伝えるには言葉しかないだろ


・【19 真梨子のこと】


 スマホをずっと握っていてしまう。
 ずっと真梨子とのグループLINEを見ていてしまう。
 その時だった。
 なんとその画面が動き出したのだ!
『手術は無事成功しました! 経過観察してから日本に戻ってきます!』
 と真梨子の写真付きで送られてきた。
 俺は間髪入れずに、
『嬉しい! 良かった!』
 と送ると、真梨子からはスタンプと共に、
『語彙消失し過ぎです!』
 という返信がきて、少し恥ずかしくなってしまった。
 そこから俺はなんというか、経過観察というものが気になってしまい、ずっとそわそわしていた。
 なんというか何にも手が付かないというか。すると芽以から、
「暇なら仕事しろ」
 と言われてしまい、その内容というのがデュエットソングを作りたいという話だった。何か急に昭和過ぎるだろ。
「令和でも男子にリードされたい女子はいっぱいいるから、作るんだよ!」
 と芽以から笹木の家で背中を思いきり叩かれた俺。
 あくまで好きな男子にリードされたいという曲で、嫌いな男子からの好意はキモイみたいな曲らしい。
 まあその部分は芽以パートで作るため、俺は基本リードするような曲を作ればいいらしい。
 テーマとして、俺のほうのテーマである伝統色を使うらしく、俺と芽以と笹木で色の辞典を見ながら”曙色”を選択した。
 俺自身は、本当は別の色にしようとしていたのだが、この夜明けというのが良いと芽以が推してきてそうなった。
 まあ夜明けって良い意味だし、それでいいかって。
 曲はすぐに完成し、後日、芽以のVtuterとしてもライブもあるという話なので、俺も参加するかもと思って、その曲の練習を河川敷でしていると、そこに芽以がやって来て、開口一番、
「いや次のライブはアタシのソロステージだから」
 と言われて、俺は即座に、
「あぁ、そうなんだ」
 と返答し、練習を止めようとすると、芽以が、
「だからって練習はしていていいから。いつかダロがやることだから」
「じゃあ次の次のライブとか?」
「まあそんな感じ」
「そんなおぼろな感じじゃなくて、ちゃんと予定を教えてくれよ。何か嫌だろ」
 芽以はう~んと唸ってから、
「まあ別に。というかいつでも万全の状態でいるほうがカッコ良くない?」
「そりゃそうだけどもさ」
 そんな会話をすると、すぐに芽以はいなくなって、何なんだとは思った。
 芽以のライブの当日、俺は関係者席で眺めていたわけだが、俺と芽以が作った曙色は、誰か他の客演の男子とやるわけでもなく終わっていった。
 まあ普通に良いライブだったので良かったけども、そこだけはちょっと気になった。
 俺は時折生配信をしている。ただしスパチャを基本オフにしている。
 そんな金儲けがしたいわけじゃないし、もう真梨子の一件は(経過観察中だけども)終了したわけで。
 スパチャオフにしていることをコメントでイジられることもある……というか、スパチャさせてほしいという声もあるけども、
「自分の人生のために使ってほしい。来てくれるだけで嬉しいから」
 と答えている。だって実際そうだし。
 真梨子の経過観察が終わり、帰国の日。
 俺と芽以と笹木は空港で待っていた。
 笹木が家から出ることは本当に珍しく、俺と芽以も一緒に来ると聞いた時はビックリした。
 笹木は当然の面持ちで、
「普通でしょww」
 と言ったわけだけども、まあ確かに”普通かぁ”と納得はした。
 俺らが見つける前に、遠くから真梨子の声がしてきた。
「ダロさん! ただいまです!」
 手を大きくブンブン振りながら歩いてくる真梨子がいた。
「あ! 芽以さんも! 笹木さんまで! 有難うございます!」
 まだ全然近くないのにそう声を上げた真梨子。
 俺も溜まらず、
「真梨子! 待ってたよ!」
 と叫ぶと、何か周りの人たちがみんなこっちを見て、赤面してしまった。
 来る子が言うのはアリだけども、待っているヤツが言うのはダメだったんかい。
 俺と真梨子と芽以と笹木で、最近の仕事ぶりの話をした。真梨子はあまり自分の話はしなかった。でも本当に良くなったという話だ。
 宴もたけなわとなったところで真梨子が、
「すみません! ちょっとダロさんと二人きりにさせてください!」
 と頭を下げると、芽以と笹木は「じゃあ帰るよ」と言ってバイバイした。
 真梨子の両親は優しい笑顔で真梨子を見送り、二人で空港の外に出て、ちょっとした公園になっているようなところまで歩いて行き、俺は、
「いきなりそんな動いて大丈夫なのか?」
「いきなりじゃないです。ちゃんと向こうでリハビリもやって来ました!」
「それならいいけども」
 と落ち着いたところで真梨子が真っ直ぐ俺の瞳を見ながら、
「私、ダロさんのことが恋愛相手として好きです。付き合ってください」
 俺は矢継ぎ早に、
「そういう恋愛はダメだろ。恩義を感じての恋愛は正しくないだろ」
 と答えた。真梨子はムッとした顔をしている。
 俺は続ける。
「とはいえ、俺一人の力では到底ここまでの世界を見れなかった。真梨子あっての今だから。俺が真梨子に言う。俺と付き合ってください」
 そう言って頭を下げると、
「何それ面倒臭いです!」
 と声を張り上げた真梨子。
 俺は顔を上げて、
「いやいいだろ」
 すると真梨子は満面の笑みで、
「うん、めっちゃいい!」
 と言ってくれた。
 何か先に告白されたのに、俺は心臓がバクバクいっていてすごい。
 とにかくこれで大団円だな、と思っていると真梨子が楽しそうに、
「じゃあ練習してきたから、一曲に歌いましょう!」
 と言われて、一体何なんだと思っていると、芽以と一緒に作ったデュエットソングのイントロが流れ出した。
 そういうことかよ、と思いつつ、俺は真梨子に思いを込めて本気でラップした。

