・
・【15 経由】
・
芽以から休日に呼び出しがあった。たいした用事でなければ生配信していたほうが稼げるが、これは絶対にやらないと、という”仕事”だったので、芽以のほうは優先させた。
その仕事というのが楽曲提供、つまり俺が誰かのために詩を書き、場合によってはラップ指導を行なうというもの。
今日は、真梨子は検査入院の日ということもあり、俺はこの仕事の橋渡し役の芽以と二人きりで電車に揺られていた。
「ダロ、今日もいい感じー」
「私服は別に普通だろ」
「そういう時はアタシのことを褒め返すんだよ、本当にダロってそういうの疎いねー」
「何だよ別に。芽以もいつも通りだし」
「いつも通りで可愛い?」
そう言って軽く座っている腰をホップさせて、茶髪のボブヘアを揺らした芽以。
「そういうことは言わないだろ」
と俺がスルーしつつ、対面にある電車の窓の外を見ると、芽以が、
「ああそう、真梨子にしかそういうことは言わないってことね」
と言ってきたので、つい吹き出してしまった。
「いやっ、真梨子にも言わないだろ。そういうことは」
「何で? 伝えるには言葉しかないのに。真梨子のこと、好きなんでしょ」
「好きというか友達として頑張ってほしいって気持ちだろ」
「恋愛感情は無いの?」
「別に。そういうのはまだ分かんないわっ」
と対面の窓を見るのはやっぱりやめて、顔をハッキリと芽以から背けたわけだが、芽以の言葉は止まらない。
「恋愛として好きってことでしょっ」
「さぁ? そういうのは全ての結果が出たら分かるんじゃないか?」
「全ての結果って何?」
「そりゃ真梨子の手術が成功して、まず真梨子が安静になったら。そうしたら冷静に見れるところもあるだろうし」
「何が?」
「真梨子の心がだろ。まずは真梨子の気持ちありきだし、真梨子が好きに生きれるようになったら、真梨子は自由になって俺と一緒にいなくてもいいわけだし」
「そうじゃなくてアタシはダロの気持ちを知りたいのっ。ほらっ、お姉さんに全部言いなさいっ」
「お姉さんって一歳違いじゃん。というか別に俺は普通だよ、普通に友達として真梨子のことが好きだ」
フーン! というデカい鼻息の音が聞こえてきた。
またここから怒涛で喋るのかなと思っていると、芽以がこう言ってきた。
「なるほど、アタシの言葉を完全に拒絶しないのは、アタシがビジネスパートナーになっているから。つまり権力勾配があるから機嫌を損ねないようにはしているわけねっ」
「別に権力勾配とまでは思ってないが。でもまあ楽曲提供の話を持ってきてくれたのは芽以だから、芽以を怒らせるような言い方は出来ないとは思っていたよ」
「ゴメン、これもセクハラだよね、女子から男子も普通に」
「いやいや別に。俺も面白く返せればな」
「それこそこっちがいやいや! 面白くしろはそれこそ昭和のノリ! 本当ゴメン!」
芽以のほうをチラリと見ると、本当に反省しているようにうなだれていて、
「別にそこまでのことじゃないから。ちょっと困惑しただけ。俺の中でもまだ本当の答えの出ていないことだったから」
と優しく伝えると、芽以が微笑みながら、
「本当にダロは優しくて大好きっ」
「いや何だよそれ」
「こういう時はダロも優しくて大好きって褒め返すもんなんだよ?」
「いや別に優しいって話じゃなかっただろ、芽以が」
そんな会話をしながら、目的地のビルの六階に着いた。
そこで着くなり、依頼者からは、
「恋愛の曲を書いてほしい」
と言われて、正直眉毛が八の字になってしまった。
まさか、でもそうか、電車内の芽衣の話ってつまりはこれのフリだったということ? 芽以は依頼内容を知っていて恋愛の話が出来るかどうか俺を確かめていたというか。
俺はでも、新人が苦手を理由に仕事依頼を断ることは出来ないしなぁ、と頭をぐらぐら揺らしながら思っていると、芽以が、
「分かりました! 勿論やるよね! ダロ!」
と返答をしたわけだけども、本音のところは有難かった。
自信満々で恋愛書けますとは俺は言えないけども、依頼を断って得られる報酬を棒に振ることはしたくなくて。
芽以が代わりに言ってくれたことは本当に有難かった。
話はトントン拍子で進み、芽以の事務所の先輩への曲作りなので、俺がラップ詩を作れば、俺のラップの癖を知っている芽以がラップ指導をしてくれるという話だ。作詩は俺一人で行なう、と。
改めて芽以と二人きりになり、とりあえずファミレスで食べていくことになった。
そこでそれぞれ俺はオムライス、芽以はラーメンを頼んで食べていると、芽以が耳と重なる髪の毛をかきあげながら、
「つか、ガチセクハラだけども、真梨子への気持ちを書いたら?」
「いいよもう、セクハラではないだろ。ただの会話だろ。というか恋愛の曲って知ってた?」
「割と知ってたほう」
