・
・【14 笹木と芽以と俺】
・
基本的にラップMVは俺が生身で出る動画だけども、芽以からLINEで連絡が入り、
『Vtuter状態のMVもあると、見るほうが気分で選べていいかも』
とアドバイスをもらったので、俺はまあこういうことは芽以のほうが詳しいので、素直に受け入れることにした。
でもこういうのってさすがに笹木にお金を払って作ってもらわないといけないよな、そもそもモデリングの段階から本来そうだし、と思っていると、そんなことを見越してなのか、芽以のメッセージが連投されて、
『まあダロはお金集めているみたいだから、とりあえず最初の反応を見る初手分はアタシがお金払ってあげる。アタシのほうがお姉さんだからね!』
放課後、校門の前に行くと、芽以が立っていて、俺と真梨子と芽以で笹木の家へ行くことになった。笹木も今は時間があるからいいと言ってくれた。
笹木の部屋に着き、いつも通り床に座って、笹木だけゲーミングチェアで。
軽く雑談してから、芽以が切り出した。
「このダロのために! VtuterっぽいMVを作ってほしいの! お金はアタシが出す!」
すぐさま笹木が、
「そういうのは社会勉強のために自分で出させろよw」
芽以は首を横に振って、
「でも初手のお試し期間はアタシでいいのっ、アタシがしたほうがいいって助言したから」
笹木は不快そうな顔で、
「本来そういうことに気付くのもダロがしないといけないんだよ、生身もいいと常に思っているけど、Vも勿論いいって」
芽以はう~んと唸ってから、
「でもダロはそういうこと疎いし、発想が貧困だから」
両者からディスられているな、ここは口を挟んだほうが良さそうだ。
「いや無理なら全然いいんだけども」
笹木はハッキリ舌打ちしてから、
「勿論、ダロがお金を出すなら全然作るし、僕とダロの仲だ。ダロ価格のお試し価格でやってやるよw」
芽以は俺のほうを向いて、
「じゃっ、そうしてもらう?」
でも俺は出来るだけお金を使いたくないので、真梨子のために残したいので、一瞬『うっ』となってしまったその時だった。
笹木が急に怒号を上げた。
「何だよ! あのダロがカネ金かねって! こんな拝金主義になっちまって! 今まで無償の愛で死ぬなラップやってきただろ! やってきただろ! ダロ! だから僕はダロに賛同し、僕のようなイジメられて人生を壊す人間が出ないように! イジメ現場を僕がネットで探して、ダロに教えてきたんだろ! あの頃のダロはどこに行っちまったんだよ! 最近はイジメ現場に突撃もしてねぇだろ! まああんま無いのも主因だけども! それはいいことだけども!」
俺は真梨子のほうをチラリと見ると、その挙動も腹が立ったらしく、
「おいダロ! 人の反応伺うなんてダロらしくねぇ! 損得勘定抜きでやってたダロがよぉ! 何かずっとおかしいぞ! 理由があるなら言えよ! そういうスタンスでやってきただろ! 伝えるには言葉しかないんじゃないのか!」
もしかしたら論点からズレているかもしれないけども、まず言わないといけないことを言うことにした。
「今までセルアウトのことを嘲笑や冷笑してきて本当に申し訳無かった。大切な時にお金が無ければ何も出来ないもんな。この世はお金が無いとやりたいことも出来ないもんな。本当に申し訳無かった。重ね重ねだが、そう言うしかないんだ。冷笑なんて本当にダサかった。マウントを取りたいだけの猿だった。カスサルガキだった。俺のことは今後いくらバカにして問題ございません」
頭を下げた俺。
これで溜飲下がってくれと思っていたのだが、当然笹木は、
「軽く論点ズレてんだよな、それに気付かないダロでもねぇだろ。まあセルアウトのこと笑っていたことを謝罪したいのは分かった。でも何でそんなお金が欲しいんだよ。言ってくれよ、僕とダロの仲だろ」
すると芽以が少し慌てるように、
「まっ、真梨子が何かあるんでしょうねっ」
