?」
「あの、キッズケータイです」
 芽以は甲高い声を上げながら、
「それってネット検索とか出来るヤツぅっ?」
「ネット検索は出来ないんですけども、メールと電話は出来るのでっ」
「変わってるぅ! この子ぉ!」
 そう真梨子を指差した芽以。
 まあそれは俺も思うけども、そういう家庭の方針なところもあるはあるんじゃないか? 知らんけど。
 芽以はちょっと笑いながら、
「ということは二人ともSNSはしていないって感じかな? ダロは怖がりだしぃ、ビビりだからなぁ!」
 と見当違いなことを言ってきやがった。
 俺は溜息をついてから、
「俺がやっていない理由は面倒なだけだから。それにSNSをやるようなセルアウトなことも嫌だからな。そういう売れ線狙いのセルアウトは」
 そう返すと、芽以は上から目線な感じでこう言った。
「いやでも実際SNSイジメみたいなモノもあるわけだからさ、ちゃんと知らないと曲作れなくなるぞぉー」
 俺はその言葉にビクンと体が波打った。
 SNSイジメなんてものもあるのか、そういうネットの事情には正直俺は疎いから分からない。
 というかそれって、
「SNSイジメって、こう、有名なモノなのか? あるあるというか」
 俺の急な質問に芽以は少し戸惑いつつも、
「いやっ、あるよ、今問題になってるでしょ。本当にそういうのちゃんと調べたほうがいいぞ、自分で。アイツが手伝ってくれているかもしんないけど、自分で知ることも本当に大切だからな」
 芽以が役に立つなんて百億年ぶりだな。
 もう少し質問しておくか。
「芽以も何か嫌なことされたりしているのか」
「まあ女子は特にクソリプがすげぇからなぁ、セクハラというかそういうの。だからえっと、真梨子で合ってるよね? 真梨子はSNSやらないほうがいいかもねー、一応美人だし」
 そんな軽いお世辞に照れている真梨子はどうでも良くて。
 いやでもそうか、何か良くないことがあるらしいな、それなら、
「じゃあ分かった、俺もSNSをやるし、SNSイジメの情報を俺にくれ。それをディスったラップをやるから」
 俺がそう言うと、芽以が笑いながら、
「お、ダロ、ネットデビューじゃん」
「いやネットデビューって何だよ、別にそんなたいそうなモノにはならないだろ、セルアウトは苦手だし」
 するとここで真梨子が口を挟んできた。
「セルアウトって何でしたっけ? 前にダロさんに説明してもらったはずなんですけども、馴染み無い言葉なので忘れちゃったっ」
 芽以はう~んと唸ってから、
「まあ売れ線とか、売れようとする姿勢って感じかな」
 俺は芽以の言うことに同調しながら、
「客に媚びを売ること」
 と答えると芽以が、
「あー、まーそういうことだねぇー、SNSやっただけでそうなるわけじゃないけども」
 俺も同調しながら、
「まあやった”だけ”では、な」
 と”だけ”を強調して言うと、芽衣は急にニヤニヤし始めたと思ったら、俺のほうを見ながら、
「でもダロは硬派過ぎるから逆に意外とバズるかもなぁ、ラップ音源をネットにアップロードしろよな」
「えっ? 俺、ネットにラップ動画あげるのかよ」
 芽以は何故か得意げに、
「いやラッパーがSNSをしたら、音源アップするに決まってるでしょ。アタシもリポストしてやるから安心しな。一応こっちは五桁のフォロワーがいるからさぁ」
 リポスト?
 何かよく分かんない単語も出てきたが、まあSNSイジメをディスる曲作りという目標も出来たし、頑張っていくか。
 その日の夜に俺はアカウントを作り、芽以のアカウントをフォローというヤツをして、そこからDMとやらで芽以と情報を交換して夜が更けていった。