・
・【17 ライブと】
・
また笹木の部屋で四人集まり、笹木の報告を受けた。
あらゆる方法で笹木がネット検索をしたが、結局師匠を見つけることは出来なかった。
芽以が力強く、
「もっとアタシたちが有名にならなきゃダメだね!」
と言っているわけだが、まあその通りなんだろうな。
そんななか、また芽以経由での仕事依頼が舞い込んできた。
今回はツーマンのリアルライブをしないかという話だ。
俺は勿論顔出しするわけだが、芽以もライブだけは顔出ししてほしいという話で。
そのことに関しては、芽以は快諾し、
「顔ファンいっぱい出来て、ファンが増えまくるかもっ」
と楽観的にウフウフ笑っている。
俺は少し呆れながら、
「いやそのライブに来る時点で芽以の動画のファンなんだから、新たにファンを獲得することは無いだろ」
とツッコんでおくと、芽以は吹き出すように笑ってから、
「いや! ダロのファンだって来るんでしょ! ダロのファンを奪い取る勝負だから!」
俺はキョトンとしてしまった。
すると真梨子が、
「当然ダロさんだって登録者数いるわけじゃないですかっ」
笹木も頷いている。
俺は口を開き、
「そうか……俺にもファンっているもんという認識なのか……」
改めて言葉にすると、何だか不思議と高揚感と浮遊感が出てきて、自分の身体じゃないみたいにふわふわしてきた。
芽以は普通に、
「そそっ、そりゃアタシのほうが大手だから、登録者数は多いけども、ダロのファンだって硬派な連中がいるわけでしょ? 絶対ファン奪うから!」
笹木は俺のほうを向きながら、
「ダロも宣戦布告しとけば?ww」
と言ってきたので、俺は芽以のほうを見ながら、
「よし、じゃあ俺も芽以のファンを奪うつもりで本気のラップするから」
芽以は嬉しそうに、
「いいね! デスマッチ開始だよ! めっちゃ新曲作っちゃおう! でもその前に!」
と言うと、俺を指差してきた。
一体何なんだろうと思っていると、
「グッズもちゃんと作って売らなきゃね! 商売! 商売!」
俺は小首を傾げながら、
「グッズってなんだ? 記念硬貨みたいなものか?」
芽以は「も~」と唸ってから、
「そういうことでもあるけども、実際はもっと普段使い出来るヤツね!」
笹木も口を挟んできた。
「そうそう、ダロの言った記念品みたいなものじゃなくて、普段使い出来る、シンプルでお洒落なTシャツとかがいいよな。ちゃんと使って減ったり汚れたりして、また買いたくなるものがいいんだ」
芽以はねだるように、
「笹木ぃ~、デザインよろしく出来るぅ~」
笹木はハッと笑ってから、
「当たり前でしょ、逆に僕以外にやらせたらキレるよww」
というわけで笹木は普段使い出来るグッズのデザインを、芽以と俺は作詩を行ない、真梨子は最近覚えたDTMで、自分のボイスパーカッションと合わせてトラックメイクをすることに。
準備は着々と進み、ついに本番となった。
俺は既に顔出しをしているのに舞台上に上がったら、すごい歓声を浴びて、俺に対して何か言うことないだろ、とか思った。
まずは一曲、いつもの曲をしてから芽以を呼び込むと、さらに勢いのある熱狂が上がった。
やっぱり芽以はすごい。元々SNSのフォロワー数も多かったし、まず大手のVtuter事務所に誘われることも実力あってのことだし。
そこからちゃんと成り上がって、今このライブのグルーヴを作っている。勝気な気持ちが無いわけじゃないが、出来るだけ芽以の邪魔をしないようにしたい。
芽以は新曲からスタートし、俺は一旦舞台袖に捌ける。芽以のラップは輝いていた。師匠と一緒にラップしている時は正直ここまでのヤツじゃなかった。
でも場が人間を作るというか、本当に明るく楽しい、人を喜ばせるラップになっている……なんて、リスペクトのし過ぎじゃないか?