とこっちの事情は知らないのに助け船を出してくれて、このままいい感じに終わってくれと思ったんだけども、笹木は止まらず、
「なんとなく違和感があるんだよね、ダロに」
俺は間髪入れずに、
「結局俺かよ」
と反射で言ってしまうと、笹木は少し落ち着いたような声で、
「ダロ、人が全然違うからさ。本当に何なんだよ、ダロじゃないみたいだ最近のダロは。僕も芽以も伊達にダロのこと見てきてないんでね。大きな変化があったことは分かるよ」
真梨子のほうを見ると、本当に苦しそうな顔をしている。
だからってここで俺がしょうもない理由でお金を稼いでいるなんて嘘を言ったら、勘当されるかもしれない。
芽以が口を開いたことよりも早く真梨子が声を上げた。
「私、病気なんです。ダロさんは私の手術費を稼いでくれているだけなんです。すみませんでした」
そう言って、こうべを垂れるように頭を下げた真梨子。
すると笹木はドデカい溜息をついてから、
「迷惑だよな」
と言ったので、俺はすぐに笹木のほうへ顔を上げると、笹木は首を横に振ってから、
「僕さ、ダロの友達だからってそう何回も普通の人を家にあげることなんてしないんだよ。まあダロが一緒にいることを許可している相手だから興味があるってのもあるけども、ダロとのラジオも本当にちゃんとやってるしさ。だからなんというか、やっぱり改めてちゃんと言います。迷惑です。理由をすぐに言ってくれないなんて。金なんていらないです。僕とダロに芽以、そして真梨子との仲でしょ」
俺はパァッと明るい気持ちになって真梨子のほうを見たんだけども、真梨子はまだ苦しそうな面持ちで、でも何か喋るように口を開いたので、待っていると、真梨子が、
「すみませんでした……でも出来るだけ言いたくなかったんです。同情されたくなくて……」
すると笹木が、
「いやゴメン、同情はするよ。きっとダロだって同情しているだろうし。同情した上で真梨子の命を一緒に背負わせてほしいんです。僕は人生に抗う一生懸命な人が好きだから」
芽以も明るい声で、
「うん! アタシもとびっきりの同情する! でもそれは憐れみ由来じゃない! 一緒にやっていきたいという情熱なんだ! きっと笹木だってそうでしょ!」
と笹木に目配せすると笹木も、
「当たり前でしょ。まあ出世払いってことでよろしくね、真梨子。だってこれから長生きするんでしょ? 百倍返しくらいにしてもらわないとなぁー」
真梨子は唇を噛み、無言で涙を流し始めた。
俺は真梨子の肩を優しく叩きながら、
「そういう連中なんだ。ちゃんと伝えるには言葉しかない連中なんだよ。俺もハッキリ言ってしまえば同情しているが、それ以上に一緒にいたいからやっている。俺は真梨子と一緒にいたい、ただそれだけだから手術費を稼ぐ」
笹木は柏手一発叩いてから、
「さ! 泣いている暇なんて本当に無いですよ! 僕たちでやれることをやろう!」
芽以はクスクス笑いながら、
「というか笹木、敬語とタメ語交じり過ぎっ!」
笹木は恥ずかしそうに笑いながら、
「うるせぇ! あんま慣れていないんだよ! いろいろと!」
芽以はすぐさま、
「慣れられても困るけどねっ、手術費を稼ぐというシチュエーションをね」
俺は真梨子の手を握りながら、
「大丈夫、みんな真梨子の味方だろ」
すると真梨子が、
「私、手汗すごいって言ってるじゃないですか……」
「そんなことはどうでもいいだろ。伝えたいから握っただけだ」
「伝えるには言葉だけじゃないんですか……」
「たまにはこういう形で訴えかけるのも悪くないだろ、それとも何か、俺の手が汚く感じるとかそういうこと?」
と言いながら手を離すと、真梨子が即座に俺の手を握ってきて、
「私はダロさんの大きな手! 好きです!」
と言ってくれて、それは本当に良かった。
さて、真梨子の泣きが一段落ついたところで、四人で今後の会議をした。
その時に芽以が突然こんなことを言い出した。
「アタシもVtuterしてコラボしてあげる! というか今誘いを受けているんだよね!」