「だよな。だからなんというか、うん、俺はまず仕事を受ける方向にしてくれて嬉しい」
「良かったぁ」
そう胸をなでおろすような顔をした芽以。
俺は深呼吸してから、
「真梨子への気持ちね、まあ普遍的にいい感じのヤツを自分なりに書くよ」
「普遍的じゃなくて、もっとなんというか、どっちかまだ分からない的な恋愛の詩を書けばいいんじゃないの?」
「いやいや、それだと局地的だろ。もっとその先輩のファンが喜ぶような、普遍的なヤツにするよ。俺が俺の気持ちを込めて書いたら、それはもう俺の曲になっちゃうだろ」
「まあそうだけども」
そんな感じで二人でメシ食って、電車に揺られて、芽以とはバイバイして、また家に戻って来て、軽く生配信を行なった。今日はラップしながらのゲーム実況にした。
作詩は納得のいく出来で、見直しをしてから後日、メールでリリックを送ったわけだが、なんとリテイクが出てしまったのだ。
送る前に真梨子や笹木にも見てもらって好評だったのに。まあ芽以だけは不満そうなLINEがきたけども。
リテイクが出たことを芽以に報告すると、
『やっぱりそうだ! もっと自分の殻を破るつもりで自分のことを書くべきだと思う! 情熱的にね!』
もしかしたら俺はまたどこかクールぶって、スカした感じになっていたのかもしれない。
自分を変えてやるくらいの勢いで書くべきだったんだ。
俺は改めて気合いを入れ直し、作詩作業に勤しんだ。
・
・
・
紅藤色の恋をしている 目に憂い(うい)、果たしてこれで合っているのか
俺はいつも待っている永遠(とわ) きっと時間が解決、それが未完な採決
赤でも無くて青でも無くて しない確定、感情は隠せ
好きなんて言っていいのだろうか 今日も自分の自信は過少だ
妥当なんだろう、俺はこんなもん 心の答えが出せない愚か者(おろかもん)
問答無用で時間は過ぎていく 時間って味方じゃないのか、選択肢が尽きていく
早く行動を堂々、それが王道? 相当切羽詰まっている? 迷う路頭
まだ道があるからマシか 明日(あした)じゃなくて今やる新たにな
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ当たらない
紅藤色 ただただ分からない 答えはきっとまだ明かさない
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ境
紅藤色 紅藤色 紅藤色の恋
紅藤色の恋をしている 目に憂い(うい)、果たしてこれで合っているのか
本当はいつも舞っている永遠(とわ) 君と一緒に踊りたい
友人として? 恋人として? いつか知りたい、人生を賭して(として)
一番という言葉が浮かんだ その瞬間またいつもの俯瞰か?
いいや主観で生きるんだ 別々に仕切るんじゃなくて、自分を仕切るんだ
指揮者のように指揮棒振って 自分の人生を棒には振らない
自分の気持ちを簡単に振らない この感情は半端に産まない
紅藤色がいつか一番輝くように 紅富士のように燦燦と響くように
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ当たらない
紅藤色 ただただ分からない 答えはきっとまだ明かさない
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ境
紅藤色 紅藤色 紅藤色の恋
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・
・
自分なりには相当頑張ったつもりだが果して。そう思いながら詩を納品した結果、OKが出て安堵した。
真梨子も笹木も「前のよりも良い」と言ってくれて、芽以からもお墨付きという言葉をもらった。
それから芽以がいろいろやってくれたようで、曲も完成し、発表されて、やっぱりこういうのってネット発の会社のスピード感だよな、と思った。
真梨子の残りの時間を考えて、印税でお金をもらう形式じゃなくて、まとまったお金をもらう形にしてもらった。
初動がかなり良かったこともあり、報酬は弾んでくださった。勿論、芽以の交渉のおかげでもあるけども。でも正直お金はまだ足りない。
笹木の家で、俺と真梨子と芽以も集まって会議をしている時、芽以が案を出した。
「師匠からお金を借りるしかないんじゃないかな」
俺は「確かに」と頷いた。
すると笹木が、
「お金持ってる人なのかな?」
と、少しおそるおそるって感じで言うと、芽以が、
「凄腕のラッパーなんだからお金持ちっしょ!」
と自信満々に言い切った。
すると即座に笹木が、
「じゃあ何ですぐに頼んなかったの?」
俺と芽以は顔を見合わせてから、俺が喋ることにした。
「師匠は俺と芽以がそれぞれ一人前になるまで会わないという話だったんだ。だから気も引けてな」
