・
・【18 容態】
・
芽以とそろそろ別れて、自宅に帰るかとなったところで、LINEの通知が鳴った。
俺は何だろうと思いながら確認すると、真梨子からでしかも、
『真梨子の母親です。緊急で連絡しています。真梨子の容態が急変しました。今は病院で安定していますが、今後はもうどうなるか分かりません。』
無機質な文章には、これでもかという感情が詰まっていた。
俺は芽以にそのことを話すと、即座に笹木の部屋へ行き、生配信を始めることにした。
笹木の部屋には配信部屋があるから、芽以と一緒に配信する時は笹木の部屋でやっている。
移動中、自宅に電話して、俺は友達の家で宿泊すると告げて、こっからずっと生配信をして、一気に稼ぐことにした。
手術費も溜まっていないわけじゃない。あと一押しのところまではきている。
だから、
「緊急で生配信を始めました」
と言った俺は生唾を飲み込み、意を決してこのことを口に出した。
「スパチャ付きのコメントを優先してラップに組み込みます」
本当はこんなこと言いたくなかった、それこそセルアウト過ぎるから。
でも真梨子のためを想えば自分のポリシーなんていくらでも反することが出来る。
一瞬ディープフェイクで金儲けしている連中のことを考えてしまう。
しかしながら俺に違法性は無いので、堂々と、金儲けすればいいんだと言い聞かせる。
芽以は見てくれている。反応が芳しくない時はゲストとして来てくれるため待機中。
笹木には勿論始まる前に状況を伝えて、了承済み。
俺はこの生配信で真梨子の手術費を絶対に稼いでやる。
早速といった感じで、
《ダロ》
ラップ開始、抱く(いだく)大志 韻を踏んでいく、今ぐらいに
『急な配信ありがとうのスパチャです』
こっちはスパチャと来てくれたことに感謝 とりあえずラップは単打
簡単にならないように、させる感嘆 今日のやる気は全然満タン
『急にどしたん?』
どしたんってラップがしたい虎視眈々 今はラップに賭したいんだ(としたいんだ)
とりあえず配信始めたこと知らせるLINEだ 韻から韻、着火、引火ライン
燃えるように熱い配信をやりたい まだまだコメントが足りない
あんまりこういう、セルアウトを促すようなことも苦手なわけだが、そんなことは言ってられない。
状況は不明瞭だから、やりきらなければならない。
《ダロ》
書きたいリリック不屈、ラップをキックする 普通にラップ、続く人生は
新鮮さを保つため 新しい押韻を仰ぐだけ
『ダロがコメント欲するの珍しい』
日々変化、珍しいもある 俺の熱は意志を刺す
盛り上がってほしい、こっからずっと配信 自分の限界にトライし
『無理はしないで、ポカリ代』
ありがとう飲料代 金曜は夜が長い、今日は俺の品評会
俺の実力を測って、コメントで語って 分かってくれなんては言わない
しがない展開になるかもだけど 悪くなったら、はっきりダロダメと
意見してくれ、俺は答える真摯 俺はラップを途絶える禁止
『何か今日熱意が違うな』
ピンチはピンチ、深くは言えない 俺だって気持ちの傷は癒えない
見せないこともあるということ これは俺、固有のこと
『何か知らんが応援している』
ありがとう応援、こっから交戦 俺がラップで証明
やれば出来る、アテは出来る 滅入ることもあるだろうが、挑むテイク
セーブせず本気、初っ端から 何事も自力で突破だから
宝は頭脳と体力 無償のアイドルにはなれない、よろしくスパチャ
『あのダロがこんなスパチャスパチャいうのは何かあるんでしょ、出来る限り応援』
『しょうがねぇな! 今日はスパチャしてやるよ!』
同時スパチャ like a 双葉 スパチャ舞い、俺は口を塞がない
歌が無いなんて状況にはしない してくれ俺に期待大
奇祭さ、今は 無人島から助ける筏 何でも聞くぜ、俺との近さ
『スパチャ応援、わたしは恋をしてるので応援してください』
OK、まずは会話していこうぜ 馴染み深くなるの良いって統計