笹木はハンと鼻で笑ってから、
「誘いって変な事務所だと全然ダメだからなww」
芽以は自慢げに笑うと、
「スノーラブだけどもね」
と言うと、笹木が急に立ち上がり、
「本当かよ!」
と叫んだ。
俺はよく分からないけども、リアクションを見ればさすがに分かる、どうやら大手らしい。
笹木は即座に、
「絶対やるべきだ! それでダロのようなボンクラを救ってくれ!」
俺は矢継ぎ早に、
「ボンクラ言うな、ネットに疎いだけだろ」
そこから芽以は大手事務所でVtuterデビューをすると、一気に頭角を現した。
どうやら明るいラップが即興で出来るというのはかなりのアドバンテージらしい。
またある程度事務所も寛容らしく、個人勢と呼ばれる俺とのコラボも全然OKらしく、俺とコラボもしてくれるようになった。
すると芽以からLINEで、
『貸しは作らねぇとか言っていたのに なりふり構わなくていいね ダロも成長したねぇー』
と来たりするので、そういう時は、
『お子様扱いするんじゃねぇ!』
と返しておく。
俺のユーチュート・チャンネルも収益化は余裕で出来るような登録者数になったところで、生配信耐久ラップという企画を行なうことにした。
それは頂いたコメントで韻を踏んだり、とにかく目に映ったモノや真梨子が出したお題で韻を踏みまくる生配信だ。
過去に一時間のヤツをやったが、今回は六時間やろうと思っている。
本当はスパチャというものも好きじゃないんだが、真梨子のためにやっているのでそれは受け入れることにしている。
今日は笹木の家で行ない、笹木がリアルタイムで画面上にいろんなイラストやアイコンを表示させたりして、派手にやってくれるという話だ。
芽以は別の仕事でいないが、俺と笹木と真梨子で一生懸命生配信を行なっていこうと思っている。
《ダロ》
というわけで生配信だ 意味無いぞ、ただ耐震じゃ
しっかりラップする テンション・アップする 視聴者の脳内にハックする
革新的 like a アップル社 新たな自分を発掘だ
『生配信楽しみ』
楽しみというかもう始まってる というか君も既に味わってる
ありがとう視聴 みんなのコメントが貴重 それが基本
『とりまスパチャ』
『おっぱい韻踏んで』
とりあえずまあのスパチャ嬉しい 悪い文字列は伏字に
『本当にタイプミスw いっぱい韻です』
韻は一文字違うと全て変わる その間違いが己を語る
『おっぱい脳の視聴者おつw』
でもいつだって変われる チャンスは常に皆が与える
悪い言葉はいつでも洗える 変わればみんなで称える
『おっぱいは悪い言葉じゃないぞ』
ただその言葉は幼児的 大人になるには遠い出来
人前では医学的に胸って言いな それは下品の決定打
『あえて言わないのすごっ』
言わない、それは当たり前 そこが出役の境だね
ここで真梨子が声を出した。
「ダロさん、でも言いたくなったら言っていいですよ!」
《ダロ》
いやそういう時無い その発作起きない
それ言う歳無い とか言えってフリ? 鬼かい!
『おれは言うよw』
それは勝手にしてくれ でもここに居てくれ
視聴はしてほしい 人数は常に惜しみ
『明日テストなんで応援してください!』
テストは諦めるな 数式の間(あいだ)消すな
『国語です!』
文章題はよく読め しっかり熟読、とくとね
漢字は暗記 漢字は範囲
あえて言う、範囲を越えるな テストは点数、無駄を添えるな
『範囲を越えるな←ウケるw』
でも実際テストは無駄を省くこと 能ある鷹なことは隠すこと
今回は国語だが、習っていない公式使うと怒るヤツもいる
というかそういうことが、あると言う まあ正直カスのイヌ、だが
『わたしも習っていない公式使ったら怒られたことある』
ありがとう同調 気持ちを抱擁 合っているといい、方向性
あとは蹴落とされずに堂々で 変な動きはしない、行動で
カンニングしていると思われるな 一緒にカンニングしようは断れるよな?