《ダロ》
今の俺は夜明けの曙色 ちゃんと好きと確かめた言葉の和え物
腫物じゃないよな、大丈夫なはず 会話を絡めて相性占う
伝わる愛情、弱気は退場 俺が引っ張っていく、気持ちはしっかり制す
常に物事はケースバイケース 足並み揃えて、深い演舞
ツライ・不快じゃなくて心地良く 大切な感情はここに置く
清く行動、毛頭無い穢れ 誰よりも綺麗な円を描(えが)け
言い聞かせて、よく見聞きする 相手の気持ちを意識する
二人の仲は曙色 ちゃんと好きと確かめた言葉の和え物

《真梨子》
好きな人からちゃんとリードしてほしい 好きじゃない人のリードは嫌だ
いっぱいいっぱい楽しく喋ろっ やさしい羽の音、曙色

《ダロ》
今の俺は夜明けの曙色 優しい音色を響かせる竪琴
賭け事じゃないよな、大丈夫なはず 手と手を絡めて相性繋がる
伝わる愛情、気持ちは最高 俺が引っ張っていく、言葉を添え合い、成っていく
ケースバイケースだが増していく 日々を二人メイク、番(つがい)演舞
暗い・クサいじゃなくて心地良く 会話は綺麗な音に乗る
清く行動、毛頭無い浮気 二人で向かい、明日を迎える・伝える
二人の歩みが道になる 常に相手への意識増す
二人の仲は曙色 ちゃんと好きと確かめた言葉の和え物

《真梨子》
好きな人からちゃんとリードしてほしい 好きじゃない人のリードは嫌だ
いっぱいいっぱい楽しく喋ろっ やさしい羽の音、曙色

 歌い終えた真梨子が俺に抱きついてきて、
「これ私とダロさんの歌ですから! 芽以さんとの歌じゃないですから!」
「そんなことは分かっているよ、当たり前だろ」
「本当ですか!」
 伝えるには言葉しかない。
 だから。
「好きだよ、真梨子」
 と言うしかない。
 真梨子は俺の目をしっかり見ながら、
「これからずっと一緒ですからね!」
「それも当然だろ」
「絶対絶対一緒にいましょうね!」
「いるよ、俺も真梨子のことが好きだから」
「本当にずっと一緒ですからね!」
「しつこいなっ」
 と軽くツッコむように言ったんだけども、だからって伝えるには言葉しかないので、
「絶対一緒にいる! 約束する!」
「嬉しい……」
 急に抑えた声になった真梨子。
 どうやら涙ぐんでいるようだった。
 そんな泣くほど嬉しいなら、俺だって嬉しい。
 人間は鏡だ。
 相手と同じような気持ちになる生き物なんだ。
 真梨子は一旦離れてから手を握り、
「ダロさんの手、ずっと触りたかったです」
 これに対してはどう言えばいいか分からず、
「まあそうか」
 としか答えられないでいると、真梨子が、
「ちゃんと言葉で伝えてください!」
「いやなんというか、なんと言えばいいか」
「感情を言葉にするだけでいいですから! さ! 早く!」
 今、俺が、思っている、言葉か、じゃあ、まあ、これかな……うん、
「真梨子、可愛過ぎるだろ」
 一気に顔を紅潮させた真梨子は、
「そんなこと言わないでください!」
 と言って顔を背けた。
 いや、
「言葉にしろって言われたからしただけだろ」
「そんなん言われたら、もっと好きになってしまいます!」
「それでいいだろ、困ることは特に無いだろ」
「何でそんな冷静なんですか!」
「冷静じゃないよ、俺は心臓高鳴っているよ」
「私もです!」
 そう言って振り返った真梨子。
 俺と静かに見つめ合う。
 そうか、時には伝えるには言葉しかない、じゃない時もあるのか。
 真梨子は目を瞑り、俺は真梨子の肩を優しく掴んでから、目を瞑り、ゆっくり確かめ合うように距離を詰め。

(了)