伝えるには言葉しかないだろ


・【16 MCバトル】


「名前を変えてMCバトルとかに出ているのかも!」
 芽以が急にデカい声を上げた。
 俺は頷きながら、
「そういう可能性はあるかもな」
 笹木は即座に、
「じゃあ師匠とやらの写真を見せてほしい。それで調べるから」
 当時、芽以はやたらと師匠との写真を撮っていたので、芽以がスマホから笹木に転送し始めた。
 そんななか、笹木が、
「つーか名を売るというのも大切だよな。ダロも一回MCバトルに出てみて様子見てもいいかもな」
 俺は半信半疑の声で、
「でも笹木、金払いが良いのはオタクって言ってなかったか? MCバトルなんて本物のラッパーしか興味無いんじゃないか?」
 笹木は少し呆れるように、
「ダロって本当自分のやっている範囲のことしか知らないんだなw MCバトルはオタクも見ているもんだぞ。そもそもラップという文化は元々ヤンキーとオタクしかハマらなかった。そのまだ見ぬオタク側にリーチ出来るかもって話だ」
 俺は息をついてから、
「そうなのか。俺は単純にイジメをするような連中をディスるにはラップがいいと思ってやっていたが、そういう側面もあるのか」
 芽以は軽く笑ってから、
「本当ダロってそればっかだったもんね。この世からイジメや不条理を無くすために、ラップで世の中を変えてやるんだって」
 すると真梨子が、
「何でそんな信念なんですか! 過去篇教えてください! 過去篇!」
 俺は矢継ぎ早に、
「過去篇って漫画の言い方するなよ。別になんだっていいだろ」
 と言ったところで笹木が、
「ダロって秘密を守ろうとするよなw いやいいんだけども。過去篇も何も僕がイジメに遭ったからだもんね。僕とダロは趣味も性格も全然違うんだけども、昔から仲良くて。でも中学で別々になった時に、僕は向こうの中学でイジメられて不登校になって。それを知ったダロが生真面目に撃退してやるって」
 俺はちょっと前のめりに、
「おい、生真面目ってなんだ。俺にとっては大切なことなんだよ」
 笹木は優しく微笑みながら、
「知ってる。ダロが大切に思ってくれていること」
 改めて言いやがって、ちょっと恥ずかしいじゃねぇか。
 笹木は続ける。
「でも僕はもう中学校には戻らなかった。ネットの世界に自分を見出したから。ダロはまあ一緒に生身でいろいろやろうぜって誘ってくれたけども、やっぱり中学違うし、一緒に居れる時間は少ないし。そこからダロが生身でイジメを撲滅し、僕がネットでそういう現場を探す関係になったってわけ。ダロは本当見返りが嫌というダサくて庇護された学生気質で、僕のような既にネットで稼いでいる学生をセルアウトと言って笑うアホだけども、すごく良いヤツだよ」
 俺はつい語気を強めて、
「何かすごいディスあっただろ! 今!」
 芽以と真梨子は爆笑した。
 俺は続ける。
「いやもうセルアウトを笑っていたのは悪かったって! 今の時代ちゃんと自分で稼ぐことは大切だって分かったって!」
 芽以は同調するように、
「そそっ、学校なんて稼げるようになるために勉強とか訓練するだけのところだからさ、笹木のようにもう稼げていれば行かなくてもいいんだよねっ」
 真梨子はう~んと軽く唸ってから、
「でも私はダロさんに会えたので、学校行っていて良かったなぁ」
 笹木も深く頷きながら、
「そうだよ、そういうヤツは学校行ったほうがいいんだよ。何もかも個別対応、適材適所だ。合う人は合うことをやればいい。まあ昔からもうちょい金稼ぎが出来ていれば、ダロももうちょっと楽だったのかもしれないのになw」
 俺は冗談だけども軽く怒髪天で、
「おい! 最終的に俺をイジるのやめろ!」
 そんな感じで、今日の会議は終わり、笹木は師匠を探すことに集中し、俺も一回MCバトルに出ることにした。
 〆切がすぐの大会があったので、自己PRを書いたメールをフォームで送ると、次の日には大会前日の予選からではなくて、いきなり本選での出場決定になり、トントン拍子でその当日がやって来た。
 当日は真梨子と一緒に会場へ向かった。
 結構ちゃんとした大会らしく、会場内は禁煙らしい。会場に着いて時間になるまで二人で会場の隅で喋っている。