『そんな連れション無いでしょw』
いやでもそういうカスはいる そういう明日(あす)は見ず、みたいなヤツはいる
『カンニング自慢するヤツはいた』
テストはその点数こそ自慢 カンニング自慢は人生一周遅い班
一蹴してやれ、正々堂々 自力でやり切ることが名声王道
こんな感じでずっとコメント欄の話を基にラップしていく。
時折水分補給をしながら、笹木が出してくれるイラストやアイコンにも反応しながら、真梨子の言葉で韻を踏みながら。
ちょっと話が地味になってきたところで、笹木が流れ星のアイコンを画面に流してくれれば、
《ダロ》
流れ星 人々の願いをまた背負い
瞬く 俺たちは言葉をまた書く 悪から抗う
闘うことは辞めないが いつか闘うことを辞めたい
平和になりたい 勝ちたいとか負けたくないが無いのもいい
凪なのもいいと思うんだ そりゃ遊び程度はあってもいいが
みんな楽しく舞ってもいいんだ 共鳴と共感、肯定を交換
『伝統色で韻踏んでもらっていいですか?』
笹木、お題となる伝統色 出してくれ、いいの検討・即
すると画面が藍色に変化し、行書体の文字で”藍色”と表示された。
《ダロ》
藍色に染まる日々 アイロニーな皮肉ばかりの今日この頃
小言を聞いてばかり 人の助言も斬って破壊
和解が無いな 薄っすら見たら、まさに加害者
全人類総攻撃時代 止めるか(やめるか)どうかはもらえる宝石次第?
得が無きゃ攻撃止めない? そんな時代はもう変えない?
藍色は憂鬱な色じゃないわ もっと落ち着いた意図じゃないか
藍色にラブな愛を重ねることは 陳腐で野暮だがあえて言う
愛を重ねて染め上げて まずは悪口反対、声を上げて
『16小節有難うございます』
『普通にラップ曲キタ』
『MVにしてまとめて』
好評だったようで嬉しい。
まあそんな感じで、生配信耐久ラップはつつがなく終わった。
俺は日頃、頭の中でずっとラップしている人間なので二時間くらいはまだ余裕があった。
真梨子や笹木がいてくれて、視聴者のコメントもあって、そういう反応も見れるから、むしろ楽しいくらいだった。
・【14 笹木と芽以と俺】
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基本的にラップMVは俺が生身で出る動画だけども、芽以からLINEで連絡が入り、
『Vtuter状態のMVもあると、見るほうが気分で選べていいかも』
とアドバイスをもらったので、俺はまあこういうことは芽以のほうが詳しいので、素直に受け入れることにした。
でもこういうのってさすがに笹木にお金を払って作ってもらわないといけないよな、そもそもモデリングの段階から本来そうだし、と思っていると、そんなことを見越してなのか、芽以のメッセージが連投されて、
『まあダロはお金集めているみたいだから、とりあえず最初の反応を見る初手分はアタシがお金払ってあげる。アタシのほうがお姉さんだからね!』
放課後、校門の前に行くと、芽以が立っていて、俺と真梨子と芽以で笹木の家へ行くことになった。笹木も今は時間があるからいいと言ってくれた。
笹木の部屋に着き、いつも通り床に座って、笹木だけゲーミングチェアで。
軽く雑談してから、芽以が切り出した。
「このダロのために! VtuterっぽいMVを作ってほしいの! お金はアタシが出す!」
すぐさま笹木が、
「そういうのは社会勉強のために自分で出させろよw」
芽以は首を横に振って、
「でも初手のお試し期間はアタシでいいのっ、アタシがしたほうがいいって助言したから」
笹木は不快そうな顔で、
「本来そういうことに気付くのもダロがしないといけないんだよ、生身もいいと常に思っているけど、Vも勿論いいって」
芽以はう~んと唸ってから、
「でもダロはそういうこと疎いし、発想が貧困だから」
両者からディスられているな、ここは口を挟んだほうが良さそうだ。
「いや無理なら全然いいんだけども」
笹木はハッキリ舌打ちしてから、
「勿論、ダロがお金を出すなら全然作るし、僕とダロの仲だ。ダロ価格のお試し価格でやってやるよw」
芽以は俺のほうを向いて、
「じゃっ、そうしてもらう?」
でも俺は出来るだけお金を使いたくないので、真梨子のために残したいので、一瞬『うっ』となってしまったその時だった。
笹木が急に怒号を上げた。
