私はあなたの結晶

@中原ゆあ
中野みうの方を見ても目は合わない。
私は「好きな人いないの?」と聞かれるたびにみうの方を見てしまう。みうに恋愛感情を抱いていないと言ったら嘘になってしまう。つまり私はみうのことが好きだ。大好きだ。
だけど、それは叶わぬ恋だった。女同士だからだ。周りの友達が認めてくれるかわからないし、認めてくれたとしても相手は男の人を好きになる。だから諦める。
だけど、みうの笑った顔を見るたびに泣いてる顔を見るたびに私の心は持ちそうになかった。かわいすぎて泣いた日もある。
みうと目が合わないのは、みうが友達と話していたからではない。勉強に夢中になっていたからでもない。同じクラスの男子、長谷航(ながたにこう)を見ていたからだ。
みうは航のことが好きだった。中学の時に聞いたことがあるから知っている。多分中学の時に聞かなくても、私は察しがいいからわかったと思う。
私は花川中学校へ通っていた。花川中学から東高校へ進学した人は三人いる。
私、みう、航だ。みうがこの高校に進学した理由は航が行くから。航が行くからって英検二級を取得したり、苦手科目も頑張ったりしていた。多分地頭が良かったのだろう。みうの偏差値はみるみる上がった。
私がこの高校に進学した理由はみうが行くからだ。中学の時からみうが好きだった。人に上に立たれることが嫌だったから元から頭はいい方だった。だけど、東高校へ進学できるほどは良くなかった。だからたくさん勉強してなんとか入れた。
航がこの高校へ入学した理由は家から近いかららしい。航は馬鹿なような天才だった。
クラスは運命的にみんな同じだった。私はみうと少しだけ仲が良かったから、入学して二週間は一緒に登校していた。話す話題は九割勉強のこと。たまに恋バナもしたけれどみうの航への想いも聞かされるたび手首に傷が増えた。でもみうと話すこと自体は楽しかった。だけど教室内にカーストができはじめた頃からなのか。私が一軍と仲良くしはじめた頃からなのか。みうは私のことを避けるようになった。よく考えてみればみうは陽キャ系の人種が嫌いだった。私は密かにみうに嫌われていたのかもしれない、と思って死にたくなった。
みうには新しい友達ができていた。矢野もみじという子だ。優しそうな子だ。もうみうに私は必要ないんだと思った。
今じゃ登校は別々、駅で会って朝の挨拶をしてもよそよそしい態度。とうとう嫌われちゃったか、と察した。察する力は人一倍に優れていたから。察したくなくても察してしまった。
私はみうにできるだけ嫌われないように、さらに嫌われないように学校生活を送る。みうがいたら大きな声を出さないようにする。少しでも好感を持たれるために。少しでも私のことを好きになってもらうために。
なのに嫌われてしまった。
ある日の昼休み、いつメンと席をくっつけてお弁当を食べていた。私はぼんやり航を見つめるみうの恋する顔を見ていた。その顔を私に向けてくれたらいいのにと思う。
そしたら私の隣でお弁当を食べていたねねが急に大きな声で
「このお弁当の漬物食べれない〜〜」
と叫んだ。教室内では笑いが巻き起こった。私も周りに合わせて笑っていた。チラッとみうの方を見た。
みうは嫌そうな顔をしていた。嫌そうな顔でこちらを見ていた。あーあ、やってしまった。私も一緒にみうに嫌われた。ねねと一緒に。
もう少し、関わる友達を考えれば良かったと後悔した。
そんなことで後悔する自分に絶望した。お弁当を食べる途中でトイレに行った。トイレの個室に入り、ポケットからカッターナイフを取りだした。そして左手首に傷をつけた。じわっと血が出てくる。そんなんで自分に罰を与えられた気になった。
後悔したのは変わらないと言うのに。もう傷をつけるのはやめようと思ったのにと、あとから切ってしまった後悔が押しよせてくる。
私の手首には、たくさんの傷跡が残っていた。中学の時からの傷跡だ。中学の時から切りはじめた。そうしていたら切ることが癖になり、少しでも嫌なことがあったら切るようになってしまった。半袖が着れなくなってしまった。夏が嫌いになった。
最初は手首に傷をつけるのに抵抗があったが、今ではもう何も抵抗がない。むしろつけたい。人には見せれないが、最近ではアートのようだと思えてもきた。
カッターが錆びてきた。学校が終わったら買いに行こ。と冷静に考えた。