「この絵ね、東京にきて、どんなに辛いことがあっても、ずっと蓮くんのあの優しい目を思い出しながら描いたの。私の絵の、私の人生の光は、いつだって蓮くんだったから」
葵の言葉に、僕の胸の奥に溜まっていた四日間の、いや、四力年の孤独や不安が、一瞬で溶けていくのが分かった。
「僕もだよ、葵。僕が今でもカメラを持っていられるのは、葵が僕の目を選んでくれたからだ。僕たちの恋は、あの夏に一度終わったかもしれない。だけど、そのおかげで、僕たちは自分の足で、ここまで歩いてこられたんだ」
僕は首から下げたカメラを持ち上げた。
それは、あの日父親から受け継ぎ、葵を撮り続けた、あの一眼レフだ。
「葵。もう一度、僕のモデルになってくれる? 今度は、嘘も隠し事もない、これからの僕たちの写真を撮りたいんだ」
葵は溢れそうになった涙を指先で拭うと、満開のひまわりが咲くような、世界で一番眩しい笑顔を僕に向けた。
「うん!喜んで!」
画廊の白い空間に、あの頃と同じ、だけど何よりも力強いシャッター音が響いた。
——カシャ。
僕たちの不器用な青春は、長い遠回りを経て、ようやく一つの絵、一瞬の写真として完成した。
実らなかったはずの失恋の痛みは、いつしか僕たちの未来を照らす、枯れることのない大輪のひまわりとなって、これからの人生を永遠に彩り続けていく。