芽以が補足するように、
「というか師匠の居場所も分かんないしぃ、アタシとダロが有名になれば姿を現すからみたいな感じで」
真梨子は目を輝かせながら、
「カッコイイです!」
と言うと、芽以は得意げに頷いた。
でも笹木は懐疑的な目で、
「じゃあさ、その師匠とやらは有名ラッパーじゃないってことだね、居場所分かんないんだから」
俺と芽以はまた顔を見合わせたが、芽以も(多分俺も)目を見開いていた。
笹木は続ける。
「有名ラッパーはお金を持っているだろうけどもさ、有名じゃないラッパーがいくら凄腕だというそっちの主観でもお金持ってるかな?」
チクチク言葉だが、正論かもしれない。
確かに師匠がお金を持っている確証も無いし、そもそも師匠に会える確証も無い。
芽以は後ろ頭をかきながら、
「でもまあ……大人を頼ってみることもいいかもっ」
笹木は溜息交じりに、
「まあいいさ、とりあえず名前教えて。ネットで検索するから」
芽以は唸り声を上げてから、
「でも師匠ってネットとかやっていないほうだったからさぁ……」
「いや凄腕ラッパーなら誰か噂するでしょ、ネットに名前くらい出ていてもおかしくないよ、フライヤーとかイベントのSNSもあるわけだし」
芽以が少し小さな声で、自信無さげに、
「MCカンシーって言ってぇ……」
と言ったわけだが、なんとなく芽以の気持ちは分かる。
笹木にそう言われたことにより、正直こっちの自信は喪失しているのだ。
そうだ、そりゃそうだ、もっと有名になっているなら、俺たちの耳にも目にも入ってきているはずだ。
それが入ってこないということは……笹木がパソコンに向き合ってから十五分、ゲーミングチェアを回してこっちを向いてからこう言った。
「全然検索にヒットしないね、MCカンシーという文字を画像化して画像検索してもね」
・【15 経由】
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芽以から休日に呼び出しがあった。たいした用事でなければ生配信していたほうが稼げるが、これは絶対にやらないと、という”仕事”だったので、芽以のほうは優先させた。
その仕事というのが楽曲提供、つまり俺が誰かのために詩を書き、場合によってはラップ指導を行なうというもの。
今日は、真梨子は検査入院の日ということもあり、俺はこの仕事の橋渡し役の芽以と二人きりで電車に揺られていた。
「ダロ、今日もいい感じー」
「私服は別に普通だろ」
「そういう時はアタシのことを褒め返すんだよ、本当にダロってそういうの疎いねー」
「何だよ別に。芽以もいつも通りだし」
「いつも通りで可愛い?」
そう言って軽く座っている腰をホップさせて、茶髪のボブヘアを揺らした芽以。
「そういうことは言わないだろ」
と俺がスルーしつつ、対面にある電車の窓の外を見ると、芽以が、
「ああそう、真梨子にしかそういうことは言わないってことね」
と言ってきたので、つい吹き出してしまった。
「いやっ、真梨子にも言わないだろ。そういうことは」
「何で? 伝えるには言葉しかないのに。真梨子のこと、好きなんでしょ」
「好きというか友達として頑張ってほしいって気持ちだろ」
「恋愛感情は無いの?」
「別に。そういうのはまだ分かんないわっ」
と対面の窓を見るのはやっぱりやめて、顔をハッキリと芽以から背けたわけだが、芽以の言葉は止まらない。
「恋愛として好きってことでしょっ」
「さぁ? そういうのは全ての結果が出たら分かるんじゃないか?」
「全ての結果って何?」
「そりゃ真梨子の手術が成功して、まず真梨子が安静になったら。そうしたら冷静に見れるところもあるだろうし」
「何が?」
「真梨子の心がだろ。まずは真梨子の気持ちありきだし、真梨子が好きに生きれるようになったら、真梨子は自由になって俺と一緒にいなくてもいいわけだし」
「そうじゃなくてアタシはダロの気持ちを知りたいのっ。ほらっ、お姉さんに全部言いなさいっ」
「お姉さんって一歳違いじゃん。というか別に俺は普通だよ、普通に友達として真梨子のことが好きだ」
フーン! というデカい鼻息の音が聞こえてきた。
またここから怒涛で喋るのかなと思っていると、芽以がこう言ってきた。
「なるほど、アタシの言葉を完全に拒絶しないのは、アタシがビジネスパートナーになっているから。つまり権力勾配があるから機嫌を損ねないようにはしているわけねっ」
「別に権力勾配とまでは思ってないが。でもまあ楽曲提供の話を持ってきてくれたのは芽以だから、芽以を怒らせるような言い方は出来ないとは思っていたよ」
「ゴメン、これもセクハラだよね、女子から男子も普通に」
「いやいや別に。俺も面白く返せればな」
「それこそこっちがいやいや! 面白くしろはそれこそ昭和のノリ! 本当ゴメン!」
