「言葉を慎め、人間」
聞き覚えのない声が耳に届く。
一体どこからと可能な範囲で視線を巡らせた私は、その声の主を見つけた。
先程嘴霊に助けられたあの妖狐だ。いつの間にか奴の肩に乗っている。
「このお方は、たった今より人間界を統べるおひと」
喋る妖狐を乗せたまま嘴霊は翼をひとつ羽ばたかせると、私を閉じ込めたガラスの檻の前までゆっくりと飛んできた。
それに呼応するように、周囲の妖怪達がゾロゾロと集まっていく。
「三十年前、我らは龍神をはじめ龍永の人間を皆殺しにし、その血筋を絶やすことで龍神の転生を止めようとした。——だが、その目論見は失敗に終わった」
妖狐の説明の最中、嘴霊がこちらを振り向いた。
その双眸には、とてつもない憎悪が宿っていた。
私を——龍神を、心の底から忌み嫌うような眼差し。
「龍神の血を絶やしただけでは転生は止められない。ならば転生した龍神ごと、その力を永遠に封じてしまえばいい——それこそが嘴霊様が導きだした答え!」
高らかな声を上げた後、妖狐は石となった私を指し示す。
「……騙したのか」
打って変わって、今度は掠れた弱々しい声が辛うじて私の耳に届いた。
嘴霊が柿崎さんの方へ首を動かす。
「私を……ずっと……」
呆然と立ち尽くし、嘴霊を見据える瞳からは完全に光が失われていた。
「私と同じように妖怪を憎み、平和を願っていると……そう信じていたのに……」
静寂が落ちる。柿崎さんの言葉を受けて嘴霊がどんな表情をしているのか、ここからでは見えない。
だが奴の考えていることはすぐに分かった。スケッチブックに三ページに渡って書かれた文章に、私の心は怒りに震える。
『人間如きに頭を下げ続ける毎日は、吐き気がするほど苦痛だった』
『それでも耐えられたのは、あんたという道化がいたからだ』
『妖怪とも知らず俺を信じ切っているあんたを見るのは、最っ高に愉快だったよ!』
その黒文字を柿崎さんへ突きつけた途端、周囲の妖怪達が一斉に笑い出した。
ゲラゲラ、ゲラゲラと耳障りで下品な哄笑は、声を失った嘴霊の心情を代弁しているかのようだった。
「そんな……」
柿崎さんが膝から崩れ落ちる。
信じていたものが音を立てて崩れ去り、その顔には絶望しか残っていなかった。
化け物どもの嘲笑は未だ収まらない。
その笑い声を切り裂くように、一つの影が飛び出した。
陣だ。
右目には今まで見たことがないほど激しい怒りが宿っていた。
一直線に嘴霊へ斬りかかる。
対する嘴霊も日本刀を構え、真正面から迎え撃った。
火花が散るほど二人の刃が激しくぶつかり合った直後、嘴霊は足を高く振り上げ——。
ダンッ!! と床を力任せに踏み抜いた。
轟音とともに床へ亀裂が走る。
——陣っ!!
陣の足元が崩れ、その身体は暗い穴の中へ飲み込まれていった。
嘴霊は空中で静止したまま、その様子を見下ろしている。
やがて肩に乗っていた妖狐が軽やかに床へ降り立ち、妖怪達へ叫ぶ。
「さあ者ども! ここにいる人間どもを一人残らず皆殺しにしろ!!」
その命令を合図に、妖怪達が一斉に咆哮を上げた。
春野隊長と隊員達も武器を構え、迎撃へ動き出す。
工場は瞬く間に戦場と化した。
一方、嘴霊は落ちた陣を追うように、大きく口を開けた穴の中へ飛び込んでいった。
聞き覚えのない声が耳に届く。
一体どこからと可能な範囲で視線を巡らせた私は、その声の主を見つけた。
先程嘴霊に助けられたあの妖狐だ。いつの間にか奴の肩に乗っている。
「このお方は、たった今より人間界を統べるおひと」
喋る妖狐を乗せたまま嘴霊は翼をひとつ羽ばたかせると、私を閉じ込めたガラスの檻の前までゆっくりと飛んできた。
それに呼応するように、周囲の妖怪達がゾロゾロと集まっていく。
「三十年前、我らは龍神をはじめ龍永の人間を皆殺しにし、その血筋を絶やすことで龍神の転生を止めようとした。——だが、その目論見は失敗に終わった」
妖狐の説明の最中、嘴霊がこちらを振り向いた。
その双眸には、とてつもない憎悪が宿っていた。
私を——龍神を、心の底から忌み嫌うような眼差し。
「龍神の血を絶やしただけでは転生は止められない。ならば転生した龍神ごと、その力を永遠に封じてしまえばいい——それこそが嘴霊様が導きだした答え!」
高らかな声を上げた後、妖狐は石となった私を指し示す。
「……騙したのか」
打って変わって、今度は掠れた弱々しい声が辛うじて私の耳に届いた。
嘴霊が柿崎さんの方へ首を動かす。
「私を……ずっと……」
呆然と立ち尽くし、嘴霊を見据える瞳からは完全に光が失われていた。
「私と同じように妖怪を憎み、平和を願っていると……そう信じていたのに……」
静寂が落ちる。柿崎さんの言葉を受けて嘴霊がどんな表情をしているのか、ここからでは見えない。
だが奴の考えていることはすぐに分かった。スケッチブックに三ページに渡って書かれた文章に、私の心は怒りに震える。
『人間如きに頭を下げ続ける毎日は、吐き気がするほど苦痛だった』
『それでも耐えられたのは、あんたという道化がいたからだ』
『妖怪とも知らず俺を信じ切っているあんたを見るのは、最っ高に愉快だったよ!』
その黒文字を柿崎さんへ突きつけた途端、周囲の妖怪達が一斉に笑い出した。
ゲラゲラ、ゲラゲラと耳障りで下品な哄笑は、声を失った嘴霊の心情を代弁しているかのようだった。
「そんな……」
柿崎さんが膝から崩れ落ちる。
信じていたものが音を立てて崩れ去り、その顔には絶望しか残っていなかった。
化け物どもの嘲笑は未だ収まらない。
その笑い声を切り裂くように、一つの影が飛び出した。
陣だ。
右目には今まで見たことがないほど激しい怒りが宿っていた。
一直線に嘴霊へ斬りかかる。
対する嘴霊も日本刀を構え、真正面から迎え撃った。
火花が散るほど二人の刃が激しくぶつかり合った直後、嘴霊は足を高く振り上げ——。
ダンッ!! と床を力任せに踏み抜いた。
轟音とともに床へ亀裂が走る。
——陣っ!!
陣の足元が崩れ、その身体は暗い穴の中へ飲み込まれていった。
嘴霊は空中で静止したまま、その様子を見下ろしている。
やがて肩に乗っていた妖狐が軽やかに床へ降り立ち、妖怪達へ叫ぶ。
「さあ者ども! ここにいる人間どもを一人残らず皆殺しにしろ!!」
その命令を合図に、妖怪達が一斉に咆哮を上げた。
春野隊長と隊員達も武器を構え、迎撃へ動き出す。
工場は瞬く間に戦場と化した。
一方、嘴霊は落ちた陣を追うように、大きく口を開けた穴の中へ飛び込んでいった。