「何だよ! あのダロがカネ金かねって! こんな拝金主義になっちまって! 今まで無償の愛で死ぬなラップやってきただろ! やってきただろ! ダロ! だから僕はダロに賛同し、僕のようなイジメられて人生を壊す人間が出ないように! イジメ現場を僕がネットで探して、ダロに教えてきたんだろ! あの頃のダロはどこに行っちまったんだよ! 最近はイジメ現場に突撃もしてねぇだろ! まああんま無いのも主因だけども! それはいいことだけども!」
俺は真梨子のほうをチラリと見ると、その挙動も腹が立ったらしく、
「おいダロ! 人の反応伺うなんてダロらしくねぇ! 損得勘定抜きでやってたダロがよぉ! 何かずっとおかしいぞ! 理由があるなら言えよ! そういうスタンスでやってきただろ! 伝えるには言葉しかないんじゃないのか!」
もしかしたら論点からズレているかもしれないけども、まず言わないといけないことを言うことにした。
「今までセルアウトのことを嘲笑や冷笑してきて本当に申し訳無かった。大切な時にお金が無ければ何も出来ないもんな。この世はお金が無いとやりたいことも出来ないもんな。本当に申し訳無かった。重ね重ねだが、そう言うしかないんだ。冷笑なんて本当にダサかった。マウントを取りたいだけの猿だった。カスサルガキだった。俺のことは今後いくらバカにして問題ございません」
頭を下げた俺。
これで溜飲下がってくれと思っていたのだが、当然笹木は、
「軽く論点ズレてんだよな、それに気付かないダロでもねぇだろ。まあセルアウトのこと笑っていたことを謝罪したいのは分かった。でも何でそんなお金が欲しいんだよ。言ってくれよ、僕とダロの仲だろ」
すると芽以が少し慌てるように、
「まっ、真梨子が何かあるんでしょうねっ」
とこっちの事情は知らないのに助け船を出してくれて、このままいい感じに終わってくれと思ったんだけども、笹木は止まらず、
「なんとなく違和感があるんだよね、ダロに」
俺は間髪入れずに、
「結局俺かよ」
と反射で言ってしまうと、笹木は少し落ち着いたような声で、
「ダロ、人が全然違うからさ。本当に何なんだよ、ダロじゃないみたいだ最近のダロは。僕も芽以も伊達にダロのこと見てきてないんでね。大きな変化があったことは分かるよ」
真梨子のほうを見ると、本当に苦しそうな顔をしている。
だからってここで俺がしょうもない理由でお金を稼いでいるなんて嘘を言ったら、勘当されるかもしれない。
芽以が口を開いたことよりも早く真梨子が声を上げた。
「私、病気なんです。ダロさんは私の手術費を稼いでくれているだけなんです。すみませんでした」
そう言って、こうべを垂れるように頭を下げた真梨子。
すると笹木はドデカい溜息をついてから、
「迷惑だよな」
と言ったので、俺はすぐに笹木のほうへ顔を上げると、笹木は首を横に振ってから、
「僕さ、ダロの友達だからってそう何回も普通の人を家にあげることなんてしないんだよ。まあダロが一緒にいることを許可している相手だから興味があるってのもあるけども、ダロとのラジオも本当にちゃんとやってるしさ。だからなんというか、やっぱり改めてちゃんと言います。迷惑です。理由をすぐに言ってくれないなんて。金なんていらないです。僕とダロに芽以、そして真梨子との仲でしょ」
俺はパァッと明るい気持ちになって真梨子のほうを見たんだけども、真梨子はまだ苦しそうな面持ちで、でも何か喋るように口を開いたので、待っていると、真梨子が、
「すみませんでした……でも出来るだけ言いたくなかったんです。同情されたくなくて……」
すると笹木が、
「いやゴメン、同情はするよ。きっとダロだって同情しているだろうし。同情した上で真梨子の命を一緒に背負わせてほしいんです。僕は人生に抗う一生懸命な人が好きだから」
芽以も明るい声で、
「うん! アタシもとびっきりの同情する! でもそれは憐れみ由来じゃない! 一緒にやっていきたいという情熱なんだ! きっと笹木だってそうでしょ!」
と笹木に目配せすると笹木も、
「当たり前でしょ。まあ出世払いってことでよろしくね、真梨子。だってこれから長生きするんでしょ? 百倍返しくらいにしてもらわないとなぁー」
真梨子は唇を噛み、無言で涙を流し始めた。
俺は真梨子の肩を優しく叩きながら、
「そういう連中なんだ。ちゃんと伝えるには言葉しかない連中なんだよ。俺もハッキリ言ってしまえば同情しているが、それ以上に一緒にいたいからやっている。俺は真梨子と一緒にいたい、ただそれだけだから手術費を稼ぐ」