芽以のほうをチラリと見ると、本当に反省しているようにうなだれていて、
「別にそこまでのことじゃないから。ちょっと困惑しただけ。俺の中でもまだ本当の答えの出ていないことだったから」
と優しく伝えると、芽以が微笑みながら、
「本当にダロは優しくて大好きっ」
「いや何だよそれ」
「こういう時はダロも優しくて大好きって褒め返すもんなんだよ?」
「いや別に優しいって話じゃなかっただろ、芽以が」
そんな会話をしながら、目的地のビルの六階に着いた。
そこで着くなり、依頼者からは、
「恋愛の曲を書いてほしい」
と言われて、正直眉毛が八の字になってしまった。
まさか、でもそうか、電車内の芽衣の話ってつまりはこれのフリだったということ? 芽以は依頼内容を知っていて恋愛の話が出来るかどうか俺を確かめていたというか。
俺はでも、新人が苦手を理由に仕事依頼を断ることは出来ないしなぁ、と頭をぐらぐら揺らしながら思っていると、芽以が、
「分かりました! 勿論やるよね! ダロ!」
と返答をしたわけだけども、本音のところは有難かった。
自信満々で恋愛書けますとは俺は言えないけども、依頼を断って得られる報酬を棒に振ることはしたくなくて。
芽以が代わりに言ってくれたことは本当に有難かった。
話はトントン拍子で進み、芽以の事務所の先輩への曲作りなので、俺がラップ詩を作れば、俺のラップの癖を知っている芽以がラップ指導をしてくれるという話だ。作詩は俺一人で行なう、と。
改めて芽以と二人きりになり、とりあえずファミレスで食べていくことになった。
そこでそれぞれ俺はオムライス、芽以はラーメンを頼んで食べていると、芽以が耳と重なる髪の毛をかきあげながら、
「つか、ガチセクハラだけども、真梨子への気持ちを書いたら?」
「いいよもう、セクハラではないだろ。ただの会話だろ。というか恋愛の曲って知ってた?」
「割と知ってたほう」
「だよな。だからなんというか、うん、俺はまず仕事を受ける方向にしてくれて嬉しい」
「良かったぁ」
そう胸をなでおろすような顔をした芽以。
俺は深呼吸してから、
「真梨子への気持ちね、まあ普遍的にいい感じのヤツを自分なりに書くよ」
「普遍的じゃなくて、もっとなんというか、どっちかまだ分からない的な恋愛の詩を書けばいいんじゃないの?」
「いやいや、それだと局地的だろ。もっとその先輩のファンが喜ぶような、普遍的なヤツにするよ。俺が俺の気持ちを込めて書いたら、それはもう俺の曲になっちゃうだろ」
「まあそうだけども」
そんな感じで二人でメシ食って、電車に揺られて、芽以とはバイバイして、また家に戻って来て、軽く生配信を行なった。今日はラップしながらのゲーム実況にした。
作詩は納得のいく出来で、見直しをしてから後日、メールでリリックを送ったわけだが、なんとリテイクが出てしまったのだ。
送る前に真梨子や笹木にも見てもらって好評だったのに。まあ芽以だけは不満そうなLINEがきたけども。
リテイクが出たことを芽以に報告すると、
『やっぱりそうだ! もっと自分の殻を破るつもりで自分のことを書くべきだと思う! 情熱的にね!』
もしかしたら俺はまたどこかクールぶって、スカした感じになっていたのかもしれない。
自分を変えてやるくらいの勢いで書くべきだったんだ。
俺は改めて気合いを入れ直し、作詩作業に勤しんだ。
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紅藤色の恋をしている 目に憂い(うい)、果たしてこれで合っているのか
俺はいつも待っている永遠(とわ) きっと時間が解決、それが未完な採決
赤でも無くて青でも無くて しない確定、感情は隠せ
好きなんて言っていいのだろうか 今日も自分の自信は過少だ
妥当なんだろう、俺はこんなもん 心の答えが出せない愚か者(おろかもん)
問答無用で時間は過ぎていく 時間って味方じゃないのか、選択肢が尽きていく
早く行動を堂々、それが王道? 相当切羽詰まっている? 迷う路頭
まだ道があるからマシか 明日(あした)じゃなくて今やる新たにな
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ当たらない
紅藤色 ただただ分からない 答えはきっとまだ明かさない
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ境
紅藤色 紅藤色 紅藤色の恋
紅藤色の恋をしている 目に憂い(うい)、果たしてこれで合っているのか
本当はいつも舞っている永遠(とわ) 君と一緒に踊りたい
友人として? 恋人として? いつか知りたい、人生を賭して(として)
一番という言葉が浮かんだ その瞬間またいつもの俯瞰か?