俺もやってやるんだ、と、もっと思うべきじゃないか? 俺のファンだって少なからずいるはずなわけだし。
もっと気合いを入れろ、そりゃこの会場には真梨子はいない。今日は検査入院の日で、時間が空けば配信で見るらしい。
でも画面越しでもすごさを見せつけられるように、そのためには中途半端なライブじゃ絶対届かないだろ。
俺はベストパフォーマンスを見せる、そう意気込んで、芽以の曲が終わったタイミングで俺は舞台上に立った。
交互にラップをしていくスタイル。バンドと違って、固有の楽器が無いので、そういうことが出来る。
俺は新曲『臙脂色(えんじいろ)』を最初からトップスピードの勢いでラップすることにした。
この曲はバックのモニターに派手な臙脂色が映ることを意識して作った曲だ。
《ダロ》
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
死ぬ前に生きることがある まず感情を煮切る言葉出す
自分の本心を見出して 諦めるなんて意味無いね
死にたいじゃなくて殺したいじゃないか? でも殺すことはこの時代じゃないな
復讐心で死なずいこうか 俺はずっと自分の意志で飛翔だ
無論直接手を下すわけじゃない 決してこれは賭けじゃない
その気持ちで生きるという鼓動 心で行動を仕切るということ
なにくそ魂 自分が充実することでアイツを負かし
自分のライフを沸かし、ライフを正し どんどん楽しいナイスを増やし
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
死ぬ前に生きることがある まず感情を煮切る言葉出す
特濃の言葉、直(ちょく)脳に響け 側道じゃなくて常に国道
滾らせろ太い生命を 自分の素晴らしい細胞集い精鋭を
声明を出す「生きてやるんだ」 悪いモヤは斬って勝つんだ
番傘から仕込み刀 自分の平穏を祈りながら
邪魔者には喝を入れる 嫌なことにはバツを言える
自分の気持ちを発露する ヒーロー気取りのカスを振る
臙脂色、エンジンを、先進の モダンの壇上、自分の感情は
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
それ以外にも新曲をやったり、時に芽以とのラップバトルをしたりで、ライブ自体は大成功を収めた……わけだが、問題の種は発芽してしまった。
なんと顔出しした芽以の性的なディープフェイクが作られるようになり、芽以が塞ぎ込んでしまうようになったのだ。
芽以は本当に元気が無く、真梨子はまた検査入院のため、今日は芽以と二人きりであの河川敷に来て、アスファルトの上に座っている。何もやる気が出ないが、俺と一緒なら外にいれるという、変な状態らしい。俺は俯きがちの芽以に、
「ゴメン、俺のファンの治安が悪くてさ」
芽以は即座に「違う」と言ってから、顔を上げて、
「あれどう考えてもアタシのファンのアカウントたち、からの派生してただ金儲けしたい連中に連鎖していっただけ。自分のせいじゃないことを謝らないで」
「まあ、そ、そうならそうなのかもだけども、他人のふんどしで金儲けは勿論、その方法がディープフェイクだなんて最低だよな」
「金儲けしたい人に倫理観を説いてもしょうがないよ」
そう言って、また俯いた芽以。
何だか俺も耳が痛い。
”金儲けしたい人に倫理観を説いてもしょうがないよ”まさしく俺もそうなんじゃないか。
一心不乱に金儲けして、理由が尊いから良いってなってるだけで、やっぱりセルアウトってろくでもないんじゃないか。
そのディープフェイクをしている連中も実は身内の不幸があって、それを補填するためにやっているのかもしれない。
誰がどんな理由で金儲けしているかなんて分からない以上、金儲け自体を悪く考えるほうがいいのでは。
するといつの間にか顔を上げていた芽以が、
「もしかするとダロ、余計なこと考えてる? 金儲け自体を悪く思っているというかさ、自分を責めてるんじゃないの?」
「な、何でそんなこと分かるんだよ……」
と図星だったので、声が震えてしまった。カッコ悪い。
芽以は続ける。
「ダロの考えることは全部分かるんだよ、アタシは。だってダロのこと大好きだし」
「大好きって、ライバルにそんなこと言うなよ」
「ライバルにだって言っていいと思っているし、そもそも大好きだし」
「まあ俺も好敵手という意味では好きだけどな」
「勝手に敵にしないでよ」
「今回の真梨子の件では本当に味方だけどな」
芽以は何だかもじもじしているような動きをしている。
一体何なんだろうか、と思っていると、芽以がしっかりこっちの瞳を見ながらこう言った。
「アタシ、真梨子よりも先にダロのこと好きになったんだけどね」
「そりゃまあ出会いは先だからな」
「ホント鈍感! 恋愛感情として好きって言ってるの!」
そう声を荒らげた芽以……って、は?
