ベストフレンズ

 紗奈を河川敷へ送り届けた夜。

 悠真はスマホを開き、 グループチャットの画面をしばらく見つめていた。

『恒一』『玲奈』

 二人には、 紗奈が入院したことは伝えていた。

 だが、 退院したことは、 まだ伝えていなかった。

 言葉を選びながら、 悠真は文字を打つ。

『紗奈、 先週退院した』

『今は実家で療養してる』

『今日、 少し話せた』

 送信ボタンを押す前に、 悠真は何度も文面を読み返す。

 軽すぎても、 重すぎても、 違う気がした。

 既読がつく。

 すぐに恒一から返信が来た。

『そっか』

『よかった』

 短い言葉だったが、 そこに込められた安堵が、 悠真には伝わった。

 続けて、 恒一からもう一通。

『会いに行っていいのか、 それとも今はまだ、 悠真だけの方がいいのか』

『無理には聞かないから、 正直に教えてくれ』

 悠真は少し考えてから、 返す。

『まだ、 会うのは早いと思う』

『でも、 気にかけてくれてること、 紗奈に伝えてもいいか?』

『もちろん』

 すぐに返ってきた。

 玲奈からの返信は、 少し遅れて届いた。

『……教えてくれてありがとう』

『正直、 ずっと不安だった』

『でも、 悠真が伝えてくれるまで、 待とうって決めてた』

 その一文に、 悠真は胸が締めつけられる。

 玲奈もまた、 自分なりの距離感で、 紗奈を心配し続けていたのだと気づく。

『何かできることある?』

 玲奈が続けて聞く。

 悠真は少し迷って、 打ち込む。

『今は、 何もしなくていいと思う』

『ただ、 変わらずにいてくれるだけで、 十分だと思う』

『紗奈が戻ってきたとき、 何も変わってない場所があるって、 それだけで意味がある気がする』

『了解』

 玲奈からのスタンプが届く。

 いつもの、 少しおどけた表情のスタンプだった。

 悠真は、 それに小さく笑った。

 数分後、 恒一から個別にメッセージが届く。

『お前、 ちゃんと寝れてるか?』

 不意をつかれた質問だった。

『……あんまり』

 正直に答える。

『だよな』

『たまには俺にも吐き出せよ』

『紗奈のことばっかり抱え込むなよ』

 以前の悠真なら、 「大丈夫」と返していただろう。

だが今は、 違う言葉が出た。

『正直、 しんどい』

『どう接すればいいか、 まだ分からないことばっかりだ』

『それでいいんじゃないか』

 恒一の返信は、 あっさりしていた。

『分かんないまま、 一緒にいるしかないだろ、 こういうのは』

『お前がそれ、 紗奈に教えたんだろ』



 悠真はスマホを置き、 天井を見上げる。

 分かり合えなくても、 隣にいようとすること。

 その言葉を、 紗奈に伝えてきたつもりだった。

 だが今、 同じ言葉を、 恒一から返されている。



 数日後。

 恒一から紗奈宛てに、 一通のメッセージが届く。

『おかえり、 とは言わない』

『まだ、 ゆっくりでいいから』

『でも、 お前の場所、 ちゃんとあるからな』

 シンプルな一文だった。

 だが紗奈は、 それを何度も読み返したという。



 玲奈もまた、 短いメッセージを送った。

『無理に返信しなくていいよ』

『でも、 待ってるから』

『それだけ、 伝えたかった』



 紗奈はしばらくして、 悠真に画面を見せる。

「二人とも、 変わらないね」

 その声には、 わずかな安堵が滲んでいた。

「うん」

 悠真は頷く。

「変わらない人たちが、 ちゃんといるんだよ」



 窓の外、 夏の終わりの風が、 カーテンを揺らしていた。

 紗奈は画面を閉じ、 小さく息を吐く。

「……ちゃんと、 会えるようになりたいな」

「いつか」

「うん」

 悠真は静かに答える。

「いつか、 でいい」