「真梨子、気分が悪くなったらすぐにライブ会場から出ていくんだぞ」
 と俺が心配になりながら言うと、真梨子は明るく、
「そんな親戚のおじさんみたいなこと言わないでよ」
「いや普通は両親だろ。そんな結構遠いところが一番近い人じゃないだろ」
「親戚のおじさんみたいに勝手に家でタバコ吸わないでよ」
「吸わないわ。そんな狭い親戚のおじさんあるある言わんでいいわ。タバコを吸う親戚のおじさんって、家庭のルールとか全然聞かずに勝手に吸い始めるなぁ、じゃぁないんだよ」
「親戚のおじさん、軒下の床、焦がしたことある」
「嫌な思い出まで紐付けるなよ、こんな俺との会話からそこまで持って行くなよ」
 真梨子は楽しそうに、
「やっぱりダロさんのツッコミ、すごく面白いですっ。ずっとずっと私にツッコミ野郎やってくださいっ」
「じゃあ何でちょっと面白くない風味にしちゃんだよ、ツッコミ野郎は荒々しくて声がデカいだけのヤツだろ」
「モヒカンにして」
「そうそう、俺が思っているツッコミ野郎とイメージ一緒だわ。でもモヒカンには絶対しないだろ」
「イメージ一緒って嬉しい! じゃあもしかすると……バラくわえていますかっ」
「バラはくわえていないだろ、何かよく分からない葉っぱだろ、カイワレ大根みたいな葉っぱだろ」
「それはドカベン過ぎですよ!」
「今日日、女子高校生から岩鬼関係のワード出ないだろ」
「おじいちゃんが持っていた漫画をずっと読んでいたんでっ」
「だとしたらそうなるかもだけどもさ」
 時間になり、俺は出場者の部屋へ、真梨子はそのまま会場に残り、一旦バイバイした。
 部屋というか楽屋というか控室に着くなり、周りのラッパーが俺をチラ見しては舌打ちしてくる。
 なかにはずっと見下すようにニヤニヤと見てきて、何なんだと思っていると、モヒカンでタンクトップの、まさしくツッコミ野郎みたいなヤツが俺に話し掛けてきた。
「ネット発のスターおつww」
 あぁもう分かったわ。ネットでやっているセルアウトをバカにしているということか。
 こういう現場至上主義っているよな。別に俺もストリートライブとかやっているのに。
 モヒカン野郎はヘラヘラしながら、
「わざわざボコボコにされにきてくれて有難う。こっちも上がるわ」
 じゃあ、と、俺も一発かましてやることにした。
「上がるわ? 溜飲下がるぐらいの語彙も無いのかよ。それでよく言葉を喋れるな」
 モヒカンの男は殴るようなポーズをしてきたが、こういうのはイジメの現場で山ほど見てきたので、俺は微動だにもしなかった。なんせ本気で殴る気ゼロの筋肉の動きだったから。
 そのモヒカンの男はデカい舌打ちをして汚かった。何か水っぽい、ヨダレいっぱいの舌打ちだったから。
 というかそういうことか、何も実績の無い俺が本選出場確定になるなんて、ちょっと変だなとも思ったけども、ネット野郎が現場でボコボコにされたという光景を主催者が見せたくて、俺を予選からじゃなくて本選から出場確定にしたわけか。
 やっぱりこういうところは馴れ合い馴れ合いで主催者もクソだな、でもそれを覆してやるのが面白いってもんだ。
 ちゃんと賞金はあるらしいし、ここで圧勝して名を挙げて、まだ俺を知らないオタク層にも知られてやるんだ。
 これ以降、俺に絡んでくる連中もいなくて、大会も進行していき、ついに出番になった。
 この大会は三十二人のトーナメントで、まずは一回戦だ。
 一回戦の相手はあのモヒカンの男だった。MCテンサイと言うらしい。
 MCテンサイと呼び込まれて、ソイツが舞台上にゆっくり歩いて行くと、めっちゃ黄色い声援が飛んだ。こんなんなのに人気があるんだ。
 今度は、ダロと呼ばれた俺が舞台上へ行くと、なんとブーイングを浴びてしまった。完全アウェイというヤツだ。というか露骨過ぎる。
 MCバトルのMCが叫ぶ。
「新潟の怪童! MCテンサイ! バーサス! ネットのひと! ダロ!」
 何このキャッチフレーズ格差。もう主催者から俺、バカにされ過ぎている。最悪審査員も買収されてんじゃねぇのか。
 まあやるだけやってやるか。まずはMCテンサイの八小節がスタートした。

