伝えるには言葉しかないだろ


・【11 真梨子と俺】


 拡散してくれる芽以や真梨子が良いビートを作ってくれたおかげというかなんというか、俺はフォロワーというヤツが増えた。そんな数、どうでもいいと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。数が増えることにより、格というモノが生まれたのだ。簡単に言えば、より言葉が伝えやすくなるということ。
 勿論、その分、こっちの責任は重くなるが、俺はどんな責任でも背負ってやろうと思っていたので、そんなもんはどうでもいい。
 ところで一つ話があるんだ。
 いつもの橋の下。河川敷。青い空に、一筋の飛行機雲が一直線で快活だ。やけに景色がよく見える。緑が萌える雑草はいつもより盛っているように見えた。
 いや、景色が輝いているんじゃない。
 俺が燃えているんだ。
 そう、
「真梨子がいてくれるから」
 ポツリと呟いた声にも反応してくれる。
 真梨子は優しい声で、
「何? ダロさんっ」
 と笑顔を俺に向けた。
 俺はどうしても今日、言わないといけないことがあるんだ。
「真梨子、いつも有難う」
 そう言うと、照れ臭そうに頬をかいた真梨子は、
「急にどうしたんですかっ?」
「いや、やっぱり伝えるには言葉しかないからさ、感謝の気持ちを伝えたい時に伝えたくて」
「本当、急にどうしたんですかっ? 別にいつでもいいですよ、そんなことはっ!」
「ううん、勿論そんな予定は無いけども、いつ消え去るか分からないじゃん、人生って。だから伝えられる時に伝えてこうと思って」
 真梨子は少し怪訝そうな表情を浮かべている。
 当たり前だ。
 そうなることは分かっていた。
 だから緊張なんて……している、そうだ、緊張はするさ。
 当たり前だ。
 でも言うんだ。
「真梨子、今日はオマエに曲を作ってきたんだ」
 真剣にそう言った俺に真梨子は嬉しそうに飛び跳ね、
「何それ! 大サプライズ! すごく嬉しいです! 大好きダロさんっ!」
 いつもの感じでニコニコしている真梨子。
 そうだ、この笑顔に毎日救われていたんだ。
 この笑顔を毎日見たいんだ。
 だから、
「今日は俺の曲を聴いてほしい」

《ダロ》
真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑えるようになった 真梨子と音を奏でるようになった
真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑える、真梨子称える 夢を叶える、愛も栄える

ずっとひとりぼっち、憩い遠い 人とはいつもシコリ多い
興味は自分の事ばかり 言葉狩りして、楽しい音は無い
それでいいと別に思ってた 今考えれば、決意劣ってた
真梨子と出会って世界は変わった 俺のいたとこは狭い穴だった
毎日笑顔に満ち溢れてく どんどん生きる意味が増えてく
得る新しい考えと知識 つくった良い案だけを意志に
繋いでく、繋がってく 楽しい表になり、裏去ってく
塞がってく、塞いでた過去 無くなっていた、暗い部屋はもう

真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑えるようになった 真梨子と音を奏でるようになった
真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑える、真梨子称える 夢を叶える、愛も栄える

うまくなったな、ヒューマンビートボックスは 快い充満、良い音の福だ
鬱は勿論無くて、楽しい確定 真梨子がいれば和みになるぜ
いてくれるだけで強くなれる 語彙が死んでるが、すごくなれる
会える理想の自分にも 楽園へ移動の気運飛翔
理由知ろうとしたら全部真梨子で 心臓高鳴る連舞太鼓で
ハッキリ言えば好きなんだ オマエといれば、憂い去った
待ったは無くて、常にいたい 無敵未来だし、無で言いたい
無心で言うんだ、愛してる 無い亀裂、喜びの舞い見える

真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑えるようになった 真梨子と音を奏でるようになった
真梨子のおかげで開かれた未来 今変えた視界、抱かれた期待
俺もようやく笑える、真梨子称える 夢を叶える、愛も栄える

 歌えば歌うほど、小節が進むごとに真梨子の顔から笑顔は消えていった。
 歌い終えた時、真梨子は泣いていた。
 そして真梨子は言った。
「嬉しい……そんなことを想っていてくれたなんて……ダロさんと相思相愛だったなんて……」
 いやそんなん、
「当たり前だろ」
 俺がそう言うと真梨子はさらに泣き出した。
 快活な空は陽射しが強いのに、真梨子の涙はそう簡単には乾かなかった。
 語らなかった。
 ただ高鳴った。
 俺は真梨子とずっといたいし、ずっといようと思う。
 そうすればもっと良い未来にいけるような気がする。
 というかいく。
 自分で未来を切り開くから。
 いや。
 俺と真梨子で未来を切り開くから、と思ったその時だった。
「ごほっ! ごほっ! ごほぉぉおおおおおおおお!」
 最後、吐血したんかというくらいにえずいた真梨子。
 ちょっと、さすがに泣き過ぎだろと思っていると、なんと真梨子の手のひらが真っ赤になっていて。
 真梨子はバカデカい声で、
「見ないでください!」
 と言って、ポケットからハンカチを取り出して、手のひらをごしごし拭き始めた。
 いや今の赤って、というか口の周りから垂れてきているその液体は、まぎれもなく血では……。
「真梨子、どうしたんだ。どういうことだよ」
「ちょっと、すみません……ギャグです。ケチャップです」
 真梨子からは鉄分というか、いやそんな生易しいものじゃない、しっかり血生臭い匂いが鼻腔をついてきて。
「真梨子! 全部教えろ! 伝えるには言葉しかないんだよ!」
「ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい」
「そうじゃねぇ! いやもういい喋るな! 救急車呼ぶぞ!」
「あ、あ、あぁ……幸せな瞬間だったのに……」
 真梨子はその場でしゃがみ込み、うなだれた。
 何で、何でなんだ、急に一体なんなんだ。
 真梨子は俺のことを信じてくれていたんじゃないのか。
 何かあったらすぐに言葉で伝えてくれよ。
 なぁ、嘘だろ、嘘って言ってくれよ、なぁ……。