伝えるには言葉しかないだろ


・【13 ラップMV】


 最近はラップしながらのゲーム実況をよく行ない、それは結構な頻度で人気になるようになってきたのだが、肝心のラップMVがなかなかハマらない。
 笹木いわく「別に顔出ししているからダメってわけじゃねぇんじゃねぇの?w 知らんけどw つかラップのゲーム実況がウケてるし実際悪くないし、そっちメインでやればいいいんじゃね?w」と。
 まあ確かに稼ぐだけなら、それでもいいとは思うのだが、それだけではやっぱり飽きられるような気がしていて、どうにかしてラップMVもウケるようになりたい。
 映像を撮る時は、最初の頃はそもそもSNSに詳しそうという意味合いもあり、芽以を頼っていたんだが、真梨子が「出来る!」と言っているので、病院に行かない日は真梨子に撮ってもらっている。
 今日もいつもの橋の下で撮影をしているわけだが、画代わりしたほうがいいのだろうか、それともそういう話じゃない?
 真梨子はカメラの引きや寄りを駆使して、カッコイイ動画を撮ってくれる。真梨子は完璧なのに俺が足りない焦燥感。
 ふと、真梨子が、
「ダロさん、ちょっと不安そうな顔だけども、何なんですか」
「何なんですかって。そりゃまあラップMVが何で再生数伸びないかなって」
 真梨子はフフっと笑ってから、
「牛乳が足りないんじゃないんですかっ」
「身長が伸びないという話はしていないだろ」
「ミルメーク、オススメです」
「いや美味しく牛乳飲む方法じゃなくて。生(き)の牛乳、飲めるから」
「最近液体状のミルメークもあるみたいですよ」
「溶かしやすいなぁ、じゃぁないなんだよ。ミルメークの情報を聞きたいわけじゃないんだよ」
 真梨子はうんうん頷いてから、
「やっぱりダロさんのツッコミは良い感じですね、良い感じ軍国ですね」
「軍国は印象怖いだろ、王国とかにしてくれ。というかラップMVの話をしたいんだ」
「それを真剣に言われちゃうと、私が何かあった時の用心に遠出が出来ないので、画代わりしないせいだと思います……」
 そうシュンと肩を落とした真梨子。
 いやでも、何か根本的に違うような気がするんだよな、って言わないとダメだ。
「俺は自分の中では根本的に違うような気がするんだ、曲が良くないというか、もっと言ってしまえば歌詞が良くないというか」
 すると真梨子は目を見開きながら、
「えっ! でもダロさんのリリックは最高ですよ!」
「いやそんな真っ直ぐ褒めなくてもいいだろ、ちょっとはボケてくれ」
「さらにダロさんがボケを欲するなんて! ボケは今度ミルメーク状にして渡しますね」
「ボケをミルメーク状ってなんだよ、それはもうただただミルメークのプレゼントなんだよな」
「ミルメークのラッパーってどうですかっ? 子供はみんな好きですよ、ミルメーク」
「狭過ぎるだろ、コンセプトが……でも待てよ、コンセプトを決めるっていいかもしれないな」
「でもダロさんは死ぬなラップというコンセプトがあるじゃないですか」
「それが堅いのかもしれないって。真面目過ぎるというか、もっとサブウェポン的な、二要素あったほうがいいんじゃないかって」
 真梨子はう~んと唸ってから、
「じゃあ料理なんてどうですか、死ぬな、料理しろって感じで」
「それは生きろの芽衣風味だなぁ、というか料理のラッパーってもういるし、DJみそしるとMCごはんというひとが」
「もうあるんだ! ラッパーっていっぱいあるんですね!」
「まあなぁ」
 と相槌を打ったわけだが、料理というのは本当に良い要素とは思う。俺もDJみそしるとMCごはんがいなかったら、選んでいたかもな。まあどっちにしろ生きろ案件のような気もするけども。
 真梨子は柏手一発叩くと、
「じゃあ漫才ってどうですかっ、声色を変えて一人二役で漫才をラップで表現しましょうよっ」
「漫才かぁ、でもそれってプロのお笑い芸人の下位互換になりそうで嫌だな。ゴメンな、さっきから否定ばっかりで」
「そうですよね、漫才って結局プロがやらないと物足りない感じになるかもですねっ」