《MCテンサイ》
YEAH! 全てを司るおれはMCテンサイ! 頭脳明晰! マジで天才!
かつ、人を恐れさせる本物の災害! つまりは天災! 最強に最怖(さいこわ)!
最後はおれがこの場に立っている! つまりはおれが勝っている!
買ってくれおれの馬券! オマエは全然おれに勝てん!

 何コイツのラップ。即興じゃないじゃん。絶対ネタじゃん(元々用意してきたリリックのこと)。
 これで最初の八小節使うって本当楽をし過ぎ。というか雑魚過ぎだろ。

《ダロ》
はいはい、今のネタ過ぎ、MCテンサイ 今のはどこかからの文章の転載?
というかオマエ馬券って馬なの? 馬とMCバトルって時間の無駄だろ
俺はダロ、ネットのひと、つまり人間 オマエに人参はもったいない、はいインゲン
細い緑をかじっていろよ それとも葉っぱか? ダサい脱法、恥じていろよ

 あんなブーイングだったのに、むしろ俺のラップのほうが沸いている。
 その辺は正直で助かる。さて、MCテンサイが次、どう出てくるか。

《MCテンサイ》
オマエだってネタ使ってんじゃん! 俺用のヤツじゃん! マジダサい!
テンサイイジリはもうダサいぃぃーーーーぃ! ホントにダサいぃぃーーーーぃ!
良い! 良い! 俺のラップは最高に良いぃぃいいーーーーーーぃ!
イキイキ良いリリ(ック) 韻韻韻! YEAH!

 コイツのラップ、ダサ過ぎる。
 というかさ、

《ダロ》
オマエだってって、オマエは認めた? はい、とりあえず一発仕留めた
イキイキってなんだよ、老人施設か まあオマエのダサラップを更新してくか
いちいちシミになるような汚点残すな オマエのような滑りやすい路面を淘汰
生き死にナシのネタアリ安全ラップ しているオマエの勝率、断然皆無

 どうやら二ターンで終わるらしい。
 客は完全に俺で盛り上がっていたけども果たして。
 審査員は三人中三人、俺が勝利の札を上げて、買収はされていなくて助かった。
 審査員の一人が、
「いいね、まあこれがマグレかじゃないかは注視していこう」
 と言うと、会場がドッとウケて、別に面白いことは一切言っていないだろとは思った。
 真梨子のほうが絶対に面白いし。
 控室に戻ると、全員俺のことを遠巻きに見るだけで、誰も関わってはこなくて、結構ウケている感じはした。
 俺のことを軽く認め始めているというか、だからこそ安易に突っかかってこないというか。
 すると、一人の女性ラッパーが近付いて来て、手を差し出してきた。
「君、カッコイイね」
 俺はその手を握って握手をした。
 その女性ラッパーは続ける。
「やっぱネタ野郎は負けるべきだよね。決勝は君と当たれたら嬉しいな。わたしは次の次の試合、袖で見ててよ」
 そう言い切ると颯爽といなくなった。こっちが何か言う暇無く。
 自己中心的な一面も感じたけども、同時に強者の余裕みたいなのも抱いた。
 もしかしたら本当にこの人と決勝で会うのかもな。
 俺は言われた通り、次の次の試合を袖で見ていると、華麗というか圧倒的にその女性ラッパーが勝った。誰が見ても明らかだった。
 ただまあ、そもそも相手の男性ラッパーのリリックも酷かった。セクハラというか下ネタというか、笑いになっていないエロネタというか。
 あの女性ラッパーはきっとあんな言葉じゃ怯まない、そんなことも気付かず、ずっと汚い言葉を言い続けていた。ダサ過ぎる。現場ラッパーってこんなんばっかなの?
 いやまあ、あの女性ラッパーが現場ラッパーなら、そういうのばかりではないんだろうけども。
 俺の出番がやって来た。次の相手はMCリリックパーティというヤツだ。

《MCリリックパーティ》
ネット発ってダサいよな 高校生なら家でやってろ、オナ
シコってシコってシコりまくれ カメラを止めるなでシコりまくれ
シコる手を止めるな、ネットの動画野郎 耳舐め配信でもしてろうよー
AVtuterやってるって? じゃあおれが補導しちゃうぞー!

