伝えるには言葉しかないだろ


・【05 運動音痴を笑う連中へ】


 真梨子はずっと黙ってこっちを見ている。
 さすがにまだまだ不完全なヒューマンビートボックスをする気は無いらしい。
 流れを察してか一発ギャグもしない。
 俺はまたいつもの通り、アカペラでラップを開始した。

《ダロ》
得手不得手の不得手 ばかり見るヤツが増えて
嫌になる思い詰めて 今日も人は冷てぇ
じゃつまんない、不安毎 楽しいことが浮かばない
だから嫌な言葉は使わない そうすれば無駄は無い

別にいるだろ運動音痴くらい それをわざわざイジるて今日日つらい
どう考えても古くて令和じゃない イジメをするにもテーマ、ダサい
課題ばかりだオマエらの脳内 既に崩壊、人間じゃなくて妖怪
増大した自尊心に操られる妖怪だ 人と自分をまた比べる総会だ
爽快か、そんな幼稚な遊びが まるで赤ちゃんや小児な囲いだ
自分はすごくて運動音痴はすごくない そんなこと言うヤツは強くない
動く害、今すぐ黙ってくれ 遊びは他のほうに当たってくれ
分かってくれ、このくらいのことは オマエらは仄暗いよ言葉

得手不得手の不得手 ばかり見るヤツが増えて
嫌になる思い詰めて 今日も人は冷てぇ
じゃつまんない、不安毎 楽しいことが浮かばない
だから嫌な言葉は使わない そうすれば無駄は無い

言ってやれないか、一緒に行こう 楽しい言葉を一挙に施行
思考回路柔らかく、異常態度また躱す 平和で目指す理想無いとただ若く
なるから、しっかり作り出す熟練 真面目にやらないと鬱になる伏線
教えん人がいるのは嫌なんだ 変えるならいつも今なんだ
明日(あす)はカスだ、やるが核だ まずは立つんだ、待つは裂くんだ
自分から行動、異文化は双方 学んでいこう、気運なら上々
と常に思って、手と手を取り合って 不快な発想は外へ追いやって
飛び立っていこう、調和ある未来へ 今すぐ始動、今日が増す視界で

得手不得手の不得手 ばかり見るヤツが増えて
嫌になる思い詰めて 今日も人は冷てぇ
じゃつまんない、不安毎 楽しいことが浮かばない
だから嫌な言葉は使わない そうすれば無駄は無い

 また今日もコイツらは無言で去っていくだけかなと思っていたが、よく喋っていた男子がこう言った。
「何か……ゴメン……そうだよな……オレらってダサかったかもしんねぇ……」
 そうか、そんなこと言うんだ。
 ならば、
「めっちゃダサいだろ、そんなことよりも自分の得意なことで自分で楽しく遊んでいたほうが良くねぇ?」
 よく喋っていた男子は俯きながら、こう言った。
「ゴメン……本当ゴメン……」
「それは俺に言うんじゃなくて・・・」
 と俺が言い切る前にそのよく喋っていた男子は、俺がラップしている間、鉄棒の傍で佇んでいた男子のほうを向き、頭を下げた。それに釣られて他の囲んでいた男子たちも頭を下げた。
 それに対して、鉄棒の傍で佇んでいた男子は困惑しながらも、
「じゃ、じゃあ、もう、いいですから……」
 と言った。
 これで決着かなと思った時だった。
 真梨子が急に声を上げた。
「じゃあ解散!」
 急なバカみたいな一言に俺は何なんだと思ったのだが、その明るい声に鉄棒の傍で佇んでいた男子が笑った。
 そうか、こういう元気な声というのも悪くはないものなんだな、と思った。
 まあ今回たまたま大丈夫だっただけかもしれないけども。
 イジメっ子連中はどこかへ去っていき、この場にはイジメられっ子だった男子と、俺と真梨子だけ残った。
 俺もそろそろいつもの橋の下に戻るかと思ったその時、真梨子はこう言った。
「ねぇねぇ、君、もし良かったら私がスポーツの練習手伝おうかっ」
 そう言われたあの男子は、少し考えてからこう言った。
「ううん、苦手なモノは苦手だから、多分無理かなぁ」
 真梨子はその言葉に間髪入れず、
「私のヒューマンビートボックス聞いてほしいんだ! ぶべぺぺぺぺぇぇえええええぷっ! ほら!」
 そうやってみせて笑った真梨子。
 その男子は小首を傾げた。
 いや俺だってそうだ。
 何を言うんだろう、真梨子は、これから。
「私ね! まだまだ下手なんだよね! だからさ! これがもし上手くなったら君も苦手を苦手と諦めないで私と一緒に練習してほしいんだ!」
 そう言って満面の笑みを浮かべた真梨子。
 戸惑いを見せる男子。
 相も変わらず笑顔のままの真梨子。
 その屈託の無い表情に心を動かされたのだろう、その男子は、
「……うん、分かったよ、じゃあ上手くなったら僕に聞かせて。もし上手くなったら僕も諦めないで、もう少しだけ頑張ってみるよ」
 そう言った男子にザッと近付き、握手をした真梨子。
 多分余計なお節介だ。男子は困っている。
 でもそうやって誰かの太陽になり続けようとする姿勢も決して悪くないのかもしれない、と、俺は少しそう思った。
 まあそんな小難しいこと考えていないかもしれないけど。
 というか考えていないだろうな、うん。
 何はともあれ、この件は一件落着となった。