視線の光線、デート誘う挑戦 気になる人の話を肯定
恒例のくだりがあるくらいの仲に 焦り過ぎて開けるな中身
急な告白ノーサンキュー ちゃんと友達かどうか要反芻
勿論知ってる友達にも相談する みんなと会話を横断する
石橋を叩いて渡るでいい しっかり相手と語るぜ、意志
上げる確率、ちゃんと作為する 勝機で絶対勝つし、くる
『アドバイスが本気過ぎたのでスパチャ、他人だけども』
なったかなアドバイス ダメだよな、アホバイス
『カスバイスじゃね?w』
いや韻踏んだ造語のほうがいいだろ そっちのほうが伝わる日々だろ
『アホバイス、おれも使いたい』
造語として使うのはいいが アホバイスは止めろ、そこは問うぞ
造語は絶対韻を踏む そっちのほうが芯を食う
こんな感じでずっとラップをしていく生配信。
スパチャの集まりも良さそうなので、芽以は無言でバイバイして、笹木の家を去って行った。
笹木は俺に付き合ってもらって、画面を派手にデコレーションしてもらっている。
とは言え、今回は本当にスパチャコメントが多いので、配信を進めるためのイラスト表示とかする必要は無さそうだ。
俺は絶対に真梨子の手術費を稼ぎたい。実際に真梨子が手術するかしないか、どっちを選択するかは分からない。必ず手術になるかどうか分からないことには理由がある。でも、まず選択肢は作り出したいんだ。
話によると、海外で手術を受けることが出来たとしても、成功確率のほうが低く、このまま何もせず、生きていたほうが長生き出来るかもしれない、という話で。
それを聞いた時、俺は正直ビビった。俺のやっていることは無意味なんじゃないかなとも思った。
でも真梨子はハッキリ俺に、
「もしダロさんが手術費を稼いでくれたら絶対に手術を受けて、ダロさんともっと長い人生を楽しみたい」
と言ってくれている。それでもいざとなったら分からないとも思っている。だからって選択肢は絶対に作りたい。
だから俺は俺のやれることを真っ当しなければならない。
こんな生配信なんて死ぬわけでもない。やり続けるだけなんてラッパーなら楽勝だ。
ただ今回はスパチャも得ないといけない。プライドはかなぐり捨てて、本気のラップを披露しなければならない。
盛り上げる、このままずっと盛り上げてやるんだ。
そんな感じでいつの間にか六時間経過していた。
《ダロ》
六時間経過、でもまだまだ出していない成果 作り出すぜ、栄華
出来ればなりたいパンチラインのヒットメーカー コメントくれるみんなもメンバー
『スパチャナシのコメントでゴメン』
別に無理なんてしなくていい まずは自分の人生を確定し
自分のフローチャートを作成し 俺は俺なりに書く名刺
俺は今日この配信で、やる名シーン ふかし続ける、このエンジン
臙脂も演じ、闘う剣士 仕込み刀で、下剋上だ、また跳ね
瞬け自分なりの愛情 藍色のようなアイロニーは敗訴し
短気に掛ける冷水 目に憂い(うい)な紅藤は制す意
聖水のような清い心で あえて気負い、この声
響かせるんだ、もっとラップを蹴るんだ もっと良い未来を得るんだ
『自作曲の引用熱い』
引用って気付いてくれる信用 いや信頼、まるで母なる深海
心配はさせない、俺は俺をやり続ける 言葉が出ないという皆無防ぐ
『結局スパチャがあれば何か大丈夫なんだろう?するから早く休んでくれー』
まずは楽しませることが第一だ でもゴメン、俺の事情は開示しない
その時だった。
こんなコメントが飛び込んできた。
『今、真梨子がいないのは夜だから?それとも真梨子に何かあったの?』
勿論こっちの事情は知らないあてずっぽうだろうけども、芯を突いていて一瞬怯んでしまった、その時だった。
『図星?真梨子に何かあったのならスパチャ』
『そう言ってくれよ、リスナーも仲間だろ』
『あんま心配させたくないんだろうなぁ』
『真梨子見たい!スパチャ!』
『ダロが必死になるなんて真梨子関係だろ』
