蛭子は散々に打ちのめされて動かなくなった身体を引き摺り、どうにか迎えの車に乗って帰宅した。細身の女子高生、しかも新入生に手も足も出ずに負けてしまった。復讐をしようにも、仮に闇討ちをしても勝てそうになかった。それでも、家業のことを考えれば、このままという訳にはいかない。舐められてしまえば、この業界では生きていけないのだ。そこで、蛭子は父親の力を借りることにした。
「オヤジ、ちょっと人手を貸して欲しいんだ。下っ端じゃなくて、実力上位者を10人ほど」
「株式会社ひるこ」という看板を掲げた鉄筋コンクリート造りの5階建てビル。その最上階の20畳以上ある会長室で、蛭子はパンパンに腫らした顔で実の父親に頭を下げた。
一番奥の壁際にある幅が5メートル以上ある机の向こう側で、スキンヘッドの強面が顔を上げる。蛭子 孝蔵。表向きは株式会社ひるこで総合土木工事を行っているが、実際はまっくろ黒組の支配に最後まで抵抗したバリバリの武闘派組織である。取り締まりが厳しくなったこの時代においても構成員は500人、下部組織を含めると軽く1000人は超えている。裏の名称は「蛭子組」。蛭子の父親は、2代目の組長だ。
「ダメだ」
いつもであれば、業界でのメンツがどうとか必要以上の戦力を用意するはずであるが、今回は首を縦に振ることはなかった。その態度が不満だったのか、蛭子は父親の目の前に立ち、晴れ上がった顔を至近距離で見せる。一瞬父親の目が大きく開いたが、それでも首を左右に振った。そして、豪華な肘置きが付いた椅子にもたれかかって口を開いた。
「翔、オマエは我が蛭子組は他の組に負けていると思うか?」
「そ、そんな訳ないだろ!!ウチは全国制覇できる組だ。まっくろ黒組なってふざけた名前の組に負けたのも、傘下に入れられたのも運が悪かっただけだ。チャンスさえあれば、いつでもウチは全国のトップになれる!!」
唾を撒き散らしながら叫ぶ蛭子に、父親が歪な笑みを浮かべて頷く。
「そうだ。だから、今はオマエの個人的な恨みのために兵隊を動かす訳にはいかないんだよ」
言葉の意味を理解した蛭子が、沈黙し後で再び口を開く。
「で、でも、あそこには化物みたいない組長と姐が・・・」
「組長は北海道、姐は九州に兵隊を引き連れて遠征している。情報によれば、北も南も戻ってくるにはまだまだ時間がかかるようだ。今、本家に残っているのは、20人ほどだけだ」
「20人?それなら、勝て・・・いや、若頭の益荒男がいたら、落とせないかも」
益荒男をという名前を聞き、父親がニヤリと笑う。
「確かに、益荒男は全国でも有数の猛者だ。正面から戦えば、犠牲が100人以上出ても勝てない可能性はある。正面から戦えば、の話だ。それなら、先に闇討ちをしてしまえばいい。正面からダメなら、後ろから刺せばいい。ヤツさえいなければ、20人程度はどうってことはない。組長たちが帰ってくる前に、本家を潰し、まっくろ黒組に不満を持つヤツラを束ねて勢力図を塗り変える。そして―――――数の力ですり潰す!!」
「お嬢、お帰りなさい!!」
門付近で掃除をしていた組員が、帰宅した楓に頭を下げる。
「うん、ただいま」
いつもどおりの穏やかな返事をする楓。しかし、純白のブラウスにはなぜか赤黒い斑点が付いていた。組員が首を傾げると、年長の組員が諦めたようにため息を吐いた。
「あー・・・」
「兄貴、どうしたんですか?」
「誰かが、お嬢に炭酸飲料を飲ませたんだ」
「はあ?」
年長の組員は新人の組員に大して苦笑いした。
「まあ、そのうち分かる」
楓の足元を見ると、制服と左右非対称に靴下が赤黒く染まり、茶色のローファーが右側だけ真っ黒になっていた。
「オヤジ、ちょっと人手を貸して欲しいんだ。下っ端じゃなくて、実力上位者を10人ほど」
「株式会社ひるこ」という看板を掲げた鉄筋コンクリート造りの5階建てビル。その最上階の20畳以上ある会長室で、蛭子はパンパンに腫らした顔で実の父親に頭を下げた。
一番奥の壁際にある幅が5メートル以上ある机の向こう側で、スキンヘッドの強面が顔を上げる。蛭子 孝蔵。表向きは株式会社ひるこで総合土木工事を行っているが、実際はまっくろ黒組の支配に最後まで抵抗したバリバリの武闘派組織である。取り締まりが厳しくなったこの時代においても構成員は500人、下部組織を含めると軽く1000人は超えている。裏の名称は「蛭子組」。蛭子の父親は、2代目の組長だ。
「ダメだ」
いつもであれば、業界でのメンツがどうとか必要以上の戦力を用意するはずであるが、今回は首を縦に振ることはなかった。その態度が不満だったのか、蛭子は父親の目の前に立ち、晴れ上がった顔を至近距離で見せる。一瞬父親の目が大きく開いたが、それでも首を左右に振った。そして、豪華な肘置きが付いた椅子にもたれかかって口を開いた。
「翔、オマエは我が蛭子組は他の組に負けていると思うか?」
「そ、そんな訳ないだろ!!ウチは全国制覇できる組だ。まっくろ黒組なってふざけた名前の組に負けたのも、傘下に入れられたのも運が悪かっただけだ。チャンスさえあれば、いつでもウチは全国のトップになれる!!」
唾を撒き散らしながら叫ぶ蛭子に、父親が歪な笑みを浮かべて頷く。
「そうだ。だから、今はオマエの個人的な恨みのために兵隊を動かす訳にはいかないんだよ」
言葉の意味を理解した蛭子が、沈黙し後で再び口を開く。
「で、でも、あそこには化物みたいない組長と姐が・・・」
「組長は北海道、姐は九州に兵隊を引き連れて遠征している。情報によれば、北も南も戻ってくるにはまだまだ時間がかかるようだ。今、本家に残っているのは、20人ほどだけだ」
「20人?それなら、勝て・・・いや、若頭の益荒男がいたら、落とせないかも」
益荒男をという名前を聞き、父親がニヤリと笑う。
「確かに、益荒男は全国でも有数の猛者だ。正面から戦えば、犠牲が100人以上出ても勝てない可能性はある。正面から戦えば、の話だ。それなら、先に闇討ちをしてしまえばいい。正面からダメなら、後ろから刺せばいい。ヤツさえいなければ、20人程度はどうってことはない。組長たちが帰ってくる前に、本家を潰し、まっくろ黒組に不満を持つヤツラを束ねて勢力図を塗り変える。そして―――――数の力ですり潰す!!」
「お嬢、お帰りなさい!!」
門付近で掃除をしていた組員が、帰宅した楓に頭を下げる。
「うん、ただいま」
いつもどおりの穏やかな返事をする楓。しかし、純白のブラウスにはなぜか赤黒い斑点が付いていた。組員が首を傾げると、年長の組員が諦めたようにため息を吐いた。
「あー・・・」
「兄貴、どうしたんですか?」
「誰かが、お嬢に炭酸飲料を飲ませたんだ」
「はあ?」
年長の組員は新人の組員に大して苦笑いした。
「まあ、そのうち分かる」
楓の足元を見ると、制服と左右非対称に靴下が赤黒く染まり、茶色のローファーが右側だけ真っ黒になっていた。