 どうしよう、本当に気持ち悪い相手と当たってしまった。
 会場は爆笑の渦。本当にレベルが低いかもしれない。
 コイツのラップは全然だが、ウケているという事実だけ見ると、負ける可能性はある。
 だからここはあえて相手の土俵に乗ってやることにした。

《ダロ》
補導? 汚い砂利道は俺が舗装 楽しいラップは俺が保証
オマエのような砂利道こそ砂利ガキ はいはいシコってつかオマエは事故って
オマエはガタガタ道、俺は王道 堂々行動、向上していく相当
あ、砂利はカッコイイとか無いからな 綺麗にしないことは怠惰だわ

 下ネタ込みのラップをしてみると、会場はちゃんとウケている。
 韻はこっちが勝っているし、審査員の心証的には悪くないはずだ。

《MCリリックパーティ》
意味分かんねぇラップやってんじゃねぇぞ チン毛生えてっか!
当たり障りの無いリリックで やってのけてんじゃねぇぞ! FU!
チン毛も生えていないような雑魚に負けるはずないだろ! FU-FU!
おれにはいる夫婦! ネットしか居場所の無い雑魚はすーぐー! 滅!

 会場のウケはさっきほどじゃないけども、まだウケている。
 やっぱり下ネタ関係の韻を入れてやったほうがいいのかもしれない。
 この辺は柔軟にやっていくか。

《ダロ》
一貫していない まだ俺は闘いを実感していない
期待ゼロのオマエ 精通したらチン毛生える オマエは分かってない人体
正直オマエはハマってない・引退 金塊埋まってないな、ただ暗い深海
チン毛で神経逆撫でる? 陰気で湿気、キモイなもう、ただ帰る

 韻が最後ちょっと甘くなったが、そこは言い方でカバーしたつもり。
 果たして、と思ったわけだが、結果は審査員全員俺に札を上げて勝利。
 審査員の一人が、
「これは本当に実力あるかもね」
 と言ってくれて、まあそう思われていることは素直に嬉しい。
 そんな感じでどんどん俺は勝っていき、ついに決勝になった。
 というか正直ずっと楽勝だった。
 何故なら俺に対して、ずっとネットか下ネタでしかイジってこないので、返しやすいのだ。
 同じような語句が続けば、その語句の母音は頭に入っているから、即座に長い押韻も出来る。
 決勝戦の相手はあの女性ラッパーだった。
「やっぱり君だと思っていたよ」
 とウィンクしてきた。何だか食えない雰囲気が漂っている。
 決勝戦も俺が後攻になった。きっとこれ、後攻のほうが有利なので、有難い。
 MCバトルのMCが声を荒らげる!
「女性の星! ネスト! バーサス! ネットのひと! ダロ!」
 何か両方キャッチフレーズ適当だな。ネストさんも主催者からバカにされていた枠なのかもしれない。
 そんな二人の決勝戦って何だか感慨深いような、いやそうでもないか。
 ネストさんはベリーショートの髪を、マイクを持っていないほうの手でカッコ良くかきあげてからラップを開始した。

《ネスト》
多分君は高校生? でも決勝って実力相当で
手加減する暇無いね やっぱし前評判は効かないね
全て実力こりゃ最高 新たなスターが生まれる胎動
でもそれはわたしで決まり サッと輝くわたしの視界

 オーソドックスに脚韻を決めていくスタイルらしい。
 じゃあそれは基本として、脚韻から頭韻の踏み方も意識していくと点数が取れるかもしれない。

《ダロ》
年齢なんて関係無い ネストは勝負のあとに反省会
正解は俺の勝利で決まり とは言え驕らず、脅威警戒 
明快な優勝を手にするために 振り向かないぜ、背にする瓦礫
焦りはゼロで余裕で快走 俺の星々、宇宙に胎動

 かなり頭が冴えている。
 韻も相当量踏めている。
 会場も実際に盛り上がっているし、悪くないスタートだ。

《ネスト》
あはっ、アハ体験、今から自分を再建 けんけんぱ、楽しんだもん勝ち
価値はカチカチ山のタヌキが知ってる 背は瓦礫より燃えるほうがいい!
焦っていいじゃん、汗かいていいじゃん 出せ青春! 流れろ清流!
老若男女、何の用? って、ラップするんだよ! バカヤロー!

 なんと今までと全く違うスタイルに変化して、ちょっと戸惑ってしまった。
 韻は遊び程度に、否、全てが遊びになっていて、正直面白いと思ってしまった。
 会場はめっちゃ盛り上がっている。盛り上げるように手を上下させて煽っているネストさん。
 まさかこんな型破りなスタイルを隠し持っていたなんて。
 でも俺は真正面から韻を踏むことしか出来ない。俺は惑わされずに自分のスタイルを貫く。

《ダロ》
バカ野郎? まだ野郎? 俺は性別を越えた存在でありたいだろう
去ろう性別年齢というレッテル つまらないしがらみはラップと蹴ってく
苦と競ってる、世界を変える 自分なりの狙いを混ぜる
当てるピットブル、ミートする、ヒット来る 負けを認めたネスト、嫉妬ぶる?

