「大変です、お嬢!!」
机に向かい宿題をしていた楓の部屋に、組員の1人が飛び込んで来た。
楓は振り返ると、静かに訊ねた。
「どうしのですか?」
組員は楓の前で顔の位置を合わせるように腰を屈め、目を見開いて捲くし立てる。
「ひ、蛭子組が、蛭子組が攻めて来ました!!
この屋敷を取り囲み、表の門の前で、降伏して土下座しろと。それなら、生命は助けてやると、そう言ってます!!組長さんも姐さんもいませんし、いったいどうすればいいのか。若頭もヤツラにやられてしまいましたし・・・でも、もし一時的であっても降伏なんかしたら、組長さんや姐さんが帰って来たときに殺されます」
そこまで一気に喋った組員が、楓の目の前で頭を抱えてへたり込んだ。
静かに聞いていた楓が、丁寧な口調でその組員に訊ねた。
「私の記憶では、父と母が蛭子組を潰しに掛かったとき、いかなるときも反旗を翻さない、未来永劫裏切らないことを約束する代わりに存続を許したと思うのですが。間違っていますか?」
組員は顔を上げ、楓の問いに答える。
「いえ、それで合ってると思います。でも、現在のこの業界では、寝返りや裏切りは日常茶飯事で普通に起こることです。それを言ったところで―――――」
「行きましょうか」
「・・・・・は?」
「正門から来るのでしょう?」
楓は部屋着にしている中学生時代の体操服のまま、スッと椅子から立ち上がった。そして、組員の横をすり抜けると廊下に出る。廊下にはどうすればいいのか分からない組員たちが、とりあえず武器を持って立っていた。最悪の場合、楓だけでも逃がそうとしているのかも知れない。しかし、楓はその組員たちを無視して玄関に向かい、そこにあった通学用のローファーを履いて外に出た。
組員たちは楓を止めることもできず、ぞの行動を目で追うことしかできなかった。そんな組員がポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。
「オレだ」
「か、若頭っ、大丈夫なんですか!?重傷で意識不明だって、蛭子組のヤツラが!!」
「や、やっぱり来たか・・・」
電話の相手は4ヶ所も刺されて搬送された益荒男だった。
「オレは動けない。立ち上がりたくても、身体に力が入らない。それに、こんな状態で行ったところで、お嬢の足手まといになるだけだ。まあ、今は、オレのことなどどうでもいい。そんなことより、今から大事なことを話すから、よく聞け」
「5分経過しました」
ソファーでふんぞり返る孝蔵に、タイマーを管理していた部下が制限時間が経過したことを伝える。
「ようし、反応がない、ということは、全力で攻めてもいいってことだよな。じゃあ、さっさと終わらせようか。総攻撃―――――ん?」
総攻撃の号令を掛けようとしていた孝蔵の目の前で、ゆくりと城門のようなまっくろ黒組の正門が開いた。孝蔵が立ち上がって二、三歩前に出ると、開いた正門の真ん中に立つジャージ姿の少女が見えた。
「貴方が蛭子組の組長ですか?」
妙に通る声で、ジャージ姿の少女、楓が孝蔵に訊ねた。孝蔵は呆気に取られたが、すぐにその少女がまっくろ黒組の組長の娘であることに気付いた。
「そうですよ、まっくろ黒組のお嬢様」
余裕の笑みを浮かべ、両手を左右に広げるというオーバーアクションで孝蔵は楓の問いに答えた。周囲を埋め尽くす蛭子組の組員たちから一斉に笑い声が上がる。しばらく爆笑したあと、孝蔵が再び両手を広げて組員たちを静めた。
「お嬢様、土下座はここで、お願いできますか?」
孝蔵は3メートルほど先の路面を指差し、楓に指示をする。
しかし、楓は孝蔵の言葉を無視し、一歩も動かず口を開いた。
「私の記憶では、貴方は、まっくろ黒組を永遠に裏切らない、と約束したと思うのですが。その約束を破る、というとですか?」
楓の話を聞いた孝蔵は、一瞬呆けたような表情を見せたあと、その場で大声を出して笑った。
「はーっはっはっ!!これだから、箱入りの小娘は!!そんな約束が守られるような世界だと、任侠道などというものが存在すると、本気で思っているのか!!バカめがああああっ!!」
唾を飛ばしながら高笑いする孝蔵。
その様子を見ている楓の手に、益荒男から電話を受けた組員がペッとボトルを握らせた。
「お嬢、少しだけでも喉を潤してください」
楓は組員の言葉に従い、ペッとボトルのキャップを開けて中の液体を流し込んだ。
緊張していたのかも知れない。
楓は喉を通る液体が心地良いと感じた。
口の中で力強く弾ける感覚が、楓の脳を活性化させる。
祖父に言われて抑え付けていた自我が、一気に解放される気がした。
「・・・・・おい、ジジイ。
極道にはのう、信義が一番大切なんじゃ。それを忘れてしもうたら、ワシらはただの暴徒じゃろうが。そんなことも分からんのか!!」
机に向かい宿題をしていた楓の部屋に、組員の1人が飛び込んで来た。
楓は振り返ると、静かに訊ねた。
「どうしのですか?」
組員は楓の前で顔の位置を合わせるように腰を屈め、目を見開いて捲くし立てる。
「ひ、蛭子組が、蛭子組が攻めて来ました!!