『ダロの古参だが、そういうことだったのかと今気付く』
どんどんスパチャが飛び交い出して、俺は失敗したのかと思っていると、笹木がこっちにだけ見える文字で、
『別にこれでいい、詳しい内容は知らないだろうし。それにこういう流れになったのもダロと真梨子への信頼からだ。ハツラツと受け取ったほうが良い』
《ダロ》
本当に感謝してもしきれない やっぱり俺はリスナーナシでは生きれない
この存在が日々デカい ネット上は俺の新世界
言えない詳しい理由 みんなのあたたかいスパチャで飛べる気球
like a 世界一周 するためにはこの出会い必須
絶対に俺の人生は終わらせない 誰も死なせない、心臓は止まらせない
俺のラップはかわせない 必中ラップ、届いてくれ、グッドラック
『ダロ応援!』
『真梨子応援!』
『笹木も応援!』
『芽以も応援!』
『いや笹木と芽以への応援は本人の配信でスパチャしろよw』
感謝する全応援 その金額は全能で
勿論これは献上で 俺はただの船頭で
健康でいてくれ、全人類 言葉は常にエンジン付き
ツキよ、見放さないでくれ 温かいオーラで抱いてくれ
『スパチャするしかない』
『というかダロも休め』
そして、ついに目標の金額に到達した、
俺はリスナーに感謝してから配信を止めて、即座に真梨子に連絡をした。
返信は真梨子の母親だったけども、感謝の意を表明してくれて、本当に嬉しかった。
真梨子が家族以外の他人と会話してもいいという容態になったと医者が判断したのは、日曜日の午後からだった。
俺は即座に真梨子に会いに行くと、真梨子が、
「ついにやったんですね、私のために有難うございます」
「真梨子、お金は溜めたから、真梨子が自分で決めてほしい」
「言っていたじゃないですか、私は手術を受けるって。成功を信じてやりますよ、だって信じていたダロさんが稼いでくれたんだから」
同席していた真梨子の両親も頷き、ついに海外で手術をする段取りをし始めた。
幸い、その間も真梨子の容態は安定していて、海外に行く当日になった。
あれからずっと真梨子は病室にいて、その海外に行く時だけが外出となった。
俺は空港で真梨子と顔を合わせて、待機室のイスに並んで座っている。
ふと、真梨子が、
「小声でいいから、激励のラップをしてほしいな」
「勿論」
そう言って俺はビートナシでその場で呟くようにラップをし始めた。
《ダロ》
向日葵色、今開始の 合図、俺は真梨子を友として愛す
一緒に太陽を見ていこう 何度も見るんだ、絶対成功
名称はどうする? 俺と真梨子のチーム 繋ぐフレンドシップ
じっくり決めよう、人生は長い まだ十代だ、新鮮な証
若いから二人で年老いて たまにはずっと星を見て
夜明けを待とう 何かあったら備えを纏う
常に俺と真梨子は準備万端 何でもこなす、有事簡単
愛・向日葵、無い諍い 愛・向日葵、大志は舞い
一生一緒二人で見ていくよ 何テイクも何テイクも
愛・向日葵、愛・向日葵 邪魔者なんて無い・要らない
抱いた夜会、並んで朝日 日々の出来事、重ねて語り
真梨子は頬を赤らめながら、
「プロポーズみたい」
と言うと、俺はちょっと大きな声で、
「友としてっ」
と言ってしまった。
その後、二人でぼんやりと遠くを見るだけで、そのままバイバイの時間になってしまった。
もっと気の利いたことを言えば良かったのか。何か言葉が足りなかったのかもしれない。
伝えるには言葉しかないのに、いざとなったら何を言えばいいか分からなくなる自分が情けない。
いやまだ遠目だけども、真梨子が俺の前を歩いて行く。
空港でデカい声とかあんまだと思うけども、こんな時は別にいいだろ。
「真梨子! 絶対また会おうな!」
真梨子は振り向いて小さく会釈したら、そのまま、また前を歩き出した。
これで合っていたのだろうか、一切正解が分からない。
後は祈るだけ、ただ祈るだけなんだ。無力だな。
・【18 容態】