 ちょっとした間。沈黙が流れる。良いアイデアが振ってきたら楽なんだけども。
 真梨子が一息ついてから、
「いろいろやりようがありそうなのに、いろんな要素がこの世界にはあるのに、ダロさんに合う要素って言うと難しいですねぇ」
「俺、軽くディスられてる?」
「全然そんなことないですよ、だろ」
「いや完全に口癖イジられた」
「というかダロさん、カッコつけなんでカッコつけられるほうがいいだろ」
「カッコつけってハッキリ指摘されることは本当に恥ずかしいわけだが……」
 真梨子は俺のためにいろんなことを考えてくれている。いろいろやりようがありそうで、いろんな要素がこの世界には……待てよ。俺は思いついたことをすぐに口に出した。
「色とか結構範囲広くてやりやすいかもしれない」
「色ですかっ、いいですね、それっ。やっぱり情熱の赤色ですか」
「何そのインタビュアー、赤色だけでいくはずないだろ。いろんな色でいくんだよ」
「カッコつけられる色って何だと思いますか?」
「カッコつけられる色という概念持っていないから」
「でもここで改めて考えましょう、ダロさんんは自分の深層心理と向き合って、どうカッコつけたいか考えていきましょう」
「恥ずかし過ぎるだろ」
 真梨子は深呼吸してから、
「いいえ、こういう時はちゃんと掘り下げることが大切だと思います。どうカッコつけたいですか?」
 確かにこういうことを自分で明確にしていったほうがいいかもしれないが、どうカッコつけたいかは恥ずかし過ぎるだろ。
 でもまあどうせ真梨子と二人きりだ、真梨子は俺がどう答えてもボケはするが茶化すことはしない……多分、まあ信頼感はある。
 しっかり答えることにするか。
「やっぱり、コンセプトからしっかりカッコつけたいかな」
「色、だけじゃダメということですか」
「そうだな、黄色でカレーみたいなことは言いたくないな」
「例えばダロさんは色って言ったら何色(なんしょく)浮かびますか」
「まあそこは真面目に調べるよ、記憶の中にある色だけでは、やらないようにする」
「今、私が自分で思ったことなんですが、何色という数という言葉以外に、難色という慣用句や熟語としての色がありますが、それも使いますか?」
「まあリリック単位では使うかもだけども、それをテーマにはしないかな。やっぱりラップMVにも紐づくように、ちゃんと色にしたいな。その色のテーマでラップMVが撮れたほうがいろいろ綺麗だろ」
 真梨子は俺のポケットを指差しながら、
「ではスマホ・タイムでございます」
 いや、
「そんな指示の仕方無いだろ」
「イタリアカラーとかあるとカッコイイですよね」
「イタリアの国旗の色でラップするということ? 逆にダサくないか、じゃあ日本の色でやりたいわ」
 俺はスマホで『日本 色』で検索すると、伝統色という言葉が出てきた。
 それを真梨子に見せながら、
「伝統色ってかなり良いかも。というか理想に近いわ」
「日本の色の言い方ということですね、これだとかなり良いかもしれませんね。カッコつけやすいですか?」
「直球でくるなよ。まあカッコつけやすいよ、ラップって基本ブラックミュージックだから、伝統色のコンセプトは向こうには無いだろうし、こっちでもあんまいないかも。色彩テーマや色味にこだわりを持っているアーティストは勿論いるけども、これは良い意味で狭いし、個性が出るなぁ」
 ということで俺はこの伝統色をテーマにラップをやっていくことにした。死ぬなラップとも絡めやすそうですごく良いと思っている。
 また、もっとチャンネル自体の更新速度を上げるために、真梨子と一緒にラジオをすることにもした。
 真梨子は画面に映らず、Vtuter状態の俺一人と声だけ真梨子という態勢。それで何本か投稿したのち、割とすぐに笹木から連絡が入ってきて、笹木の家へ行くと、笹木は少しイラついているように、
「真梨子の”ガワ”もあったほうがいいでしょ、既に俺を頼ってんだから真梨子の絵、俺に任せろよ」
 俺は後ろ頭をかきながら、
「あんま頼り過ぎも良くないかなって思ってさ」