「な、何言ってるんだよ」
と言いつつ身体の奥から熱が込み上がってくることが分かる。
芽以は頬を赤らめながら、
「ダロのこと好きだった。下手なりに一生懸命やるところが好きだった。でも一応真梨子のこともあるし、過去形にしてあげる」
「下手って言うな」
「ゴメン、アタシが下手だよね。告白下手だよね。こんなところでディスられても困るでしょうし」
「困ると言えば、告白されるほうが困るんだけどもな」
芽以は自分の膝をパンと叩いてから立ち上がり、
「よし! ラップ対決しよう! 感情のぶつかり合いするっきゃないでしょ!」
「何でそうなるんだよ」
「つーか始める! 受け取れ! アタシの告白ラップ!」
芽以はスマホからビートを流してラップし始めた。
《芽以》
ダロが好き でも今は無理? 心の中に真梨子いるかも? あぁやっと愛を知るダロ
アタシもライバル、ライバル言っていて悪かった そんな関係はアタシにとってバツだった
角ばった言動、自分が可愛くて匿った まだ機は熟していないってただ待った
その結果が取られちゃった悔しい! だからこうやってするのさ! 歌に!
俺は呆然と座っているわけだが、芽以は俺に立つことを促すようなハンドサインをし、俺も一応立ち上がった。
ビートがずっと流れるなか、芽以が、
「ダロがやんないならアタシが次のバースもいくよ!」
と言うと、また芽以がラップを再開した。
《芽以》
でも真梨子なら許せちゃうんだ 感情をどこかに移せちゃうんだ
アタシの想いは霞んだ ダロを貸すんだ、じゃなくて、あげるよ
耐えるよ、このくらいの出来事は だってアタシはお姉さん、っていう言葉
届かないなら別にいいって諦める きっといつかは愛冷める
やっぱり俺も何か返さないとカッコがつかないので、割って入ることにした。
《ダロ》
芽以の気持ちなんて知らなかった この瞬間に、今分かった
言われてやっとじゃ遅いかもな 俺の人生は情けないことが多い過去だ
結局人の感情に疎い 慣れていない最近の反響密度に
ちょっと脳内洪水パンク気味 なんとか人間に猛追、ラップ日々
芽以が何か喋り出しそうだったけども、流れでそのままラップを続ける。
《ダロ》
意味が無いな、全てを終えたあとじゃ こんなんただのアホだ
でも俺は真梨子のことが気になって 真梨子のためという意志あって
芽以の告白に応えられない 俺の秋の空は変えない、変わらない
まだ若い・ただ課題・まだ境じゃなく これが渾身の本心
これで終わりかと思ったら、また芽以がラップし始めた。
《芽以》
あぁもう全部終わり終わり でもそれでも好きなんだ! しょうがない!
こうじゃない! そうじゃない! なんて言ってもキリがない!
なんかちょっと死にたい! 簡単に言っていいことじゃないけども!
でもダロ! 渾身の死ぬなラップ、アタシにちょうだい! ほら、ここからダロのショータイム!
そんなこと言われたら言えるものも言えないだろ。
四小節見送って、深呼吸してから俺はラップを再開した。
《ダロ》
芽以は物怖じせず優しくて 頭の回転が早い、まるで導(しるべ)
見る目があってだからライバルと言われて嬉しかった、気持ち無敵なった
これからも一緒に闘いたい いいや事あるごとにただ会いたい
ラップで今後も高まり合い 日々の話も語らいたい
でも告白されて頭痛い 結局俺とはまた相対
芽以は大切なライバルで そういう目で見れない、外角で
内角は真梨子、もう譲れない 気持ちはよそには移れない
それでもみんな俺の円を作り出す 大切な要素、会えばチカラがすぐに増す
芽以は静かにスマホのビートを止めてから、
「分かったよ、というか分かっていたよ、じゃあさ真梨子とダロが結婚してさ、離婚したら相手してあげる」
そう微笑んだ。
俺は落ち着いた声で、
「真梨子が生きる前提でありがとう」
と答えると、芽以はガッツポーズしながら、
「当然でしょ! ここまでやってあげてるんだから!」
と声を上げた。
何だかその後、ギクシャクするかと思ったけども、普通に会話出来て嬉しかった。