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芽以とそろそろ別れて、自宅に帰るかとなったところで、LINEの通知が鳴った。
俺は何だろうと思いながら確認すると、真梨子からでしかも、
『真梨子の母親です。緊急で連絡しています。真梨子の容態が急変しました。今は病院で安定していますが、今後はもうどうなるか分かりません。』
無機質な文章には、これでもかという感情が詰まっていた。
俺は芽以にそのことを話すと、即座に笹木の部屋へ行き、生配信を始めることにした。
笹木の部屋には配信部屋があるから、芽以と一緒に配信する時は笹木の部屋でやっている。
移動中、自宅に電話して、俺は友達の家で宿泊すると告げて、こっからずっと生配信をして、一気に稼ぐことにした。
手術費も溜まっていないわけじゃない。あと一押しのところまではきている。
だから、
「緊急で生配信を始めました」
と言った俺は生唾を飲み込み、意を決してこのことを口に出した。
「スパチャ付きのコメントを優先してラップに組み込みます」
本当はこんなこと言いたくなかった、それこそセルアウト過ぎるから。
でも真梨子のためを想えば自分のポリシーなんていくらでも反することが出来る。
一瞬ディープフェイクで金儲けしている連中のことを考えてしまう。
しかしながら俺に違法性は無いので、堂々と、金儲けすればいいんだと言い聞かせる。
芽以は見てくれている。反応が芳しくない時はゲストとして来てくれるため待機中。
笹木には勿論始まる前に状況を伝えて、了承済み。
俺はこの生配信で真梨子の手術費を絶対に稼いでやる。
早速といった感じで、
《ダロ》
ラップ開始、抱く(いだく)大志 韻を踏んでいく、今ぐらいに
『急な配信ありがとうのスパチャです』
こっちはスパチャと来てくれたことに感謝 とりあえずラップは単打
簡単にならないように、させる感嘆 今日のやる気は全然満タン
『急にどしたん?』
どしたんってラップがしたい虎視眈々 今はラップに賭したいんだ(としたいんだ)
とりあえず配信始めたこと知らせるLINEだ 韻から韻、着火、引火ライン
燃えるように熱い配信をやりたい まだまだコメントが足りない
あんまりこういう、セルアウトを促すようなことも苦手なわけだが、そんなことは言ってられない。
状況は不明瞭だから、やりきらなければならない。
《ダロ》
書きたいリリック不屈、ラップをキックする 普通にラップ、続く人生は
新鮮さを保つため 新しい押韻を仰ぐだけ
『ダロがコメント欲するの珍しい』
日々変化、珍しいもある 俺の熱は意志を刺す
盛り上がってほしい、こっからずっと配信 自分の限界にトライし
『無理はしないで、ポカリ代』
ありがとう飲料代 金曜は夜が長い、今日は俺の品評会
俺の実力を測って、コメントで語って 分かってくれなんては言わない
しがない展開になるかもだけど 悪くなったら、はっきりダロダメと
意見してくれ、俺は答える真摯 俺はラップを途絶える禁止
『何か今日熱意が違うな』
ピンチはピンチ、深くは言えない 俺だって気持ちの傷は癒えない
見せないこともあるということ これは俺、固有のこと
『何か知らんが応援している』
ありがとう応援、こっから交戦 俺がラップで証明
やれば出来る、アテは出来る 滅入ることもあるだろうが、挑むテイク
セーブせず本気、初っ端から 何事も自力で突破だから
宝は頭脳と体力 無償のアイドルにはなれない、よろしくスパチャ
『あのダロがこんなスパチャスパチャいうのは何かあるんでしょ、出来る限り応援』
『しょうがねぇな! 今日はスパチャしてやるよ!』
同時スパチャ like a 双葉 スパチャ舞い、俺は口を塞がない
歌が無いなんて状況にはしない してくれ俺に期待大
奇祭さ、今は 無人島から助ける筏 何でも聞くぜ、俺との近さ
『スパチャ応援、わたしは恋をしてるので応援してください』