笹木は柏手一発叩いてから、
「さ! 泣いている暇なんて本当に無いですよ! 僕たちでやれることをやろう!」
芽以はクスクス笑いながら、
「というか笹木、敬語とタメ語交じり過ぎっ!」
笹木は恥ずかしそうに笑いながら、
「うるせぇ! あんま慣れていないんだよ! いろいろと!」
芽以はすぐさま、
「慣れられても困るけどねっ、手術費を稼ぐというシチュエーションをね」
俺は真梨子の手を握りながら、
「大丈夫、みんな真梨子の味方だろ」
すると真梨子が、
「私、手汗すごいって言ってるじゃないですか……」
「そんなことはどうでもいいだろ。伝えたいから握っただけだ」
「伝えるには言葉だけじゃないんですか……」
「たまにはこういう形で訴えかけるのも悪くないだろ、それとも何か、俺の手が汚く感じるとかそういうこと?」
と言いながら手を離すと、真梨子が即座に俺の手を握ってきて、
「私はダロさんの大きな手! 好きです!」
と言ってくれて、それは本当に良かった。
さて、真梨子の泣きが一段落ついたところで、四人で今後の会議をした。
その時に芽以が突然こんなことを言い出した。
「アタシもVtuterしてコラボしてあげる! というか今誘いを受けているんだよね!」
笹木はハンと鼻で笑ってから、
「誘いって変な事務所だと全然ダメだからなww」
芽以は自慢げに笑うと、
「スノーラブだけどもね」
と言うと、笹木が急に立ち上がり、
「本当かよ!」
と叫んだ。
俺はよく分からないけども、リアクションを見ればさすがに分かる、どうやら大手らしい。
笹木は即座に、
「絶対やるべきだ! それでダロのようなボンクラを救ってくれ!」
俺は矢継ぎ早に、
「ボンクラ言うな、ネットに疎いだけだろ」
そこから芽以は大手事務所でVtuterデビューをすると、一気に頭角を現した。
どうやら明るいラップが即興で出来るというのはかなりのアドバンテージらしい。
またある程度事務所も寛容らしく、個人勢と呼ばれる俺とのコラボも全然OKらしく、俺とコラボもしてくれるようになった。
すると芽以からLINEで、
『貸しは作らねぇとか言っていたのに なりふり構わなくていいね ダロも成長したねぇー』
と来たりするので、そういう時は、
『お子様扱いするんじゃねぇ!』
と返しておく。
俺のユーチュート・チャンネルも収益化は余裕で出来るような登録者数になったところで、生配信耐久ラップという企画を行なうことにした。
それは頂いたコメントで韻を踏んだり、とにかく目に映ったモノや真梨子が出したお題で韻を踏みまくる生配信だ。
過去に一時間のヤツをやったが、今回は六時間やろうと思っている。
本当はスパチャというものも好きじゃないんだが、真梨子のためにやっているのでそれは受け入れることにしている。
今日は笹木の家で行ない、笹木がリアルタイムで画面上にいろんなイラストやアイコンを表示させたりして、派手にやってくれるという話だ。
芽以は別の仕事でいないが、俺と笹木と真梨子で一生懸命生配信を行なっていこうと思っている。
《ダロ》
というわけで生配信だ 意味無いぞ、ただ耐震じゃ
しっかりラップする テンション・アップする 視聴者の脳内にハックする
革新的 like a アップル社 新たな自分を発掘だ
『生配信楽しみ』
楽しみというかもう始まってる というか君も既に味わってる
ありがとう視聴 みんなのコメントが貴重 それが基本
『とりまスパチャ』
『おっぱい韻踏んで』
とりあえずまあのスパチャ嬉しい 悪い文字列は伏字に
『本当にタイプミスw いっぱい韻です』
韻は一文字違うと全て変わる その間違いが己を語る
『おっぱい脳の視聴者おつw』
でもいつだって変われる チャンスは常に皆が与える
悪い言葉はいつでも洗える 変わればみんなで称える
『おっぱいは悪い言葉じゃないぞ』
ただその言葉は幼児的 大人になるには遠い出来
人前では医学的に胸って言いな それは下品の決定打
『あえて言わないのすごっ』
言わない、それは当たり前 そこが出役の境だね
ここで真梨子が声を出した。
「ダロさん、でも言いたくなったら言っていいですよ!」
《ダロ》
いやそういう時無い その発作起きない
それ言う歳無い とか言えってフリ? 鬼かい!