 笹木は溜息交じりに、
「そういうプライドいらねぇし。つーかプライドと言えば、ずっとセルアウトをバカにしてきたオマエがそういうことしてることが何なんだよ」
 またこの話になってしまった。
 真梨子は渋い面持ちをしているので、真梨子の説明はやっぱり出来ない。
 俺ははぐらかすように、
「別に。まあこういうのは人生のサプライズだからさ」
 笹木はハッと鼻で笑ってから、
「意味分かんねぇこと言うな、サプライズっつーキャラでもないでしょw つか、それもセルアウト的だし。一体何なんだよ」
 言葉はまだ緩いが、だいぶ詰めてきている感じがする。これは笹木にとって、押し込んでいるみたいな気持ちなんだろう。
 でも俺は真梨子のことは言えないので、
「まあとにかく。免許取った時にカッコイイ車が欲しくてさ」
「ダセェ」
 と間髪入れずに吐き捨てた笹木。
 そりゃそうだけども、と思っていると、真梨子が、
「私! ダロさんが買った車の後部座席に乗りたいです!」
 俺は即座に、
「普通助手席だろ、ミラー越しに会話じゃないんだよ」
 とツッコむと、笹木はデカい溜息をしてから、
「あのダロがオンナ、オンナねぇ……」
 ニュアンスは違うけども、核心は突いている。
 何故なら真梨子の手術費を稼ぐためにやっているわけだから。
 真梨子は恥ずかしそうに、
「照れちゃうねっ」
 と言ってきて、ここの肯定をすると、さすがに恥ずかしいし、微妙に真に迫っているので、
「そんなわけないだろっ」
 と、少し語気を強めて言っといた。
 結局笹木はたくさんあるイラストのラインアップを見せてくれて、真梨子はそこから一枚絵を選んで、すぐに笹木がモデリングして、配信で使えるようにしてくれた。
 でも終始笹木は不機嫌そうで、本当は俺だって笹木や芽以には言いたいけども、と思っていた。
 ただ笹木は真梨子に対しては幾分物腰が柔らかく、
「ボケ面白いですね」
 と冷笑ではなく、真っ直ぐ言い、それに対して真梨子は、
「駄菓子でボケ、買っているからねっ!」
「二十円程度のボケじゃなくて、ならイオンモールとかで買ったほうがいいですよ」
「専門店のボケはまだ買えないんですよ、お洒落過ぎなんでっ」
「お洒落なボケなんてこの世に無いですよ」
 みたいな会話をして、笹木は楽しそうにしていた。
 でも、でもだ。
 とある日、真梨子とVtuter状態でのラジオが終わった直後に、俺がふと、
「やっぱりさ、真梨子が病気だと言ったほうがお金が集まりやすいんじゃないかな」
 と観測的気球を放ってみると、真梨子は、
「でもそれだと笑いづらくなるから言いたくないよ! ボケが可哀想はウケないんだよ!」
 と声を荒らげられてしまい、
「まあそうか」
 と頷くしかなかった。
 真梨子はお笑いに対して真摯なんだと思う。
 でもお笑い芸人でもないのに、そこまでやらなくてもと思ったけども、きっと真梨子はお笑い芸人になりたいんだろうなというのも感じている。
 ただ現状、元気にならないと無理といった感じで、なんなら治ることを諦めていたわけだから、そうは絶対なれない、と。
 しかしながらこのペースで億単位のお金を得ることは出来るだろうか。
 もう一回、押してみるか。
「だけどな、まずはお金が集まらないと意味無いからなぁ」
「そんなことないよ」
 即座にそう切り返した真梨子は俺の瞳を真っ直ぐ見ながら、
「私はダロさんと会話出来て本当に楽しいよ、それだけで生きている価値あるから」
 そんな言葉を聞いたら、絶対に死なせたくないと強く思った。
 だから、俺が言うことは一つだろ。
「まあ病気のことは言わないほうがいいか、これからも人生はずっと続いていくもんな」
 真梨子は目を見開いて、
「そういう前提なんだっ」
「当然だろ」
 すると真梨子は目を細めて俯いて、でも口角は優しくニッコリと微笑んでいて、
「有難う、ダロさん。大好きです」
 と真っ直ぐ言ってきて、俺は目を背けてしまった。
 本当はちゃんと見るべきなんだけども、俺はそういうことがまだうまく出来ない。