OK、まずは会話していこうぜ 馴染み深くなるの良いって統計
視線の光線、デート誘う挑戦 気になる人の話を肯定
恒例のくだりがあるくらいの仲に 焦り過ぎて開けるな中身
急な告白ノーサンキュー ちゃんと友達かどうか要反芻
勿論知ってる友達にも相談する みんなと会話を横断する
石橋を叩いて渡るでいい しっかり相手と語るぜ、意志
上げる確率、ちゃんと作為する 勝機で絶対勝つし、くる
『アドバイスが本気過ぎたのでスパチャ、他人だけども』
なったかなアドバイス ダメだよな、アホバイス
『カスバイスじゃね?w』
いや韻踏んだ造語のほうがいいだろ そっちのほうが伝わる日々だろ
『アホバイス、おれも使いたい』
造語として使うのはいいが アホバイスは止めろ、そこは問うぞ
造語は絶対韻を踏む そっちのほうが芯を食う
こんな感じでずっとラップをしていく生配信。
スパチャの集まりも良さそうなので、芽以は無言でバイバイして、笹木の家を去って行った。
笹木は俺に付き合ってもらって、画面を派手にデコレーションしてもらっている。
とは言え、今回は本当にスパチャコメントが多いので、配信を進めるためのイラスト表示とかする必要は無さそうだ。
俺は絶対に真梨子の手術費を稼ぎたい。実際に真梨子が手術するかしないか、どっちを選択するかは分からない。必ず手術になるかどうか分からないことには理由がある。でも、まず選択肢は作り出したいんだ。
話によると、海外で手術を受けることが出来たとしても、成功確率のほうが低く、このまま何もせず、生きていたほうが長生き出来るかもしれない、という話で。
それを聞いた時、俺は正直ビビった。俺のやっていることは無意味なんじゃないかなとも思った。
でも真梨子はハッキリ俺に、
「もしダロさんが手術費を稼いでくれたら絶対に手術を受けて、ダロさんともっと長い人生を楽しみたい」
と言ってくれている。それでもいざとなったら分からないとも思っている。だからって選択肢は絶対に作りたい。
だから俺は俺のやれることを真っ当しなければならない。
こんな生配信なんて死ぬわけでもない。やり続けるだけなんてラッパーなら楽勝だ。
ただ今回はスパチャも得ないといけない。プライドはかなぐり捨てて、本気のラップを披露しなければならない。
盛り上げる、このままずっと盛り上げてやるんだ。
そんな感じでいつの間にか六時間経過していた。
《ダロ》
六時間経過、でもまだまだ出していない成果 作り出すぜ、栄華
出来ればなりたいパンチラインのヒットメーカー コメントくれるみんなもメンバー
『スパチャナシのコメントでゴメン』
別に無理なんてしなくていい まずは自分の人生を確定し
自分のフローチャートを作成し 俺は俺なりに書く名刺
俺は今日この配信で、やる名シーン ふかし続ける、このエンジン
臙脂も演じ、闘う剣士 仕込み刀で、下剋上だ、また跳ね
瞬け自分なりの愛情 藍色のようなアイロニーは敗訴し
短気に掛ける冷水 目に憂い(うい)な紅藤は制す意
聖水のような清い心で あえて気負い、この声
響かせるんだ、もっとラップを蹴るんだ もっと良い未来を得るんだ
『自作曲の引用熱い』
引用って気付いてくれる信用 いや信頼、まるで母なる深海
心配はさせない、俺は俺をやり続ける 言葉が出ないという皆無防ぐ
『結局スパチャがあれば何か大丈夫なんだろう?するから早く休んでくれー』
まずは楽しませることが第一だ でもゴメン、俺の事情は開示しない
その時だった。
こんなコメントが飛び込んできた。
『今、真梨子がいないのは夜だから?それとも真梨子に何かあったの?』
勿論こっちの事情は知らないあてずっぽうだろうけども、芯を突いていて一瞬怯んでしまった、その時だった。
『図星?真梨子に何かあったのならスパチャ』
『そう言ってくれよ、リスナーも仲間だろ』
『あんま心配させたくないんだろうなぁ』
『真梨子見たい!スパチャ!』
