炭酸飲料は死への呼び水Death!!

「あの、中学3年生のときにクラスメートだった、鬼島くんですよね?」
 恐る恐るといった様子で鬼島に話し掛ける楓。3連ピアスに着崩した制服。真っ赤に染めた髪に周囲に対する威圧的な態度。普通であれば声を掛けるどころか視線さえ合わせられないレベルのガチヤンキーであるが、楓は全く意に介していない。自宅に(タムロ)している組員(カゾク)と比べれば、子犬のようなものだからだ。

 逆に楓に声を掛けられた鬼島は、前進を強張らせてシートにきちんと座り直した。
「お、おはよう、ございます」
 楓は自分のことを認識してくれたことが嬉しくて、控え目な笑みを浮かべて用件を伝える。
「そ、その制服、もしかして、同じ高校でしょうか?もしそうなら、我が家の家業については、その、口外しないで下さい。お願いします」
 せっかく2時間もかけて進学したのに、元クラスメートに家業をバラされてしまっては意味がないのだ。
「あ、ああ、分かった・・・分かりました」
 同意を得た楓は、いつものように契りを結ぶ。
「約束、ですからね?」
「ヒイッ」
 鬼島は慌てて、何度も連続で首を縦に振る。
 元クラスメートの鬼島は知っているのだ。楓の実家がどういう組織なのかは当然のこと、中学3年生のときに楓との約束を破ったヤツの末路を。

 犠牲者は転任してきたばかりの先生だった。引継ぎはあったハズである。それでも、楓が非常に大人しい生徒であることと、自分が先生であることで過信してしまったのだろう。前任の先生が推薦することを約束していたにも関わらず、それを理由も説明せずに一方的に無かったことにしたのだ。今の時代、反社会的勢力は強く出られないものだと思い込んでの行動だったに違いない。もしかすると、それが正義だとでも勘違いしたのかも知れない。
 その先生は不幸が重なっていた。まっくろ黒組が全国有数の規模を誇る組織だと知らなかったこと。そして、楓が無自覚に微炭酸(・・)の飲料水を手にしていたこと。
 放課後の進路指導室は血の海になった。

 楓は鬼島との約束を終わらせると、少し離れた場所のシートに腰を下ろした。


 それから約2時間後、楓が乗った電車は無事に学校の最寄り駅に到着した。当然のことではあるが、楓の視界には見知った顔が全くいなかった。いつものようにモーゼのように校舎までの通路に道ができる事もなく、半径5メートル以内に生徒がいないということもなかった。
 校舎の前に貼り出されていたクラス分けの掲示を確認した楓は、1年2組に自分の名前を見付けて教室に移動した。入学式の開錠である体育館には、各教室に集合した後でクラスごとに移動することになっているようだ。

 1年2組の教室に向かった楓は、教室の中に足を踏み入れて固まる。掲示板はよく見ていなかったが、同じクラスに鬼島がいたのだ。楓と目が合った鬼島は、必死で口を押さえて左右に首を振って喋りませんアピールをする。その様子を目にした楓は、安堵して自分の席に座った。

 合格率99パーセントという、願書を提出して試験さえ受ければ入学することができる高校だけあり、一応校則はあるものの守っている生徒は楓ただ1人だった。さすがに武闘派ヤンキーを地で行く鬼島のような生徒はいないが、髪の色はカラフルで、初日から制服もオリジナリティに溢れていた。
 そんな中でも、やはり入学式当日からクラスカーストは存在していた。教室の真ん中に陣取る男女3人ずつの6人組みがそうだった。元々の顔馴染みなのかも知れないが、既に鬼島意外のクラスメートを見下すように威圧している。派手なメイクに超ミニ改造されたスカートから伸びる長い脚。後で分かることであるが、読者モデルをしている川島(カワシマ) 遥香(ハルカ)とイケメン+高身長というハイスペックな男子生徒、秋山(アキヤマ) 修斗(シュウト)を中心とした6人は、入学式の前からクラスの主導権を握った。

 一方、楓は自分の席に座ったまま、誰かに声を掛けて友達になれないものかと周囲を見渡していた。とはいえ、3年以上同級生と会話をしたことがなかったため、どうやって話し掛ければ良いのか分からないままだ。ただ、全員がアバンギャルドな生徒ではない。全員が騒がしくて、会話が成立しないという訳でもない。
 楓は持てる限りの勇気を振り絞り、隣の女子生徒に声を掛けた。

「あ、あのう・・・私、黒崎 楓と申します」
「申します!?」
 隣の席の女子生徒は楓の言葉遣いにお驚いて振り返った。そして、そこにいた地味な楓を見て、タメ息を吐きながら自己紹介をした。
「私は赤坂(アカサカ) (ツムギ)。よろしくね」
 自分が住んでいる街では、楓が名乗った瞬間に萎縮されるか逃げられるかであるが、遠隔地だけあり何の反応も示されない。そのことに気を良くした楓は、紬に右手を差し出して笑顔を見せた。

「うん、これからよろしくお願いします。明日、(サカズキ)を持ってきますね!」