「これ、新幹線の中で……ううん、私が乗った電車が見えなくなったら開けてね」
そう言って彼女が差し出してきたのは、少し大きめの紙袋だった。
ずっしりと重い。
その形状で、中身が何であるかはすぐに察しがついた。
あの、美術室で何度も一緒にめくった、彼女のスケッチブックだ。
「ありがとう。……向こうに行っても、ちゃんとご飯食べるんだよ。絵に熱中しすぎて夜更かししちゃダメだからね」
「お母さんみたいなこと言わないの。蓮くんこそ、進路希望調査票、ちゃんと出しなよ?」
「うん。出すよ。もう、迷ってないから」
僕は首から下げたカメラに触れた。
この夏、葵を撮り続けたことで、僕の進路はもう白紙ではなくなっていた。
遠くから、鉄橋を渡る電車の音が近づいてくる。
激しい風を巻き起こしながら、東京行きの列車がホームに滑り込んできた。
プシュー、と大きな音を立ててドアが開く。それは、僕たちの世界を二つに切り離す境界線のようだった。
葵は、一歩ドアの方へ踏み出し、そして——弾かれたように振り返った。
彼女は僕のシャツの袖を、あの花火大会の夜と同じように、きゅっと掴んだ。
「蓮くん。私ね……」
彼女の唇が、小さく震えた。