 最後の韻の連打で盛り返した感があるけども、まだ微妙に足りない気がしている。
 最後はもう1ターンずつある。やっぱり相手の土俵にちょっと乗った連打韻のほうがウケの良い空気になっているような気がする。
 じゃあ最後の自分のターンは韻をとにかく連打しまくって、楽しい感じでいったほうがいいのかもしれない。

《ネスト》
たまんない空気、無いよこんな周期 クサい臭気もそれはそれでベスト!
チャンピオンベルトしたら腹が出るよ! 上からジャンパー着ちゃったらね!
HEY! BOY’S&GARL’S! 人生ジャンプアップクイズの途中でしょっ?
アップしてラップ! アップしてラップ! タップなんてないさ! シャラップでは黙らない!

 全く中身の無い押韻だけども、盛り上がっていることは確かだ。
 この言い方というかフロー、いちいち言葉を粒立てた語気の強め方に、高めの声なのに聞き心地の良い絶妙さ。
 このネストさんに勝つことに価値があると俺は感じている。絶対に勝たなければならない相手だ。

《ダロ》
クサい臭気? 負債吸う気? その感性を、知りたい人にアンケート
いやゼロでしょ、何その完成度 反省をしてくれ、それでまあ知恵増え
てくれたらまあまあいいね ただただ意味ねぇ、じゃ、頭が石で
柔軟な反省会が出来ないなら糾弾だ暗転だ これは俺からの勇敢な断言だ

 最後はリリックの理屈よりも押韻をとったが果たして。
 それとも俺の、ある意味生真面目なスタイルを全面に押し出したほうが良かったのか。
 それこそ俺が反省会しても仕方ないけども。俺は審査を祈った。何故なら自分が勝った自信が今回だけは無いから。
 審査員がジャッジの札を一人ずつ上げていく。
「おれはネストが盛り上げたと思う。あくまでラップバトルは盛り上げたかどうかだから」
 一人目はネストさんに札を上げた。
 あと二人、全部俺じゃないと負けてしまうといったところで、
「ぼくはダロですね、韻が気持ち良かった。というかラップバトルは韻の気持ち良さでしょ?」
 と言ったところで、一人目と二人目が睨み合って拍手が起きる。
 出場者だけではなくて、審査員もバチバチらしい。
 さて最後の審査員は笑いながら、
「つーか消極的ぃ、あたしに委ねないでよー! まあいいや! あたしはダロが単純にカッコイイと思った! こういうの主観でいいんでしょっ?」
 俺に札が上がった! やった! 俺の勝利だ!
 ネストさんはすぐに手を差し出しながら、
「エロネタ使ってこないから、めっちゃやりづらかった! 君最高だよ!」
 これには俺も返さないとと思い、握手をしながら、
「俺もネットイジリが無くて、紋切型じゃなくてやりづらかったです。2ターン目からのネストさん最高に怖かったです」
「そっちも決まったイジリなくて困った派ねー! あー! 1ターン目様子を見なきゃ良かったぁ!」
 そう言って頭を抱えてしゃがみ込んだネストさん。オーバーリアクションで何だか楽しいお方だ。
 その後、舞台上でトロフィーと賞金を受け取った俺は、控室に戻り、ネストさんと連絡先を交換し、真梨子と一緒に会場をあとにした。
 帰り道、真梨子が俺に向かって、
「何かネストさんといい感じになっていましたねぇ……休日、一緒にパン作りする予定でも入れましたか?」
「パンをこねる仲がどの程度かまず分からないだろ。というかそんな予定とか入れてないわ。リスペクトし合っただけだろ」
「ピザ窯にマイク置いたりしないですか?」
「絶対しないだろ。パンとピザは微妙に違うし、行動が意味不明過ぎだろ」
「ピザ窯が声を出して韻踏んでる! とか言ってハイタッチしないですか?」
「ピザ窯は韻踏まないだろ、何だよ、もっとせめて現実的な妄想してくれよ」
「現実的なこと考えると……」
 と言って一拍置いてから、さっきよりも大きな声で真梨子が、
「嫉妬しちゃうかもです!」
 と叫んだ。いや、
「何も無いから。ただのラッパーの先輩で今回たまたま勝利出来たって感じだから」
「嫉妬深い友達でゴメンなさい」
 そう言って歩きながら頭を下げた真梨子。
 俺は別に、出来るだけ普通って感じで、
「一番仲良しでいたい気持ちは俺も一緒だろ」
 と言ったつもりだったけども、変に情念入っていなかったか心配だ。
 まあ真梨子も快活に笑ったので大丈夫だったのだろう。