時は流れ正午すぎ。爆発までの残り時間は一時間強という中、コンビニの駐車場には飲み物を片手に並んですごす二人の青年の姿があった。
一人は細身で、無地の黒い服を着ている。右手にはアイスティーのペットボトルを持っていた。現在、市内のコンビニなどの施設は臨時休業しているところがほとんどなため、持参したものなのだろう。
彼は飲みきったペットボトルのキャップを閉めると、隣を見ることなく言う。黒髪の隙間から見える鋭い目は、別の方向を向いていた。
「次行くぞ、澪」
澪と呼ばれた青年は、やはり細身だが先程の青年よりも小柄だ。ポケットがたくさんあるパーカーを着ており、ジップは中途半端に開けられていた。こちらはアイスコーヒーのペットボトルを持っている。
「行きたくないんだけど」
嫌そうに答えた澪に柊が非難の視線を向けると、澪はため息をついた。
「せっかく上の人から勝ち取った貴重な時間でしょ。朝から連続で三つ、処理してきてこっちは疲労がたまってるわけ。休んでもバチは当たらないと思わない?」
「それはそうだと思うが」
澪の言うことは事実だった。朝から三件連続で処理し、どうにか得ることができた休憩時間だ。
――二人は爆発物処理特別班の人間だった。
今朝の犯行声明があってから候補生である二人にも呼び出しがかかったのである。
柊も足の重さを感じていたが、提案には頷くことなく澪を諭した。
「俺たちの分はあと一つなんだ、終わってから休め。大人の班と俺たちでやってて、しかもほかの班の人たちが先に準備してくれていたおかげでここまで早く進んでるんだ」
「知ってる」
「それに、犯人が取り調べで専門の端末から解除できると言っていたが、その端末は
捜索途中でまだ見つかっていない。となると現場の俺たちが処理する必要がある……っていうのは分かってるんだろ?」
「……はいはい、分かってるって。別に勝手だよね、ちょっと言うくらい」
「俺の前では許されるってだけで、ほかの人の前では許されないってことも分かってるんだよな?」
「うるさい。まず、俺たちだったら一時間もあれば処理できる可能性が高いでしょ」
「そういう問題じゃねえし、とりあえず行くぞ」
澪は慌ててアイスコーヒーを飲み干してから、歩き出した柊のあとを追った。
住宅街は静まっていて、どこにも人の気配を感じなかった。二人分の足音がはっきり聞こえる。
やっと追いついたところで、柊から情報共有を始めた。
「次の場所は、市内でも特に人口が密集した住宅街にある廃墟だ。一階の部屋に仕掛けられていると。人が多いから狙われたんだろう。周囲の住民の避難は済んでいるが、爆発した場合、その範囲外にも影響が出るかもしれない――大まかな規模しか予測できていないからな」
「要するに、俺たちにはいろんな人の命がかかってるってわけか。一般市民だけじゃなくて、警備の人とか、そういう」
「当然だ」
柊が即答すると、澪は露骨に不機嫌そうな顔をした。今の発言といいさっきの発言といい、ありえないものだった。平常時の澪だったら気安く愚痴をこぼしたり、負の感情をあらわにすることはない。
「かかる責任が重すぎるんだよね。あーあ、出動は補欠とはいえせっかく憧れの仕事してるのに」
「……お前な、自分がやりたかったからやったんだろ。責任を持つことに不満を言うな。こっちだって不満はある」
柊は一つ前の処理の連携を思い出して、顔をしかめた。
――でもこいつ、どんだけ言っても無駄だからな。
過去にも澪に苦言を呈したことがあったものの、それによって行動が改善されたことはない。逆に、柊が澪から指摘されたとて直すことはないのだが。
無駄だと知っているのにも関わらず、柊は多数ある言いたいことからいくつかに絞ってから口に出した。
「お前、いっつも説明が分かりにくい。理屈すっ飛ばして結論だけ話すのやめろ。あと、重要なことはもっと早く言え。言うのが遅いんだよ」
説明の仕方について柊に言われ慣れている澪は、柊から言われたことには触れずに不満を不満で返す。
「柊だって遅いでしょ、切るの。それに、勝手にコード切らないで。爆発したらどうするの?」
柊は腕時計をたしかめた。12時15分。そろそろ見えてくるはずだ。
それから、こちらも慣れているのだろう。澪から言われたことを無視した反論をする。
「確信があるから切ってるんだよ、外すメリットがないだろ。大体、切るのは俺だ。お前はできないだろ。だから俺に合わせろって言ってるんだ」
「だったらアドバイスしたり観察するのは俺でしょ。俺がいないと正しい選択なんてできないに決まってる。だから俺に合わせて」
「なんでそうなるんだ。合わせるのはお前だろ」
「そんなわけないね、お前だ」
お前だ、お前だ、という押し付け合いをしていると現場に到着した。