『ダロが必死になるなんて真梨子関係だろ』
『ダロの古参だが、そういうことだったのかと今気付く』
どんどんスパチャが飛び交い出して、俺は失敗したのかと思っていると、笹木がこっちにだけ見える文字で、
『別にこれでいい、詳しい内容は知らないだろうし。それにこういう流れになったのもダロと真梨子への信頼からだ。ハツラツと受け取ったほうが良い』
《ダロ》
本当に感謝してもしきれない やっぱり俺はリスナーナシでは生きれない
この存在が日々デカい ネット上は俺の新世界
言えない詳しい理由 みんなのあたたかいスパチャで飛べる気球
like a 世界一周 するためにはこの出会い必須
絶対に俺の人生は終わらせない 誰も死なせない、心臓は止まらせない
俺のラップはかわせない 必中ラップ、届いてくれ、グッドラック
『ダロ応援!』
『真梨子応援!』
『笹木も応援!』
『芽以も応援!』
『いや笹木と芽以への応援は本人の配信でスパチャしろよw』
感謝する全応援 その金額は全能で
勿論これは献上で 俺はただの船頭で
健康でいてくれ、全人類 言葉は常にエンジン付き
ツキよ、見放さないでくれ 温かいオーラで抱いてくれ
『スパチャするしかない』
『というかダロも休め』
そして、ついに目標の金額に到達した、
俺はリスナーに感謝してから配信を止めて、即座に真梨子に連絡をした。
返信は真梨子の母親だったけども、感謝の意を表明してくれて、本当に嬉しかった。
真梨子が家族以外の他人と会話してもいいという容態になったと医者が判断したのは、日曜日の午後からだった。
俺は即座に真梨子に会いに行くと、真梨子が、
「ついにやったんですね、私のために有難うございます」
「真梨子、お金は溜めたから、真梨子が自分で決めてほしい」
「言っていたじゃないですか、私は手術を受けるって。成功を信じてやりますよ、だって信じていたダロさんが稼いでくれたんだから」
同席していた真梨子の両親も頷き、ついに海外で手術をする段取りをし始めた。
幸い、その間も真梨子の容態は安定していて、海外に行く当日になった。
あれからずっと真梨子は病室にいて、その海外に行く時だけが外出となった。
俺は空港で真梨子と顔を合わせて、待機室のイスに並んで座っている。
ふと、真梨子が、
「小声でいいから、激励のラップをしてほしいな」
「勿論」
そう言って俺はビートナシでその場で呟くようにラップをし始めた。
《ダロ》
向日葵色、今開始の 合図、俺は真梨子を友として愛す
一緒に太陽を見ていこう 何度も見るんだ、絶対成功
名称はどうする? 俺と真梨子のチーム 繋ぐフレンドシップ
じっくり決めよう、人生は長い まだ十代だ、新鮮な証
若いから二人で年老いて たまにはずっと星を見て
夜明けを待とう 何かあったら備えを纏う
常に俺と真梨子は準備万端 何でもこなす、有事簡単
愛・向日葵、無い諍い 愛・向日葵、大志は舞い
一生一緒二人で見ていくよ 何テイクも何テイクも
愛・向日葵、愛・向日葵 邪魔者なんて無い・要らない
抱いた夜会、並んで朝日 日々の出来事、重ねて語り
真梨子は頬を赤らめながら、
「プロポーズみたい」
と言うと、俺はちょっと大きな声で、
「友としてっ」
と言ってしまった。
その後、二人でぼんやりと遠くを見るだけで、そのままバイバイの時間になってしまった。
もっと気の利いたことを言えば良かったのか。何か言葉が足りなかったのかもしれない。
伝えるには言葉しかないのに、いざとなったら何を言えばいいか分からなくなる自分が情けない。
いやまだ遠目だけども、真梨子が俺の前を歩いて行く。
空港でデカい声とかあんまだと思うけども、こんな時は別にいいだろ。
「真梨子! 絶対また会おうな!」
真梨子は振り向いて小さく会釈したら、そのまま、また前を歩き出した。
これで合っていたのだろうか、一切正解が分からない。
後は祈るだけ、ただ祈るだけなんだ。無力だな。