でもそれも芽以が気を遣っているんだろうなとも少しくらいは分かって、胸が痛かったことも事実だ。
・【17 ライブと】
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また笹木の部屋で四人集まり、笹木の報告を受けた。
あらゆる方法で笹木がネット検索をしたが、結局師匠を見つけることは出来なかった。
芽以が力強く、
「もっとアタシたちが有名にならなきゃダメだね!」
と言っているわけだが、まあその通りなんだろうな。
そんななか、また芽以経由での仕事依頼が舞い込んできた。
今回はツーマンのリアルライブをしないかという話だ。
俺は勿論顔出しするわけだが、芽以もライブだけは顔出ししてほしいという話で。
そのことに関しては、芽以は快諾し、
「顔ファンいっぱい出来て、ファンが増えまくるかもっ」
と楽観的にウフウフ笑っている。
俺は少し呆れながら、
「いやそのライブに来る時点で芽以の動画のファンなんだから、新たにファンを獲得することは無いだろ」
とツッコんでおくと、芽以は吹き出すように笑ってから、
「いや! ダロのファンだって来るんでしょ! ダロのファンを奪い取る勝負だから!」
俺はキョトンとしてしまった。
すると真梨子が、
「当然ダロさんだって登録者数いるわけじゃないですかっ」
笹木も頷いている。
俺は口を開き、
「そうか……俺にもファンっているもんという認識なのか……」
改めて言葉にすると、何だか不思議と高揚感と浮遊感が出てきて、自分の身体じゃないみたいにふわふわしてきた。
芽以は普通に、
「そそっ、そりゃアタシのほうが大手だから、登録者数は多いけども、ダロのファンだって硬派な連中がいるわけでしょ? 絶対ファン奪うから!」
笹木は俺のほうを向きながら、
「ダロも宣戦布告しとけば?ww」
と言ってきたので、俺は芽以のほうを見ながら、
「よし、じゃあ俺も芽以のファンを奪うつもりで本気のラップするから」
芽以は嬉しそうに、
「いいね! デスマッチ開始だよ! めっちゃ新曲作っちゃおう! でもその前に!」
と言うと、俺を指差してきた。
一体何なんだろうと思っていると、
「グッズもちゃんと作って売らなきゃね! 商売! 商売!」
俺は小首を傾げながら、
「グッズってなんだ? 記念硬貨みたいなものか?」
芽以は「も~」と唸ってから、
「そういうことでもあるけども、実際はもっと普段使い出来るヤツね!」
笹木も口を挟んできた。
「そうそう、ダロの言った記念品みたいなものじゃなくて、普段使い出来る、シンプルでお洒落なTシャツとかがいいよな。ちゃんと使って減ったり汚れたりして、また買いたくなるものがいいんだ」
芽以はねだるように、
「笹木ぃ~、デザインよろしく出来るぅ~」
笹木はハッと笑ってから、
「当たり前でしょ、逆に僕以外にやらせたらキレるよww」
というわけで笹木は普段使い出来るグッズのデザインを、芽以と俺は作詩を行ない、真梨子は最近覚えたDTMで、自分のボイスパーカッションと合わせてトラックメイクをすることに。
準備は着々と進み、ついに本番となった。
俺は既に顔出しをしているのに舞台上に上がったら、すごい歓声を浴びて、俺に対して何か言うことないだろ、とか思った。
まずは一曲、いつもの曲をしてから芽以を呼び込むと、さらに勢いのある熱狂が上がった。
やっぱり芽以はすごい。元々SNSのフォロワー数も多かったし、まず大手のVtuter事務所に誘われることも実力あってのことだし。
そこからちゃんと成り上がって、今このライブのグルーヴを作っている。勝気な気持ちが無いわけじゃないが、出来るだけ芽以の邪魔をしないようにしたい。
芽以は新曲からスタートし、俺は一旦舞台袖に捌ける。芽以のラップは輝いていた。師匠と一緒にラップしている時は正直ここまでのヤツじゃなかった。
でも場が人間を作るというか、本当に明るく楽しい、人を喜ばせるラップになっている……なんて、リスペクトのし過ぎじゃないか?
