「若頭、お嬢を1人で行かせてしまってもいいんですか?内緒で護衛とか付けた方が良いんじゃねえかと―――」
「バカ野郎!!ぜってえ、そんな事はするんじゃねえぞ!!昨夜、お嬢に約束させられただろう。絶対に高校に来てはだめだと。護衛などいらないから、絶対に付いて来るなと」
「ですが―――」
「絶対にするな!!」
食い下がる若い組員に、若頭の益荒男が怒鳴り付ける。楓のことが心配で進言していることは理解しているが、それでも、何がなんでも楓との約束を破らせる訳にはいかなかった。
「お嬢との約束は絶対だ」
益荒男はこの業界では有名な猛者だ。身長2メートル、体重120キロの巨体と鍛え上げられた肉体。しかも格闘技と銃器に精通し、正にこの業界のために生まれてきたような存在だ。まっくろ黒組が関東を制圧した戦いにおいて、最も活躍したのがこの益荒男である。単身で敵方の組事務所に乗り込み、数十人の組員をたった1人でブチのめした。その数は10を超える。今や関東のみならず、全国にその名が轟いている。
「それでも、お嬢はか弱い女子高生ですよ。何かあったら、組長や姐さんに―――」
「大丈夫だ。組長も姐さんも了承済みだ。そんなことよりも、オマエもよく覚えておけ。お嬢は信義を重んじる。重んじるというよりは、それ以外のことに価値を見出していない。だから、お嬢との約束は命賭けだ。一生懸命の命懸けじゃねえ。賭博の方の賭けるだ。それと、お嬢が広島弁で喋っているときは、絶対に近付いちゃいけねえ」
説明を受けた若い組員は納得していなかったものの、これ以上意見する訳にもいかず飲み込んだ。
益荒男以下組員に「お嬢」と呼ばれている楓であるが、見た目は目立たない普通の女子高生だ。高級車による送迎もなければ、金髪に染めて特攻服を着ているようなヤンキーでもない。校則通りの制服を着て、学校指定のスニーカーを履いている。身長160センチ、体重45キロという、ごくありふれた体型。髪は肩よりも30センチほど長いものの黒髪で、特に注目する部分はない。顔も目に掛かるほどの前髪で覆われ、しかも太い黒縁メガネを掛けている。逆の意味で目立つくらいだ。ちなみに、ガリ勉ぽい風貌であるが勉強はできない。生まれたときに与えられたポイントが、身体能力に全振りされているからだ。
楓は小学6年生のときまで家業のことを隠し続け、何人かの友達もいた。しかし、楓との約束を破って迎えに来た益荒男によって、全校生徒に組長の一人娘だということがバレてしまった。それ以降、クラスメートをはじめ学校中の生徒達から距離を置かれ、全ての友達を失った。中学の3年間も腫れ物のように扱われ、3年間誰とも会話をしないまま卒業した。
しかし、その孤独な生活も終わりを迎える。
楓は自分のことを誰も知らない街にある高校に進学することに決める。そして、楓は見事、合格率99パーセントの私立高校に合格した。その入学式が今日なのである。1つだけ問題があるとすれば、余りも遠い場所にあるため、通学時間が電車で2時間以上かかることだ。しかし、その苦労も、普通の高校生活が送ることができると思えば気にならなかった。
空席しかない始発電車に乗り込み、ウキウキとしている楓の視界に見知った顔が写り込んだ。それは、中学3年生のときにクラスメートだった鬼島 龍二だ。真っ赤な髪を立たせ、耳にはリング型のピアスが3個付いている。制服を着崩し、イヤホンを耳に押し込んだ状態で、ガムまで噛んでいる。典型的な田舎のヤンキーだった。
いつもなら気にも留めないところであるが、その制服を二度見した楓は固まった。見覚えがある制服だったからだ。いや、これから散々見ることになる制服だったからだ。
楓は無視することができず、勇気を出して立ち上がる。フルフルと震えながら、勇気を振り絞って両足を投げ出してシートに深々と座っている鬼島の前に立った。楓は家業がヤクザというだけで、本人は至って普通の人間だ。実際に大きな声を出すこともなければ、家業を前面に押し出して力を誇示するようなこともしない。家業はあくまでも、たまたま両親が組長と姐というだけで、今のところ楓は組織には無関係だ。だから、楓としては気が弱い女子高生でしかないと思っている。実際、普段の言動は間違いなく、それで合っているのだ。
一方、眠い目を擦り、母親に無理矢理叩き起こされて始発電車に乗った鬼島は猛烈に不機嫌だった。余りにも素行が悪かったため内申点をマイナスされ、合格できる高校が楓と同じ学校しかなかったのだ。「高校だけは行ってくれ」と母親に泣き付かれ、進学することにした。
これ以上ないほどイライラしている鬼島の前に、ゆっくりとした足取りで何者かが近付いてきた。何か注意してくるのか、それともどこかのヤンキーが喧嘩を売ってきたのかと思い、鬼島は下から煽るようにしてその人物を睨み付けた。