いいや主観で生きるんだ 別々に仕切るんじゃなくて、自分を仕切るんだ
指揮者のように指揮棒振って 自分の人生を棒には振らない
自分の気持ちを簡単に振らない この感情は半端に産まない
紅藤色がいつか一番輝くように 紅富士のように燦燦と響くように
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ当たらない
紅藤色 ただただ分からない 答えはきっとまだ明かさない
紅藤色 まだまだ分からない 答えはきっとまだ境
紅藤色 紅藤色 紅藤色の恋
・
・
・
自分なりには相当頑張ったつもりだが果して。そう思いながら詩を納品した結果、OKが出て安堵した。
真梨子も笹木も「前のよりも良い」と言ってくれて、芽以からもお墨付きという言葉をもらった。
それから芽以がいろいろやってくれたようで、曲も完成し、発表されて、やっぱりこういうのってネット発の会社のスピード感だよな、と思った。
真梨子の残りの時間を考えて、印税でお金をもらう形式じゃなくて、まとまったお金をもらう形にしてもらった。
初動がかなり良かったこともあり、報酬は弾んでくださった。勿論、芽以の交渉のおかげでもあるけども。でも正直お金はまだ足りない。
笹木の家で、俺と真梨子と芽以も集まって会議をしている時、芽以が案を出した。
「師匠からお金を借りるしかないんじゃないかな」
俺は「確かに」と頷いた。
すると笹木が、
「お金持ってる人なのかな?」
と、少しおそるおそるって感じで言うと、芽以が、
「凄腕のラッパーなんだからお金持ちっしょ!」
と自信満々に言い切った。
すると即座に笹木が、
「じゃあ何ですぐに頼んなかったの?」
俺と芽以は顔を見合わせてから、俺が喋ることにした。
「師匠は俺と芽以がそれぞれ一人前になるまで会わないという話だったんだ。だから気も引けてな」
芽以が補足するように、
「というか師匠の居場所も分かんないしぃ、アタシとダロが有名になれば姿を現すからみたいな感じで」
真梨子は目を輝かせながら、
「カッコイイです!」
と言うと、芽以は得意げに頷いた。
でも笹木は懐疑的な目で、
「じゃあさ、その師匠とやらは有名ラッパーじゃないってことだね、居場所分かんないんだから」
俺と芽以はまた顔を見合わせたが、芽以も(多分俺も)目を見開いていた。
笹木は続ける。
「有名ラッパーはお金を持っているだろうけどもさ、有名じゃないラッパーがいくら凄腕だというそっちの主観でもお金持ってるかな?」
チクチク言葉だが、正論かもしれない。
確かに師匠がお金を持っている確証も無いし、そもそも師匠に会える確証も無い。
芽以は後ろ頭をかきながら、
「でもまあ……大人を頼ってみることもいいかもっ」
笹木は溜息交じりに、
「まあいいさ、とりあえず名前教えて。ネットで検索するから」
芽以は唸り声を上げてから、
「でも師匠ってネットとかやっていないほうだったからさぁ……」
「いや凄腕ラッパーなら誰か噂するでしょ、ネットに名前くらい出ていてもおかしくないよ、フライヤーとかイベントのSNSもあるわけだし」
芽以が少し小さな声で、自信無さげに、
「MCカンシーって言ってぇ……」
と言ったわけだが、なんとなく芽以の気持ちは分かる。
笹木にそう言われたことにより、正直こっちの自信は喪失しているのだ。
そうだ、そりゃそうだ、もっと有名になっているなら、俺たちの耳にも目にも入ってきているはずだ。
それが入ってこないということは……笹木がパソコンに向き合ってから十五分、ゲーミングチェアを回してこっちを向いてからこう言った。
「全然検索にヒットしないね、MCカンシーという文字を画像化して画像検索してもね」



