「……なんて言えばいいんだろうね」
紗奈がそう言ったあと、悠真はしばらく黙っていた。恒一と玲奈は、答えを急かすでもなく、ただ二人を見守っていた。
悠真は、グラスに残ったビールをひと口飲んでから、静かに口を開いた。
「幼なじみ、って言葉じゃ足りない」
「うん」
「親友、でも足りない」
「恋人、っていうのも……なんか、違う気がする」
紗奈が続けると、玲奈が小さく笑った。
「じゃあ、何なの」
その問いに、紗奈はしばらく考えた。高校二年生の頃から始まった、名前のつかない関係。友情でも恋愛でもある何か。壊れ、迷い、それでも隣にいようとし続けた、長い時間。
紗奈は、悠真の方を見た。悠真も、紗奈を見ていた。
どちらからともなく、小さく笑いが漏れた。
「……ベストフレンズ、かな」
紗奈がそう言うと、悠真も頷いた。
「うん。それが一番、しっくりくる」
恒一は少し拍子抜けしたような顔をしたが、やがて納得したように頷いた。
「なんか、分かる気がする」
「そう?」
「お前らの関係、普通の恋人とか、普通の親友とかとは、明らかに違うもんな」
玲奈も静かに頷いた。
「壊れて、迷って、それでもここまで来た二人にしか、その言葉は似合わないと思う」
紗奈は、その言葉を胸の中で、静かに反芻した。
ベストフレンズ。
それはもう、「何でも分かり合える関係」という意味ではなかった。分かり合えないことも、たくさんあった。傷つけ合ったことも、離れそうになったことも、何度もあった。
それでも──
隣にいようとし続けた人間同士だけが、辿り着ける名前。それが、今の二人の関係だった。
居酒屋を出たあと、四人はそれぞれの帰り道に向かって歩き出した。恒一と玲奈が先に手を振って、駅の反対方向へと去っていく。
悠真と紗奈は、しばらく並んで夜道を歩いた。
「今日、楽しかったね」
紗奈が言うと、悠真も頷いた。
「うん。あいつらと会うと、いつも何かしら、思い出させられる」
「何を?」
「俺らが、ここまで来たんだってこと」
紗奈は小さく笑った。
「そうだね」
駅前で立ち止まり、二人はそれぞれの電車を待っていた。ホームに吹く夜風が、二人の間を静かに通り抜けていく。
「ねえ、悠真」
「うん」
「これからも、分かり合えないこと、たくさんあると思う」
「うん、あると思う」
「喧嘩することも、すれ違うことも、また波が来ることも」
「うん」
紗奈は、悠真の顔を見つめた。
「それでも、隣にいてくれる?」
悠真は、迷わず頷いた。
「いる。分からないままでも、いる」
紗奈は、静かに微笑んだ。
「うん。……私も」
電車が二本、それぞれのホームに滑り込んでくる。悠真と紗奈は、軽く手を振り合い、それぞれの電車に乗り込んだ。
窓越しに、互いの姿が見えなくなるまで、二人は小さく手を振り続けた。
電車の中、紗奈はスマホを取り出し、久しぶりに古いノートアプリを開いた。高校時代から書き続けてきた、あの日々の記録。
紗奈は、新しいページに、こう書いた。
今日、恒一に聞かれた。「結局、お前らってどういう関係?」って。
答えたのは、「ベストフレンズ」という言葉。
それは、何でも分かり合える関係、という意味じゃない。
傷つき、壊れ、迷いながらも、それでも隣にいようとした人間同士の名前。
理解し合えることが、絆の証明なんじゃない。
分からないままでも、隣にい続けようとすること。それこそが、絆なんだと思う。
高校二年生のあの日から、ずっと変わらないものが、一つだけある。
隣に、いたいと思う気持ち。
それだけを頼りに、私たちは、ここまで歩いてきた。
そしてこれからも、きっと。
窓の外、夜の街の灯りが、次々と流れていく。紗奈は画面を閉じ、そっと目を閉じた。
電車の揺れに身を任せながら、紗奈は静かに、確かな安堵を感じていた。
完璧じゃない。分かり合えないことも、まだたくさんある。
それでも──
隣にいる。それだけで、十分だった。