この屋敷を取り囲み、表の門の前で、降伏して土下座しろと。それなら、生命は助けてやると、そう言ってます!!組長さんも姐さんもいませんし、いったいどうすればいいのか。若頭もヤツラにやられてしまいましたし・・・でも、もし一時的であっても降伏なんかしたら、組長さんや姐さんが帰って来たときに殺されます」
そこまで一気に喋った組員が、楓の目の前で頭を抱えてへたり込んだ。
静かに聞いていた楓が、丁寧な口調でその組員に訊ねた。
「私の記憶では、父と母が蛭子組を潰しに掛かったとき、いかなるときも反旗を翻さない、未来永劫裏切らないことを約束する代わりに存続を許したと思うのですが。間違っていますか?」
組員は顔を上げ、楓の問いに答える。
「いえ、それで合ってると思います。でも、現在のこの業界では、寝返りや裏切りは日常茶飯事で普通に起こることです。それを言ったところで―――――」
「行きましょうか」
「・・・・・は?」
「正門から来るのでしょう?」
楓は部屋着にしている中学生時代の体操服のまま、スッと椅子から立ち上がった。そして、組員の横をすり抜けると廊下に出る。廊下にはどうすればいいのか分からない組員たちが、とりあえず武器を持って立っていた。最悪の場合、楓だけでも逃がそうとしているのかも知れない。しかし、楓はその組員たちを無視して玄関に向かい、そこにあった通学用のローファーを履いて外に出た。
組員たちは楓を止めることもできず、ぞの行動を目で追うことしかできなかった。そんな組員がポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。
「オレだ」
「か、若頭っ、大丈夫なんですか!?重傷で意識不明だって、蛭子組のヤツラが!!」
「や、やっぱり来たか・・・」
電話の相手は4ヶ所も刺されて搬送された益荒男だった。
「オレは動けない。立ち上がりたくても、身体に力が入らない。それに、こんな状態で行ったところで、お嬢の足手まといになるだけだ。まあ、今は、オレのことなどどうでもいい。そんなことより、今から大事なことを話すから、よく聞け」
「5分経過しました」
ソファーでふんぞり返る孝蔵に、タイマーを管理していた部下が制限時間が経過したことを伝える。
「ようし、反応がない、ということは、全力で攻めてもいいってことだよな。じゃあ、さっさと終わらせようか。総攻撃―――――ん?」
総攻撃の号令を掛けようとしていた孝蔵の目の前で、ゆくりと城門のようなまっくろ黒組の正門が開いた。孝蔵が立ち上がって二、三歩前に出ると、開いた正門の真ん中に立つジャージ姿の少女が見えた。
「貴方が蛭子組の組長ですか?」
妙に通る声で、ジャージ姿の少女、楓が孝蔵に訊ねた。孝蔵は呆気に取られたが、すぐにその少女がまっくろ黒組の組長の娘であることに気付いた。
「そうですよ、まっくろ黒組のお嬢様」
余裕の笑みを浮かべ、両手を左右に広げるというオーバーアクションで孝蔵は楓の問いに答えた。周囲を埋め尽くす蛭子組の組員たちから一斉に笑い声が上がる。しばらく爆笑したあと、孝蔵が再び両手を広げて組員たちを静めた。
「お嬢様、土下座はここで、お願いできますか?」
孝蔵は3メートルほど先の路面を指差し、楓に指示をする。
しかし、楓は孝蔵の言葉を無視し、一歩も動かず口を開いた。
「私の記憶では、貴方は、まっくろ黒組を永遠に裏切らない、と約束したと思うのですが。その約束を破る、というとですか?」
楓の話を聞いた孝蔵は、一瞬呆けたような表情を見せたあと、その場で大声を出して笑った。
「はーっはっはっ!!これだから、箱入りの小娘は!!そんな約束が守られるような世界だと、任侠道などというものが存在すると、本気で思っているのか!!バカめがああああっ!!」
唾を飛ばしながら高笑いする孝蔵。
その様子を見ている楓の手に、益荒男から電話を受けた組員がペッとボトルを握らせた。
「お嬢、少しだけでも喉を潤してください」
楓は組員の言葉に従い、ペッとボトルのキャップを開けて中の液体を流し込んだ。
緊張していたのかも知れない。
楓は喉を通る液体が心地良いと感じた。
口の中で力強く弾ける感覚が、楓の脳を活性化させる。
祖父に言われて抑え付けていた自我が、一気に解放される気がした。
「・・・・・おい、ジジイ。
極道にはのう、信義が一番大切なんじゃ。それを忘れてしもうたら、ワシらはただの暴徒じゃろうが。そんなことも分からんのか!!」