俺もやってやるんだ、と、もっと思うべきじゃないか? 俺のファンだって少なからずいるはずなわけだし。
もっと気合いを入れろ、そりゃこの会場には真梨子はいない。今日は検査入院の日で、時間が空けば配信で見るらしい。
でも画面越しでもすごさを見せつけられるように、そのためには中途半端なライブじゃ絶対届かないだろ。
俺はベストパフォーマンスを見せる、そう意気込んで、芽以の曲が終わったタイミングで俺は舞台上に立った。
交互にラップをしていくスタイル。バンドと違って、固有の楽器が無いので、そういうことが出来る。
俺は新曲『臙脂色(えんじいろ)』を最初からトップスピードの勢いでラップすることにした。
この曲はバックのモニターに派手な臙脂色が映ることを意識して作った曲だ。
《ダロ》
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
死ぬ前に生きることがある まず感情を煮切る言葉出す
自分の本心を見出して 諦めるなんて意味無いね
死にたいじゃなくて殺したいじゃないか? でも殺すことはこの時代じゃないな
復讐心で死なずいこうか 俺はずっと自分の意志で飛翔だ
無論直接手を下すわけじゃない 決してこれは賭けじゃない
その気持ちで生きるという鼓動 心で行動を仕切るということ
なにくそ魂 自分が充実することでアイツを負かし
自分のライフを沸かし、ライフを正し どんどん楽しいナイスを増やし
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
死ぬ前に生きることがある まず感情を煮切る言葉出す
特濃の言葉、直(ちょく)脳に響け 側道じゃなくて常に国道
滾らせろ太い生命を 自分の素晴らしい細胞集い精鋭を
声明を出す「生きてやるんだ」 悪いモヤは斬って勝つんだ
番傘から仕込み刀 自分の平穏を祈りながら
邪魔者には喝を入れる 嫌なことにはバツを言える
自分の気持ちを発露する ヒーロー気取りのカスを振る
臙脂色、エンジンを、先進の モダンの壇上、自分の感情は
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 半端な連中は蹴落とす啖呵だ
臙脂色のような情熱で エンジンをかける、当然で
モダンカラーの番傘 ざんばらのように派手にいこうぜ、さぁ参加だ
それ以外にも新曲をやったり、時に芽以とのラップバトルをしたりで、ライブ自体は大成功を収めた……わけだが、問題の種は発芽してしまった。
なんと顔出しした芽以の性的なディープフェイクが作られるようになり、芽以が塞ぎ込んでしまうようになったのだ。
芽以は本当に元気が無く、真梨子はまた検査入院のため、今日は芽以と二人きりであの河川敷に来て、アスファルトの上に座っている。何もやる気が出ないが、俺と一緒なら外にいれるという、変な状態らしい。俺は俯きがちの芽以に、
「ゴメン、俺のファンの治安が悪くてさ」
芽以は即座に「違う」と言ってから、顔を上げて、
「あれどう考えてもアタシのファンのアカウントたち、からの派生してただ金儲けしたい連中に連鎖していっただけ。自分のせいじゃないことを謝らないで」
「まあ、そ、そうならそうなのかもだけども、他人のふんどしで金儲けは勿論、その方法がディープフェイクだなんて最低だよな」
「金儲けしたい人に倫理観を説いてもしょうがないよ」
そう言って、また俯いた芽以。
何だか俺も耳が痛い。
”金儲けしたい人に倫理観を説いてもしょうがないよ”まさしく俺もそうなんじゃないか。
一心不乱に金儲けして、理由が尊いから良いってなってるだけで、やっぱりセルアウトってろくでもないんじゃないか。
そのディープフェイクをしている連中も実は身内の不幸があって、それを補填するためにやっているのかもしれない。
誰がどんな理由で金儲けしているかなんて分からない以上、金儲け自体を悪く考えるほうがいいのでは。
するといつの間にか顔を上げていた芽以が、
「もしかするとダロ、余計なこと考えてる? 金儲け自体を悪く思っているというかさ、自分を責めてるんじゃないの?」
「な、何でそんなこと分かるんだよ……」
と図星だったので、声が震えてしまった。カッコ悪い。
芽以は続ける。
「ダロの考えることは全部分かるんだよ、アタシは。だってダロのこと大好きだし」
「大好きって、ライバルにそんなこと言うなよ」
「ライバルにだって言っていいと思っているし、そもそも大好きだし」
「まあ俺も好敵手という意味では好きだけどな」
「勝手に敵にしないでよ」
「今回の真梨子の件では本当に味方だけどな」
芽以は何だかもじもじしているような動きをしている。
一体何なんだろうか、と思っていると、芽以がしっかりこっちの瞳を見ながらこう言った。
「アタシ、真梨子よりも先にダロのこと好きになったんだけどね」
「そりゃまあ出会いは先だからな」
「ホント鈍感! 恋愛感情として好きって言ってるの!」
そう声を荒らげた芽以……って、は?