「ヒイッ」
その声を上げたのは鬼島の方だった。
「バカ野郎!!ぜってえ、そんな事はするんじゃねえぞ!!昨夜、お嬢に約束させられただろう。絶対に高校に来てはだめだと。護衛などいらないから、絶対に付いて来るなと」
「ですが―――」
「絶対にするな!!」
食い下がる若い組員に、若頭の益荒男が怒鳴り付ける。楓のことが心配で進言していることは理解しているが、それでも、何がなんでも楓との約束を破らせる訳にはいかなかった。
「お嬢との約束は絶対だ」
益荒男はこの業界では有名な猛者だ。身長2メートル、体重120キロの巨体と鍛え上げられた肉体。しかも格闘技と銃器に精通し、正にこの業界のために生まれてきたような存在だ。まっくろ黒組が関東を制圧した戦いにおいて、最も活躍したのがこの益荒男である。単身で敵方の組事務所に乗り込み、数十人の組員をたった1人でブチのめした。その数は10を超える。今や関東のみならず、全国にその名が轟いている。
「それでも、お嬢はか弱い女子高生ですよ。何かあったら、組長や姐さんに―――」
「大丈夫だ。組長も姐さんも了承済みだ。そんなことよりも、オマエもよく覚えておけ。お嬢は信義を重んじる。重んじるというよりは、それ以外のことに価値を見出していない。だから、お嬢との約束は命賭けだ。一生懸命の命懸けじゃねえ。賭博の方の賭けるだ。それと、お嬢が広島弁で喋っているときは、絶対に近付いちゃいけねえ」
説明を受けた若い組員は納得していなかったものの、これ以上意見する訳にもいかず飲み込んだ。
益荒男以下組員に「お嬢」と呼ばれている楓であるが、見た目は目立たない普通の女子高生だ。高級車による送迎もなければ、金髪に染めて特攻服を着ているようなヤンキーでもない。校則通りの制服を着て、学校指定のスニーカーを履いている。身長160センチ、体重45キロという、ごくありふれた体型。髪は肩よりも30センチほど長いものの黒髪で、特に注目する部分はない。顔も目に掛かるほどの前髪で覆われ、しかも太い黒縁メガネを掛けている。逆の意味で目立つくらいだ。ちなみに、ガリ勉ぽい風貌であるが勉強はできない。生まれたときに与えられたポイントが、身体能力に全振りされているからだ。
楓は小学6年生のときまで家業のことを隠し続け、何人かの友達もいた。しかし、楓との約束を破って迎えに来た益荒男によって、全校生徒に組長の一人娘だということがバレてしまった。それ以降、クラスメートをはじめ学校中の生徒達から距離を置かれ、全ての友達を失った。中学の3年間も腫れ物のように扱われ、3年間誰とも会話をしないまま卒業した。
しかし、その孤独な生活も終わりを迎える。
楓は自分のことを誰も知らない街にある高校に進学することに決める。そして、楓は見事、合格率99パーセントの私立高校に合格した。その入学式が今日なのである。1つだけ問題があるとすれば、余りも遠い場所にあるため、通学時間が電車で2時間以上かかることだ。しかし、その苦労も、普通の高校生活が送ることができると思えば気にならなかった。
空席しかない始発電車に乗り込み、ウキウキとしている楓の視界に見知った顔が写り込んだ。それは、中学3年生のときにクラスメートだった鬼島 龍二だ。真っ赤な髪を立たせ、耳にはリング型のピアスが3個付いている。制服を着崩し、イヤホンを耳に押し込んだ状態で、ガムまで噛んでいる。典型的な田舎のヤンキーだった。
いつもなら気にも留めないところであるが、その制服を二度見した楓は固まった。見覚えがある制服だったからだ。いや、これから散々見ることになる制服だったからだ。
楓は無視することができず、勇気を出して立ち上がる。フルフルと震えながら、勇気を振り絞って両足を投げ出してシートに深々と座っている鬼島の前に立った。楓は家業がヤクザというだけで、本人は至って普通の人間だ。実際に大きな声を出すこともなければ、家業を前面に押し出して力を誇示するようなこともしない。家業はあくまでも、たまたま両親が組長と姐というだけで、今のところ楓は組織には無関係だ。だから、楓としては気が弱い女子高生でしかないと思っている。実際、普段の言動は間違いなく、それで合っているのだ。
一方、眠い目を擦り、母親に無理矢理叩き起こされて始発電車に乗った鬼島は猛烈に不機嫌だった。余りにも素行が悪かったため内申点をマイナスされ、合格できる高校が楓と同じ学校しかなかったのだ。「高校だけは行ってくれ」と母親に泣き付かれ、進学することにした。
これ以上ないほどイライラしている鬼島の前に、ゆっくりとした足取りで何者かが近付いてきた。何か注意してくるのか、それともどこかのヤンキーが喧嘩を売ってきたのかと思い、鬼島は下から煽るようにしてその人物を睨み付けた。
「ヒイッ」
その声を上げたのは鬼島の方だった。



