炭酸飲料は死への呼び水Death!!

 益荒男が搬送された日の夕暮れ時。
 株式会社ひるこ本社ビルの1階フロアに、地下倉庫に隠匿していた武器を装備した者たちが集結していた。その数は500。更に準構成員が、ビルを囲むようにして待機している。総勢はゆうに1000を超えている。それを咎める警察関係者の姿は無い。この日のために、蛭子 孝蔵(コウゾウ)、つまり蛭子組の組長が所轄の警察官たちに豪華な贈答品を付け届けていたからだ。

 1階フロアの1段高い位置から、スキンヘッドの厳つい男が声を張り上げる。

「この世界は弱肉強食だ。隙を見せた者から食われていく。
 仮初めの平穏を永遠だと信じて、本拠地を留守にして南北に遠征したバカがいる。
 一番の問題であった益荒男は病院で意識不明の重体だ。
 今しかない。
 今こそ天下を取るチャンスだ。
 野郎ども、準備はいいな?」

 組長である蛭子孝蔵の言葉に、1階フロアのボルテージが一気に上がる。配下の者たちの目が血走り、拳を強く握り締めている。

「これより、、まっくろ黒組の本家を廃墟にし、蛭子組が天下を取る。
 てめえら、行くぞおおおおおっ!!」
「「「「「おおおおおお―――――っ!!」」」」」

 孝蔵を先頭にし、1000人を超える者たちが一斉に動き始める。それは、まるで巨大なヘビが獲物を飲み込もうと(アギト)を開いているかのように思えた。
 孝蔵は凡庸ではない。愚鈍な者の下に1000人以上の者たちは集らない。早い時期にまっくろ黒組の組長と姐に遭遇していなければ、違った未来があったのかも知れない。


 孝蔵は1000人の部下でまっくろ黒組を十重二十重に取り囲み、正門の前に立ちって宣戦布告をする。雌雄を決する際には正々堂々と真正面から戦わなければ、例え勝ったとしても他の任侠道云々と煩い周囲の組が従わないからだ。
 正門に向かい、孝蔵が拡声器を使って口上を述べた。

「蛭子組組長蛭子孝蔵だ。蛭子組は、まっくろ黒組の傘下から離れ、今ここに、宣戦布告をする。そちらの本体がどこにいようが、組長と姐がいようといまいが、それはオレたち蛭子組には関係ない。極道たるものが、万一の事態に備えない方が悪い。分かっていると思うが、既に若頭は病院送りになっている。その他にも5人ほどは再起不能にした。オレは無用な殺生は好まない。5分やる。おとなしく門を開けて土下座をするなら、腕1本で許してやる。
 死ぬか、それとも腕1本か、好きな方を選べや!!」

 孝蔵は言い終えると、隣で控えていた部下に拡声器を手渡して、用意してあったソファーに腰を下ろした。
「きっちり5分経ったら教えろ」
「へい」
 配下の男が手にしたタイマーを5分に合わせた。

「5分経ったら、土下座した頭を踏み潰し、まっくろ黒組の本家を破壊尽くした上で焼き払ってやる」
 孝蔵の言葉を聞いた部下のひとりが訊ねる。
「いいんですか、周囲の者たちが煩いのでは?」
 孝蔵は薄ら笑いを浮かべて応えた。
「煩いのは権力(チカラ)を持つまでだ。権力さえ手に入れば、自然とおとなしくなる」
「なるほど」

 孝蔵は路上には不似合いな革張りのソファーに身体を沈め、足を組んで目の前の門を眺める。
 この中には、腕は多少立ったとしても新人同然の組員が15名程度。こちらは1000人以上の武装したプロの組員。勝負は一瞬で終わるだろう。あとは、組長と姐の間にできた娘が1人。まだ高校生になったばかりの小娘だ。泣き叫ぶようなら静かにさせれば良いし、反抗的であれば分からせれば良いだけだ。
 目前に迫る待ち望んだ未来を想像し、孝蔵は笑みを浮かべた。