『おれは言うよw』
それは勝手にしてくれ でもここに居てくれ
視聴はしてほしい 人数は常に惜しみ
『明日テストなんで応援してください!』
テストは諦めるな 数式の間(あいだ)消すな
『国語です!』
文章題はよく読め しっかり熟読、とくとね
漢字は暗記 漢字は範囲
あえて言う、範囲を越えるな テストは点数、無駄を添えるな
『範囲を越えるな←ウケるw』
でも実際テストは無駄を省くこと 能ある鷹なことは隠すこと
今回は国語だが、習っていない公式使うと怒るヤツもいる
というかそういうことが、あると言う まあ正直カスのイヌ、だが
『わたしも習っていない公式使ったら怒られたことある』
ありがとう同調 気持ちを抱擁 合っているといい、方向性
あとは蹴落とされずに堂々で 変な動きはしない、行動で
カンニングしていると思われるな 一緒にカンニングしようは断れるよな?
『そんな連れション無いでしょw』
いやでもそういうカスはいる そういう明日(あす)は見ず、みたいなヤツはいる
『カンニング自慢するヤツはいた』
テストはその点数こそ自慢 カンニング自慢は人生一周遅い班
一蹴してやれ、正々堂々 自力でやり切ることが名声王道
こんな感じでずっとコメント欄の話を基にラップしていく。
時折水分補給をしながら、笹木が出してくれるイラストやアイコンにも反応しながら、真梨子の言葉で韻を踏みながら。
ちょっと話が地味になってきたところで、笹木が流れ星のアイコンを画面に流してくれれば、
《ダロ》
流れ星 人々の願いをまた背負い
瞬く 俺たちは言葉をまた書く 悪から抗う
闘うことは辞めないが いつか闘うことを辞めたい
平和になりたい 勝ちたいとか負けたくないが無いのもいい
凪なのもいいと思うんだ そりゃ遊び程度はあってもいいが
みんな楽しく舞ってもいいんだ 共鳴と共感、肯定を交換
『伝統色で韻踏んでもらっていいですか?』
笹木、お題となる伝統色 出してくれ、いいの検討・即
すると画面が藍色に変化し、行書体の文字で”藍色”と表示された。
《ダロ》
藍色に染まる日々 アイロニーな皮肉ばかりの今日この頃
小言を聞いてばかり 人の助言も斬って破壊
和解が無いな 薄っすら見たら、まさに加害者
全人類総攻撃時代 止めるか(やめるか)どうかはもらえる宝石次第?
得が無きゃ攻撃止めない? そんな時代はもう変えない?
藍色は憂鬱な色じゃないわ もっと落ち着いた意図じゃないか
藍色にラブな愛を重ねることは 陳腐で野暮だがあえて言う
愛を重ねて染め上げて まずは悪口反対、声を上げて
『16小節有難うございます』
『普通にラップ曲キタ』
『MVにしてまとめて』
好評だったようで嬉しい。
まあそんな感じで、生配信耐久ラップはつつがなく終わった。
俺は日頃、頭の中でずっとラップしている人間なので二時間くらいはまだ余裕があった。
真梨子や笹木がいてくれて、視聴者のコメントもあって、そういう反応も見れるから、むしろ楽しいくらいだった。



