電車が減速し、やがて止まった。
十分ほど待つ。信号にしては長すぎる。
外は激しい雨と風。
やな予感。
アナウンスが流れた。

「大雨の影響によりダイヤに乱れが出ております。ご迷惑をおかけしますが、電車到着まで今しばらくお待ちください」

ああ、やっぱり。
車内はざわつくでもなく静か。みんなスマホに目を落としている。

「これ線路に降りてホームまで歩かされたりする?」

隣りに座った友人が言う。彼女と二人きりで話すのは、先月の文化祭で委員を一緒にやって以来だ。

「いや、そこまでは。東京ではよくあることだし」

「何時間もここに閉じ込められたまま?」

「最長一時間はある」

彼女が「まじかぁ」と下を向く。

一人なら。まじかぁ、と思うけど。

雨と風の音が外で唸る。

この二人きりの状況、打ち上げに誘うチャンスだろうか。いや、車内には他の乗客はいるんだけれども。
文化祭からもう一ヶ月。
今さら誘う理由なんてあるだろうか。
じゃあ普通に「今度、お茶しない?」とか。
電車内でナンパしてるみたいだな。
ここは王道で、映画に誘うとか。
何の映画やってたっけ。つか彼女の映画の好みがわからないな。
電車よ、もう少し止まっててくれ。

「暇だねぇ」

「ま、まあ、非日常だと思えばこういう時間も悪くないよ」

しまった、焦ってカッコつけ過ぎた。電車に閉じ込められて悪くないとか、そんな奴いるか。

「非日常といえば、文化祭も非日常だったね」

と思ったらいい流れだ。神様、ありがとう。このままさらりとそういえば打ち上げをしてなかったな、と思いついたように言おう。僕は努めて自然に切り出す。

「文化祭と言えば」
「非日常っていえば、吊り橋効果って知ってる?」

唐突な彼女からの質問。
吊り橋効果?
恐怖を恋と勘違いするっていう……。

「もし、本当だったらどうしよう?」

……息を吸うのを忘れた。
みるみる熱が顔に上がってくる。
真っ直ぐ僕を見つめた後、彼女が悪戯っぽく微笑む。

「ふふ、冗談。こういう時間も確かに悪くないね?」

アナウンスが遠く聞こえる。電車は動き出していた。