紗奈がそう言ったあと、悠真はしばらく黙っていた。恒一と玲奈は、答えを急かすでもなく、ただ二人を見守っていた。
悠真は、グラスに残ったビールをひと口飲んでから、静かに口を開いた。
「幼なじみ、って言葉じゃ足りない」
「うん」
「親友、でも足りない」
「恋人、っていうのも……なんか、違う気がする」
紗奈が続けると、玲奈が小さく笑った。
「じゃあ、何なの」
その問いに、紗奈はしばらく考えた。高校二年生の頃から始まった、名前のつかない関係。友情でも恋愛でもある何か。壊れ、迷い、それでも隣にいようとし続けた、長い時間。
紗奈は、悠真の方を見た。悠真も、紗奈を見ていた。
どちらからともなく、小さく笑いが漏れた。
「……ベストフレンズ、かな」
紗奈がそう言うと、悠真も頷いた。
「うん。それが一番、しっくりくる」
恒一は少し拍子抜けしたような顔をしたが、やがて納得したように頷いた。
「なんか、分かる気がする」
「そう?」
「お前らの関係、普通の恋人とか、普通の親友とかとは、明らかに違うもんな」
玲奈も静かに頷いた。
「壊れて、迷って、それでもここまで来た二人にしか、その言葉は似合わないと思う」
紗奈は、その言葉を胸の中で、静かに反芻した。
ベストフレンズ。
それはもう、「何でも分かり合える関係」という意味ではなかった。分かり合えないことも、たくさんあった。傷つけ合ったことも、離れそうになったことも、何度もあった。
それでも──
隣にいようとし続けた人間同士だけが、辿り着ける名前。それが、今の二人の関係だった。
居酒屋を出たあと、四人はそれぞれの帰り道に向かって歩き出した。恒一と玲奈が先に手を振って、駅の反対方向へと去っていく。
悠真と紗奈は、しばらく並んで夜道を歩いた。
「今日、楽しかったね」
紗奈が言うと、悠真も頷いた。
「うん。あいつらと会うと、いつも何かしら、思い出させられる」
「何を?」
「俺らが、ここまで来たんだってこと」
紗奈は小さく笑った。
「そうだね」
駅前で立ち止まり、二人はそれぞれの電車を待っていた。ホームに吹く夜風が、二人の間を静かに通り抜けていく。
「ねえ、悠真」
「うん」
「これからも、分かり合えないこと、たくさんあると思う」
「うん、あると思う」
「喧嘩することも、すれ違うことも、また波が来ることも」
「うん」
紗奈は、悠真の顔を見つめた。
「それでも、隣にいてくれる?」
悠真は、迷わず頷いた。
「いる。分からないままでも、いる」
紗奈は、静かに微笑んだ。
「うん。……私も」
電車が二本、それぞれのホームに滑り込んでくる。悠真と紗奈は、軽く手を振り合い、それぞれの電車に乗り込んだ。
窓越しに、互いの姿が見えなくなるまで、二人は小さく手を振り続けた。
電車の中、紗奈はスマホを取り出し、久しぶりに古いノートアプリを開いた。高校時代から書き続けてきた、あの日々の記録。
紗奈は、新しいページに、こう書いた。
今日、恒一に聞かれた。「結局、お前らってどういう関係?」って。
答えたのは、「ベストフレンズ」という言葉。
それは、何でも分かり合える関係、という意味じゃない。
傷つき、壊れ、迷いながらも、それでも隣にいようとした人間同士の名前。
理解し合えることが、絆の証明なんじゃない。
分からないままでも、隣にい続けようとすること。それこそが、絆なんだと思う。
高校二年生のあの日から、ずっと変わらないものが、一つだけある。
隣に、いたいと思う気持ち。
それだけを頼りに、私たちは、ここまで歩いてきた。
そしてこれからも、きっと。
窓の外、夜の街の灯りが、次々と流れていく。紗奈は画面を閉じ、そっと目を閉じた。
電車の揺れに身を任せながら、紗奈は静かに、確かな安堵を感じていた。
完璧じゃない。分かり合えないことも、まだたくさんある。
それでも──
隣にいる。それだけで、十分だった。