「な、何言ってるんだよ」
と言いつつ身体の奥から熱が込み上がってくることが分かる。
芽以は頬を赤らめながら、
「ダロのこと好きだった。下手なりに一生懸命やるところが好きだった。でも一応真梨子のこともあるし、過去形にしてあげる」
「下手って言うな」
「ゴメン、アタシが下手だよね。告白下手だよね。こんなところでディスられても困るでしょうし」
「困ると言えば、告白されるほうが困るんだけどもな」
芽以は自分の膝をパンと叩いてから立ち上がり、
「よし! ラップ対決しよう! 感情のぶつかり合いするっきゃないでしょ!」
「何でそうなるんだよ」
「つーか始める! 受け取れ! アタシの告白ラップ!」
芽以はスマホからビートを流してラップし始めた。
《芽以》
ダロが好き でも今は無理? 心の中に真梨子いるかも? あぁやっと愛を知るダロ
アタシもライバル、ライバル言っていて悪かった そんな関係はアタシにとってバツだった
角ばった言動、自分が可愛くて匿った まだ機は熟していないってただ待った
その結果が取られちゃった悔しい! だからこうやってするのさ! 歌に!
俺は呆然と座っているわけだが、芽以は俺に立つことを促すようなハンドサインをし、俺も一応立ち上がった。
ビートがずっと流れるなか、芽以が、
「ダロがやんないならアタシが次のバースもいくよ!」
と言うと、また芽以がラップを再開した。
《芽以》
でも真梨子なら許せちゃうんだ 感情をどこかに移せちゃうんだ
アタシの想いは霞んだ ダロを貸すんだ、じゃなくて、あげるよ
耐えるよ、このくらいの出来事は だってアタシはお姉さん、っていう言葉
届かないなら別にいいって諦める きっといつかは愛冷める
やっぱり俺も何か返さないとカッコがつかないので、割って入ることにした。
《ダロ》
芽以の気持ちなんて知らなかった この瞬間に、今分かった
言われてやっとじゃ遅いかもな 俺の人生は情けないことが多い過去だ
結局人の感情に疎い 慣れていない最近の反響密度に
ちょっと脳内洪水パンク気味 なんとか人間に猛追、ラップ日々
芽以が何か喋り出しそうだったけども、流れでそのままラップを続ける。
《ダロ》
意味が無いな、全てを終えたあとじゃ こんなんただのアホだ
でも俺は真梨子のことが気になって 真梨子のためという意志あって
芽以の告白に応えられない 俺の秋の空は変えない、変わらない
まだ若い・ただ課題・まだ境じゃなく これが渾身の本心
これで終わりかと思ったら、また芽以がラップし始めた。
《芽以》
あぁもう全部終わり終わり でもそれでも好きなんだ! しょうがない!
こうじゃない! そうじゃない! なんて言ってもキリがない!
なんかちょっと死にたい! 簡単に言っていいことじゃないけども!
でもダロ! 渾身の死ぬなラップ、アタシにちょうだい! ほら、ここからダロのショータイム!
そんなこと言われたら言えるものも言えないだろ。
四小節見送って、深呼吸してから俺はラップを再開した。
《ダロ》
芽以は物怖じせず優しくて 頭の回転が早い、まるで導(しるべ)
見る目があってだからライバルと言われて嬉しかった、気持ち無敵なった
これからも一緒に闘いたい いいや事あるごとにただ会いたい
ラップで今後も高まり合い 日々の話も語らいたい
でも告白されて頭痛い 結局俺とはまた相対
芽以は大切なライバルで そういう目で見れない、外角で
内角は真梨子、もう譲れない 気持ちはよそには移れない
それでもみんな俺の円を作り出す 大切な要素、会えばチカラがすぐに増す
芽以は静かにスマホのビートを止めてから、
「分かったよ、というか分かっていたよ、じゃあさ真梨子とダロが結婚してさ、離婚したら相手してあげる」
そう微笑んだ。
俺は落ち着いた声で、
「真梨子が生きる前提でありがとう」
と答えると、芽以はガッツポーズしながら、
「当然でしょ! ここまでやってあげてるんだから!」
と声を上げた。
何だかその後、ギクシャクするかと思ったけども、普通に会話出来て嬉しかった。
でもそれも芽以が気を遣っているんだろうなとも少しくらいは分かって、胸が痛かったことも事実だ。



